【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

149話 新米親子

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 久々の寝心地の良いベッドで寝たイシルウェは、隣で寝息をたてているチャコを見て安堵の笑みを浮かべる。

「あの、浸っているところ悪いのですが、そろそろお昼なので起きてもらえますか?」

「あ、ああ、すまない」

 呼びに来たハウンに謝りを入れて、チャコをそっと肩を揺らして起こす。

「チャコ、そろそろ起きようか」

「……パパ?えへへ、寝床がフカフカで、まだ夢かと思っちゃった」

 相変わらず言葉は分からないけど、お互いの会話が成り立っているという感覚はある。それはここ数日で生まれた絆によるものかも知れない。その絆も、今や父と娘の関係だ。イシルウェは思わず顔がニヤけてしまいそうになる。

「チャコちゃんごめんね、夜中に帰って来たからまだ寝足りないだろうけれど、昼食が出来たから一緒に食べようって、アラヤ様がお呼びなの」

「…一緒に食べていいの?」

 気を遣っているのか、チャコはイシルウェを見上げて尋ねる。ハウンが彼に通訳すると、彼自体も良いのか?と少し遠慮気味だったが、チャコを見て考えを変える。

「せっかくのご好意だ、ご馳走になろう」

 イシルウェが頷くと、チャコはパァッと笑顔になりベッドで飛び跳ねた。
 ハウンに連れられて向かった先は、宿屋の奥にある大部屋だった。

「お連れしました」

 開かれた扉から中に入ると、2人はその光景に思わず言葉を失った。

「ささっ、空いてる席に座って?」

 元々は大人数用の雑魚寝部屋だったと思うが、室内にはベッドは無く、明らかに宿屋の持ち物では無い長卓と椅子が部屋を占領している。
 その卓上には豪勢な料理の数々が並べられてらいる。

「こ、これは、祝い事か何かなのかい?」

「あ、違います。これがアラヤ様達の普段の食事量でして」

「へ、へぇ…」

 エルフの食事量は基本的に少ない者達が多く、イシルウェも少ない類に入るので、目の前のこの量だけで彼の一月分の量に当たる。
 イシルウェとチャコが席に座ると、皿を持って来たクララが2人の手にクリーンを掛ける。それだけでも不思議に感じるのに、今度は両手を合わせてお辞儀をした。

「じゃあ、いただきます。チャコちゃんも遠慮しないで食べてね?」

 言った後はバクバクと食べ始めたアラヤを、本当に普段からこの量を食べているみたいだと 2人はしばらく呆然と見ていた。

「ひょっとして菜食主義だった?」

 サナエが、カオリからの情報でエルフにはそういう者達も居ると聞かされて、サラダを運んで来た。

「いや、少量なら肉も食べるよ。心配要らないよ。ただただ、驚かされているだけさ」

「そう、なら良かったわ。チャコちゃん、果実ジュースもあるわよ。飲む?」

「じゅーす?」

 サナエが葡萄ジュースをコップに注いで渡すと、チャコは不思議そうに見てからチビッと口に含んでみた。

「わぁ、美味しい!じゅーす、美味しいね!」

 どうやら初めて飲んだみたいだ。大事そうにチビチビ飲むので、沢山あるから安心して?と注ぎ足してあげた。

「食べながらで良いけど、自己紹介しとこうかな?俺達とは面識あっても、名前すら打ち明けて無かったからね?」

 アラヤ達が簡単な自己紹介を2人にすると、イシルウェ達も改めて御礼と自己紹介をした。

「…すると、アラヤ殿達は偶然にもムシハ連邦国に渡りたいと?行きたい場所がお有りですか?」

 イシルウェは、明らかに我々の為に言っているのだろうと勘付いていたが、彼自身の目的があるかもしれないと聞いてみる。

「うん。行きたい最終目的地は決まっているけど、今は単に違う国の文化と生活を見たいって感じかな」

「しかし、大陸を横断する大河を渡る事は難しいし、アルローズ領から国境を渡るのも無謀ですよ?」

 教団関係者が出国や入国をする場合は、その旨を相手側の領主と教団に伝えて、幾度か審査を受ける必要があるらしい。
 つまり、アラヤ達ならば大罪教団員として審査さえ抜ければ他国に行き来できるという事だ。

「国を渡る方法はイシルウェと同じだよ」

「あ、私は来たくて来た訳では無くて、乗っていた飛竜に大河に振り落とされたからなんだ。運良く生きていたが、後は知っての通りだがね」

「それは正に災難だったね。だから結果的に密入国扱いだよね?俺達の移動プランもテレポートで渡るから密入国扱いになると思う」

「あの一瞬で移動する魔法か。しかし、連邦国までは大河もあるからかなりの距離だ。飛竜でも休まねば無理だと思うが、あの魔法は可能なのか?」

「大丈夫だと思うよ。問題なのは消費魔力量が大きいって事かな」

 飛竜の飛距離を知らないので分からないけど、アラヤ達の馬車の移動距離で3日分程は無いと考える。

「アラヤ君、昨夜の内に待機班だった私達でテレポートの習得と飛距離の検証をできる範囲で行いました」

 アラヤ達がイシルウェを探している間、アヤコ達は食材の補充や魔力電池作成等忙しくしていた上に、テレポートも頑張っていたらしい。

「そうなの?じゃあ、誰か習得出来た?」

「サナエちゃんとクララも習得はできたのですが、魔力量が少ないので1度に遠くまでの飛距離はありません。結果的には、大河近くまで近づかないと、13人と馬6頭に従魔1匹を一緒に移動するのは無理ですね。なので、アラヤ君とカオリさんに10回テレポートをしてもらうか、とりあえず国境付近まで5人で2回テレポートで近付いてから渡るかですね」

「大河や国境に近いムシハ連邦国の街は何処?」

「それならば、私が最後に居た街バエマシだろうな。大河の直ぐ近くにある街だ」

 アヤコが地図を取り出して見せると、大河を挟んで隣接する領は、ドワーフだけが暮らす領地モザンピアだと分かった。

「帰りの事も考えると、1度モザンピアの地を知っていても問題無いだろうね」

「ドワーフだけの街…」

 イシルウェが少し嫌そうな顔を見せたが、チャコに手を握られると途端に笑顔になっていたので大した問題では無いだろう。

 昼食後、アラヤ達は宿屋をチェックアウトして馬車を馬房に取りに来ている。

「馬車を亜空間に入れるスペースは、誰があるの?」

「それならば、私の亜空間が空でございます」

 食糧や日常品が多くて空きが少ない嫁達とは違い、ハウンの亜空間は空に近い状態で、2台の馬車をすんなり収納する事が出来た。

「良し、じゃあとりあえず、初めはアルローズ領のコルキア山に飛んで、次はインガス領のガーンブル村だね。そこで1度態勢を整えてからモザンピア領に向かうとしようか」

 移動自体は一瞬だが、消費魔力量を魔力電池で地味に回復したり、馬を取りに帰ったりと引き返す回数もあるので、時間は思ったよりも掛かる事となった。

「ガーベルク領とアルローズ領は、コルキア山の地熱の影響で積雪が少なかったが、インガス領は相変わらずの積雪が続いているようだね」

 ガーンブル村の住民達が、突然現れたアラヤ達に驚いたのは言うまでもない。
 村人達の生活は以前と違って、多少裕福になっていた。何やら、近くの遺跡の調査に色々な街から来客があるらしく、村を拠点として沢山の人が訪れるのだそうだ。
 故に、そのきっかけとなったアラヤ達を、村長達は大歓迎した。

「まぁ、今日はこの村で泊まって、明日の朝に出発しよう」

 夕食後、イシルウェとチャコの寝室にアラヤとアヤコがやって来た。

「ちょっと話があるんだけど良いかな?」

「ああ、構わない」

 アラヤは部屋にあった椅子に腰掛けて、2人を見ると、ゆっくりと今後の話を始めた。

「つまり、チャコを君達の馬子にしたいと?」

「それか、イシルウェが俺達の部下になるかだよ。どっちにしても、一時的で構わないんだ。要は、どちらが言語理解の技能スキルを持つべきかなという事だよ」

 アヤコ達と話した結果、言語理解を与えても良いことになったのだけど、どちらか1人にしようとなったのだ。

「君達がチャコを無下に扱う事は無いだろうが、どうしてもあの環境を思い出してしまいそうで、私は正直やらせたくは無い。しかし、私がその技能を得るよりは遥かにチャコが持つべきだし…」

 イシルウェは眉間にシワを寄せて真剣に悩み出した。ベッドに座るチャコにも一応説明をすると、チャコはイシルウェの服の裾を引っ張る。

「チャコ、お馬さん好きだよ?」

「…って、彼女は言ってますけど」

「む、むう。ち、ちゃんと食住の権利は与えてくれるのだろうか?」

「もちろんだよ。それに、言語理解を持てば馬とも会話できる様になる。彼女も楽しい筈だよ?」

「そ、そうか。ま、まぁ、馬の世話は私も手伝えば良い訳だしな。ならば、その技能はチャコに与えてくれ」

「分かった。じゃあ、チャコちゃん。これから、俺達の馬の世話を宜しくね?今までに世話してくれたこのお姉ちゃんが、色々と教えてくれるからね」

「は~い!チャコ、頑張りまーす!」

 こうして主従関係が成り立ち、アヤコの技能与奪で言語理解をチャコへと譲渡したのだった。

「パパ、ありがと~」

「おおっ…‼︎」

 初めて分かった娘の言葉に、イシルウェは感極まり、彼女を抱きしめていた。
 アラヤ達は気を利かせて、部屋から退室するのだった。きっと今夜は色々と夢中になって話をするに違いない。
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