【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

325話 白銀家

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 パガヤ王国上空。
 雲一つ無い青空が広がる王都の上空に、突然巨大な島が出現した。
 突然出来た広範囲の影に、亜人達は揃って空を見上げる。

「パパ~、空に島が飛んでる~」

 店先で地面に絵を描いていた子供の犬人ホンデライタが、商品の果物を並べている父親を呼ぶ。

「ああ、アレが噂になっていた空飛ぶ国みたいだな」

 親子でしばらく見上げいたが、父親は商売には関係無いなと興味を無くして再び仕事に戻るのだった。

「セシリア陛下、空中公国月の庭モーントガルテン、到着したもようです」

「うむ、来たか。国民に目立った混乱は起きてはいないな?」

「ハッ。事前に彼の国の存在を陛下が公言していた事が、功を奏しましたな。今やあの存在は国中に流布しているでしょう」

「では参ろうか」

 雪豹人シュネーパンサーである美麗女王セシリアは、その純白な白髪に国宝であるルビーのティアラを装着して会場へと出発した。
 パガヤの王城も、ラエテマ王城みたく未だ建設中であり、今回の両国の会議はある貴族の豪邸を会議場として借りていた。
 その貴族とは、古く建国時からパガヤ王国を支援してきた一族、白銀アルジェント家の1人だった。
 屋敷に着いたセシリア達がカピバ車から降りると、執事らしき羊人シャーフと侍女達が出迎えに現れた。

「ようこそ、女王陛下。支度は全て整っております」

「ありがとう。アルジェント殿のご協力と誠意に、王国を代表し誠に感謝する。彼は御在宅だろうか?」

「はい。御当主様も、此度の来客者に興味がお有りの様で、日課もお休みになられた上でお待ちしています」

「ほぉ、アルジェント殿が気になる御仁が居ると。ともすれば、妾の思惑通りとなるかもしれませんね」

 セシリアは、モーントガルテンの存在を公言する際に、彼等の人となりも伝えた。それに食い付いたのだろう。
 玄関へ入ろうとした矢先、門番が再び門を解放した。

「空中公国アラヤ大公様一行、御到着されました」

「おお、来ましたか!」

 セシリアは踵を返して、アラヤ達を自ら出迎えに向かう。
 だがその横を、1つの影が駆け抜けた。

「御主人様‼︎」

 影は真っ直ぐにアラヤに飛び掛かろうとしたが、狼人ライカンスロープ姿のクララが止めた。

「何奴だ⁉︎」

 クララが取り押さえた影は、中型の銀狼シルバーファングだった。

「あ、アルジェント殿⁉︎」

 セシリアが慌てて駆け寄ると、その銀狼を解放させる。

「セシリア女王、これは一体どういう事でしょうか?」

 アラヤは平静を装いながら、笑顔でゆっくりと尋ねた。
 何故なら自分の背後に立つ風の大精霊エアリエルが、気分を悪くしてしまわないかハラハラしているからだ。

「す、すまない。彼女はこの屋敷の当主、アルジェント殿なのだが…」

「ブハハハハハッ‼︎」

 突然笑い出したアルジェントは、姿を銀狼から狼人へと変えた。

「いやぁ~、いきなり失礼した。私としてはいち早く抱擁ハグしたかったものでね?」

 狼人となったその姿は、クララの母親であるクレアに瓜二つだった。

「それにしても失礼だと思いますよ、アルジェント殿。アラヤ殿にしかと謝罪と釈明を述べてください」

「あ~、うん、そうですね。少々我慢が足りなかった。強い雄を見ると自我を抑えづらくてね?我が国に重要なお客人だとも分かってはいるのだけど、今まででだったものでつい飛び出しちゃった。ごめんね?」

 テヘッと照れる仕草を見せるが、辺りの雰囲気は最悪だ。
 そもそもこれは国際問題だとも理解していないのか。見た目は歳上だが、精神年齢は低いのかもしれない。

「あー、場を悪くするつもりは無かったんだ。改めて自己紹介するよ。私の名はツァンナ=アルジェント。【白銀の牙】の末裔と言えば分かるかな?」

「母上と同じ【白銀の牙】⁉︎」

 クララの母親であるクレアが確か、オレオ親子にもその末裔だと言われていたね。

「ああ、やはりそうか!君がクレアの子だなっ⁉︎」

 ガッとクララの肩を掴むアルジェントを、アラヤが無理矢理引き離す。

「あの、皆さん、中でお話ししましょう?玄関前ここでは人目につき過ぎます」

 騒ぎに気付いた民衆が門の周りに集まりだしており、セシリアが中へと入るべきだと提案した。
 皆は頷き、屋敷内へと急ぎ入る。

「すみません。普段のアルジェント様はこうでは無いのですが…」

 彼女の変わりように、執事さえもドン引きしているようだ。
 今もクララにべったりくっ付き匂いを嗅いでいる。まぁ、悪意は無い事は分かるが、止めた方が良いのか?

「こちらが会議場でございます」

 会議場は、交戦的な亜人が好む剥製を中心とした絢爛豪華な装飾が施されており、全ての壁掛け剥製達から監視されている様な奇妙な感覚になる。

「ーーーこれが、我々の条約の条件だが…いかがだろうか?」

「ああ、モーントガルテンこちら側もその条件で問題無い」

 同盟条約はスムーズに締結された。というより、問題になる点は何も無く、むしろ友好的にならんとする為の案ばかりだ。
 ただ、

「あの、我が国に対する高い評価はありがたいのですが、我々に対する要求が毎年1人以上の闘技場参加とは一体…?」

「なに、簡単な話ですよ。我が国では強い者が認められます。同盟国が強者揃いと知れたなら、単純だと思うかもしれませんが、我々亜人には信用できる国となるのです。但し、強者の基準が魔法ではなく物理戦に限られますが。参加者も、大公殿以外での選出が条件です」

 本当に戦いが好きな種族なんだなと、つくづく思う。単純だが実に明解だ。

「そろそろ堅苦しい話は終わりかな?」

 ツァンナが、葡萄酒ワインを片手に会議場に入って来た。その後から侍女達が入ってきて給仕を始める。

「先ずは、同盟締結おめでとう」

 皆が乾杯を終えると、早速クララの下にツァンナがすり寄ってくる。

「いやぁ、以前、闘技場に君が参加していた映像を見てね。クレアの子で間違いないと思っていたんだよ。先ずは、私とクレアについて話をさせてくれ」

 勝手に話を始めるツァンナに、クララは引きながらも相手を続けた。

「我々【白銀の牙】とは、亜人誕生から続く古代種の亜人でね。古代種には白変種の者達が多いのだが、何代も白変が続く亜人は数少ない。その点で、シルバーファングの亜人である我がアルジェント家は随一に続いてる家系でもある」

 シルバーファングは、銀狼の名の通り毛並みが白銀から付いた名だが、幼体時や毛の生え代わり時期は薄茶色の毛だったりする。
 それ故に、必ずしもシルバーファングの亜人が白変種とはならなかった。

「クレアと私は姉妹でね。我がアルジェント家の最後の身内なのさ」

「最後?」

「ああ。古代種は子が産まれにくいのだ。それと、自身より強者の雄としか子を作らないからな。中々相手に恵まれない」

 だとすると、クララの父親である冒険者の男はかなりの強者だったのだろうな。
 心なしか、ツァンナから熱い視線を感じる。

「しかも、相手次第で産まれるのが必ずしも銀狼の亜人とは限らないからね?人間を選んだのは正解だろうよ。毎日探してはいるが、銀狼の亜人も滅多に会えないからね」

「毎日?」

「アルジェント家の血を絶やすわけにはいかないからね。国内を回り、良い雄を探すのが私の日課なのさ。まぁ、を先に見ちゃったから、今後は見劣りするだろうね…?」

 ツァンナの視線がアラヤに向けられている事に気付いたクララは、歯を見せた威圧を込めて忠告する。

「御主人様を狙うと、この国が滅びますよ?彼の方には既に王妃が居ります。分かりますよね?」

「ああ、分かっているとも。アレと敵になる気は無いよ」

 彼女も、エアリエルの怖さは動物的本能で理解していたようだ。
 今も彼女はアラヤの横で笑顔を見せているが、秘めたる気配は怪物、…いや神か?と勘違いしてしまいそうだ。

「まぁ、貴女が居るから安泰とはいえ、子孫はまだ増やさなきゃね。雌としての期限が迫っているからね、誰か粋の良い雄が居たら紹介しておくれよ?」

 綺麗な容姿を持っていても、年齢には逆らえない。出産適齢期が限界に近いと焦っているのだろう。

「…すみませんが、お断りします。こればかりは、貴女様のフィーリングが重要ですので」

「それもそうだね…」

 亜人にとって婚姻は重要ではない。重要なのはより良い子孫を残せる相手との出会いだ。
 更に言えば、1人である必要もない。より良い雄を新たに見つけたら、乗り換える事も躊躇わない者も多いのだ。
 故に、婚姻は重要ではない。

「…じゃあ、貴女の夫を貸してもらうとするよ」

 今回、初めからなるべく気配を消していた、アラヤの分身体でクララの夫でもある竜人ドラッヘン姿の主様に、ツァンナはアラヤから目標を切り替えたのだった。
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