【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第7章 家族は大事と思い知ったよ⁉︎

088話 混戦

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   坑道内に響き渡る金属音と怒声。場所がまだ坑道の分岐広場だったおかげで、天井は高く空間が広い。故に戦闘では地形による弊害は無い。

「怪我したくないなら、帰りなさいよ~!」

    相手が魔物でなく対人であっても、【弦月の牙】の面々は戦い方を知っている様で、アニは手加減したボディブローで沈め、スタンは腕や足を的確に狙撃して、ザップは弓使いの弦を切ったり矢筒を盗んで無力化している。
    やり過ぎないという点で、とても参考になる戦い方だ。アラヤ達も同様に、殺さない戦い方を心掛ける事にした。前回の盗賊達を倒したように、無力化を最優先だ。第一に、人殺しにはなりたくはない。これは、平和な世界にいたからこその考えかもしれないけど。

「ソーリンとサナエさんは、アヤコさん達二人を守って!クララ、殺さない様に敵を無力化するぞ!」

「ガウッ‼︎(分かった)」

    前回と同様に、アイスを武器を持つ手に放ち戦えない様にしていく。複数人による攻撃が来た時は、仕方無しに蹴り飛ばすか、手足の腱を切った。

「クソがっ‼︎手間取らせるんじゃねぇよ!」

    一向に優勢に立てない部下達に業を煮やしたゴウダが、杖を取り出して何やら詠唱を始めた。

『カオリさん、止められる⁈』

『やってみる!』

「…内核よりその御手を伸ばし、我に力を貸し給へ!我に仇なす者共よ、全てを灰塵と化す瀑布に飲まれよ!フレイムフォール‼︎」

    ゴウダは詠唱を結び終わり、敵味方全てを巻き込む火属性中級魔法をアラヤ達に向けて放った。よりにもよって、その魔法を使うのか!カオリも杖を振って、怒りを込めた魔法を放つ。

氷河期アイスエイジ‼︎」

   現れた業火の滝は、一瞬にして氷の塊となり地に落ちて砕け散った。辺りの岩壁も凍てつく氷に覆われる。

「な⁉︎俺より魔力が上回っただけでなく、詠唱破棄だと⁉︎あのフード野郎!魔術士だったのか!」

『流石だね、カオリさん!』

『ま、まぁね!そ、そんな事よりも、これ以上の範囲魔法攻撃は、坑道が崩れる可能性があるから危ないわよ⁉︎』

    確かに、初撃からの数回に渡る範囲魔法で、天井や壁を支える柱や梁はかなり痛んでいる。

「ならば、相殺できぬ魔法で責めるまでよ!」

    地形の状態には気にもとめず、再び詠唱を始めるゴウダ。相殺が駄目ならばどうすれば良いんだ⁈

「くっ、とりあえず魔力粘糸で網を張る!」

    それはイービルスパイダーの真似事に過ぎないが、仲間達の前に大きな野球ネットの様な網を作った。

「無駄だ!喰らえ、アッシドミスト‼︎」

    既に詠唱を終えたゴウダが放った魔法は、酸の霧という実体の無いものだった。奴の近くに居た部下達が、次々と悲鳴を上げてもがき苦しんでいる。

「駄目だ、あれは魔力粘糸では防げない。ん?待てよ、それなら風で返してやる!ホットブロー!」

   霧を風で押し返そうとするも、霧が重く風で動かない。まさか、霧を発生させる時にグラビティも掛けていたのか⁈

「無駄だと言ったろ?」

    じわりじわりと霧が迫ってくる。こんな時はどうすれば…?
    すると、アヤコさんが駆け寄ってきて、アラヤに耳打ちをする。

「ハハハ‼︎死にたくなければ、今すぐにでも部下になると言え!そうしたら、軽い火傷くらいで勘弁してやるぞ?」

    もっとも、部下になると言った直後に技能を全て戴いて殺すがな。
    そう考えていたゴウダの思惑とは、全く違う光景が広がっていた。

「サクション!」

    アラヤが差し出した両手の掌に、みるみるうちに霧が吸い込まれていく。
    これは、アラヤの持つ技能と魔法を、全て把握しているアヤコが咄嗟に思いついた行動だった。
    多少の霧が掌に当たるけれど、アラヤには溶解耐性が最近できているので問題無い。

「吸い込んだだと⁉︎く、倉戸のくせにっ‼︎ええい、ヴェストリはまだか!」

     そういえば、この場に彼の姿が見当たらない。何かの指示を受けていたのだろうか。魔導感知にも近くには反応は無い。
    そもそも、彼が来るのをわざわざ待つ道理はない。

「お前は許さない!ヘイスト!」

    アラヤは駆け出し、ゴウダの腕を斬り落としに掛かる。
    ところが、ゴウダはそれを躱した上に剣を抜いて反撃をする。

「お前だけがヘイストを使えるわけじゃ無いぞ?」

     接近戦の斬り合いになるが、身体強化は同じレベルらしく、優勢に立てない。それどころか、剣技はゴウダの方が勝っていて、斬り合う度にアラヤに切り傷が刻まれていく。
    しかし、傷は直ぐに塞がり治ってしまう。

「お前っ‼︎ステータスを改竄してやがるな!ただの魔法剣士じゃないだろう⁉︎」

     疑うのは当然だ。偽のステータスには身体強化は載せて無いし、魔力粘糸は魔物の技能だ。ましてや自己再生ときたら、流石に誰でも変だと思うだろう。

「しかし、俺には勝てないぞ!バルクアップ‼︎」

    これはギルドマスターのトーマスも使っていた技能だ。ただし、彼の様に体の一部ではなく、全身の筋肉が肥大化する。

「チビが!お前は黙って俺に従えよ!」

    ヘイスト効果がある上に、筋力が異常に跳ね上がったゴウダの攻撃は、アラヤを防戦一方にさせる。アラヤは、既に体全体に竜鱗防御を展開していた。露出した肌には竜鱗が現れている。

「ハハッ!何だその姿は?まるで魔物みたいじゃないか!」

    防戦ばかりでは駄目だ。何とかしなければ、そう考えた矢先に愛剣に限界が訪れてしまった。

ガキィィン!

      剣身が折れて、離れた地点に突き刺さる。

「ぐっ…‼︎」

    アラヤの肩に、ゴウダの剣がめり込んでいた。竜鱗防御により、刃がこぼれたおかげで斬られたわけでは無いが、左肩の鎖骨は完全に折れていた。

「ちっ、硬いな!」

    剣を捨て、アラヤの髪を掴み顔面に膝蹴りを入れる。

「ぐあぁっ‼︎⁉︎」

   悲鳴を上げたのはゴウダだった。アラヤは蹴られる直前に、【弱肉強食】で膝を噛み砕いたのだ。

   『弱肉強食により、ヨウジ=ゴウダの技能スキルをランダムに選び、バルクアップLV3を食奪獲得イートハントしました』

「な、何だ⁉︎体が萎んでいく⁉︎」

   膝にヒールを当てながら、ゴウダはアラヤから必死に離れる。肥大化した筋肉も、みるみるうちに元の姿に戻ってきている。

「く、どういう事だ⁉︎俺の、俺のバルクアップが無くなっている⁈」

    口元を血だらけにしているアラヤは、ゴウダには人間では無い別の世界の住人に思えた。俺の膝に噛み付いて、その肉を美味しそうに食べてやがる!そう、コイツは悪魔だ!

「ゴウダ様、お待たせしました!」

    緊張した場面に、浮ついたドワーフの声が響いた。その場に居た全員がその声の出どころを見る。
    そこには、ヴェストリが新たな部下と、鉄の檻に入れられた全長5m程のデビルマンバをつれ来ていた。

「遅いぞ‼︎さっさと檻を開けろ!」

    檻の鍵が外され、直ぐに扉が開かれる。途端に中から這い出てくる蛇の魔物は、真っ直ぐにご主人様であるゴウダの元へと向かってきた。

「コイツの毒は猛毒だぞ!お前の回復能力も役には立たない!さぁ、奴に噛み付くんだ!」

    もはや、アラヤを捕縛する気はなく、ゴウダは殺す命令を出す。
    命令を受けて、デビルマンバはその体をアラヤに巻き付けて肩に噛み付いた。先程折れた鎖骨は既に治りかけていたが、噛み付きによって再び折れる。もの凄い激痛が全身に走る筈なのに、アラヤは叫び声を上げない。
    ゴウダは、彼の表情を見て鳥肌が立った。
    薄っすらと笑みを浮かべ、何かの余韻に浸っているかの様だ。
    そして、ガブリと。

シャァァァァァァァァッ⁉︎

    噛み付いていた筈のデビルマンバの首元を、アラヤが噛み付き返したのだ。それは噛み付きというよりは、噛みちぎりであった。
    デビルマンバは、バタバタと尾で地面を叩き、暴れながらアラヤから逃げ出す。
    その場に居た全員が、今はアラヤに釘付けになっていた。

   そのアラヤの脳内に、新たなメッセージが響いた。

『弱肉強食により、デビルマンバの全ての技能スキル食奪獲得イートハントしました。技能  熱感知LV 1、脱皮LV 1、ポイズンバイトLV 1、ポイズンバイトは経験値吸収され、LV2に昇華しました。弱肉強食の食奪獲得イートハント対象数が12体を超えた事により、暴食王がLV 3に昇華しました』
 
    今のアラヤの目に映るのは、敵も味方も恐怖の顔に染まった姿だった。
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