【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

314話 加護と契約の違い

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 海中の潜水遺跡にいる風の大精霊エアリエル達は、世界の海上が急な波浪状態に陥っていることは知らなかった。
 それは、水の大精霊アーパスの今の心情の現れだった。

『アーパス、落ち着きなさい!』

「アーパス様、そんなに落ち込まないで
ください。確かに俺には相応しくなく、勿体ないかと思いますが、とても光栄で嬉しいですよ?」

 エアリエルと分身体アラヤが宥めているも、アーパスはクラゲクッションに頭から突っ伏してグスグスと泣いていた。

『先を越されるとは我としても、予想外の事態だ。本来なら、全ての大精霊の加護を得た後に、我が契約者パートナーになる予定だったのだが…。悔しいが、初契約バージンを自分で選べなかった事に比べると些細な事だな』

 何か、かなりの罪悪感を感じるのだが、正直、俺は受けただけなので何もしていない。

『とにかく、なってしまった事はどうしようも無い。もはや、成された契約はアラヤが死ぬまで解除はできない。アーパスよ、諦めるのだ』

『契約者が死ねば…?』

 ピタリと泣き止んだアーパスが、クルリと振り返りアラヤを見る。
 少しの間があって、彼女は再び突っ伏した。

「結局、初契約は終わりに変わりないじゃないのよ~!」

 アーパス様、今、一瞬考えたよね?怖いし、ちょっとショックなんだけど…。

『あの、エアリエル様、大精霊の加護と契約では何が違うのですか?』

『ああ、加護の場合は簡単に言うと、属性の強化だな。我の加護の場合、不老長寿の身体となり、大気から得る魔素の量や風属性関連(魔法、技等)の効果が強化される。だが、加護ではなく契約になると、大精霊と等しい力を行使できるようになる。無論、大精霊が側に居るなどの条件や制限はあるが、自然から得る恩恵や力は加護の比じゃない』

「えっ⁉︎怖っ…」

 大精霊と同様に、自然の力を使えるって事だよね?そうなると、今の俺って、アーパスと同様に世界中の水を操れる?
 ヤバイ奴じゃん。世界から魔王だって恐れられる奴じゃん。あ、合ってるのか。

『馬鹿者、大精霊が契約者の私利私欲に使うことを許可するわけなかろう』

「ですよねー?そういえば、美徳教教皇も光の大精霊ミフル様の契約者でしたよね?という事は、彼もミフル様の様な光の力を使えるのですか?」

『そういう事だ。だが、ミフルは見た通り落ち着きが無い。力を使うには側に居なさ過ぎて加護と大して変わらんだろうな』

「なるほど…」

 まぁ、ミフル様の場合、教皇には取り巻きとも呼べるグルケニア皇帝が居るから、力を使わせない為にも離れているのもあると思うけど。

『今、この世界で大精霊と契約者なのは、その教皇と其方、後はおそらく、無属性大精霊ケイオスと契約しているだろうダクネラ=トランスポートの3名だな』

 そうか、ヌル虚無教のヌルって無属性の大精霊を作った存在だったな。
 エアリエル達が知る創造神達ではないヌルにより作られた無の大精霊ケイオス。
 無属性は、世界に確かに有り、目に見えない。時間、重力といった力だ。

「…改めて思いますが、敵は脅威ですね」

『心配は要らぬ。其方は更にその上を行くのだからな』

 エアリエルはアラヤを優しくハグする。

「え、エアリエル様⁉︎」

 ドクン!と体全体が脈打った。
 頭の中が真っ白に…いや、澄み渡る感覚になった。
 目で見えない筈の遺跡内にいるハウンの姿も、祭壇で寝ているクラーケンも視えている。凄く鮮明な感知能力だ。こんなふうに、エアリエルにはいつも視えていたのか…。

『アラヤ、これで其方は2属性の大精霊と契約者となった。唯一無二の存在だ。いや、分身体であるから、そう呼ぶのは変か?』

 エアリエルはゆっくりと離れると、アーパスに向き直る。

『アーパスよ、この分身体アラヤとハウンは御主と誓いを立てている為にこの神殿からは出られん。誓いを解除してはくれんか?』

『はぁ?ふざけないでよ!私から契約者まで奪うつもり⁉︎』

『違う!分身体アラヤこの者はもう御主の者だ。ただ、誓いがあっては遺跡から外に出られん』

『出る必要は無いわよ!』

 そんな事は許さないと、アーパスはアラヤを引き寄せて抱き着いた。

『私の契約者なんだからね!』

『それは分かっている。だが、力は既に与えられている。其奴が本気で暴れようと思えば、遺跡は簡単に崩壊するぞ。その後で、誓いにより死んでしまう。それは避けたい』

『あ、暴れようとしなければ済む話よ!大体、アラヤは私に忠実なのよ?私を悲しませる事はしないわ!そうでしょう?』

「はい、…頑張ります」

 契約した大精霊相手に、否定もできないし、断言もできないよ!どう答えるのが正解なんだ⁉︎

『我は別に、其奴とハウンを連れ戻そうというのではない。偶には家族や仲間に合わせてやれというだ』

『お願い⁉︎アンタが?私に⁇』

『ああ、そうだ。其奴は分身体の身ではあるが、家族や仲間は心配している。合わせてやりたいのだ。無論、必ず帰すと約束しよう』

『……。わ、私も同伴するわ!アンタの約束なんて当てにならないもの!』

『そうか、来るか。良し、ならば土の大精霊ゲーブも呼んで歓迎してやろう』

『えっ?ブーちゃんも⁉︎そ、そうねっ!歓迎してもらおうかしら?や、約束だからね!』

 怒り→困惑→興奮と、アーパスは感情の起伏が本当に変わりやすい。
 まぁ、今は上機嫌だから良いけど。

『ウフフ、帰ったらビックリするよ?』

 水の中位精霊シレネッタは含み笑いをしている。
 本体と別れてから1月くらいだが、何を驚く事があるのだろうか?まぁ、この遺跡で達成感のない日々を過ごしていた俺達よりは、刺激ある生活を送っていたに違いないだろう。

『後日、連絡を入れる。期待して待っておれ』

『必ずだからね?ち、ちゃんと、ブーちゃんも呼びなさいよ⁉︎』

 潜水遺跡はいつのまにか海上まで浮上していて、エアリエルとシレネッタは外へと簡単に抜け出た。
 海上は凪の状態になっていて、水平線では丁度、陽が沈もうとしていた。

 2日後。早速連絡が届いた。
 約束通りに誓いを解除してもらった分身体アラヤとハウンは、海上に浮上した潜水遺跡から久しぶりの外へと顔を出した。

「ん~っ、空気が美味しい!」

「日の光が眩しいですね」

 2人が外を満喫していると、海上にアーパスが上半身を出す。彼女は、ハウンが用意したお洒落なフリル付きドレスを着ている。
 大人しくしていてくれたら、正に可愛い人魚姫なんだよなぁ。

『留守番は、ガルグイユとクラーケンに任せてきた。準備は良いわよ?』

「えっと、念話で近くまで来てると連絡は受けたので、そろそろ浮遊邸が見える距離だと…」

 空を見渡す一同は、を見つけた瞬間、黙って瞬きを繰り返した。

「お、大きくなってる⁉︎」

「はい、前の2倍以上は広くなった大きさですね!」

『空を飛んでいるなんて、いかにもエアリエルらしいわ!でも、どうやってあそこまで向かうのよ?私の波で打ち上がる?』

「ああ、それなら大丈夫です。俺に掴まって下さい」

 差し出されたアラヤの手をアーパスが掴むと、ハウンもアラヤに寄り添う。

「テレポート」

 一瞬にして、3人は空の大地へと移動した。

「「「お帰りなさい‼︎」」」

 着いた場所は来賓館前で、分身体アラヤとハウンを見るなり、アスピダ達が駆け寄って来た。ハウンも、思わず涙を浮かべている。

『アーパス様、ようこそお出でくださいました』

 アーパスの出迎えは、イシルウェ達エルフや精霊達がしてくれた。
 アーパスは下半身の魚部分を人型の素足へと変えた。

『良く来てくれた、アーパス』

 ドレスアップしたエアリエルも現れ、アーパスを歓迎した。

『驚いただろう?この空飛ぶ大地はアラヤが考え、今や空中公国月の庭モーントガルテン、つい数日前に国家となっていた。アラヤには本当に驚かされる』

 嬉しそうに話すエアリエルに、アーパスはへぇ~と軽い相槌を入れながら辺りを見渡した。
 アーパスには、地上の建物は新鮮に映っている。今まで見かけた建物といえば、漁村の古い古屋や港ぐらいである。
 確かに、分身体アラヤも、遺跡内を自由な発想で住みやすくしようとしていたが、広ければこうも立派な建物ができるのかと感心したのだ。

『ゲーブももう到着している。さぁ、中で話すとしよう』

 モーントガルテンでは、招待客が大精霊達という壮大なお祝いが、今から始まろうとしていたのだった。
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