【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第3章 スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

039話 オークロードの根城

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  薄暗い入り口を、アラヤの出したライトが浮遊しながら照らしている。

「こんな時に、肝試しする意味が分かりませんよ」

「アラヤ君、君も男なら、目の前にある神秘的なものに興味があるだろう?そう、未知への冒険、これこそロマンだよ!」

  いや、貴方は村の雑貨屋の店長でしょう?普通なら、冒険したい歳でもないと思いますが?

「俺も、今なら最奥の場所まで行ける気がするからな」

「俺は疲れてるので、行くならどうぞ二人で行ってください」

   流石に魔力もかなり消費したからね。ちょっと休憩したい。

「分かった。でも、後から必ず来いよ?」

「ザックス君、心配しなくても彼は必ず来ますよ」

   店長、それは何の根拠ですかね?二人は談笑をしながら、奥へと進んでいった。

「さて、二人も行ったことだし、そろそろロック鳥の肉片を頂きますかね」

   これは、亜空間収納した肉を弱肉強食すると、食奪獲得イートハントできるのかという実験だ。これが上手くいけば、全ての魔物を毎回相手にしなくて済む。

「気配感知にも反応無し。良し、それでは【弱肉強食】、頂きます!」

   ガブリと、ロック鳥の肉片にかぶりつく。美味い‼︎相変わらずの旨味と快感が身体を走り抜ける。
   さぁ、肝心の技能スキルはどうだろう?

『空間隔離により弱肉強食による食奪獲得イートハントはできませんでした。筋肉捕食による、技能スキル吸収が100%に達しました。望遠眼LV 1の技能スキルを習得しました』

「うわぁ、取り置きじゃ弱肉強食はできないのか。楽できると思ったのに、残念だなぁ」

  まぁ、肉片を亜空間に入れてる間に、本体死んだら技能を奪うなんてこと、よく考えたらできないもんね。

「まぁ、捕食吸収は可能で技能スキル獲得できたからいいけど。…そろそろ追いかけるか…」

   魔力も回復したし、結果的にアラヤは二人を追いかける事にした。
  遺跡の中は冷んやりとしていて、静寂な空間が広がっている。
   二人の現在地は、気配感知の反応で既に分かっているので、慌てる事なく歩いて向かう。
   長い間立ち入り禁止だったせいか、崩れた柱や穴の空いた壁などは、更に脆くなっているようだ。
   その隙間から、沢山の覗く小さな目の光。
催眠コウモリと鑑定で表記されている。こちらの隙を伺っているようだ。
  先手必勝、フレイムで焼き払い、辛うじて生きている奴を弱肉強食で捕食する。

『弱肉強食により、催眠コウモリの全ての技能スキル食奪獲得イートハントしました。超音波LV 1、催眠波LV 1、夜目LV 1を取得しました』

「早速、夜目を発動してみよう」

   視界が切り換わり、ライトの光が暗くなり暗闇が明るく見える。なんか妙な感覚だ。しかし、便利である事に変わりはない。ライトを頼りに進むよりも、かなり早く移動ができる。

「ああ、来ましたね」

   二人の元へと追いついたアラヤは、松明の火がゆらゆらと気持ち悪く感じたので、視界を一度元に戻す。

「以前はここで引き返した。この先からは未到達地だ」

   立ち止まっているザックスの足元の先は、通路が崩れ落ちていて、雨水の浸入により水溜りになっている。

「アースクラウド」

   通路が無ければ作れば良い。アラヤ達は簡単な橋をかけて、奥へと進む。

「ねぇ、ザックスさん。そもそも、ここは何の遺跡ですか?」

「ん~と…大罪教ができる前の、紅月神フレイア様を祀っていた神殿だったとか言ってたかな」

「そんな場所を王国は管理しないで、フユラ村に丸投げした。その結果立ち入り禁止ですか。フレイア様が可哀想ですね」

「モドコさん、そうは言っても、この遺跡は過去にオークロードの根城になってしまってる。遺跡に近いフユラ村の人達は、その時もかなりの被害を受けたらしいから、フレイア様を崇拝しないのも、この遺跡を不吉とするのも、仕方がないと思うんだ」

「オークロードの根城…」

   アラヤは気配感知に集中する。反応は無いのだけれど、何故かとても嫌な予感がする。
   通路はやがて大きな扉の前で終わっていた。ここが最奥の場所という事だろう。手前左に小部屋がある。先にそこを調べてみる。
   ライトを室内に飛ばすと、床に散らばる物とかが放置されてきた事を物語る。

「なんだこの部屋は…見た事無い本や家具で一杯だな」

「どれも読めない字ですね。しかもパリパリのシミだらけです。価値は余り無さそうですね」

「嘘だろ…」

   二人が物色している中、アラヤは拾い上げた本を見て固まっていた。それは本と言っても文献のようで、日本語による筆録がなされていた。文政……江戸時代か?しかも黒く染み付いているのは血じゃないのか?

「これじゃまるで…」

   アラヤの脳裏に浮かぶのは、自分達が転移してきた教室の惨状。この部屋はその惨状と被る。ここも、多くの人達が無慈悲に…

「おい、アラヤ。どうした、そんな怖い顔で笑って?」

「い、いえ。何でもありません。そろそろ、最後の部屋に行きませんか?」

「ああ、そうだな」

   三人は、突き当たりの大きな扉を、ゆっくりと押し開ける。そこは、広い礼拝堂だった。高い位置にある幾つものはめ殺しのステンドグラスから、光が差し込んでいて室内は割と明るかった。
   床や柱には、オークロードとの戦闘で付いたであろう傷跡が残っている。礼拝堂の奥には、紅月神フレイアを象った女神像が見えた。うん?見た事があるような顔だな…どこで見たんだっけ?

「おい、何だあれ⁈」

  ザックスさんの声に反応してか、突然気配感知に幾つもの反応が現れた。左右の壁からわらわらと黒い物体が這い上がってくる。その中でも一番大きな反応が女神像の後ろから現れる。

「イービルスパイダーだ!」

   イービルスパイダーは、腹部に紫色の髑髏の様な模様がある、全長2メートルほどの巨大蜘蛛である。この魔物の厄介なのは、子が多く繁殖率がかなり高い。独自に生み出す魔力を練り込んだ糸を前脚で円網状に広げて、獲物の魔力を奪ったり、魔法を吸着させる事が出来る点だ。

「こいつに半端な魔法は逆効果だぞ!」

「ザックスさんは店長を守って下さい!」

「おう!」

   モドコさんは両手に松明を、ザックスさんは松明と片手斧を構える。魔法じゃない松明の火は、イービルスパイダーにも効果がある。それに、技能を習得した今のザックスさんなら大丈夫だろう。
   アラヤはショートソードを構えて突進する。左右から小型のイービルスパイダーが糸を飛ばしてくる。剣で斬る事もできるが、なるべく避けるようにする。

「フレイム!」

   小さなイービルスパイダーを焼いてみたが、燃え尽きる前に他の仲間が糸を絡めて消しにかかる。アラヤの今の魔法レベルでは無理そうだ。

「ヘイスト!ふっ!」

   魔法がダメなら斬り刻むしかない。自身にヘイストを掛けて速度を上げる。剣で斬る以外にも、技能スキルを多用する。【威圧】や【超音波】で怯ませ、【ポイズンバイト】や【魔爪連撃】で倒していく。
   仲間を多く殺されて怒ったのか、女神像の裏にいた、大きなイービルスパイダーが飛び掛かってくる。

「こいつが親か?」

   その動きの速さは、小型とは比べ物にならない。巧みに硬い足を使って突きを繰り出してくる。躱しきれず腕に掠ると、保護粘膜は削り取られて傷口から血が飛ぶ。
   しかし、今のアラヤは自己再生持ちである。少しの怪我など気にも止めずに、突きを躱しながら徐々に距離を詰める。
    ザックスさん達は、小型のイービルスパイダーへの対応でアラヤの動きには気付いていない。やるなら今だな!

「【弱肉強食】頂きます!」

   アラヤは懐に潜り込んで胸部を斬り、その部分に喰らいつく。

「ギシャャャャャャァァァッ‼︎‼︎」

   イービルスパイダーの技能スキルの魔法耐性を奪ってしまえば、後は簡単、燃やし尽くすのみ。

「フレイム!フレイム!フレイム!」

   悶える親蜘蛛の火を、必死になって消しにかかる子蜘蛛達。だけど間に合わないし、邪魔はさせない。次々と斬り落としていく。

   しばらくして、沢山居たイービルスパイダーは激減した。親蜘蛛が死んだ事で、ほとんどの子蜘蛛は逃げ出したのだ。

「フフフ、見たかアラヤ。俺の斧技の威力を…」

「ザックス君も、やる時はやるんですね。なかなかの戦いっぷりでしたよ。おや?アラヤ君、顔が血だらけですね。大丈夫ですか?」

「あ、はい。返り血ですから」

   危ない、余韻に浸ってて、また拭くのを忘れてた。それにしても、人生で蜘蛛を食べる日が来るとは……うん、考えないようにしよう。


『弱肉強食により、イービルスパイダーの全ての技能スキル食奪獲得イートハントしました。魔力粘糸LV 1、魔法耐性LV 1、魔力吸引LV 1を取得しました。既存の魔法耐性LV 1に吸収され、魔法耐性はLV 2に昇華しました』

   技能収穫もあったし、結果オーライという事で寄り道的な肝試しも、無事に終わったのだった。
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