【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
333 / 418
第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

329話 技能と職種

しおりを挟む
 その光景は、とても気持ちが良いとは言えない。
 自分の分身体である主様が、ボロボロの状態で足蹴にされているのだから。

「あの…」

 だからといって、感情に任せて飛び掛かる訳にはいかないと、アラヤは理解していた。
 自身の目の前にいる人物が予想通りだとすれば、次に足蹴にされるのは自分だと分かっているからだ。

「貴方は、…蒼月神フレイ様なのですか?」

 アラヤの問いかけに、青年は軽く頷いた。

『ああ、そうだとも。我は紅月神フレイアの兄にして、技能スキルの恩恵を与えし蒼月神フレイなり。

 その一言で、アラヤは見えない力で無理矢理に平伏させられた。

『ククク。ここは本来、勇者の資質を持つ者を招く場所。まさか其方から来てくれるとは思わなかったぞ?』

「…畏れながら、その者は私の家族でございます。解放して頂けませんか?」

 僅かに上げた視線から、踏まれている主様が僅かに動くのが見えた。
 死んではいない。だが念話も繋がらない。おそらく、全ての力を抑えられているのだろう。

『何故、一方的に其方の要求に我が応じる必要がある?』

 分からない。何が目的なんだ?
 そもそも、この場所は自身の実力を知る場所だったんじゃないのか?

『目的?フム…。敢えて必要だと申すなら…妹に勝つ為に、1番勝利に近い其方を消せるから…というのはどうだ?』

「……御冗談を。それはフレイア様との勝負の不正となりましょう」

 冷静に考えているアラヤに対し、フレイは反応がつまらんとアラヤを抑えていた力を解除した。

『我の質問に全て答えよ。さすれば、無謀にも我に勝負を挑んで来たこの家族とやらも解放しよう』

「ありがとうございます」

 おいおい、神相手に挑戦したのかよ⁉︎いくら実力を知れると言われたとはいえ、異変に気付かなかったのか?

『雑念は止めよ』

 やはり思考が全て筒抜けのようだ。流石は神といったところか。

『其方は、我が恩恵である捕食吸収の技能を得た事で、皮肉にもフレイアの子の中で1番の成長株となった。フレイアの勝利条件は、選ばれた子(魔王)が職種ジョブの最高熟練度LV10になる事。対する我の勝利条件は、我が子(勇者)の技能が最高熟練度LV10になる事。正直、其方がここまで残れたのは我が恩恵の賜物であると思わぬか?』

「はい、正にその通りだと思います」

 素直にそう思う。この技能があったからこそ、俺は生き残れたと理解している。

『我とフレイアは、子等を競わせる為に更なる条件を加えた。我が子等には、フレイアの恩恵たる職種を貶すべく、その職種に相応しく無ければ不快心を加えた。ただ、フレイアは我が恩恵である技能に、快楽心を加えた。ずっと気になっていたのだ。我が恩恵たる技能を得た時の快楽は、どういったものなのかを。違いはあるのか?』

「違いは…確かにあります。先ず、自ら修得した技能には快楽はありません。捕食吸収によって技能を得た場合には、旨みと快楽がありますが、数により強さが違います。特殊技能ユニークスキルの弱肉強食を使い奪った時は、旨みは様々で得る快楽が捕食吸収よりも強いです。更に、相手が強い職種の場合は、旨みを感じる前に意識を失う程に快楽が強いです」

『ほう…。快楽にも段階を与えていたのか。やるな、フレイア。次の機会には我も何か考えねばな』

 主様はまだ解放されない。まだ質問があるのか?正直、時間をあまり掛けたくもない。帰らない俺を心配して、以前の様にみんなまで来かねないから。

『急かずとも、この世界に時間という概念は無い。それよりも次の質問だ。其方は大精霊達を取り込む事で、半神人まで進化を成した。そうまでして其方の目指すものは何だ?』

「すみません、俺はたまたま大精霊様達と関わり、その意志に従っていただけです。そこに野望や思惑はありません。ただ、大精霊様達とこのまま仲良くありたいとは思いますけど…」

『…偽りは無いようだな。ウム、ただ仲良くか……加護を持ち、大精霊さえも使える立場になりつつあるというのに、力に溺れた今までの子等に無い考えだな。面白い』

 フレイが片手を上げると、堰を切ったようにアゲノルが荒い息を吐き出した。

「ガハッ!ゴホッ、ゴホッ!」

 どうやら、アゲノルを抑えつけられていた圧が解放されたらしい。あまり息ができてなかったのかも。
 時間的に、窒息耐性をカオリから貰ってなかったら死んでたんじゃないか?

『言った筈だ。この世界に時間の概念は無いと。次の質問だ。技能と職種、優劣をつけるならどちらが優る?』

 優劣を?職種の加護の効果といったら、1番にステータスだ。鍛えれば鍛えるだけ、職種に向いたステータスが上がる。鍛えれば鍛えるだけ上がるから、運以外は上限があるかも分からない。
 一方の技能は、種類が無限にあり、その効果も様々なのが魅力だ。しかし、その殆どがステータスに依存している。
 剣技では力と俊敏が影響するし、魔力量も無いのに、消費の高い上級魔法は使えないからだ。

「誠に僭越ながら、浅慮な俺の意見を申し上げますと、僅かに職種が優ると考えます」

『ほう。どちらも優劣付け難しと、つまらない答えを述べるかと思ったぞ?して、その理由は?』

「どちらも、本来なら無い世界と考えた時に、欲しいのはどちらかと問われれば、努力した分に成長がある職種の方が良いと考えました。技能は確かに素晴らしいです。魔法に限らず耐性や武技など、一つでもあれば強者となれるでしょう。しかし、得られる技能が現在の職種に影響を受ける様で無い場合、つまり望まぬ技能を得た場合には、宝の持ち腐れになるかもしれないからです」

 手に入れる技能がランダムで、魔法なら先ず当たりだろうけど、ステータスの成長が無いなら使用すらできない可能性もある。耐性も、まぁ合う仕事を選び次第では役に立つだろう。
 しかし武技類の技能は、体力、腕力、俊敏力が無ければ無理だ。
 使用は簡単にできる。だが、技能任せによる使用では体が耐えきれず壊れるのが早いだろう。
 【強さとはパラメータである】と、昔遊んだゲームで誰かが言っていた気がする。

「しかし、貰える技能が複数で、しかも自分で選べるなら無条件で技能を選びますけど」

 よくある転生チートスタートなら、その後は優々快適な生活が送れるだろうからね。

『…そうか、納得した。約束通り家族を解放してやろう』

 背中から足を退かされると、アゲノルは直ちにアラヤの下に転がり込んだ。

『最後の質問だ。我とフレイアの勝負、どちらが勝つと予想する?』

「……」

 アラヤは冷や汗を流す。正直、そんな結果が俺なんかに予想できるわけない。
 心が読まれているから忖度は意味が無い。現状での判断をするべきなのか?
 どちらにせよ、負けると予想した神に嫌われそうだ。

「…正直分かりません。ですが、今の教団関係者に召喚を任せているうちは、決着は無いかもしれません」

『それはどういう意味だ?』

「今の召喚では、転移者に対して教団側の都合的思想を押しつけている。そこには、神の意志ではなく、教団の意志しかないからです。故に誘発的な争いが起きる。これでは、双月神様が望む勝負にならないかと思います」

『フハハハハッ!其方は面白いな!我々の勝負にその程度の事は影響せん。過去に既に試した事があるからな!だが、どちらも選ばずに問答を終わろうなどとは、少々考えが甘いのではないか?』

 ヤバイ!結局反感を買った⁉︎
 アラヤは主様の前に立ち、テレポートができないかを試みる。
 だが当然のように行き先が見つからない。

『別に我を選ばないから怒るというそんな矮小な事はしない。ただの余興に過ぎん。其方自身が、この勝負を終わらせると豪語するかを見ただけだ』

「す、すみません、俺にはそんな度胸は…」

『まぁ良い。其方の人となりを知ることができた。先日の神威の件といい、フレイアが其方を気に掛けていたのでな。我は其方を知りたかったのだ』

「そうだったんですか…。あの1つ質問をしてもよろしいでしょうか?」

『良いだろう』

「創造神ヌル…様をご存知ですか?」

『ああ、知っている。ヌルは創造神でもあるが破壊神でもある。ヌルの眷属である無の大精霊ケイオスと子等が、其方達と争っている事は知っている。だが、我々創造神は干渉はしないからな?其方達の問題は其方達で解決せよ』

「はい、それは心得ています。ですがおかげ様で、虚無教団が掲げるヌル神が、確かに創造神として存在することが知れて良かったです」

『フム、では其方達を解放するとしよう』

 フレイが玉座から立ち上がると、世界が急速に縮小されていく感覚が起きる。
 世界ではなくて、自分達が縮小している事に気付いた時は、白の世界から追い出された後だった。

「ご主人様、主様、お帰りなさいませ!」

 帰って来た2人に、クララが駆け寄って来る。結果的に、時間は数分しか経っていなかった。
 無事に帰れて一安心だよ。クララが、ボコボコの主様を見て、俺が折檻したのではないかと涙目になっていたけどね。


 アラヤ達が帰った後の白の世界で、フレイはもう1つの質問を忘れていたとため息をついた。

『まぁ、あの子の答えは決まっているだろうがな。悩む顔を見れなかったのは残念だ』

 その質問は、職種LVを1下げる代わりに、全ての技能LVを1上げると言ったら、やるか?という質問。
 無論、フレイアが激怒するだろうから実行はしないが、真剣に悩むアラヤを見たかったのは本心だ。
 我が子(勇者)の様に、これといって突出した輝きを持っている子では無いのに、何故か興味を持ってしまった。
 面白い子だなと、特別にこれからも観察することを決めたのだった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...