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第10章 いつのまにか疑われた様ですよ⁈
135話 信憑性
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「はぁ⁈バカ姉の知り合い?だから何だ!亜人の疑いがあるなら、さっさと捕獲して解体すりゃー良いんだよ!」
報告に戻った無能な部下達に、街長であるフリッツ=ピロウズはワイングラスを床に投げつけてる。
「はっ!…しかしながら、その従獣を従える者達は、我々を遥かに上回る実力を持つ様でして…」
「別に、やり方はいろいろあるだろう⁉︎俺は今それどころじゃ無いんだよ!」
イライラしながら、机の前を左右に行ったり来たりを繰り返す上司を尻目に、サマンサは部屋から退出した。
「さてと…。フリッツ様は別件で忙しいご様子。彼等の相手は我々でせねばならなくなった」
サマンサは仲間達の前で、はぁ~っと長い溜め息を吐く。そもそも亜人の調査など、他領の来客との火種になる事は明白なのに、領主は密偵の疑いが僅かにもある可能性がある限り止めないと豪語している。
おかげで領地への来訪者は減る一方。中小商会も撤退し始める等、この領地の活気は下がり続けている。
それもこれも、帝国や連邦国の動きが活性化した情報がある為に、緊張状態が続いているからだが。
「さて、戦闘になれば十中八九、我々に勝ち目が無いわけだが、何か良い案は無いかな?」
「サマンサ主任、元々の情報源が正しいかどうかを確かめてみては?虚偽の情報だった場合もありますから」
「そうだな。疑い有れば全て調査という以前に、今回は情報の信憑性を確かめて無いからね」
「それも、彼等が来た当初から魔力の高さで監視対象だったので、危険視されて当然の行動でもありますが」
「とにかく、情報源の冒険者達を探すとしよう」
サマンサ達が屋敷から出て行く様を、カーテンの隙間から確認したフリッツは、フゥと椅子に深々と座る。
「…それで?行き先の検討はついてるのか?」
「はい…。地下水路を利用して街中に向かったようです」
独り言のように呟くフリッツに、どこからとも無く小声の返答が聴こえてくる。
フリッツは街の地図を取り出し、水路の出口となる場所を確認する。
「出入り口は全て見張れ。手足の拘束は解けて無いのなら、遠くには逃げられ無い。追い込んで確実に捕らえるのだ」
「はっ!」
小声の主は去り、再び部屋は静寂に包まれる。フリッツは、親指の爪をガリッと噛み、上手く事が運ばない苛立ちを何とか抑えようとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
冒険者ギルド前。
「あ、アラヤ君、やはり居ましたよ」
「主任、あの者達です」
「「「あ?」」」
ギルド前に屯する冒険者達の前に、サマンサ率いる調査隊とアラヤ達が詰め寄る。その場に居た全員の視線が、冒険者達を見た後で交差する。
「え?え?どういう事?」
冒険者達は、大勢が目の前に突如現れた事に理解が追いつかない。アラヤとサマンサに至っては、非常に気まずい状況である。
「え~っと、サマンサさん?その、フリッツ様は何と?」
「あ、ああ、フリッツ様はまだ忙しくてね。まだ時間が取れないみたいだよ。私達は、フリッツ様の面会の前に、ちょっと確認すべき事が出てきてね」
再び視線が冒険者に向けられる。その眼光はとても冷ややかで鋭い。
サマンサは、たじろぐ冒険者達に歩み寄る。アラヤ達は、この冒険者達が流した情報と踏んで、証言を取り下げる様にしようと来たのだが、今はサマンサ達の様子を見る事にした。
「貴方達が、彼が連れている従獣を亜人だと証言したらしいね?」
「お、おう…」
サマンサ達の背後に立つアラヤ達、そこには当然クララも居る。威嚇で喉を鳴らし、今にも喉元を食いつかれそうだ。冒険者達の1番後ろに居た格闘家の顔がみるみる蒼白になってくる。
「それは、亜人である所を目撃したという事かな?」
「そ、そうだよ!なぁ、皆んな⁉︎」
「お、おう、はっきりと見たぜ!」
「ああ、見た見た!」
「それは何処で、どの様な?」
「えっと~…何処だっけ?」
仲間に助けを求めるが、見てもいないのに答えを出せるわけがない。格闘家に至っては、目立たない様に気配を消そうとしている。剣士が冷や汗を流しながら苦し紛れに出した答えは、
「そ、そこのバルグ商会から出て来た時に、狼人の男だったぜ?」
である。これにはアラヤ達だけでなく、サマンサ達も呆れてしまった。
「一応、痕跡視認で確かめるが、その必要も無さそうだな」
亜人が捕まるこの街で、公衆の面前で狼人で現れるなんてバカな事を、クララがしたと言うんですね?ああ、それと、クララは雌だから。彼等はいったい、何を見たんですかね?
「はぁ…。彼等の従獣は銀狼のままだったよ。つまり、君達が言う証言は虚偽だったという事だな」
「うっ、す、すみませんでした!坊主が羨ましくてつい、困らせ様と思ったんだ」
冒険者達は直ぐ様、その場で土下座をする。何事だ?と、冒険者ギルドからも見物人が出て来た。
「アラヤ殿、今回の件は彼等が発端の様だ。彼等の処遇をどうするかね?」
「そうですね。彼等には無償クエストに出てもらいましょうか。内容はオモカツタの街の復興の手伝いを1カ月間」
「い、1カ月⁉︎」
ギルドの外で屯しているくらいだから暇してるだろうと思って決めました。まぁ、それくらいはしてもらわないとね。ギルドの同僚達からも笑われて、罰的には十分だろう。冒険者達はサマンサさんの部下に連れられて、ギルド内へと入って行った。
アラヤは、サマンサにも言っておかなくてはと向き直る。
「それと、サマンサさん達にも、職務とは言えクララに一言謝罪してほしいですね」
「うん、それもそうだね。証言を鵜呑みにし過ぎた我々の落ち度で、従獣の彼女に不快な思いをさせた。申し訳なかった」
サマンサ達が揃って頭を下げると、ガウッとクララは吠え、許すという態度を見せる。
クララが許すなら、アラヤとしてはこれ以上責任を追求する気は無い。
「あ、じゃあ、フリッツ様との面会は…?」
「直談判する内容が他にもあるなら、もう一度掛け合うが、必要かな?」
「いえ、クララを従獣と認めてくれたなら、私達は直談判する必要は無いです」
これ以上は、もう関わらないに越した事は無い。
「そうか。ならば、嫌な思い出を払拭する為にも、後はゆっくりと温泉でも楽しんでくれ」
「温泉が出る場所があるのですか?」
「うん。西に見えるコアノフ山の中腹に、天然の温泉があって、そこの源泉を街外れの浴場まで引っ張っているんだよ」
「その浴場を詳しく教えて下さい!」
温泉と聞いて、大人しくしていた女性陣が前に出てくる。まぁ、気持ちは分からなくも無い。最近はシャワーが多くて、そろそろゆっくりと湯船に浸かりたい気分だもんね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ハァハァハァ…。
暗闇の中を1人、地下水路の横を並走する通路を、足を引き摺るようにして進む影が見える。
手首にはジャラジャラと手錠が音を立てている。足首にも鎖があるが千切れており、足首からはポタポタと出血が見える。
「……」
背後から、自分を追う者達の気配が近付いて来るのを感じる。ここで再び捕まる訳にはいかない。
今は手首と足首に付けられた錠のせいで、魔力が吸われて魔法が使えない代わりに、敵からの感知をされずに済んでいる状態だ。
今のうちに身を隠せる場所を見つけないといけない。
進みながら辺りを見回すと、一般家庭用の汲み上げポンプの管が、チラホラと見え始めて来た。どうやら居住区の下まで来たらしい。
「くっ…!」
出血している血を先の方まで飛ばした後、服を噛みちぎり足首に巻き付けて止血する。
登りやすそうな管を掴み、上へ向かいよじ登りだした。
下を通る追跡者達に気付かれ無いように、息を潜めて離れるのを待つ。それを繰り返しながら、上へ上へと向かい、とうとう地上への扉を見つけた。
軋む扉をゆっくりと開けると、隙間から刺す明かりにその顔が照らし出される。
擦り傷があるものの、色白で整った顔立ちに長く尖った耳。その容姿は中性的で、どちらの性別かは初見では分からないだろう。
それもそのはずで、彼はこの国では見かけない人種、エルフだった。
「ようやく外か…」
彼が出た場所は薄暗く、酒の香りがする事から、酒の貯蔵庫だと推測される。
彼は酒樽の隙間に体を入れて身を隠すと、ようやく体を休めて眠りに落ちるのだった。
報告に戻った無能な部下達に、街長であるフリッツ=ピロウズはワイングラスを床に投げつけてる。
「はっ!…しかしながら、その従獣を従える者達は、我々を遥かに上回る実力を持つ様でして…」
「別に、やり方はいろいろあるだろう⁉︎俺は今それどころじゃ無いんだよ!」
イライラしながら、机の前を左右に行ったり来たりを繰り返す上司を尻目に、サマンサは部屋から退出した。
「さてと…。フリッツ様は別件で忙しいご様子。彼等の相手は我々でせねばならなくなった」
サマンサは仲間達の前で、はぁ~っと長い溜め息を吐く。そもそも亜人の調査など、他領の来客との火種になる事は明白なのに、領主は密偵の疑いが僅かにもある可能性がある限り止めないと豪語している。
おかげで領地への来訪者は減る一方。中小商会も撤退し始める等、この領地の活気は下がり続けている。
それもこれも、帝国や連邦国の動きが活性化した情報がある為に、緊張状態が続いているからだが。
「さて、戦闘になれば十中八九、我々に勝ち目が無いわけだが、何か良い案は無いかな?」
「サマンサ主任、元々の情報源が正しいかどうかを確かめてみては?虚偽の情報だった場合もありますから」
「そうだな。疑い有れば全て調査という以前に、今回は情報の信憑性を確かめて無いからね」
「それも、彼等が来た当初から魔力の高さで監視対象だったので、危険視されて当然の行動でもありますが」
「とにかく、情報源の冒険者達を探すとしよう」
サマンサ達が屋敷から出て行く様を、カーテンの隙間から確認したフリッツは、フゥと椅子に深々と座る。
「…それで?行き先の検討はついてるのか?」
「はい…。地下水路を利用して街中に向かったようです」
独り言のように呟くフリッツに、どこからとも無く小声の返答が聴こえてくる。
フリッツは街の地図を取り出し、水路の出口となる場所を確認する。
「出入り口は全て見張れ。手足の拘束は解けて無いのなら、遠くには逃げられ無い。追い込んで確実に捕らえるのだ」
「はっ!」
小声の主は去り、再び部屋は静寂に包まれる。フリッツは、親指の爪をガリッと噛み、上手く事が運ばない苛立ちを何とか抑えようとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
冒険者ギルド前。
「あ、アラヤ君、やはり居ましたよ」
「主任、あの者達です」
「「「あ?」」」
ギルド前に屯する冒険者達の前に、サマンサ率いる調査隊とアラヤ達が詰め寄る。その場に居た全員の視線が、冒険者達を見た後で交差する。
「え?え?どういう事?」
冒険者達は、大勢が目の前に突如現れた事に理解が追いつかない。アラヤとサマンサに至っては、非常に気まずい状況である。
「え~っと、サマンサさん?その、フリッツ様は何と?」
「あ、ああ、フリッツ様はまだ忙しくてね。まだ時間が取れないみたいだよ。私達は、フリッツ様の面会の前に、ちょっと確認すべき事が出てきてね」
再び視線が冒険者に向けられる。その眼光はとても冷ややかで鋭い。
サマンサは、たじろぐ冒険者達に歩み寄る。アラヤ達は、この冒険者達が流した情報と踏んで、証言を取り下げる様にしようと来たのだが、今はサマンサ達の様子を見る事にした。
「貴方達が、彼が連れている従獣を亜人だと証言したらしいね?」
「お、おう…」
サマンサ達の背後に立つアラヤ達、そこには当然クララも居る。威嚇で喉を鳴らし、今にも喉元を食いつかれそうだ。冒険者達の1番後ろに居た格闘家の顔がみるみる蒼白になってくる。
「それは、亜人である所を目撃したという事かな?」
「そ、そうだよ!なぁ、皆んな⁉︎」
「お、おう、はっきりと見たぜ!」
「ああ、見た見た!」
「それは何処で、どの様な?」
「えっと~…何処だっけ?」
仲間に助けを求めるが、見てもいないのに答えを出せるわけがない。格闘家に至っては、目立たない様に気配を消そうとしている。剣士が冷や汗を流しながら苦し紛れに出した答えは、
「そ、そこのバルグ商会から出て来た時に、狼人の男だったぜ?」
である。これにはアラヤ達だけでなく、サマンサ達も呆れてしまった。
「一応、痕跡視認で確かめるが、その必要も無さそうだな」
亜人が捕まるこの街で、公衆の面前で狼人で現れるなんてバカな事を、クララがしたと言うんですね?ああ、それと、クララは雌だから。彼等はいったい、何を見たんですかね?
「はぁ…。彼等の従獣は銀狼のままだったよ。つまり、君達が言う証言は虚偽だったという事だな」
「うっ、す、すみませんでした!坊主が羨ましくてつい、困らせ様と思ったんだ」
冒険者達は直ぐ様、その場で土下座をする。何事だ?と、冒険者ギルドからも見物人が出て来た。
「アラヤ殿、今回の件は彼等が発端の様だ。彼等の処遇をどうするかね?」
「そうですね。彼等には無償クエストに出てもらいましょうか。内容はオモカツタの街の復興の手伝いを1カ月間」
「い、1カ月⁉︎」
ギルドの外で屯しているくらいだから暇してるだろうと思って決めました。まぁ、それくらいはしてもらわないとね。ギルドの同僚達からも笑われて、罰的には十分だろう。冒険者達はサマンサさんの部下に連れられて、ギルド内へと入って行った。
アラヤは、サマンサにも言っておかなくてはと向き直る。
「それと、サマンサさん達にも、職務とは言えクララに一言謝罪してほしいですね」
「うん、それもそうだね。証言を鵜呑みにし過ぎた我々の落ち度で、従獣の彼女に不快な思いをさせた。申し訳なかった」
サマンサ達が揃って頭を下げると、ガウッとクララは吠え、許すという態度を見せる。
クララが許すなら、アラヤとしてはこれ以上責任を追求する気は無い。
「あ、じゃあ、フリッツ様との面会は…?」
「直談判する内容が他にもあるなら、もう一度掛け合うが、必要かな?」
「いえ、クララを従獣と認めてくれたなら、私達は直談判する必要は無いです」
これ以上は、もう関わらないに越した事は無い。
「そうか。ならば、嫌な思い出を払拭する為にも、後はゆっくりと温泉でも楽しんでくれ」
「温泉が出る場所があるのですか?」
「うん。西に見えるコアノフ山の中腹に、天然の温泉があって、そこの源泉を街外れの浴場まで引っ張っているんだよ」
「その浴場を詳しく教えて下さい!」
温泉と聞いて、大人しくしていた女性陣が前に出てくる。まぁ、気持ちは分からなくも無い。最近はシャワーが多くて、そろそろゆっくりと湯船に浸かりたい気分だもんね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ハァハァハァ…。
暗闇の中を1人、地下水路の横を並走する通路を、足を引き摺るようにして進む影が見える。
手首にはジャラジャラと手錠が音を立てている。足首にも鎖があるが千切れており、足首からはポタポタと出血が見える。
「……」
背後から、自分を追う者達の気配が近付いて来るのを感じる。ここで再び捕まる訳にはいかない。
今は手首と足首に付けられた錠のせいで、魔力が吸われて魔法が使えない代わりに、敵からの感知をされずに済んでいる状態だ。
今のうちに身を隠せる場所を見つけないといけない。
進みながら辺りを見回すと、一般家庭用の汲み上げポンプの管が、チラホラと見え始めて来た。どうやら居住区の下まで来たらしい。
「くっ…!」
出血している血を先の方まで飛ばした後、服を噛みちぎり足首に巻き付けて止血する。
登りやすそうな管を掴み、上へ向かいよじ登りだした。
下を通る追跡者達に気付かれ無いように、息を潜めて離れるのを待つ。それを繰り返しながら、上へ上へと向かい、とうとう地上への扉を見つけた。
軋む扉をゆっくりと開けると、隙間から刺す明かりにその顔が照らし出される。
擦り傷があるものの、色白で整った顔立ちに長く尖った耳。その容姿は中性的で、どちらの性別かは初見では分からないだろう。
それもそのはずで、彼はこの国では見かけない人種、エルフだった。
「ようやく外か…」
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