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第5章 自重が足りてないって言われたよ⁈

071話 仮死状態

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    恥ずかしい思いをして、アラヤは自分が暴食王である事を公言した。

「やっぱりそうでしたわ!どう?カオリ。私の方が早く出会えましたわ」

   ミネルバ王女は、一色 香織の席へと移動して、彼女の目先に人差し指を突きつけた。

「この勝負、私の勝ちですわ!」

「勝…負?」

   アラヤ達一同は、今までの話の流れで何故勝負の話が出たのか分からず、戸惑いを隠せない。

「そうですね。確かに私の負けです。だけど王女様、彼等に詳細を説明しないと、不安になってしまっていますよ?」

「あら、これはすみません。貴方方を置いてけぼりにしてしまいましたね。今、話していた勝負の事は、単に最後の魔王が生きているかという事に対してでした。ですので、アラヤ殿がその魔王だった事とは関係ありませんの。貴方方をお呼びした理由は、カオリと同郷の者の可能性を感じたからですわ」

「察するに王女様は、一色 香織さんが異世界人だと早いうちに知ってらっしゃったんですね」

「ええ、出会った頃に」

   王女のそれは一見、笑顔に見えているのに、アラヤは何故か曇っていると感じた。

「まぁ、キッカケは簡単だったよ。日本人なら誰だって、前世界の将棋が巷で流行っていると知れば、前世界の人間が自分の他に居るかもって考えるでしょ?私もそう考え、私から王女様に調べてもらうように頼んだのよ」

「それなら、荒垣達も前世界の人間だよ?彼等が作った可能性は考え無かったの?」

「あの5人には、将棋を販売しようなんて発想は起きないわよ。荒垣達4人は興味すら無いでしょうし、伊藤先生は自分だけで充分だと思うに決まっているわ」

    あの4人ならそれは確かにと、思わず頷いてしまう。先生に関しては元々チェス派かもしれないとか考えたが、今は全く必要の無い考えだ。

「大体、将棋だけじゃなく、丈夫さが求められる机や椅子を、あえて収納視点に切り替えた折り畳みバージョンや、浅瀬地帯で多様され始めたカヌー、今ここにあるオルゴール。次から次へと新商品の開発とか、にいや、馬鹿じゃない?」

「ええっ⁉︎」

「貴方には自重ってものが足りないわよ。どうせ、今から先もポンポンと前世界の物を実現化していくつもりでしょうけど、極端に広まり過ぎると、争いが起こるわよ?」

「き、危険な物は作る気は無いし、生活が便利になる方が良いでしょう?」

「それは、偏った見方にしか過ぎないよ?にいやもラノベ好きなんだから知ってるでしょ?チート主人公が、いろいろと便利な物を作り出し、村を救った結果大金持ちになったりする話とか…。大抵の場合は万事上手くいくけど、それは一部の市場でしかない。世界に普及するまでは、盗難、強盗、略奪は貧しい地域では加速して、その便利な高級品を手にする為に殺しまで犯す可能性もある。安全なのは、そのチート主人公の周りだけでしかないのよ。その主人公達が死ん…」

ガン!

    いきなり頭部を叩かれ、一色は舌を噛みそうになった。頭を摩りながら見上げると、アヤコが本を片手に持ち彼女の背後に立っていた。

「ちょっとうるさいです。それと、アラヤ君をにいやと呼ぶのはやめて下さい。とても不快です」

「倉戸をどう呼ぶかは私の勝手でしょ⁉︎そんなことより、その本、私が書いたやつでしょ。何?篠崎さんは共感できる人なのかしら?」

「そうですね。ですが、今は素晴らしい内容の事は置いておきましょう。今は貴女が「」と、本に暗号を残した事について聞きたいのですよ、色欲の魔王さん」

「あの暗号に気付いたの⁉︎」

「私達はこの暗号を解いたから、貴女に会おうとアラヤさんが考えて、ガルムさんから貴女が王家の庇護下にあることを聞きました」

   (うん、確かにそうだったね。まさか、BL本にあんな暗号があるとは思わなかったよね)

「ふむ。私は以前、王国図書館で異彩を放つ貴女を遠目に見かけた事がありましてな。…その後日からは図書館でお見かけしなかったので、図書館に通う友人に聞いたところ、噂で王女様のご友人になられたと聞きまして、その事を彼等に教えました」

    ガルムさんも、アヤコさんの話に補足を入れてくれる。

「貴女に近付く為には、コネとお金が必要でした。その為には、ガルムさんからコネと資金を得ようと考えて、将棋を売り込む為にアラヤ君はボロボロに負けた。手の甲を骨折する程までに」

   (んん⁇ちょっとアヤコさん?その骨折は腕相撲のやつですよ⁉︎)

「ほぅ、わざと負けていただいたと…?」

    突如、不敵な笑みを浮かべるガルムさん。ガルムさん、そんな訳ないですよ⁈全力で負けただけですよ⁉︎手振りで訴えるも伝わらない。

「コネや立場を作ったのも、便利な品々を作ったのも、全ては貴女の暗号を解いて、貴女の願いに応える為!そう、全て貴女の為にです!」

   (何か無理矢理話をこじ付けた⁈こんな嘘、信じるわけが…)

「そうだったのね…にいやは私の為に…」

   (…あれ?信じちゃったよ⁉︎)

「そうね。プロの商売人がここにいるわけだし、彼等がちゃんと管理まですれば、バランスは保たれるかもね」

     さっきとは考えが180度変わり、今度は便利な物なら安くで広めちゃえとまで言いだした。うん、何かもう分からないや。


「ねぇ、一つ聞きたいんだけど。暗号の内容がなぜ、私に会いに来てだったの?」

    サナエさん何気ない疑問の一言が、一色と王女の顔を曇らせる。

「カオリがなぜ、その暗号を書いたのか。それは、彼女がこの城を出たかったからですの」

「アラヤと同等の魔王である彼女なら、簡単に出れるのでは?」

「城から出る事自体は、この城の魔法防壁も、彼女の魔法の威力には勝てないから可能よ」

    それはもう勘弁してほしいなぁと、護衛のエドガーの呟きが聞こえた。これは、何度か壁を破壊した様だな。

「じゃあ、何が問題なのかが分からないです。そもそも、何故庇護していただける王城から出ようと考えたんですか?」

「…王城も、安全だとは言えないのです。カオリがこの部屋に来た時の状況を、思い出してください」

    一色 香織がこの部屋に来た時、彼女は包帯に巻かれ、確か仮死状態だった。

「そう、あの状態。ある事をキッカケに、カオリは1日に3回、5時間の仮死状態に陥ってしまうの」

「5時間が3回⁈起きている時間は、一日9時間だけなの⁈」

「無防備な状態が15時間もある上に、その状態が来るタイミングはバラバラに近い。私は王女に守ってもらわないと、外では生きていけないという体なんだ」

「…呪いの類、かな?」

    アラヤの呪いという言葉で、一色の手が震え出す。当たりか…

「これは、特殊技能ユニークスキルによる呪い。普通の呪術とは違い、解呪できなかった」

特殊技能ユニークスキル⁉︎」

「私が転移してまだ日が浅い頃、私…一度勇者に敗れている……にいや、やはり少しの自重は必要よ。目立ったらいけないわ。私達には明確な敵がいるのだから…」

    勇者⁉︎いきなり鉢合わせたのか。それは不運な出来事だと思う。まぁ、別の班で惨劇にあった俺達ほどとは言えないかもしれないけど。

「その人の名はユートプス=モア。寛容王の勇者だったわ」

    一色は、自らの腕に爪を立てる。怖さと悔しさを表情に滲ませ、その時のことをゆっくりと語り始めた。
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