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第17章 追う者、追われる者、どっちか分からないよ⁉︎

243話 巡礼

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 ムシハ連邦国の7つある国の一つ、北東にあるアカモリ国。
 ファブリカンテの出身地であるこの国は、栄えている港街があり、怠惰魔王の居るハフナルヴィーク島へと渡航する帆船もある。
 街の手前に浮遊邸を停めたアラヤ達は、神殿には今回は徒歩で向かう事にした。
 というのも、この国内は馬車をあまり利用しないらしく、道の整備は良いとは言えないからだ。

「フレイア神殿は、街から南下した先にある山の麓にあります。私も、幼少の頃に山菜採りに近くに行った程度ですが、崩れかけていただいぶ古い神殿だったと覚えています」

 ファブリカンテが先頭に立ち、アラヤ達を案内する。
 この辺りもやはり巨木が立ち並んでいる為に、道のあちこちに根がはびこっている。
 だが、いくら道が通り難いとしてもアラヤ達には関係無い。
 根を切らない様に土を操作して、道を作って進むだけだからただ。

「教団に入ったのは幾つの頃?」

「私は8歳頃でしたね。村に来た大罪教の方に勧誘されました。その勧誘に来た教団の方はおそらく、鑑定の技能スキルを持っていたのだと思います。その頃の生活はとても貧困で、両親の居なかった私は、野草等で飢えを凌いでいたので植物に詳しくなれたのです。それで会得した植物学の技能を、その方は評価していました」

「やっぱり、生活環境が技能には影響してるんだろうね。生きる為に、身を助ける術になったんだから」

「おかげで、衣食住は安定した上に苦楽を共に乗り越えた仲間もできました。何より、アラヤ様に仕える事ができた事は、1番の幸せです」

「うん、俺も皆んなと会えて良かったよ」

 その言葉にファブリカンテ達は感激して、跪き仰々しく忠誠を再度誓おうとする。それをアラヤが口に指を当て、静かにと制した。

「…先に幾つか反応がある」

「…この先に、目的地のフレイア神殿があります」

 クララが素早く巨木を駆け上がり、高所から望遠眼で確認する。

「神殿らしき建造物前に、大罪教団の格好をした人影が3つ。顔はフードで隠れている為、ダクネラ=トランスポートが居るかは不明です」

 ベルフェル司教から貰った資料に、ベルフェル司教等の顔の転写画があって、既に皆が認識している。

「どうします?」

「ん~、魔導感知的には、そこまで驚異的な魔力量を持つ人物は居ない感じだし、精霊視認で近くに大精霊は確認できないよね?」

「はい。見た限りでは近くには微精霊しか居ません」

「じゃあ、サナエさん、クララ、ディニエル、イシルウェは木の上を進み、俺達から少し離れた位置から監視して?」

「「「了解」」」

 残ったアラヤとハウン達で、警戒しながら神殿へと向かう。
 神殿の前に着くと、その3人の姿が見えた。感知では、近くに他の人物は居ない様だ。

「失礼、此処に何用か?」

 アラヤ達に気付いた1人が声を掛けてきた。

「フレイア神の巡礼に」

 ハウンが団員証を取り出して掲げた。すると3人はコソコソと話し合い、1人が確認する為に近付いて来た。

「…」

 その1人が、ハウンから団員証を受け取ると、無言のまま1枚1枚確認していく。

「此処には何時も待機しているの?」

「…」

「最近、誰か他に来たかい?」

「…」

 アラヤ達の質問に何も答えず、団員証をハウンに返すと、他の2人の下に帰った。

「確認しました。貴方達が、暴食魔王様と配下達ね。ベルフェル司教から連絡は受けています。どうぞ、ついて来て下さい」

 1人がフードを外し顔を見せた。資料には無い顔だ。とりあえず、初見ではヌル教団ではないみたいだ。もちろん油断はしないけど。

「ベルフェル司教から言われて神殿で待機して居たのですか?」

「普段から1人は、管理と巡礼者の対応の為に居るのですが、今は事態の関係上人員を増やしているのです」

 団員達は、礼拝堂の奥へとアラヤ達を案内する。建物内だと不安がると思い、サナエ達にはまだ神殿周りで待機するように念話を入れた。
 礼拝堂の奥には談話室があり、お茶の準備を始める団員達。おもてなしの準備か?

「あの、ベルフェル司教からは何と連絡が?」

「我々は、貴方方が来たら丁重に扱い、礼拝が終わるまでは邪魔にならぬ様、神殿の外に出て待機するように言われています」

 そう言われて出された茶には、睡眠薬が含まれている。耐性があるから平気だが、どういう意図があるかハッキリさせたいところだな。
 アラヤ達はそのお茶を、疑いも無いようにクイっと一飲みした。

「そうですか。ではその前に、少し話を聞きたいのですが、最近…問題が起きる以前でも、ヌル教団の方達は来ていませんか?」

「…我々が知る限りでは、退団以前もお見受けしていません」

「分かりました。では礼拝を行いますので、お呼びするまでは外出をお願いしますね?」

 3人の団員達は、睡眠耐性の無いハウン達が眠る中、平然としているアラヤを見て大量の冷や汗を流している。

「どうしました?早く退室してください?」

 何も気にしていないアラヤの笑みに、3人は堪らず土下座をした。

「「「すみませんでした‼︎どうか、命だけはお助け下さい!」」」

 頭を床に擦り付けながら、必死になって謝り出す。

「落ち着いて?別に命は取る気は無いから。ただ、目的とこれは誰の指示か教えてくれる?ヌル教団?それとも大罪教団の誰か?」

「…ヌル教団ではありません。我々はただ、貴方様達が来たら足止めをしろと…これ以上は御勘弁下さい…!」

 鵜呑みにして考えると、大罪教団の誰かがアラヤ達をこの地に止めていたいらしいが、アラヤを嫌う帝国寄りの司教達…いや、ベルフェル司教の線が高いかな?だけど、わざわざ止める目的は何だ?

『アラヤ、神殿周辺に魔物が多数現れたわ!』

 サナエから念話が入り、アラヤとりあえずハウン達を叩き起こす。今度間がある時に、ハウン達にも耐性を持たせる必要があるかな。今回みたいな相手を油断させるにはもってこいだけど。

「辺りを魔物に囲まれた様だ。これも指示があったのかな?」

「い、いいえ!我々も知りません!」

 その形相は恐怖に染まっている。どうやら、本当に知らないみたいだね。

『ご主人様、ほとんどがアンデッドの様です』

「アンデッド…。偶発的で、奇襲では無いのかな?」

 神殿から出て来たアラヤ達は、木々の間からゾロゾロと出て来る魔物を確認した。確かにゾンビ系のアンデッドが多いな。これは偶発的でも無いか。だとしたら、近くにコウサカが居るかもしれないな。

『クララ、イシルウェとディニエルを浮遊邸に帰して、カオリさんとキュアリーを呼んで来て?』

『分かりました』

 今、この場に居るメンバーで、アンデッドを浄化できるのはサナエだけだ。
 ゾンビ系は体を破壊するか焼けば大丈夫だろうけど、木々が多いこの場所で火の魔法は控えたい。
 それと、レイスみたいな肉体を持たない魔物の場合を考え、アンデッドの天敵とも言える光の中位精霊であるキュアリーを呼ぶ事にした。

「君達は、浄化できる光属性魔法の習得は?」

「す、すみません、我々はまだ中級魔法までしか…」

 一応、3人にも聞いたが、やはり、ベルフェルが見せた様な浄化魔法は習得していないらしい。

「まぁ、援軍が来るまで、神殿に近付けさせない様に出来れば良いよ」

 3人にも戦うように配置取りさせると、アラヤは再び神殿に入ろうとする。

「ええっ、暴食魔王様はどちらに?」

「今のうちに礼拝を済ませるんだよ」

 こんな状況で⁉︎と3人の顔が強張っている。だが、コウサカが現れる前の今のうちに済ませないと、何か面倒そうだしね。

「我々が死守致しますので、アラヤ様はどうぞ」

 ハウン達も装備を整えて神殿前に向かう。確かに敵の数は脅威だが、ハウン達なら充分過ぎるくらいに時間が稼げるだろう。

「私も居るからね!」

 サナエが大木から神殿前に飛んで着地した。まぁ、彼女の鎮魂の舞が有れば余裕でしょ。

「任せたよ」

 アラヤは1人、祭壇を探しに神殿内に再び入るのだった。
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