【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第6章 味方は選べと言われたよ⁈

087話 嘆くヴェストリ

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    デピッケルの豪邸通りの最奥の豪邸。豪華絢爛な建具や美術品の数々は、この街で巨万の富を築き上げた男の富の象徴であった。
    だが今はどうだ、大罪教団から寄越された小僧一人に頭が上がらず、会社も家も乗っ取られているではないか。
    元家主であるドワーフの男は、元凶である魔王ゴウダの元に、自分のコレクションであった葡萄酒を運び栓を開けていた。

「ほう、これが感覚共有か。お前の今の感情が分かるぞ、ヴェストリ」

「わ、ワシは、何もやましい感情はしておりませんぞ?」

    ヴェストリは震える手を押さえながら、笑顔を見せる。彼の技能は既に3つ奪われていて、残りは交渉術と酒豪の2つしか残っていない。もうこれ以上、己の宝とも言える技能を取られるわけにはいかないのだ。

「フ、そう構えるな。お前の残りの技能は既に持ってるし、レベルを上げたいとも思っていない」

    フゥ、と安堵の溜息が出るのを何とか堪える。そこで突然扉がノックされ、肩が跳ね上がる。

「ゴウダ様、失礼します!」

    扉が開かれ、二人の人間が入って来た。彼等はヴェストリの部下ではあるが、彼等もゴウダの命令を優先的に聞く者達に変わっている。

「やっと、奴等に動きがあったのか?」

「はい!奴等はあの後、ずっと宿屋から出てこなかったんですが、先程、急に出て来たと思ったら、繁華街の酒場で知り合いらしき冒険者達と飲み始めました」

「はぁ?飲んでるだと?自分の女の技能が全て奪われたんだぞ⁉︎普通なら怒り狂って仕返しに来るってものだろう?」

「それが、後ろで聞き耳を立ててたんですけど、奴等は明日の早朝にレニナオ鉱山の坑道の最奥に向かうらしいんです」

「坑道の最奥に?」

「ええ、目的は純度の高い鉱石の採掘と、最奥に居るというレッドドラゴンの調教テイムらしいんですよ!」

「レッドドラゴンを調教テイムするだと?アラヤには調教テイムの技能は無かった筈だ。篠崎や土田にも無かった。そう言えば、シルバーファングの主人という奴がいたな。その酒場には他に仲間らしき奴が居たのか?」

「ええ、朝のあの場に居なかった若いドワーフとフードを被った女みたいな奴が居ました。しかも、其奴らが言うんですよ、ドラゴンを従えたらゴウダ様を狙ってやると!」

「クハハハハッ!こいつは愉快だな!高々鉱山に居るドラゴン如きで、俺を倒そうってのか?」

「ご、ゴウダ様、奴等が言っているドラゴンってのは、鉱山の最奥地で古来から居座り続ける焦熱の赤竜の事ですよ!」

「何だ、その焦熱の赤竜ってのは、そんなに強いのか?」

「ええ!過去に幾人かの勇者が挑んだらしいんですが、皆んな返り討ちにあったという程の化け物ですよ!」

「そんなに強いなら、アラヤ達には勝てる見込みなど無いじゃないか。馬鹿な奴等だ」

「それが…奴等、俺達には特殊技能ユニークスキルがあるから、余裕だなとか言ってたんです」

特殊技能ユニークスキルだぁ⁈その調教師テイマーは特殊技能持ちだってのか⁉︎」

    ゴウダは、報告していた男の襟首を掴み持ち上げた。

「し、知りません!ただ、そう話していただけですので!」

     ゴウダが手を放して、男は倒れると涙を出しながらむせ込んだ。ゴウダは親指の爪を噛みながら、ウロウロと考え歩く。

「…奴等は、鉱石の採掘も考えているんだな?だとしたら、アラヤ以外の鑑定持ちも数人居る可能性があるな。…俺の鑑定レベルは、後数人分の鑑定を奪えばLV5に到達する筈だ。みすみすドラゴンに殺させるのは惜しいな。…ここは、俺が先に技能を奪ってから殺すとしようか」

    ゴウダはそう決めると、ヴェストリの前に立ち彼の自慢のあご髭を掴む。

「今すぐに戦闘職の部下を集めておけ。早朝、俺達もレニナオ鉱山へと向かう。分かったら直ぐに動け」

    そのまま押し飛ばされたヴェストリは、扉にぶつかり呻き声を上げた。だが、文句や反感の意思も出さずに、部屋から飛び出して行く。

「くそっ!くそっ!何であんな奴にっ‼︎」

     豪邸から馬車を出してようやく、彼は愚痴を高らかに叫ぶ。今のあの男の前では、怒りの感情すら出せなくなってしまったのだ。
    結局は、言われた通りに動かねばならない自分の無力さに、ヴェストリは泣きながら馬車を走らせるのだった。


       ◇   ◆   ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


   レニナオ鉱山、奥地へと続く坑道の途中で、浮遊するライトに照らされた9人と1頭の影が現れた。先頭を歩くのは、【弦月の牙】のリーダーであるアルバスだ。その後ろに仲間であるスタン、ザップ、アニと続く。彼等の後を、アラヤ達はゆっくりと付いて行く。

「それにしても、急すぎる依頼だよ、アラヤ君」

「すみません。明後日には、また王都に出発すると聞いていたものですから、この機を逃したら次が無いと思いまして」

「それにしても、焦熱の赤竜に挑戦するって最初言った時は驚いたぜ。まぁ、言ってみたい気持ちは分からないでもないがな?」

「私達なら、本当にいけるかもよ~?」

    そのやる気だけは買うけどよと、真に受けないザップと、いっそのこと試そうよと、フットワークを見せるアニ。

「俺には帰りを待つ、妻と子供が居る。挑戦すると言うなら、俺は帰るぞ?」

「いえ、目的は、その手前で発掘できるヒヒイロカネの鉱石ですから。奥まで進む様な危険な真似はしませんよ」

「しかし、それならば俺達の力を借りずとも、アラヤ君達でできそうだと思うが?」

「それは買い被りですよ。現にアヤコさんは喉の調子が悪いから、魔鉱石のみの武器ですし、サナエさんの腕力では、この一帯の子ドラゴンの皮すらも刃が通らないでしょうからね」

    どうしても付いてくると、きかなかったアヤコさんには、充填済みの魔鉱石を幾つも持たせてある。サナエさんにも、回復兼サポートを頼んである。
    今回の目的も、当然、鉱石の採掘などではない。アルバス達には悪いけど、ゴウダを迎え討つ為に、成り行きで協力してもらう予定だ。

「それにしても、おかしいですね。子ドラゴンはおろか、ストーンハウンドすら出てこないなんて」

    通常なら、この地点まで来たら、少なからず魔物と遭遇するものだと、ソーリンが首を傾げる。

「どうやら、先客が片付けてくれてたみたいだぞ?」

   魔導感知に、前方に次々と反応が現れた。どれも敵意のある赤い色をしている。

「こんな朝早い時間に、こんな場所でバッタリ会うなんて、凄い偶然だなぁ?倉戸」

「何言ってやがる。こんなもん、完全な待ち伏せじゃないか」

   次々と現れたゴウダの部下達によって、周りを包囲される。

「ちょっとアラヤ君、この人達はいったい誰なんだ?」

    いきなりの状況に戸惑うアルバス達。

「この人達は、最近、国中で噂のヴェストリ商会の鑑定士誘拐犯の方々です。俺、しつこく狙われてまして…」

    そう言いつつも、アルバスとアニにジャミングでこっそりと鑑定技能を書き足している。
    なので、当然奴には2人は狙う対象となっている筈だ。

「あの3人は生け捕りにしろ!後は殺しても構わん!」

「ちょっと、私達を生け捕りって言ってますけど⁉︎」

「なんか、とんでもない場面に巻き込まれてないか?」

「あんな奴等に捕まるかよ!」

「身の程を分からせるべきだな」

    【弦月の牙】の4人も、明らかな敵意にふざけるなと身構える。うん、計画通りでごめんなさい。報酬は上乗せするから許してね。

    ゴウダが飛ばす指示通りに動き出す配下の兵達、だがそこにアヤコさんが1人進み出る。

「篠崎…?」

「屑は屑に還りなさい」

    両手には色違いの魔鉱石が握られていて、前に突き出して魔力を流し込む。
    あれは、サンドストームと風属性中級魔法のウィンドブラストだ。

「「「うわぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」」」

    2つの嵐は吹き荒れる力を高め合って、近付いて来た敵をことごとく巻き上げて、壁や天井に叩き付けた。
    この初撃により、早くもゴウダの部下は3分の1が減ることになった。

「この無能の女がぁっ‼︎」

    突然の魔法攻撃に、ゴウダは目を大きく開いて怒り叫ぶ。

「さぁ、過剰防衛を始めようか」

    アラヤ達は、あくまでも正当防衛という名目の元、復讐の戦いを開始した。
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