【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
68 / 418
第5章 自重が足りてないって言われたよ⁈

064話 家族紋

しおりを挟む
   昼食後、用意した部屋に人犬ヒュードグの親子を一人ずつ来てもらう事にした。
   最初にアヤコさんに連れて来られたのは父親。やはり多少の緊張はしているようだ。
    室内には、サナエさんが助手として、バルガスさんが烙印を押す係として、待機している。

「上着を脱いで、このベッドに横になって下さい」

    彼は言われた通りに服を脱ぎ、部屋の中央に置かれたベッドに横になる。その横に用意した机には、アラヤが用意したフォークの先端を鋭利にした仮のメス等の道具が置いてある。

「それでは始めます」

    アラヤは、最初に陶器に入れられた軟膏を、彼の奴隷紋の烙印付近から塗り始める。

「うっ…」

    彼は軟膏の冷たさにビクッと反応するも、直ぐに堪えてみせる。今、塗っている軟膏は、アヤコさんの吹き矢用の麻痺毒薬を、水と酒で薄めて軟膏にした仮の麻酔薬だ。
    痺れで感覚が無くなるのを待ち、充分な効果が現れたら保護粘膜を掛ける。
    サナエさんがクリーンで除菌したメス(フォーク)を受け取って、胸元にゆっくりと近付けていく。
    心を落ち着かせ集中すると、メスを皮膚に差し込み、ゆっくりと切れ目を入れていく。
    切れ目からじんわりと出てくる血液。表情を見るが痛みは感じていない様だ。
    四角に切れ目を入れたら、ピンセット(木製)でゆっくりと烙印の焼き跡が無くなる厚さの真皮までを剥がす。
    多少の筋繊維も剥がれたが、ヒールを当てることで筋繊維も剥がれた皮膚も元どおりになった。
    上体を起こしてもらい、今度は座った状態になってもらう。

「これで、子爵の奴隷紋は消えました。次はバルガスさんのを入れますね?」

「はい、お願いします」

   アラヤは、バルガスの持つ烙印棒の先端、烙印紋部分をヒートアップで熱を上げていく。先端部分は赤白く染まって、顔に輻射熱を感じる。この熱に耐えられるようにと、念のために新たな皮膚に再び保護粘膜を掛ける。

「それではバルガスさん、お願いします」

「おう」

    落ち着いた表情のバルガスさんは、槍を構えるように烙印棒を持ち、寸分違わぬ位置に押し当てた。
    ジュッという肉の焼ける音が聞こえると、バルガスさんは直ぐに烙印棒を引き離した。

「成功ですね」

    新しい皮膚部分には、バルガスさんの葡萄とグラスの家族紋が刻まれている。みるみるうちに水ぶくれができてきたが、氷水で濡らした布を当てて熱を冷ましていく。
    保護粘膜は一膜無くなっていた。二重にして正解だったな。

「麻痺薬が切れた後に、熱と痛みがしばらく続くと思います。後でこれと同じ軟膏を用意しますので、痛みが酷い場合には塗布して下さい。熱の方は氷嚢を用意してもらい、当てて冷まして下さい」

「ヒールではダメなの?」

    サナエさんは、ヒールで治せば痛みも無くなるんじゃないかと考えたようだ。

「確かに痛みは引くよ。だけど、せっかく刻んだ家族紋も消えてしまう。今、深い2度熱傷で皮膚を壊死させているんだ。この傷を残さないと、家族紋は残らない。ヒールを使えるのは、壊死が終わり傷痕が残った後だよ」

    怪我をしてから時間が経過すればするほど、皮膚や組織の回復は完全では無くなる。逆を言えば、受けたばかりの傷なら跡も残らずに治せるのだ。

「すみません、私達の家族は、水属性魔法を習得してませんので氷を用意できません」

「そういや、うちにも水属性魔法者は居ないなぁ。街から買ってくるか」

    ああ、この世界には冷蔵庫は無いからね。便利な魔法がある分、氷なんかは作り置きをしないんだよなぁ。

「分かりました。それなら、これを使用して下さい」

    アラヤは、ソーリンに渡す予定だったアイスの魔鉱石を取り出して渡す。

「これに魔力を少し込めれば、氷が出てきます」

「こんな高価な物、い、いただけません!」

「大丈夫、タダで渡した訳ではありませんから。お代はバルガスさんとの交渉の際に引かせていただきますので。バルガスさん、よろしいですね?」

「ガハハ!しっかりと商売人じゃねぇか!ああ、それで構わないぞ」

    何度もお礼を言って出て行った父親の次は、物静かな母親が来た。

「よろしくお願いします」

「では、上着を脱いでベッドに横になって下さい。サナエさん、よろしく」

    相手は女性なので、対応はサナエさんにしてもらう。半裸になった彼女にサナエさんが布を被せて、奴隷紋の場所だけを切り抜く。

「それでは始めます」

    麻痺薬を塗るのはサナエさんが代行し、それ以外後の工程は一緒で、今回も無事に終わった。
    そして、最後は小さい女の子の番となった。その表情には、やはり恐怖の色が伺える。無理もない。奴隷紋を刻まれた時の恐怖と痛みが残っているのだろうから。

「大丈夫かい?」

「だ、大丈夫…です」

   頑張って笑顔を見せようとしているけど、下手に動かれても困る。

『アヤコさん、ご両親を連れて来てくれる?』

    とりあえず両親を呼んで、子供に安心してもらう事にした。
     両親が、女の子の片手を握りながら話をしている間に、真皮の剥離作業を終わらせる。
     刻印の時には、ダークブラインド(盲目)とコラープス(虚脱)を使い、ボーっとして分からないうちにバルガスさんが一発で成功させた。

「何とかなりましたね」

「ああ驚きだぜ、まったく。拷問並みの痛みが無く、術後の痛みが少しある程度で、済ませてしまったんだからな」

「ここまで上手くいったんです、後はしっかりと守って下さいよ?」

「ふん、腐っても俺は元王国騎士団団長だぞ?全て杞憂に終わる事を誓おう」

「アラヤさん、本当にありがとうございました」

「うん、もう大丈夫だね。後は自分達の頑張り次第ですよ、オレオさん」

「‼︎どうして私の名前を⁈」

「俺は鑑定士ですからね。奥さんは、モコさん。そして娘のハナちゃん」

「すみません、今まで名前を明かす事が出来なくて…」

「ううん、気にすることはないよ。俺達に気を遣ってくれたと思ってるから」

    彼等は、もしも自分達が捕まった場合を考え、アラヤ達との関係性が無いようにしたかったのだ。彼等自身が捕まった場合、その後に死んだ事を知っても、罪悪感が残らないようにと。名前を知る間柄とは、もしもの時には頼れる半面、足枷にもなるという事だ。

    もう、彼等の身の安全を確保できたので、名前を呼んでも大丈夫とアラヤは判断したのだ。

「彼等の事は無事に済んだので、次は本題の交渉へと移りましょうか」

「ふむ、そうだな。元々の目的は葡萄酒だったな。今年の出来は、例年より色・香り・味の質が最も良いが数が少ない。出せるのは、【良作】は12樽、【業物】は4樽が限度だ」

「それではアラヤさん、鑑定の方をよろしくお願いします」

    アラヤは、葡萄酒の貯蔵庫に案内され、保管してある樽を鑑定してまわった。

「鑑定終わったよ。確かに数は合ってたよ。それとは別に、一般評価の葡萄酒の樽もあった」

「そいつは、コルキアの街中で販売する酒樽だ。バルグ商会には必要無いだろ?」

「いや、個人用として欲しいんだけど」

「そういう事なら、一樽はくれてやるよ」

「やった!」

    一般品だけど、この世界の葡萄酒ワインが手に入り、アラヤは喜びの声を上げた。だって葡萄酒ワインは飲む楽しむ以外にも、料理にも使えるからね。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...