【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第5章 自重が足りてないって言われたよ⁈

070話 一色 香織

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「まぁ、こんなに小さな楽器は初めて見ましたわ」

    ミネルバ王女は、ガルムさんから手渡されたオルゴールを不思議そうに見ている。アラヤが以前作った物を、素材を変えて製品化した物だ。当然、前回より素敵な音色を奏でている。

「この楽曲は、やはり貴方の故郷の曲なのかしら?」

「はい、さくらさくらという童謡で、我々の故郷では有名な曲です」

「そう…ならこの品も彼女は知っているかもしれないわね」

    ミネルバ王女はオルゴールを机に置くと、紅茶を一口飲んで一息入れる。
     すると、終始にこやかとしていた今までとは違う真剣な表情に変わった。

「アラヤ殿、貴方様の一番の、神から与えられたような至福とは何でしょう?」

「至福…ですか?えっと…美味しいものを食べてる時、だと思います…」

    これは本当にそう感じる至福だし、確かに神に与えられたという表現に近いかもしれない。

「食べている時…?つまり…食欲?」

    ミネルバ王女は、ブツブツと独り言を言うと、侍女のマーレットを見て合図を送る。彼女はその意図を理解したようで、直ぐに他の侍女と護衛達を退室させていく。リッセンも追い出され、護衛はエドガーだけとなった。

「ミネルバ様⁈私も中にっ!なぜ、エドガーだけなのですか⁈」

    扉の向こうでリッセンが喚いているが、

「リッセン、お黙りなさい」

「ハイッ!」

    ミネルバ王女の鶴の一声で静かになった。躾けられた犬かよ⁉︎

「マーレット、そろそろ時間だわ。連れて来てちょうだい」

「はい、ただ今」

    しかしマーレットはバルコニーのある窓際へと出て行った。

「アラヤ殿、貴方様は闇属性魔法のジャミングをお使えになります?」

「は、はい。一応…」

「それは素晴らしいわ。それでしたら、入り口の扉に掛けて頂けないかしら」

    それはつまり、外に聞かれたくない会話を今からするということだろう。
    アラヤは言われた通り、扉にジャミングを掛ける。

「当然のように無詠唱…」

    護衛のエドガーが、何故か顔を引きつらせている。やはり無詠唱は珍しいのだろうか?

「お連れしました」

    バルコニーから声が聞こえ、ミイラ男のように包帯でぐるぐる巻きにされた人を、マーレットがお姫様抱っこで運んできた。
    でもそれって、バルコニーから別の場所に飛んでったって事だよね?この部屋、5階ぐらいの高さがあるけど…。しかも、お連れしたって割には、包帯でぐるぐる巻きって、拉致みたいじゃない⁈

    マーレットは、空いているソファにミイラを寝かせると、包帯をゆっくりと外していく。

「ええっ⁈」

    包帯でぐるぐる巻きにされていたのは、一色 香織だった。しかも肌の血色が悪い。あたかも死んでいるようだ。

「って、死んでるんですか⁉︎」

「いいえ、仮死状態なだけですわ。あとしばらく、お待ちください」

    仮死状態なだけって、やけに冷静だけど、初めてではないのか?

「う、う~ん…」

    すると、王女が言った通り、一色は目を覚まし、ゆっくりと伸びをしながら上体を起こした。

「おはよう、カオリ」

「ええ、おはよう…ございます、王女様」

    まだぼんやりしているのか、ズレ落ちた眼鏡をクイっと定位置に直そうとしているが、上下逆さまな事に気付いていない。

「今、貴方の同郷人達と、座談会をしていたところよ」

「どうきょう?……同郷⁉︎」

    一目でわかる目の冴えた瞬間で、彼女は正確に眼鏡をかけ直し、アラヤ達の姿を見て止まった。

「く、く、倉戸にいやぁぁ⁈」

「ええっ⁉︎アラヤだけど⁉︎」

「よりによって、にいやがそうだと言うの⁈」

「いや、だから、にいやじゃなくてアラヤだって…」

    彼女はアラヤを見て興奮、もとい、イラついていた。あまり面識も無く(覚えてませんでした)、誰も近寄らせない雰囲気オーラで、クラスでボッチだった彼女にそんな態度を取られるなんて失礼な話だ(アラヤもある意味でボッチだった)。

「カオリ、落ち着いて」

「はい…王女様。もう、大丈夫です」

     その表情にイラつきは消えたが、代わりに冷たい眼差しへと変わっている。

「それで、彼等は貴方と同郷で間違い無い?」

「ええ、同じ日本という国出身です。貴女達も久しぶりね、篠崎さんと土田さん」

「ええ、久しぶりですね、一色さん」

「ああ、本当にーーー」

「あの状況で生きてたんですね。田中さんと同様に死んだと思っていたのに…」

     彼女のその言葉に二人は固まる。…?田中…ヒロ君…⁉︎

「見て…いたんですか?」

    二人の目が殺気めいたものに変わってきたので、アラヤが二人の前に立って肩に手を置き力を抜かせる。

「二人共、落ち着いて。今はまだ何も聞けて無いよ?」

「ごめん」

    二人には悪いけど、これは召喚時の状況を知るチャンスなんだ。怒りをぶつけるのは、彼女がどんな生き方をしてきたかによる。

「一色さん、この世界に召喚された時の事、俺達に教えてくれないか?」

「はぁ、何で私がにいやに教えてあげなきゃいけないのよ?」

    一色は面倒くさいという表情を見せるが、その視線の先には王女がおり、一色と目が合うとコクンと頷いた。

「カオリ、お話してあげて」

「ミネルバ王女様が、そう仰るのであれば…」

    ああ、一応守秘義務的な事で喋れなかったのかな。

「先ず、私達が召喚されたあの日、クラスの人達は二班に分かれて別々の場所に召喚されたのは知ってる?」

「それとなくだけど、初めから居なかったという事は分かっていた」

「…元々、あの召喚は伝説にある様な神による召喚ではなく、フレイ美徳教とフレイア大罪教が起こした強制召喚だった。大罪教の奴等は、クラスの中に居るはずの七つの大罪の職種持ちだけを欲していたの。だから、それ以外には一切の興味が無かった。強いて利用するなら、前回の召喚時には美徳教に召喚場所を見つけられた事があったので、残りを囮にしようかとなった」

「囮…⁉︎」

   ギリっという歯ぎしりが堪らず漏れてしまった。怒りではらわたが煮えくりかえりそうだけど、二人に言った手前と精神強化により、直ぐに落ち着いてきた。

「私は貴方達とは違う班の中に居た。召喚されたそこは協会の礼拝堂で、周りには大罪教の信徒が大勢居たわ。そして、その場に居合わせたクラスメイトは、坂東 礼二・荒垣 慎太郎・香坂 茜音・郷田 洋二・伊藤 大吾。そして私の計6だった。大罪教信徒達は慌てていたわ。1人掴み損ねたって大慌て。1人の魔術士がビジョンという魔法を使用して、もう一班の召喚後状況を映し出したわ。そこはゴブリンの巣窟で、目にも恐ろしい光景を私達は見せられた。それはもう自分達は異世界に来たのだと、無理矢理頭に思い込ませないと、知る人達が死にゆく様を耐えられなかったわ。…途中まで観察していた大罪教の彼等は、残りのもう1人は死んだとみなした。その後は、私達6人には大罪教信徒が付き従い、啓示された地へとそれぞれを移動させた。大体の行き先は、その時に言語理解を習得していた私には聞こえていたの。坂東・荒垣・香坂の三人はズータニア、伊藤はムシハ連邦国、郷田はグルケニア帝国、私は王都と言っていたわ」

「荒垣達が選ばれた…だと⁈」

「私達にはそれぞれに、職種に因んだ魔王と呼ばれている。坂東は憤怒魔王と呼ばれて亜人族の国へ。荒垣は傲慢魔王と呼ばれて魔神族の国へ。香坂は嫉妬魔王と呼ばれ、死霊の世界に行く予定だったが、荒垣と離れないと言って聞かずに付いて行ったらしい。伊藤先生は怠惰魔王と呼ばれて、ムシハ連邦国より更に先にある大陸に、エルフの国に行ったらしい。郷田は強欲魔王と呼ばれて、グルケニア帝国に行ったらしいけど、今はラエテマ王国に居るらしいわ。そして私は色欲魔王と…呼ばれていないわよ⁈」

「いや、知らないよ!ていうか、先生⁉︎エルフの国なんて羨ましい!」

    アヤコさん達2人に睨まれ、アラヤは直ぐに大人しくする。

「にいや、貴方なんでしょう?最後の魔王、暴食王の職種を持っているのは!」

    その場に居た全員が、アラヤ1人をジッと見る。侍女と護衛兵は畏怖の目で、王女とガルムは確信した目で見ている。

「ああ、俺が暴食王の…暴食魔王のアラヤだよ」

    ドヤ顔で言い放ったアラヤは、冷たい目と生温かな眼差しで、この後、心の悲鳴を上げる事となった。
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