【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

324話 ミネルバの仕事

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 みんなとの夕食が終わると、ミネルバには管制室まで来てもらった。
 当然の如く、リッセンとマイナも後に付いてくる。

「すまないが、2人には外で待っていてもらうよ。この先は国家機密だから」

 アラヤは、一緒に部屋に入ろうとするリッセンを押し止める。

「む?例え機密だろうが、ミネルバ様を守るためなら私には関係無い」

「君が入るなら、この仕事は無しだ。他の仕事を探してもらう」

 アラヤは扉を閉めてミネルバを入り口から遠ざけた。
 これにはミネルバも気分を害したようで、リッセンを睨み足を踏んだ。

「痛っ⁉︎み、ミネルバ様、私が止めるのは、それが危険な行為だからです。決して私情ではありませんよ⁉︎」

「ええ、確かにそうね。普通に考えたら、国家機密を来たばかりの親善大使に教えるなんてあり得ないもの。…でも、アラヤ殿に私は信用されている…と受け取って良いのかしら?」

「そうですね。少なくとも、貴女は中の機密を知ったら、その重要度に情報漏洩の恐ろしさを理解できると思っています。それを踏まえて、決して間違った行為はしない人だと信用しています」

 アラヤのその真剣な表情に、ミネルバはゴクリと喉を鳴らす。これは知らない方が、今後気楽に過ごせるのは間違いない案件だと分かる。
 だが、自分に合った仕事だと言われたのも事実で、どんなものか知りたいのも事実だ。

「その信用に私は応えたい」

「ミネルバ様⁉︎」

「だそうです。君達には、少し外で待機してもらうよ?」

 リッセンは堪らず、ガシッとアラヤの腕を強く掴む。まぁ、護衛としては正しい反応かな?

「すみませんが、俺は貴方をまだ信用していません。貴方はミネルバ様以外を軽視し過ぎている。出来れば、自ら大人しくして欲しいんですが?」

「…カハッ⁉︎」

 彼の回りだけ空気が無くなる感覚があった。どうやら風の大精霊エアリエルが室内から手を出したようだ。
 リッセンは息が出来なくなり、もがきだした。突然の事に、ミネルバもマイナも驚き慌てる。

「エアリエル、やめてあげて。そこまでしなくてもいいよ」

 アラヤがそう言うと、リッセンの回りには空気が戻り始めた。
 荒い呼吸をするリッセンは、意識が朦朧として目が泳いでいる。

「風の大精霊エアリエル…本当にいるのですか?」

 辺りをキョロキョロとマイナは見渡す。だが、そんなことで精霊は見えたりはしない。

「夕食時に見たでしょう?分かりやすく、夕食時だけは姿を見せてくれているんだよ?」

「ええ、確かに凄い美人な王妃様を拝見しました。つまり、アラヤ殿は誠に大精霊様と夫婦関係にあると?」

「ああ、信じれて無かった?この国が空を飛んでいる事実を知っているのに?」

「それは…」

 この反応も、まぁ無理もないよね。
 精霊なんて見えない人達には伝説の存在だし、ましてやその存在と夫婦になるなんて、もはや意味不明な話だ。
 正直、俺も知らないでいたらそう思っていただろう。

「今は、信じなくて結構。こちらからは、わざわざ技能スキルを与えるつもりもない。君達が立場を理解して、俺達との接し方を分かったら、その時には俺達も少しは信用してあげるよ」

 酷い言い方かもしれないが、彼等の態度はカオリからも連絡を受けている。
 今はこのくらいの距離感が良いだろう。

「ミネルバ様、どうします?別に無理にこの仕事を選ぶ必要は無いですよ?かなりですから。まぁ、始めのうちはサポートとして、アヤコとカオリが付きますけど」

「…やらせてほしい」

 リッセンとマイナは、止めたい気持ちはあるものの、それに思い切る勇気がもう出てこなかった。

「それでは中へどうぞ」

 アラヤは彼女を中へと招き入れて、2人を見据えたまま扉を閉めた。

「こ、これは…⁉︎」

 室内には、壁一面の巨大な世界地図が張り出されてあり、その前にカオリとニイヤ。少し離れた場所にアヤコとアー君が居た。
 それぞれが既に仕事中のようで、ミネルバには目もくれずに、何かの書き取り作業をしている。

「みんな、ミネルバ様を連れて来たよ。作業を一旦止めて?」

 アラヤがそう呼び掛けて、ようやく気付いたようでみんなが手を止めた。

「アラヤ、いい加減に、ミネルバ様呼ばわりはしなくてもいいんじゃないの?貴方は大公なんだし」

 そう言うカオリには言われたくないな。夫のニイヤができて、ようやく俺をアラヤと呼ぶようになったのを棚に上げている。

「うん、それは確かにそうですわ。アラヤ殿、私の立場は今の貴方からすれば目下なんです。呼び捨てにされても構いませんわ」

「いや、大使に呼び捨ては流石にね。じゃあ、ミネルバ殿ってことで」

「はい」

 リッセンがまた口煩いかもしれないが、確かに立場を明確にする必要はあるな。

「アラヤ殿、それで、私はここでどの様な仕事をすれば良いのだろうか?」

「えっと、先ずはみんなの仕事内容を理解してもらってからの方が、説明しやすいかな。アヤコさんお願い」

「はい。なるべく簡単に説明しますね?先ず、この部屋は管制室。あの壁にある世界地図により、世界情勢を見ています」

「世界情勢…⁉︎ それに、凄い精密な地図…こんな地図は王国にもありませんでした」

 王国国内で、精密な地図とはもちろん市場には出回らない。軍事目的にも利用できるからだ。
 なので、どの国家も精密な地図は王家のみが所有していた。
 稀に、行商人が自作した地図が市場に出ることはあっても、通ったルートばかりが記された簡易的な地図ばかりだ。

「この公国は空を飛んでいますし、腕の良い絵師も居ますので可能なのです。それから、情勢と言っても、多くの人の流れ(移動)や、各地の争い事が起きた事実を知るくらいです」

「充分、凄い事だと思いますが…。しかし、どうやって…?」

 国内の人の流れ等、簡単に把握できるわけがない。関所や街の出入りを逐一調べてみても、直ぐに表すこと等不可能に近い。

「それは、偏にエアリエル様とアラヤ君の世界中の大気感知の力でしょうか」

「せ、世界中の大気感知⁉︎」

「そしてこれが、エアリエル様の力があればこその機能です」

 アヤコがボタンらしきものを押すと、地図上に光の粒が無数に浮かび上がった。

「これは、今日2回目の観測の結果です。この小さな粒1つ1つが、魔力を持ち始める5歳以上の人型の生命体です。ですから、人間だけでなく亜人、エルフ、ドワーフ、魔人、魔族の反応がこれです」

「……‼︎」

 言葉にならない。そのデータ量にただただ、唖然とするばかりだ。

「私とアー君は、朝と夜の2回観測の違いを記録しています。まぁ、細かくは無理なので、この街の転入30、転出は40程度という感じのおおよその数字ですけど。カオリさんとニイヤ君は、魔力量の大きい者の追跡です。まぁ、これも魔力制御できる者は映らないので、下野している逸材を見つける程度ですね」

 各国の人の動きが分かる事自体異常な事なのに、カオリの仕事が魔力量の大きい人材探しという程度なわけがない。
 きっと、別の何かを調べているのだろう。聞き出すのはまだ無理のようだけど。

「それで、私にはどのような仕事を?」

「ミネルバ様には、先ずはカオリさんがマークしている数人の追跡をお願いします」

 先ずはということは、いずれはこれらの観測の一端を担う可能性があるわね。正直、理解がまだ追いつかないのだけれど。

「ミネルバ様、分かりやすく赤い粒にしたわ。この4名をお願いしますね?」

 カオリが見てほしいと色を変えた4人は粒も少し大きめ、つまり常人よりは魔力量の大きい者。
 しかもそれぞれが所在地もバラバラで、ラエテマ王国に1人、パガヤ王国に1人、グルケニア帝国に1人、ムシハ連邦国に1人だ。

「ま、まさかとは思いますが…この王国の反応は…父上ですか⁉︎」

 ラエテマ王国にある反応は、王都の王城にあるのだ。それが意味することは、その反応が王城の最も重要な人物を表しているということに他ならない。

「正解。因みに、他の反応も、各国の王ですよ」

「な、な、何故、父上を…⁉︎」

 ミネルバは思わず声が上擦る。
 彼等は国王達を監視している。その事実が、彼女の心を大きく震わせた。

「同盟国であるラエテマ王をマークしているのは、単に国王の安全確保の為だよ。容態が悪いのもあるけど、ヌル虚無教団が近付く可能性もあるからね?」

 震えている私の肩に、アラヤが優しく手を乗せてきた。
 落ち着かせようとしてくれているのだろうが、より一層怖さが増した。

「そ、その…ヌル虚無教団?その教団は一体?」

「まぁ、簡単に言えば悪い集団かな。厄災の悪魔を復活させたり、各地で内乱起こさせたり、王城を襲撃したりしている連中だよ。実際にパガヤ女王の城は攻められたんだ。(狙いは魔王のバンドウだったようだけど)」

「…では、ヌル虚無教団とやらの動きを見る為に国王達にマークを?」

「うん、そういう事だよ」

 その表情は嘘を言っているようには見えない。だけど何だろう、父上を人質に取られた様な気分だ。

「だから、注意深く監視してもらいたいんです。事前に周りに変化があるだろうけど、見逃した場合には対応が遅れるからね」

「…分かりましたわ」

 正に国家機密、その仕事を私に任せようとしている。
 少なくとも、私がこの仕事で父上を見ていれば、彼等が守ってくれると信じたい。
 なるほど、だからこそ私に向いている仕事という事なのね。

「これからよろしくね、ミネルバ殿」

「はい、努力しますわ」

 彼等の力は余りにも強大。悪なる者達では無いが、善なる者達と断言できる程、私は彼等を理解していない。
 彼等の信頼を得て、ラエテマ王国を守る為にも、私は彼等を監視しなければ。
 良く言えば堅固な絆の同盟国に、悪く言えば庇護下に収まる傘下の国。
 例えそうなろうとも、ラエテマ王国の未来が良くなる為には、彼等との関係を絶対に悪化させたらダメだ。
 先ずは1番危ういリッセンを教育しなければならない。ミネルバは、そう決心したのだった。
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