【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
249 / 418
第17章 追う者、追われる者、どっちか分からないよ⁉︎

245話 腹黒女と元凶の女

しおりを挟む
 その彼女は、クラスでも目立たない大人しい女生徒だった。
 ハッキリ言うと、名前を思い出すのに一瞬間が開くくらい、印象が無かった。

「…篠崎さん…よね?貴女も生きていたのね?それに、どうして此処に?まさか…貴女もなの…⁉︎」

「コウサカさん、立ち話もなんですから、歩きながらお話ししましょう?屋敷を案内しますよ?」

 私のアンデッドの肌色姿を見ても、彼女は全く動じない上に逆に諭す様な態度を取る。

「随分と雰囲気が変わった様ね?貴女も倉戸に救われて一緒にいるって感じかしら?」

 コウサカは、ワザと浮遊してアヤコの前に出ると、短い魔法杖を目先に突き付ける。

「別に遊びに来た訳じゃないのよ?貴女が私に指示する立場でもないの。死にたくなかったら、私に従いなさい」

「貴女1人で、この屋敷内をどうにかできるとでも?」

「残念ね、私には多くの部下が……えっ?」

 振り返ると、霊界を通して一緒にこの場に来た筈のレイス達が、いつの間にか石や氷漬けにされていた。

「くっ、だけど一度入ってしまえば、魔物召喚サモンで呼べるわ!さぁ、来なさい、魔物召喚!」

 まとめて呼んでやろうと、大きめの入り口を広げるも、コウサカの呼び出しに部下からの反応が無い。

「ど、どういう事よ⁉︎き、来なさいよ、魔物召喚!」

 何度と繰り返したところで、ゴブリンどころかスライムすら現れない。

「無駄ですよ?此処は本来、家族以外は侵入不可。招かざる者は存在すら気付かない場所ですから」

「何言ってるのよ、私達は入れたじゃない」

「ええ。貴女は招待しましたからね」

「えっ?」

「アラヤ君とカオリさんが結婚してると聞いた貴女が、再び接触を図ることは予想がついてました。まだ数日後だと思っていましたが、貴女達の移動速度にも驚きました。召喚を利用した移動だったんですね?」

「何よ、意味分かんない…」

 厳つい司教から情報を手に入れて、まんまと罠に嵌めたつもりだったのに。だがそれも、読まれていたって事?

「ああ、コウサカさんは紅茶飲めます?」

 1人スタスタと先を歩くアヤコに、コウサカは自分の立場が一瞬分からなくなる。自分は此処を乗っ取り、帰って来た倉戸を従わせる予定だった筈だ。
 なのに、いつのまにか応接間に座らされ、丁寧に紅茶を提供されている。

「エルフまで居るのね」

 メイド姿のアルディスが、更に焼き菓子を運んで来て目の前に置く。

「まさか、彼女まで倉戸の嫁って事は無いんでしょう?」

「ええ、違いますよ。此処には私達夫婦以外も住んでいるんです。そんな事より、いかがでしょう?前世界のフィナンシェを真似て作っているのですが」

「…ごめんなさい、今の私には味が分からないの」

 菓子を手に取って齧るも、味も香りも感じない。故に紅茶も、飲むという行為をするだけで終わる。そこに楽しみも感動も無いのだ。

「なるほど。アンデッドの体は痛みを感じないとは良く聞くのですが、味覚も嗅覚もありませんか…」

「…そのアンデッドって言い方は止めてくれない?好きでこの体になった訳じゃ無いわ。だいたい、食べる楽しみが無くなっただけじゃなく、寝れなくもなった。ただただ死んでないってだけよ?死んでるんだけど!ああ、もう!イライラする!」

 アンデッドは、人間の3大欲求である睡眠欲、食欲、性欲の2つを既に無くしているという事だ。確かに、その時点で人間ではいられないとも思える。

「それで?こんな対応したところで、時間を稼いでいるつもりかしら?だとしたら無駄よ?神殿にはアンデッドだけじゃなく、捕縛に特化した夢魔族や淫魔族、それに魔法が効かないイービルスパイダーも居るからね。今頃、倉戸達を捕縛している筈だわ」

「それは大変、急がなきゃいけませんね」

 慌てるアヤコに、コウサカは気分が良くなる。今更慌てたところで、数の猛威には魔王と言えども耐えられる筈が無い。

「フフフ、ざまぁないわね?最初で大人しく、私のもの…に……え?」

 得意気に笑っていたコウサカは、自身の体がグルグルと椅子ごと糸で巻き付けられている事に気付いた。

「急がないと、アラヤ君が帰って来ます。アルディス、例の部屋の準備は?」

「準備は終わっているわ」

「え?え?」

 2人にそのまま抱え上げられ運ばれる。そのまま来賓館の奥の部屋に進むと、隠し扉を開けて地下階段を降りていく。
 そこは、檻と拘束具がある監禁部屋だった。

「この部屋はアラヤ君に内緒で作った部屋で、彼はこの部屋の存在は知らないの」

 コウサカは、ゆっくりと糸を解かれて、抵抗できぬまま拘束具に腕や足を繋がれる。やけに体が痺れている。痛みは感じないが、自由が効かない。

「ちょっ!なんなのよっ!」

「匂いがキツめの痺れ薬入り紅茶でしたが、味覚と嗅覚が無い相手には有効でしたね?」

「なっ⁉︎自分も同じものを飲んでたじゃないか!」

「私は耐性がありますから」

「くっ、この腹黒女め、汚いんだよ!」

 唾を吐き掛けるも、彼女は避けようともしなかった。むしろ、その表情は悦に浸る笑みを浮かべ、コウサカは感じない筈の悪寒を背中に感じた。

「ええ、自分が汚い事は知っています。腹黒と呼ばれても構いません。だって、それが私ですから」

「わ、私をどうするつもりだ⁉︎言っとくが、私は仮にも女王だぞ⁉︎私に何かあれば…」

「貴女の立場は関係ありませんよ。そもそも、貴女が此処に来た時点で関係性は最悪ですよ?私の予想を裏切り、アラヤ君に固執しなければ穏便に済んだのに…」

 再びアルディスが現れ、ガシャンと机の上に道具を並べていく。

「な、な、何をする気なのっ⁉︎」

 その道具の使用意図が気になり、思わず声が裏声ってしまう。

「貴女が此処に来た理由、情報提供者の正体と内容、全て吐いてもらわなければなりません」

 パチンパチンと、変わった形のペンチを手に持ち鳴らし始めた。

「言う、言う、言うから!酷い事は止めて⁉︎お願いよ、仮にも同じクラスに居た仲じゃない」

 いくら痛みは感じないとはいえ、自分の体が痛む様を見たくもない。恐怖と不快感は感じるのだから。

「ええ、そうですね。だからこそ、許せない事もあるのです」

 ペンチの先が、ヒートアップにより熱で赤みを帯びていく。

「アヤコさん、どうやら皆んなが帰って来たみたいよ?」

「…一度、出ましょう。どのみち、サナエちゃんとカオリさんにも参加させないといけませんからね」

「分かったわ」

 ペンチを置くと、アヤコとアルディスは部屋から出てアラヤ達の下に向かう。

「嘘…あの群勢から、無事に帰って来れたと言うの⁉︎」

 1人残されたコウサカは、ガタガタと自信が崩れていくことに震えた。


「いやぁ、やっぱりアスピダ達にも睡眠耐性が必要だねー」

「面目ありません。まさか、夢魔の催眠効果範囲があんなに広いとは思いませんでした」

 アヤコとアルディスが来賓館から出ると、無事に帰還したアラヤ達が、広場に戦利品を出しているところだった。

『それで、どんな状況?』

 カオリが、念話をアヤコに飛ばしてきた。彼女には、オモカツタの時点から今回のコウサカ捕縛計画は話してある。

『丁度、監禁部屋に入れて、今から質問を始めるところだったの』

『サナエちゃんも来る?』

『…うん。行く』

 アラヤ達が魔物の素材を切り分けている隙に、アヤコ達は再び監禁部屋に向かった。
 コウサカは、戻って来た人数が増えている事に絶望感が増す。

「なによ…私はただ、倉戸を自分のものしたかっただけよ。他意はないわよ…」

「許される筈が無いでしょう?貴女が前世界で彼に対してしてきた事、忘れたとは言わさないわよ?」

 それに関しては、見て見ぬ振りをしていたアヤコ達も負い目はある。だが、彼女こそが元凶であり、少しも反省している様には見えない。
 ならば今が、彼女を反省させるには1番であると、アヤコ達は考えていたのだった。

しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...