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第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈
105話 シルバーレイス
しおりを挟むアラヤ達が、馬車の前に散らばる瓦礫等を退かしていると、体が動かせるまでに回復した守衛が壁に寄り掛かりながらやってきた。
「ちょっと君達!今から出るつもりか⁈今から夜になると、奴等が活発になるぞ⁉︎」
「いえ、流石に出発はしませんよ。ここで野営をする為の準備をしているんです」
「そこは雪も積もるし、外から丸見えだ。中に避難するべきだよ」
狭い守衛室で一晩過ごすよりも、関所の通り口である通路の方が、広くていざという場合には戦い易い。
「大丈夫です。カオリさん、昨日と同じく屋根と壁を作ろう。ただ、出入り口だけは今回は鉱石化無しでね?」
「分かったわ」
アラヤ達がアースクラウドで土壁を操作し始めると、守衛は驚いて尻餅をついた。
「あ、守衛さんも、中へ入ってください。離れると守り難いので。アヤコさん、クララと一緒にもう1人の守衛さんを連れて来てくれる?」
「「分かりました」」
少年がそう言うと、シルバーファングと変わった衣装の女性が、仲間が居る守衛室へと走って行った。
「君達は、一体何者なんだ…⁈」
「ああ、ただの商人とその家族ですよ」
少年はそう言いながら、土壁を硬い鉱石に変えて、通路に大きな部屋を作ってしまった。
部屋の四隅付近には、火とは違う灯りのランタンを設置して部屋全体を明るくし、中央には焚火を起こして料理を作る段取りまで始めている。
「俺は夢でも見て…いや、既に死んでしまったのか?」
「ちゃんと生きてますよ。そんな所に居ないで、焚火で温まってください」
先程の女性とシルバーファングが、背に仲間を乗せて後ろから来ていた。
「ただの商人とその家族が、こんな事できる訳無いだろー⁈」
突然出来た頑丈な部屋に、箱型シャワー、馬車には綺麗なトイレまである。調理を始めた女性も、見た事の無い火の出る道具(魔鉱石コンロ)を使い、たまに魔法を使用している。
護衛はツッコミを入れずにはいられなかったのだ。
「ご馳走様でした。美味しかった…」
最初はアラヤ達を疑っていたのに、食事を終えると、2人の守衛は涙を浮かべて感動していた。うん、サナエの料理は最高だもんね。
「まさか、家族全員が魔法を使えるとは、魔術士の家系か何かか?」
「まぁ、そんなところです」
「何よりも驚きなのは、少年が三人の夫という事だな。見た目は村の子供と変わらないぞ」
『クララ、大人しくね』
自分も嫁だと、変身をしようとしたクララの背中を撫でて落ち着かせる。今変身したら、裸の姿だという事を忘れているようだね。
「守衛さん、我々の事より、今は気にする事があるでしょう?」
「あ、ああ、そうだな。先ずは、倒れた仲間の埋葬をしてくれてありがとう。助けてくれた事も含め感謝する。…道先に居るシルバーレイスをどうにかしないと、これより先には進めないのだが、君達は何処を目指しているのかな?」
「ポッカ村を経由して、オモカツタの街に向かう予定です」
「そうか。なら、香辛料を求めての行商といったところだな。しかし、レイスはポッカ村の方角からやって来た。ひょっとしたら、村で何かあったかもしれないな」
「レイスって、どんな特徴なんですか?」
「レイスというのは、元が魔術士でアンデッド化した魔物の1つだよ。肉体があればリッチという死霊系だが、レイスは肉体の無い生霊系だ。どちらも生前の記憶があり、魔法が使えるから厄介だ。肉体があれば、ゾンビやスケルトンみたいに物理攻撃が有効なんだが、レイスには物理攻撃は一切効かない。魔法による攻撃しか効かないんだ。我々の魔法が使えた仲間は、一番に狙われてやられてしまった」
「朝になれば消えるのでは?」
「どうかな。昨日から雪雲に日が遮られて、直射日光は出ていない。何より、生前の記憶があると言っただろう?日光が出そうであれば、奴は闇に潜んでいるに違いない」
となると魔法攻撃による撃退か。アラヤ達皆んなは、全員魔法を使えるし、いざとなったら魔鉱石もある。
「それなら、ここにいる間はライトで明るいので安全ですね?」
「いや、安全とは言い切れない。ライトは奴等には効果が弱いし、何しろ元は魔術士の成れの果てだ。魔法によるこ…」
ドォゥン‼︎
何者かが、鉱石化した壁に攻撃を仕掛けている。魔導感知には複数の反応があるが、熱感知には反応が無い。つまり、全員がアンデッド系である。
「カオリさんとサナエさんは、俺と一緒に外に出ようか。アヤコさんとクララは彼等の護衛を頼むね?」
「「分かりました」」
アラヤは、出入り口の土壁を開けて外へと出た。既に外は真っ暗な夜である。アラヤと今のカオリは暗視眼があるので問題無い。サナエは、ライトの魔鉱石をチャクラムに入れて身の周りを照らし出す。スケルトンが数体、武器を引きずりながら歩いているのが見えた。
「先に壁の強度を上げとくか」
アラヤは、素早く魔力粘糸を壁全体に飛ばして魔法対策を済ませる。
「サナエさん、鎮魂の舞の出番だよ?周りにライトを飛ばすから、好きに踊っちゃって」
「うん、やってみるわ」
彼女はスケルトン達の群れに飛び込んで、光るチャクラムを構えた。
「不浄なる天へと還れ、鎮魂の舞!」
ゆっくりと、かつ滑らかな弧を描く様に腕を振るい、その光る軌道は流れる様にスケルトン達の間を擦り抜けていく。チャクラムがスケルトンに触れてはいないのに、スケルトン達はカタカタと骨を震わせ、粉状に崩れ始めた。
「てっきり、骨ごと成仏して消えるかと思ってたよ」
「まぁ、実際はそんなもんでしょ。それで、私達はどうするの?」
「スケルトンはサナエさんに任せて、俺達はレイスを退治しようかな。カオリさん、仮死状態は大丈夫?」
「うん、もう少しなら持ちそうね」
「なら、急ぐとしよう。どうせ食べれない相手だからね」
2人は魔導感知の反応が強い場所に向かう。そこには、魔術士のローブを着た下半身が無い男が居た。確かに足さえあれば、見た目は普通の魔術士だな。
「なんだ貴様等は!我の邪魔をすると…」
「はい、消えてね~。フレイムフォール!」
カオリは話を聞かないで、そのまま焼却にかかる。
「ぬぉっ⁉︎何をする⁉︎我の話を…ぶへっ⁈」
アラヤがバブルショットをレイスの顔面に当てた。肉体は無くとも、やはり魔法ならば当たるようだ。
「あ、その泡には誘爆性付与してあるから」
「この馬鹿者共がぁぁっ‼︎」
シルバーレイスは上空へと浮かび上がり、謎の球体で自分を囲った。試しにエアカッターで攻撃してみると、球体に弾かれてしまう。
「無駄だ。これは強力な魔法障壁。中級如きの魔法では打ち砕く事は叶わん!」
「なるほど。じゃあ、これで」
アラヤは魔力粘糸の網を飛ばして、球体ごと包み込む。すると、魔力粘糸にゆっくりと球体は吸収されていく。
「な、何だと⁉︎」
アラヤはそのまま、レイスを網で拘束して引きずり下ろした。そこへカオリさんが待ってましたと魔法を唱える。
「溶けて成仏しちゃいなさい、アッシドミスト!」
「ぐぎゃぁぁぁぁっ‼︎わ、我を…!おの…れ、彼奴めを…!」
アッシドミストは、魔力粘糸ごとシルバーレイスを溶かしていった。
レイスには悪いが、何か言いたいことがあった様だけど、わざわざ親切に聞いてあげる程2人は優しくはなかったのだ。
「こっちも終わったよ~」
サナエさんも完勝したらしく、初アンデッド戦は圧勝で幕を閉じた。その事を守衛さん達に話したら、驚いて気を失ってしまった。
彼等は、そのままそこで布団を掛けて寝てもらったよ。それにしても、人を化け物を見る様にして気絶しなくてもいいよね?ちょっと失礼だと思うよ?
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