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第10章 いつのまにか疑われた様ですよ⁈

136話 公衆浴場

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 街の外れにある浴場は、割としっかりとした公衆浴場だった。西口の近くに構えているのは、かつては王都や領内の来客が多くて、旅館や繁華街もあったらしい。そんな来訪者が長旅の疲れを癒す為に立ち寄り易いだろうと建てたのだとか。

「しかし、貸し切りみたいに誰も居ないですね」

 店内は閑散としていて、受付のおばさんも、コクリコクリと居眠りをしている。

「混浴では無さそうですね」

 デピッケルの公衆浴場は混浴だった為に断念したわけだけど、赤と青の布で入り口を分けてあるあたり、前世界の浴場と同様の分け方のようだ。

「おばさん、こんにちは」

「んあっ⁈あ、客かい?」

 ハッと目を覚ましたおばさんは、アラヤ達を見て笑顔になる。

「ここって、従獣も入って大丈夫ですか?」

「ん~、洗うのは良いけど、湯船に浸かるのは勘弁してほしいね。毛が湯船に毛が浮かんでたら、他の客からクレーム来るからね?」

 他の客が見当たらないけど、ルールやマナーは守らないとね。

「分かりました。じゃあ、大人4名と従獣1匹でお願いします」

「あいよ。代金は大人1人10銅貨だ。従獣は5銅貨でいいよ。子供は6銅貨でって…大人4名?」

「これでも一応、大人なんだよ」

 毎回の事だから、いちいち説明はしたくはないけど、子供で通して代金を得しようとは思わない。
 代金を番台の上に出して、男湯へと向かうと、後ろをクララが当然のように付いてくる。

「クララはあっちだよ」

「ガウッガウッ?(女体洗いしますよ?)」

「…ダメだ」

 変身したらダメだと言ってるのに、緊張感が足りないな。まぁ、ちょっと気持ちが揺らいだのは言わないでおこう。

 改めて男湯の脱衣所に入ると、そこには竹で作られた葛籠が幾つも置かれていて、蓋には札と銅貨の投入穴が付いている。
 試しに蓋をして銅貨を入れると、札が大きくなり葛籠を覆った。再び触れると、札が元の大きさに小さくなる。銅貨を入れた本人ではなく他人に対しては開かないのだろう。

「なるほど、コインロッカーみたいな物か。便利な物もあるんだな~」

 と言っても、アラヤ達は亜空間収納があるから使わないけどね。
 服を脱いで浴場の扉を開けると、そこには湯煙が立ち込めた大浴場が広がっていた。

「1人でこの広さは、逆に落ち着かないな」

 自作の石鹸とカオリ作成の植物性シャンプーを取り出して、先に体を洗い終えてから湯船へと向かう。隣では、女子同士でキャッキャッとはしゃぐ声が聞こえてくる。向こうは楽しそうだな。

「ん?」

 魔導感知に反応が現れた。壁越しにある嫁達の反応ではなく、この男湯の大湯船にだ。
 先程までは無かった気がするけど。まさか、ベルフェル司教の様な魔力を消せる人物か⁉︎
 アラヤは用心しながら、反応の後ろへと回る。

「ん?なんじゃ?坊主も居たのか?」

 そこには頭に布を乗せた老人が、肩まで湯に浸かってゆっくりしていた。

「いつも通り、貸し切りじゃと思ってたんだがなぁ」

「あ、あの、何処から来ました?」

 脱衣所に、使用してある葛籠は無かったし、先に誰か入っている反応も無かった。
 つまりは、外から急に現れたという事だ。 
 鑑定で調べると、バナンという名のステータスの普通のおじいさんだった。ただ、人種はドワーフとノーマルの混血らしい。

「フハハ!内緒じゃ!言ったらメノウちゃんにバレるからの~」

「メノウちゃん?」

「番台に居たじゃろ?」

「じゃあ、む、無銭入浴⁉︎」

「しーーっじゃ!」

 声を抑えろと慌てるおじいさんは、脱衣所の反応を気にしている。

「バレたら、過去の代金も払わにゃいかんじゃろ⁉︎それに、今日は女湯にも客が居る様じゃ!口止め料として、覗ける場所があるから教えちゃる!ついて来な」

 おじいさんは、ニヤけた笑みでアラヤをコッチじゃと誘う。
 はぁ~っとアラヤは溜め息を吐き、ニヤけじいさんの成敗に取り掛かった。

「何するんじゃ、離さんかーっ⁉︎」

 受付のおばさんこと、メノウさんの前に魔力粘糸でぐるぐる巻きしたバナンおじいさんを差し出す。

「あらっ?バナンさんじゃないの!どうして浴場から?」

「この人、無銭入浴ですよ。何処かの抜け穴から出入りしてる様です」

「メノウちゃん、ご、誤解じゃぞ?わしゃあ、今来たばかりじゃ」

「それなら、今ここで拘束を解きましょうか?」

「それは勘弁じゃ…」

 魔力粘糸の拘束を解いたら素っ裸だからね。流石に知人の前では嫌だろう。
 その後、一応着替えさせて休憩室で座らせる。嫁達も出て来て事情を聞かされると、まるでゴミムシを見る様な冷たい視線を向けている。
 (それは止めてあげて!一応未遂だから!御老人にその視線はキツ過ぎるよ⁉︎)

「むぅ…おかしいのぉ…。確かにわしの巨乳センサーが反応したと思ったんじゃが…」

 じいさん、そのセンサーを詳しく!じゃなくて、なんて怖い物知らずなんだ!

「今生の記念に、女湯の湯船に沈めてあげましょう」

「そうですね」

 アヤコとサナエに連れてかれそうになるのを、メノウさんが止める。

「ごめん、それは許してあげてね?この人いつもこの調子なの」

「という事は、今回が初めてでは無いんですか?」

「まぁね。昔からいつの間にか現れては、覗きで締め出されてたわ。でも、ちょっとスケベなだけで根は悪い人じゃ無いのよ?」

 いや、常習してる時点で根が良いとも言えないでしょ。

「彼はこの街の配管工でね。国内に展開している民間魔法販売会社ラクラシアンの元社長なの。引退してからは、この街の水道関連の仕事を引き受けているのよ」

「なるほど(そこを抜け道に使ってるな)。立場的にはしっかりとした方なんですね。それなら尚更、お金を払って入浴しましょうよ」

「むぅ、毎回では無いぞ?普段はちゃんと正面から入るわい(メノウちゃんが寝てる場合があるが)。主に地下水路の点検で汗をかいた時に、その流れで立ち寄るぐらいじゃ。今日は、地下水路が騒がしかったんで点検してたついでに寄ったんじゃ」

「それなら、帰る際には代金を支払って下さいね?」

「もちろんじゃ」

 素直にそうすると頷く彼に、アヤコとサナエも掴んでいた手を離した。しかし、最後に釘を刺すのは忘れない。

「浴場への抜け道は、当然全て塞いで下さいね?」

「ざ、残念じゃが仕方あるまい」

 口だけじゃ信用できないと、しっかりと塞ぐ作業までを見届ける事になった。泣く泣く入り口を塞ぐバナン。その後ろ姿には哀愁が漂っている。余程の楽しみだったんだな。

「それにしても、お主達はアレじゃな?魔力量が多い割に、魔力制御が下手じゃな」

「魔力制御?」

 作業が終わったバナンは、アラヤの胸元を軽く突く。

「今はこの服でだいぶ抑えられとる様じゃが、浴場では膨大な魔力が溢れとったぞ?嬢ちゃん達もな?」

 魔力粘糸の戦闘服バトルスーツを着ている間はそれ程は目立たないらしい。それでも、魔力量が多い事は分かるらしいが。

「地下水路には、魔力に反応する小さな魔物が多くてな。そいつらを刺激せん為にも、マクラシアン社では魔力を消すやり方を習得するのを必須にしとるんじゃ。お前さん達みたいな魔力量で地下水路に入れば、街中の地下に居る魔物が寄って来そうじゃな」

「魔力を消す?そんな方法が?」

 もしそれが実現できるなら、ベルフェル司教が魔力感知に映らなかったことも理解できる。

「べノンさん、俺達にその魔力制御のやり方を教えてくれないかな?」

「ふ~む。タダで教えるのはのぅ。じゃあ、抜け穴をまた…」

「それはダメ!他の報酬でお願いします」

 バナンはしばらく考えた後、ポンと手を叩き一つの提案を出した。

「巨乳美女と混浴がしたいのぉ!」

 アラヤは拳を振り上げる2人を必死に制止する。いくらなんでも老人に暴力はいけない。

「ほ、他の案を…」

「分かった。1人知ってるわ。頼んでみるけど、場所はコアノフ山の天然温泉にしてもらうわよ?」

 突然、カオリが出した提案にバナンはニカッと笑い出した。
 カオリが言う巨乳美女はクララなのだろう。場所を街の外にしたあたりは、亜人として周りにバレるのを考慮したのだろうけど、当のクララが了承するだろうかと見たら、彼女はアラヤを見てコクンと頷いた。

「よし!決まりじゃな!ならば、しっかりと伝授してやるわい!魔力制御という【技術スキル】をな!」

 こうして、怪しいスケベ老人のバナンの授業を、アラヤ達は受ける事となったのだった。
 



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