154 / 418
第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎
150話 くじ引き
しおりを挟む
2台の馬車の車輪を、ソリ板に付け替え作業が終了すると、アヤコとチャコが馬達の手綱を引き連れて来た。
「アインズ、ツワイ、ドゥライ、フィアーは私達が乗る馬車ね。チャコが乗る馬車には、プフェアートとヒルシュを繋いでね?」
「ハイです!プフェとヒル、コッチだよ~」
チャコがアヤコや二頭の馬に笑顔で話しかける様子を、イシルウェは離れた住宅の影から見守っていた。
「うん、しっかりと打ち解けているな。チャコ、その調子で頑張るのだ」
「イシルウェ殿、すまないが、いい加減手伝ってくれまいか?」
アスピダやコルプス達が、木箱を担いで後ろに立っている。木箱には香木以外にも、新参者用の衣類や寝具等を新調した物が入っている。
「す、すまん。直ぐに運ぶとしよう」
イシルウェは足元に置いていた木箱を持ち上げると、ハウン達の馬車へと向かう。
すると、馬車の前でアラヤとハウンが困った顔をしていた。本来ならハウン達が乗る馬車にイシルウェ達は同乗するつもりでいたのだが、彼女達の馬車に8人が乗るのは狭過ぎると、アラヤがハウン達の中から2名をこちらの馬車に移そうと話していたのだ。
「俺達が乗る馬車にはまだ余裕がある。アスピダの様な大男が増えても大丈夫だよ?」
「アラヤ様、その様な問題ではありません。人選はあくまで公平でなくては!そうでなければ、間違いなく私自身がそちらに参ります。ですがそれでは、私に対して仲間達が謀反を起こしかねません。くっ…、この様なチャンス、本来ならリーダー権限を盾に強行すべきだと分かっているのですが…!」
「いや、ケンカしそうなら、イシルウェ達でも構わないよ?」
「それは尚いけません!アラヤ様達を親愛する我々を差し置いて、彼等が選ばれるなどとなれば、力強くでご遠慮願います」
それのどこが公平なんだ?とツッコミたい気持ちを抑える。息遣いを荒げるハウンにちょっと引きつつ、アラヤは定番の打開策を提案した。
「くじ引き?」
ハウン達を全員を呼び集め、アラヤは8本の串を取り出して先端を隠した。
「この串の中の2本だけに、先端に赤の印が付けてある。それを引いた者が俺達の馬車に同乗する事。君達の中に鑑定持ちは居ない。これなら公平だろ?」
ハウン以外の者達も事情を聞かされると、途端に目の色が変わった。真剣な彼等の事情を知らないチャコは、面白そうとはしゃいでいる。
「じ、じゃぁ、私から引くわ」
ハウンが最初に引く事に関しては、皆も同意した。彼女は指先を震わせながら、串から選び引き抜いた。
「印は…⁉︎」
皆がハウンの答えに注目するが、先端を確認した彼女は膝から崩れ落ちた。それを見たコルプス達が、小さくガッツポーズを入れる。
「次は年齢順だから、イシルウェだね」
「え?イシルウェ殿はお幾つで?」
最年長は自分だと思っていたアスピダが、かなり若いと思っていたイシルウェが最年長だと聞かされて驚く。
「イシルウェは83歳だよ。エルフ的にはどうなのかな?」
「私はエルフの中でもまだ若い方だ。エルフの平均寿命は大体220歳前後だからね。エルフは成人したら成長が止まるんだ。人間から見たら分からないだろうな」
「パパって、お爺ちゃんなの?」
「ち、違うぞ、チャコ!パパはまだお兄さんと呼ばれる部類なんだぞ⁈」
ちょっとしたダメージを受けたイシルウェが串を引くと、またしてもハズレを引いた。ここでようやく、イシルウェは事の重大さに気付いた。
(ま、まさか!チャコがもし印付きを引き当ててしまったら、離れ離れに乗る事になるのか⁉︎)
考えただけで途端に顔は真っ青になり、ハウンの隣に同じ様に崩れ落ちた。
「フフフ、運は我に有り!これが当たりに違いないっ!」
アスピダは、太い指先で摘んだ串を勢いよく引き抜き、天高く掲げる。
「「「あ…」」」
印無しの串を皆が確認し、アスピダは雪に大の字に沈んだ。何故か彼の不動心LV2が効果無しみたいだ。
「年齢順ならば、次は私だな」
コルプスはフゥと一息ついて気分を落ち着かせると、慎重に串を選びゆっくりと抜いた。
「おっ、当たりだね」
アラヤのその声が聞こえるや否や、コルプスは串を二度見する。そこには確かに、先端が赤く染まった印があった。
「ありがとうございます!ああっ…支度をせねばっ!」
コルプスは足取り軽くなって、笑顔で馬車に乗り込み自品の整理に取り掛かった。
残りは1枠に、19歳がオードリー・アフティ・ファブリカンテの3人と10歳のチャコだ。
「ここは3人同時に選ぶべきではないか?」
「そうね、私もそれで良いわ」
「はい、恨みっこ無しですね?」
つまり、3人同時に引いた後の残りが、チャコが引く串という事だ。イシルウェは3人の誰かが当たりを引く様にと、獲物を矢で射殺す様な殺伐とした念を送る。
「「せ~のっ!」」
「やりました!ファブリカンテが当たりです!」
3人の結果はファブリカンテに軍配が上がった。なので、必然的にチャコはハズレとなる。
「ホッ…良かった、チャコはハズレだな」
「くっ…!し、仕方ないか。これはアラヤ様が決めた公平な選別。文句などあってはならない…」
「ね、ねぇ、ファブリカンテ。その串を私に譲る気ない?」
「ちょっとアフティ、1度決まった事だからダメよ!甘言の技能とかもダメだからね?」
立ち直ったハウンが、変わってと懇願するアフティを制止に入る。ただ、私にも気持ちは分かるわと、宥め方が少しおかしいけど。
「じゃあ、コルプスとファブリカンテで決まりだね。出発は10時だよ。準備しといてね?」
アラヤがそう言うと2人は笑顔で頷き、周りはどんよりとした顔をしている。たった2人の移動を決めるのに、こうまで明暗が別れるとは、今後の移動に支障が出なければ良いが。
「じゃあ、出発しようか」
出発の時間となり、アラヤ達はガーンブルクの村から、モザンピア領地へと出発した。
新たにアラヤ達の馬車に乗り込んだ2名は、ソワソワと落ち着きが無い。
アラヤは御者台に座っているので、2名は嫁達に囲まれている状態なのだ。
「私の知らないカオリ様の数多の知識と、サナエ様の調理法は、本当に素晴らしいです」
「でも、調理技術とセンスは貴方の方が上よ。正直、その域に私も早く到達したいと思っているわ」
「私も、知っているだけで得意では無いもの。以前、私の配下だったクーパーと同等の腕だと認めてあげるわ」
「ありがとうございます!」
既に料理で共に調理をしているコルプスは、流石に打ち解けるのは早い。いわゆる職場仲間という感じなのかもしれない。
一方のファブリカンテは床に布を敷き、以前サマンサの道具袋の中に入っていた薬剤の調合を始めていた。
「既に自白剤の調合レシピは完成してる。他に入っていた瓶の中身はまだ覚えてるの?」
「はい、大丈夫です。瓶は4つで、その内の1つが自白剤だったんですが、残りの3つは麻酔剤・忘却剤・増強剤でした。今からその残りの3種類も作ってみます」
薬用のすり鉢を取り出して、様々な薬草を入れては擦り潰している。
「増強剤とは何ですか?」
「クララ様、この増強剤は主に、薬の効果を上げる目的として使用されていた様です。そのまま服用すれば、ただの精力剤になります」
「精力剤⁈」
アヤコにクララはピクッと眉が吊り上がる。今のアラヤには不要な品だが、世の男性陣向けに商売ができそうだ。
「あ、強めの精力剤なら、オーク肉製の精力剤の方が効果有りますよ?」
せっかくの商売品かと思ったら、既に市販されていたらしい。でもまぁ、疲労回復の栄養剤的な効果は期待できるかもしれない。
こんな調子で、彼等は早くもアラヤ達に受け入れられていくのだった。
「アインズ、ツワイ、ドゥライ、フィアーは私達が乗る馬車ね。チャコが乗る馬車には、プフェアートとヒルシュを繋いでね?」
「ハイです!プフェとヒル、コッチだよ~」
チャコがアヤコや二頭の馬に笑顔で話しかける様子を、イシルウェは離れた住宅の影から見守っていた。
「うん、しっかりと打ち解けているな。チャコ、その調子で頑張るのだ」
「イシルウェ殿、すまないが、いい加減手伝ってくれまいか?」
アスピダやコルプス達が、木箱を担いで後ろに立っている。木箱には香木以外にも、新参者用の衣類や寝具等を新調した物が入っている。
「す、すまん。直ぐに運ぶとしよう」
イシルウェは足元に置いていた木箱を持ち上げると、ハウン達の馬車へと向かう。
すると、馬車の前でアラヤとハウンが困った顔をしていた。本来ならハウン達が乗る馬車にイシルウェ達は同乗するつもりでいたのだが、彼女達の馬車に8人が乗るのは狭過ぎると、アラヤがハウン達の中から2名をこちらの馬車に移そうと話していたのだ。
「俺達が乗る馬車にはまだ余裕がある。アスピダの様な大男が増えても大丈夫だよ?」
「アラヤ様、その様な問題ではありません。人選はあくまで公平でなくては!そうでなければ、間違いなく私自身がそちらに参ります。ですがそれでは、私に対して仲間達が謀反を起こしかねません。くっ…、この様なチャンス、本来ならリーダー権限を盾に強行すべきだと分かっているのですが…!」
「いや、ケンカしそうなら、イシルウェ達でも構わないよ?」
「それは尚いけません!アラヤ様達を親愛する我々を差し置いて、彼等が選ばれるなどとなれば、力強くでご遠慮願います」
それのどこが公平なんだ?とツッコミたい気持ちを抑える。息遣いを荒げるハウンにちょっと引きつつ、アラヤは定番の打開策を提案した。
「くじ引き?」
ハウン達を全員を呼び集め、アラヤは8本の串を取り出して先端を隠した。
「この串の中の2本だけに、先端に赤の印が付けてある。それを引いた者が俺達の馬車に同乗する事。君達の中に鑑定持ちは居ない。これなら公平だろ?」
ハウン以外の者達も事情を聞かされると、途端に目の色が変わった。真剣な彼等の事情を知らないチャコは、面白そうとはしゃいでいる。
「じ、じゃぁ、私から引くわ」
ハウンが最初に引く事に関しては、皆も同意した。彼女は指先を震わせながら、串から選び引き抜いた。
「印は…⁉︎」
皆がハウンの答えに注目するが、先端を確認した彼女は膝から崩れ落ちた。それを見たコルプス達が、小さくガッツポーズを入れる。
「次は年齢順だから、イシルウェだね」
「え?イシルウェ殿はお幾つで?」
最年長は自分だと思っていたアスピダが、かなり若いと思っていたイシルウェが最年長だと聞かされて驚く。
「イシルウェは83歳だよ。エルフ的にはどうなのかな?」
「私はエルフの中でもまだ若い方だ。エルフの平均寿命は大体220歳前後だからね。エルフは成人したら成長が止まるんだ。人間から見たら分からないだろうな」
「パパって、お爺ちゃんなの?」
「ち、違うぞ、チャコ!パパはまだお兄さんと呼ばれる部類なんだぞ⁈」
ちょっとしたダメージを受けたイシルウェが串を引くと、またしてもハズレを引いた。ここでようやく、イシルウェは事の重大さに気付いた。
(ま、まさか!チャコがもし印付きを引き当ててしまったら、離れ離れに乗る事になるのか⁉︎)
考えただけで途端に顔は真っ青になり、ハウンの隣に同じ様に崩れ落ちた。
「フフフ、運は我に有り!これが当たりに違いないっ!」
アスピダは、太い指先で摘んだ串を勢いよく引き抜き、天高く掲げる。
「「「あ…」」」
印無しの串を皆が確認し、アスピダは雪に大の字に沈んだ。何故か彼の不動心LV2が効果無しみたいだ。
「年齢順ならば、次は私だな」
コルプスはフゥと一息ついて気分を落ち着かせると、慎重に串を選びゆっくりと抜いた。
「おっ、当たりだね」
アラヤのその声が聞こえるや否や、コルプスは串を二度見する。そこには確かに、先端が赤く染まった印があった。
「ありがとうございます!ああっ…支度をせねばっ!」
コルプスは足取り軽くなって、笑顔で馬車に乗り込み自品の整理に取り掛かった。
残りは1枠に、19歳がオードリー・アフティ・ファブリカンテの3人と10歳のチャコだ。
「ここは3人同時に選ぶべきではないか?」
「そうね、私もそれで良いわ」
「はい、恨みっこ無しですね?」
つまり、3人同時に引いた後の残りが、チャコが引く串という事だ。イシルウェは3人の誰かが当たりを引く様にと、獲物を矢で射殺す様な殺伐とした念を送る。
「「せ~のっ!」」
「やりました!ファブリカンテが当たりです!」
3人の結果はファブリカンテに軍配が上がった。なので、必然的にチャコはハズレとなる。
「ホッ…良かった、チャコはハズレだな」
「くっ…!し、仕方ないか。これはアラヤ様が決めた公平な選別。文句などあってはならない…」
「ね、ねぇ、ファブリカンテ。その串を私に譲る気ない?」
「ちょっとアフティ、1度決まった事だからダメよ!甘言の技能とかもダメだからね?」
立ち直ったハウンが、変わってと懇願するアフティを制止に入る。ただ、私にも気持ちは分かるわと、宥め方が少しおかしいけど。
「じゃあ、コルプスとファブリカンテで決まりだね。出発は10時だよ。準備しといてね?」
アラヤがそう言うと2人は笑顔で頷き、周りはどんよりとした顔をしている。たった2人の移動を決めるのに、こうまで明暗が別れるとは、今後の移動に支障が出なければ良いが。
「じゃあ、出発しようか」
出発の時間となり、アラヤ達はガーンブルクの村から、モザンピア領地へと出発した。
新たにアラヤ達の馬車に乗り込んだ2名は、ソワソワと落ち着きが無い。
アラヤは御者台に座っているので、2名は嫁達に囲まれている状態なのだ。
「私の知らないカオリ様の数多の知識と、サナエ様の調理法は、本当に素晴らしいです」
「でも、調理技術とセンスは貴方の方が上よ。正直、その域に私も早く到達したいと思っているわ」
「私も、知っているだけで得意では無いもの。以前、私の配下だったクーパーと同等の腕だと認めてあげるわ」
「ありがとうございます!」
既に料理で共に調理をしているコルプスは、流石に打ち解けるのは早い。いわゆる職場仲間という感じなのかもしれない。
一方のファブリカンテは床に布を敷き、以前サマンサの道具袋の中に入っていた薬剤の調合を始めていた。
「既に自白剤の調合レシピは完成してる。他に入っていた瓶の中身はまだ覚えてるの?」
「はい、大丈夫です。瓶は4つで、その内の1つが自白剤だったんですが、残りの3つは麻酔剤・忘却剤・増強剤でした。今からその残りの3種類も作ってみます」
薬用のすり鉢を取り出して、様々な薬草を入れては擦り潰している。
「増強剤とは何ですか?」
「クララ様、この増強剤は主に、薬の効果を上げる目的として使用されていた様です。そのまま服用すれば、ただの精力剤になります」
「精力剤⁈」
アヤコにクララはピクッと眉が吊り上がる。今のアラヤには不要な品だが、世の男性陣向けに商売ができそうだ。
「あ、強めの精力剤なら、オーク肉製の精力剤の方が効果有りますよ?」
せっかくの商売品かと思ったら、既に市販されていたらしい。でもまぁ、疲労回復の栄養剤的な効果は期待できるかもしれない。
こんな調子で、彼等は早くもアラヤ達に受け入れられていくのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,697
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる