【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第13章 初顔合わせにドキドキですよ⁈

180話 平和的な治療

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 アラヤは、ディニエルの耳を確認する。髪をかき上げると、エルフ特有の長耳が変形して小さく折り曲がっている。

「ちょっとだけ我慢してね?」

「あうう?」

 アラヤは、彼女のパクッとその耳を甘噛みする。

「ちょっ⁉︎」

「大丈夫だよ、ほら?」

 慌ててファウンロドが確認するが、噛んだ耳の部分だけが、正常のエルフ耳に直されていた。

「ちょっと技能スキルの【生命変換】で作り直したんだよ。代償に彼女の生命力を少し使ったけど…って、ちょっと皆んな目が怖いんだけど⁉︎」

 アヤコ達がジト目でこちらを睨んでいる。あれ?俺、何か悪い事したかな?

「ま、まぁ、とにかく、後はアヤコさんから超聴覚と言語理解、後は初めは上手く喋れないだろうから、念話も付けてもらうといい」

「それはできません。先ず、彼女とは主従関係がありませんし、私達が初対面の方にそこまでする必要がありますか?」

 アヤコは乗り気では無い様で、ディニエルとファウンロドを見た後、アラヤの手を両手で掴んだ。

「アラヤ君、慈善事業はダメです。技能を与えるのは、世間的には奇跡に近い行為なんですよ?何の見返りも無しに、約束しないでください」

「そうよ、にいや。あんな羨ま…じゃなくて、体組織を作り替えるなんて事、世界中の整形希望の女性達が噛んでくださいって殺到するわよ?」

「カオリさんの視点とは違いますが…、その技能を求める人は多いでしょうね。大体、この村に居る障害者を持つ家族達も、噂を聞いたら来る事は間違いないです。来た人全員を治療するおつもりですか?」

「う、うん…。ちょっと軽率だったかな?」

 確かに彼女達が言う事も分かる。しかし、彼女は既に耳の整形は終わっている。後は技能を与えれば治ると思うのだが、誰もタダじゃ納得しないだろうなぁ。
 ん?タダ?アヤコさん達、ひょっとして…?

「ち、ちょっと待ってくれ!妹の障害は普通の治療じゃ治らないんだ!今、治療に見合った何か用意するから!頼む!治療を続けてくれ!」

 ファウンロドは、縋る様にアラヤの服を掴む。その後ろで、イシルウェも一緒に頼むと頭を下げた。アラヤは振り返ってアヤコ達を見ると、微かに彼女の口角が上がった事に気付いた。

「では、治療に見合った報酬として、結界術をアラヤ君に教えて頂けますか?」

「け、結界術を?」

「はい。別に教わる以外にも、(アラヤの弱肉強食)や(カオリの愛欲見返)する方法を用いれば早いのですが、後の問題がいろいろと多いので。に進めるなら、が報酬としては妥当なんです」

「結界術を覚えるなら、精霊との契約が必要だが…」

「ファウンロド、それは心配ない。彼は6属性の精霊と契約している」

「何だと⁈それは凄いな!」

 素直に驚くファウンロドに、イシルウェはウンウン分かるよと、自身も体験した心情を思い出してて頷いた。

「それならば何も問題無い。治療の報酬として、結界術を教える事を約束しよう」

 ファウンロドが強く頷くと、アヤコも笑顔で頷いた。この瞬間、取引が成立したので、ファウンロドの商品扱いとなるディニエルとも、主従関係が生まれた。
 アヤコは、この関係を待っていたのだ。

 アヤコよりディニエルに与えられた技能は、【言語理解・精霊言語・超聴覚・念話・身体強化】である。
 彼女の耳の障害により変形した部分は治してある。今ならば、しっかりと音を受ける事ができる筈だ。後は初めて聞こえた音や声を、自分が発する事ができるかどうかだ。

「どう?喋れるかな?」

 ディニエルはコクンと頷くと、車椅子から立ち上がりファウンロドと向かい合った。

「お、おにちゃ、あ、ありごとう」

「おおっ⁉︎うん、うん!良かった!」

 まだ言葉が不慣れではあるが、言葉の意味を理解しているだけあって、初めてにしては流暢だと思う。

「上手くいったね」

「そうですね。おかげで結界術も習得できますし、良かったですね?」

 何かアヤコ達の笑みが怖い。これは、プチ整形希望かな?いや、それだけじゃ無さそう…。

『お客さんだよ~!』

 突如、水晶玉が光ると、中から光精霊がちょこんと顔を出してファウンロドを呼ぶ。なるほど、呼び鈴はこうなるんだね。

「ファウンロドさん、治療の事は内密にお願いしますよ?」

「ああ、分かっているよ。さて、誰かな?」

『もしも~し、ファウンロド居る~?』

 光精霊が声色を変えて伝える。その声を聞いたイシルウェは後退りした。身振り手振りで、ファウンロドに自分達は居ないと合図する。

「これは村長、どうされました?」

 唯一過去を知るファウンロドは、大丈夫だと合図を返す。

『ちょっと結界の強化をお願いしたいのよ~』

「強化ですか?それはどの様な?」

『外出禁止的な効果が良いのだけれど』

 一同は青ざめる。イシルウェが村から出ない様にする考えなのか?

「すみません。認識阻害等の侵入妨害なら容易なんですが、侵入禁止ですと風精霊では無理がありますよ?」

『そう…。分かったわ。じゃあ、他の手を考えるわ。あ、そうそう、弟が今帰って来てるのよ』

「えっ!そうなんですか⁉︎」

 中々の演技力だな。今知りました感がしっかりと演出されている。声だけで認識するなら、先ず所在は分からないから大丈夫だろう。

『それでね、朝彼に会いに行ったんだけど居なくてね。片っ端から村を探して周ってるの。それでね、貴方の家が最後なのよ?』

 あ、これってバレてるやつだ。アラヤは、アヤコ達に目配せする。こうなったら、この家に長居は無用だ。テレポートで逃げるべきかな。

「さぁ、家には来ていませんが?途中で入れ違いになったのでは?」

『ウフフ、まぁいいわ。もしも会ったなら、【暮れの大火の森】で待つと伝えといてくれるかしら?』

「分かりました。そう伝えますね」

 すんなりと引き下がるアルディスに、ちょっとした違和感を感じるも、ファウンロドは了承して光精霊を帰らせた。

「ビックリしたな。上がってくるかと思ったぞ?」

「イシルウェ、まだ油断は出来ない。警戒はするべきだよ。『オードリー、望遠眼で確認できるかい?』」

『はい。風精霊を連れて帰って行きますね。とりあえずは大丈夫そうです』

 玄関外から下階段を監視していたオードリーが、彼女と風精霊が帰るのを確認した。

「ファウンロド、今日は泊まっていいかな?」

「ああ、もちろん構わないさ。だけどどうするんだ?【暮れの大火の森】で待つって言っていたが、行くのか?」

 少しだけ、イシルウェに迷いが見えたが、結局首を横に振る。

「いや、行かない。君とはまだ会っていないという事にすれば良い。そもそも、そんな恋人が会うスポットに行ったら、無理矢理に既成事実を作られてしまうだろう」

 デートスポットだったのか。名前的に何か、良からぬいわく付きの場所かと思ったよ。

「あの、我々も泊まっても?」

「もちろん、構わないよ。あ、ベッドが足りないので床になるけど、それで良ければ」

「はい、寝具は一通り自前があるので、それで大丈夫です。それよりも、対策の為に結界術の習得を急ぎたいですね」

 そう言った後に、アラヤの腹がグゥーと鳴った。気がつけば、もう昼前だったんだね。

「分かった、だがその前に昼食にしよう。腹が減っていたら、覚えも悪いだろうからね?」

 少し恥ずかしいが、鳴るものは仕方ないよね。
 アラヤには少し足りない量の昼食だったが、賑やかなファウンロドと笑顔のディニエルを見ていると、空腹も少し満たされた気がしたよ。
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