【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

333話 荒ぶる道化

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 ニイヤは、エームールの港町を確認できる位置まで来たら、手前で飛竜を降下させた。

「さてと…先ずは観察してからだな」

 ニイヤは【生命の檻】に飛竜を収監し、近くの木に飛び乗り遠視眼で町の様子を見る。

「……」

 なんだろう、町の人達は道端に座り、何もしていない。
 呆けた表情のまま空を見上げているか、よだれを垂らした状態で俯いているだけだ。
 ニイヤは町に近付き、技能スキルが届く距離から鑑定してみる。
 これが感染力の高い疫病だった場合も考えたら、これ以上は近づかない方が良い。

「状態は…思考停止⁉︎ウイルスじゃないみたいだけど、精神異常攻撃魔法みたいなものを受けたのか?」

 魔導感知で細かく見ると、自らの魔力を使い、自らにコラープス(虚脱)に似た魔法を掛け続けている。
 しかも、魔力量の最大値が低い者達は、魔力が切れないように、量が多い他人から自動で魔力を集めている。

 町の中を、魔力を消して警戒しながら見て回る。やはり、見かける人達は全て同じ状態だ。

『…という状況なんだけど、どうするよ?』

 ニイヤはとりあえず、町の異変を念話が届く距離まで飛竜で戻り報告する。

『そうか…。ひょっとしたら、まだ町の中にそんな状態にした奴が居るかもしれないね。何人か応援を送るよ』

『いらねー。ゴーレムいるから大丈夫だ。直ぐに犯人捕まえてやるよ』


『おい、待て…』

 アラヤの静止は聞かずに、一方的に念話は切られた。なんか分身体達は分離したままだと、個々の性格が強まっている気がする。
 月に一度でも、俺(本体)に戻した方が良い気がするなぁ。

「念のために、月の庭モーントガルテンをエームールに近付けておこう。いざという時に駆け付けれる距離なら、ニイヤも文句は言わないだろう」

「ごめんね、アラヤ。帰ったらちゃんと叱っておくから」

 カオリが代わりに謝ったが、まぁ反省はしないだろうな。

「それにしても、町の人全員が思考停止ですか。洗脳系の呪いの可能性もありますね。チェックは私がしておきますので、何かあったら私とアー君で直ぐに飛びます」

「うん、お願い。俺はオモカツタの街に降りて両教団と打ち合わせしてくるよ」

 早速出ようとしたアラヤをアヤコが止めた。

「彼女達が着くのは、どれくらいになりますか?」

「ああ、明日あたりかな。とりあえずはモーントガルテンここに来てもらうつもりだよ」

「分かりました。ではそちらの準備もしておきますね」

 アラヤが去った後、ミネルバが気になったらしくカオリに尋ねてくる。

「カオリ、こんな時に誰か来るのか?」

「ええ、同盟国の人達ですよ」

 ラエテマ王国から誰か来るなら、私にも教えてくれる筈…。
 という事はパガヤ王国の人達かな?それなら、援軍に戦闘が得意な亜人達という事だろう。
 本来なら、兄上達にも援軍を頼みたいところだけど、私はあくまでも親善大使だ。
 アラヤ達は、ラエテマに要請する気がないようだから、これ以上は口出しは無理。
 でも、いつでも頼まれても良いように、衣装や手紙の準備だけはしておこう。
 ミネルバは、ひょっとしたら家族に会えるかもしれないと、期待してしまうのだった。


 ニイヤは、エームールの町に再突入る前に、ゴーレムを【生命の檻】から取り出した。

「う~ん、ゴーレムの見た目もバンドウに近くしたのは間違いだったかな?これじゃ仁王像だよなぁ…」

 厳つい顔のこのゴーレムは、竜鱗脱皮のゴーレムではなく、体の骨となるパーツは鉱石、それを強化した魔力粘糸で筋肉の様に包み込んで作り上げた。
 心臓部には魔鉱石、眼球には水晶を使用しているが、狙い通りの結果があるかは分からない。

「まぁ、後は鬼が出るか蛇が出るか、やってみなきゃ分からないな。…それっ、【魂魄剥ぎ】!」

 生命の檻に収監されているバンドウの魂を摘んで取り出し、ゴーレムの魔鉱石へと押し込む。

「……」

 ダランと垂れていた両腕がピクッと動いたかと思うと、顔がキョロキョロと辺りを見渡す。
 そして水晶の目がニイヤに向けられた。
 瞳孔が無いから視線がどこを見ているかは不明だが、感覚はある。

「やぁ、バンドウ。気分はどうだい?」

 ニイヤがバンドウゴーレムに触ろうとすると素早く離れた。

「…ああ、そうか。口は固定された上に声帯が無いから喋れないんだったな?耳は聞こえてるかな?念話が使える筈だから、念話で…」

『てめぇ、倉戸かぁ⁉︎金髪にしたくらいでバレないと思ってるのか?えらく自信あり気な態度じゃないか!』

「ああ、違う違う。俺はニイヤ。アラヤじゃないぞ?そんな事よりも、体の調子はどうだ?」

 ニイヤは鏡を取り出してバンドウに向ける。

『ああ、調子だぁ?…ん?ん?…なんだこれはーーーっ⁉︎』

 ニイヤの鏡を奪って、自分の顔の違いに気付き驚いている。
 だが、顔部分に魔力粘糸の筋肉繊維は作っていない。なので、バンドウの眉間に皺を寄せた不機嫌な表情のままなのだ。
 しかも、腰布1枚のほぼ裸の状態な事にも今気付いたようだ。

「ん~、とりあえずはゴーレムでも魂が宿ったな。それじゃ、次の課題。記憶はどう?生前の記憶はどこまで覚えてる?」

だと…⁉︎』

 何かを思い出した様で、変わらない筈の表情が更に不機嫌になった様に感じる。

『…そうか、俺は死んだんだったな。…だが、どうしてこうなっている?てめぇの仕業か?』

「まぁな。仮初の体で悪いけど生き返ってもらった。それでさ…」

『へっ、バカが。どういうつもりか知らんが、俺は好き勝手にさせてもらうぜ!だからてめぇはここで寝てもらう!』

 バンドウはいきなりニイヤに殴り掛かろうとした。
 しかし、その拳はニイヤの面前で止まる。拳は、プルプルと震えてそれ以上前に進まない。
 拳を止めて蹴りに転じてみても、結果は同じように直前で止まってしまう。
 怒りに任せて何度も繰り返すが、全く当てられなかった。

「無駄だ。君は俺の従魔になっているからな。俺を殺そうとする行為は全て制御される」

『ふ、ふざけるな!なんで俺がてめぇの下僕になんだ⁉︎こうなったら…!』

 ニイヤの相手をせずに逃げる事を選んだバンドウは、エームールの港町へと駆け出した。

『それもダメ。俺の許可無く逃げる事もできないよ?』

 ニイヤの念話が頭に響くと、バンドウは体が痺れて走れなくなった。

『クソッ!なんだよ!何なんだよ‼︎』

 解除しようと従魔の紋章を探しているが、見つかるわけはない。何しろ、心臓部である魔鉱石に刻まれているからだ。
 心臓部の魔鉱石が破壊されたり、取り出しても死んで終わりである。

『まぁ、落ち着いてくれよ。俺も奴隷の様に働かせようとは思っていないからさ』

『黙れ!てめぇの命令なんて誰がきいてやるもんかよ!』

 体を壊そうと考えたのか、民家の壁を殴り始める。
 しかし、カオリが用意した体が弱いわけなく、瞬く間に民家の方が崩れてしまった。

『じゃあ、こうしよう。今回、俺の手伝いをしてくれたら、……パガヤ王国のその後を少し教えてやる』

 ピクッとバンドウの肩が動き、ゆっくりと振り返って、ニイヤを指差した。

『ゼッテーだからな!今回だけだ!今回だけ手伝ってやる!何をすればいいんだよ⁉︎』

 早速、やる気になってくれた。パガヤ王国の事、やっぱり気になるんだな。

『先ずは技能を確認してくれ。生前の技能は全てあるか?』

 生前は憤怒魔王だったから、彼のステータスも技能も分からなかった。

『…かなり減ってるな。特殊技能ユニークスキルはあるが、解釈が変わってるな。新たにある技能はてめぇの仕業か?』

『まぁな。その体に必要な技能だったから付けた』

 技能が減ってるのは、やはり体が記憶していた技能もあるという事かな?
 バンドウの落胆振りからして、生前よりは強さ半減といった感じか。


バンドウ

種族   魔導ゴーレム(人型)   性別不明

体力   400/400
攻撃力   262/262
耐久力   312/312
精神力   183/183
魔力   201/1201
俊敏   385/385
魅力   20/100
運    50

職種  荒ぶる道化  LV1

技能  従魔連鎖LV 1   身体強化LV 1   魔導感知LV 1   精神耐性LV 2   物理耐性LV 2   全属性魔法LV 1   一点突貫LV 2   言語理解LV 3   魔法耐性LV 2   威圧LV 2   体術LV 2   捕縛術LV1   自己再生LV 1   毒耐性LV 2     感覚補正LV 2    念話LV  2   超聴覚LV  1    望遠眼LV  1    暗視眼LV 2    溶解耐性LV  1   熱感知LV 1   熱耐性LV  1   睡眠耐性LV 3    腐敗耐性LV 3     

特殊技能

【怒髪天武】LV1     使用すると、怒りの感情と蓄積ダメージ量に比例してステータスが一定時間爆上がりする。

【反抗憤怒】LV1     使用すると、触れた対象が使用した技能を事ができる。LVに応じた使用制限有り。

 さて、後からアラヤがどんな反応を見せるか不安だが、今は目の前の問題を協力して解決するとしよう。
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