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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎
332話 均等な魔力
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月の庭は今、オモカツタの街の上空に結界の効果で姿を消した状態で停泊している。
来るべき戦いに向けて、モザンピア領に最寄りのガーンブル村にはアフティが待機して、モザンピアからの動きを監視していた。
大気感知で大まかな動きは分かるけど、敵の装備や移動手段などは目視に頼らざるをえない。
特に、魔王配下候補者ならば顔が分かるという理由がある。
「アフティ、日中は役に立てなくてすまない」
2人は村の防壁の物見櫓に居た。ここなら、村の出入り口である東西の門が一目で分かる。ただその分、日陰の場所が少ない。
彼女の夫であるサハドは、彼女の影から顔を浮かび上がらせる。日中の間は、技能の【影憑依】でアフティの影の中に沈み隠れているのだ。
「敵が夜動く可能性もあります。貴方の暗視眼が頼りです。適材適所ですよ。それに、私の従魔達も居ますから」
アフティは、新たに受得した【生命の檻】の技能に、20種の従魔を収納している。
この技能なら、連れて行く数も、大きさも目立たずに移動できるので助かっている。
「しかし、この陽気でもまだ雪が溶けずに残った場所が多いのだな」
「この辺りは元々豪雪地帯でもありますからね。逆に、今の方が雪に紛れられないから助かります。あ、今日は2人目ですね」
ガーンブル村から、モザンピア領地方面へと向かう人物達。
その容姿は様々だ。
1番多いのが行商人。3人くらいで村に訪れて、大した仕入れもしないままで、村から出て行く。
次に多いのが冒険者で主に狩人。こちらはチームだったりソロだったりするが、山岳に合わせた装備をしていないので不自然に見える。
大罪教や美徳教の団員服の者も僅かだがいた。ただ、本物かどうかの見分けはアフティ達には分からなかった。
そしてこれらの者達は皆、モザンピア領地に向かってからは誰一人として帰ってきていない。
それらの中に、確かにアフティが知る候補者達が居た。
「今回は【盾31】でした。アラヤ様が予想した通り、確かに候補者が紛れて居ますね」
監視を始めて3日目。
村長の証言では、今までは0~2人で狩り目的でほとんどが日戻りだったらしい。
それが、今は村からモザンピア領地に向かった人数は38人とかなり多い。その中でアフティが知る候補者は7名だった。
「全てがヌル虚無教団なのか?」
「分からない。全員が怪しいことに変わりはないけど、私達が知らない施設もあったのかもしれないし。ただ、3日で7名も見かけた時点でトランスポート司教の指示があるに間違いはないと思う。その詳細が移動か集結かは分からない」
「ならば、1人くらい吾輩の【血気傀儡】で操作してみるか?」
「いえ、それはまだ得策じゃない。アラヤ様の命令はあくまでも動きの監視。相手に勘付かれたら、後に影響が出てしまうわ」
とはいえ、初動が分かる重要なこの場所を、諜報に長けたオードリーではなく、今回は私達夫婦が任された。
与えられたからには、任務以上の成果を上げたいのも事実。
「メイピイに追跡させましょう。この子なら擬態ができる上に暗視眼もあるから尾行に向いているし、万が一見つかっても怪しまれずに逃げれる。感覚共有をLV3まで頑張って上げた甲斐がありましたね」
アフティは羅刹鳥のメイピイを魂の檻から出すと、早速お互いの視界を感覚共有する。
『メイピイ、今から1人の人間を追跡してもらいたい。擬態で姿を隠しながら、遠くから監視するだけで良いの。身の危険を感じたら迷わずに撤退して構わない。頼める?』
メイピイは、元はアラヤの従魔だ。
彼から譲り受けたとはいえ、アフティは最初の遠慮気味な関係性をまだ続けていた。
『アフ姉さん、それは構わないが、まだ複数の視界に慣れてないだろう?両目か片目を瞑るかしてもらわなきゃ、俺の視界と姉さんの視界が重なってキツイんだが?』
『分かったわ。なるべく両目を瞑る』
メイピイ自体も、アフティに対して言いたいことは言うようになっていた。この事はアラヤには話してはいない。
従魔との関係性は、当事者達だけで築かなければ意味がないからだ。
『目標は、今から村を出ようとしているあの男よ』
それは、今日の朝に村に訪れた見覚えのある候補者の男。
確か、怠惰魔王の控え候補者で、役職は【生産】だった筈。数字は忘れてしまいましたが、ファブリカンテのように上位じゃなかったと記憶している。
「着いて半日で村から出発するつもりか?」
「彼等【生産】の役職名持ちは生産職種に長けているから、必要な物は自ら作成してしまいます。移動に必要な物は既に揃えたのでしょう」
『とにかく、奴を監視すれば良いんだな?』
「ええ、お願い」
『分かった』
メイピイは野鳥に姿を擬態させて、見失わない距離を保ちながら後を追い始めた。
「私達は引き続き、【盾31】の監視をしましょう。私の目の代わりをお願いしますね、サハドさん」
「ああ、任された」
アフティは、用意していた魔術士の尖り帽子を被って顔に影を作ると、サハド目が移動する。
彼女の瞑られた目に重なった赤い目は、彼女の格好に相俟って魔女の様になっていた。
その姿を偶然下から見た子供達が、泣きながら走り去って行ったのを2人は知らないのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
モーントガルテンの管制室。
1人、ミネルバがデータ記入に追われている中、アラヤ達は机に広げたインガス領地の地図を囲んでいた。
「昨日のアフティの連絡だと、モザンピア領地に向かった20人強の対象に5人も配下候補者が居たらしいです」
「ガーンブル村を経由しないで向かっている者も居るだろうから、まだ数は多いだろうね」
「やはり、モザンピアの地下通路内にもアジトがあるのだろうか?」
「ただの移動経路の可能性は?」
「あの地下通路自体、出入り口は山にありましたよね?他の地域の山の出入りはどうでしょうか?」
「近くだと、レニナオ山、オリドバ山、コアノフ山ですね。…過去の記録だと、確かに多少の入りはありますね。ただ、出ては来ていません」
「大気感知も、地下通路には効果が薄い。空気が澱んでる感じでクラクラするんだよね」
「アラヤ、それもだけど、この反応が気にならない?」
カオリが、オモカツタよりも北東に位置する港町エームールを指差す。
「うん?大した魔力量じゃない気がするけど?」
港町には、4、50程の魔力反応があるが、どれも平凡な量で魔術士は1人も居ないと分かる。
「魔力量が一定過ぎるのよ。町人全員が同じなわけないじゃない。子供や老人も居るのよ?」
確かに、老若男女問わずに魔力量が均等なのは不自然だな。
「それもそうか…。じゃあ、何かあるのかな?」
「…調べてみる?」
「だけど、割ける人員が居ないよ?」
主要メンバーそれぞれが、いつ戦闘が始まっても対応できるように準備中である。
かと言って、非戦闘員である住民達を巻き込む気は無い。
「それなら、ニイヤが行ってもらえる?仕事は私が引き受けるからさ」
「ん?ああ、分かった。良いぜ?」
すっかりカオリ色に染まっているニイヤの口調や態度に引きつつも、別行動できる分身体なら安心だから任せたい。
「じゃあ、軽く探ってくる。ああ、飛竜とゴーレムを1体連れて行くから」
「分かった。何かあったら連絡してくれ」
「オッケー」
ニイヤはそう言って管制室を出て行った。
…チャラいな。似合わないと思うのは自分だけか?
まぁ、調査だけなら直ぐに帰ってくるだろう。
再び話し合いが始まる中、カオリとアヤコが念話で話をしていた。
『カオリさん、ごめんね無理言って』
『ん。良いわよ、これくらい。もし暴走してもニイヤなら大丈夫でしょう。それに、私も結果を知りたいからね』
2人の思惑。それをニイヤは頼まれていた。
ニイヤの【生命の檻】の中にあるバンドウの魂をゴーレムに入れる。
それを、本体(アラヤ)にバレないように検証することを。
ただ、最優先はエームールの港町の異変調査な事には変わりない。
これはあくまでも、調査のおまけでしかないのだ。
来るべき戦いに向けて、モザンピア領に最寄りのガーンブル村にはアフティが待機して、モザンピアからの動きを監視していた。
大気感知で大まかな動きは分かるけど、敵の装備や移動手段などは目視に頼らざるをえない。
特に、魔王配下候補者ならば顔が分かるという理由がある。
「アフティ、日中は役に立てなくてすまない」
2人は村の防壁の物見櫓に居た。ここなら、村の出入り口である東西の門が一目で分かる。ただその分、日陰の場所が少ない。
彼女の夫であるサハドは、彼女の影から顔を浮かび上がらせる。日中の間は、技能の【影憑依】でアフティの影の中に沈み隠れているのだ。
「敵が夜動く可能性もあります。貴方の暗視眼が頼りです。適材適所ですよ。それに、私の従魔達も居ますから」
アフティは、新たに受得した【生命の檻】の技能に、20種の従魔を収納している。
この技能なら、連れて行く数も、大きさも目立たずに移動できるので助かっている。
「しかし、この陽気でもまだ雪が溶けずに残った場所が多いのだな」
「この辺りは元々豪雪地帯でもありますからね。逆に、今の方が雪に紛れられないから助かります。あ、今日は2人目ですね」
ガーンブル村から、モザンピア領地方面へと向かう人物達。
その容姿は様々だ。
1番多いのが行商人。3人くらいで村に訪れて、大した仕入れもしないままで、村から出て行く。
次に多いのが冒険者で主に狩人。こちらはチームだったりソロだったりするが、山岳に合わせた装備をしていないので不自然に見える。
大罪教や美徳教の団員服の者も僅かだがいた。ただ、本物かどうかの見分けはアフティ達には分からなかった。
そしてこれらの者達は皆、モザンピア領地に向かってからは誰一人として帰ってきていない。
それらの中に、確かにアフティが知る候補者達が居た。
「今回は【盾31】でした。アラヤ様が予想した通り、確かに候補者が紛れて居ますね」
監視を始めて3日目。
村長の証言では、今までは0~2人で狩り目的でほとんどが日戻りだったらしい。
それが、今は村からモザンピア領地に向かった人数は38人とかなり多い。その中でアフティが知る候補者は7名だった。
「全てがヌル虚無教団なのか?」
「分からない。全員が怪しいことに変わりはないけど、私達が知らない施設もあったのかもしれないし。ただ、3日で7名も見かけた時点でトランスポート司教の指示があるに間違いはないと思う。その詳細が移動か集結かは分からない」
「ならば、1人くらい吾輩の【血気傀儡】で操作してみるか?」
「いえ、それはまだ得策じゃない。アラヤ様の命令はあくまでも動きの監視。相手に勘付かれたら、後に影響が出てしまうわ」
とはいえ、初動が分かる重要なこの場所を、諜報に長けたオードリーではなく、今回は私達夫婦が任された。
与えられたからには、任務以上の成果を上げたいのも事実。
「メイピイに追跡させましょう。この子なら擬態ができる上に暗視眼もあるから尾行に向いているし、万が一見つかっても怪しまれずに逃げれる。感覚共有をLV3まで頑張って上げた甲斐がありましたね」
アフティは羅刹鳥のメイピイを魂の檻から出すと、早速お互いの視界を感覚共有する。
『メイピイ、今から1人の人間を追跡してもらいたい。擬態で姿を隠しながら、遠くから監視するだけで良いの。身の危険を感じたら迷わずに撤退して構わない。頼める?』
メイピイは、元はアラヤの従魔だ。
彼から譲り受けたとはいえ、アフティは最初の遠慮気味な関係性をまだ続けていた。
『アフ姉さん、それは構わないが、まだ複数の視界に慣れてないだろう?両目か片目を瞑るかしてもらわなきゃ、俺の視界と姉さんの視界が重なってキツイんだが?』
『分かったわ。なるべく両目を瞑る』
メイピイ自体も、アフティに対して言いたいことは言うようになっていた。この事はアラヤには話してはいない。
従魔との関係性は、当事者達だけで築かなければ意味がないからだ。
『目標は、今から村を出ようとしているあの男よ』
それは、今日の朝に村に訪れた見覚えのある候補者の男。
確か、怠惰魔王の控え候補者で、役職は【生産】だった筈。数字は忘れてしまいましたが、ファブリカンテのように上位じゃなかったと記憶している。
「着いて半日で村から出発するつもりか?」
「彼等【生産】の役職名持ちは生産職種に長けているから、必要な物は自ら作成してしまいます。移動に必要な物は既に揃えたのでしょう」
『とにかく、奴を監視すれば良いんだな?』
「ええ、お願い」
『分かった』
メイピイは野鳥に姿を擬態させて、見失わない距離を保ちながら後を追い始めた。
「私達は引き続き、【盾31】の監視をしましょう。私の目の代わりをお願いしますね、サハドさん」
「ああ、任された」
アフティは、用意していた魔術士の尖り帽子を被って顔に影を作ると、サハド目が移動する。
彼女の瞑られた目に重なった赤い目は、彼女の格好に相俟って魔女の様になっていた。
その姿を偶然下から見た子供達が、泣きながら走り去って行ったのを2人は知らないのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
モーントガルテンの管制室。
1人、ミネルバがデータ記入に追われている中、アラヤ達は机に広げたインガス領地の地図を囲んでいた。
「昨日のアフティの連絡だと、モザンピア領地に向かった20人強の対象に5人も配下候補者が居たらしいです」
「ガーンブル村を経由しないで向かっている者も居るだろうから、まだ数は多いだろうね」
「やはり、モザンピアの地下通路内にもアジトがあるのだろうか?」
「ただの移動経路の可能性は?」
「あの地下通路自体、出入り口は山にありましたよね?他の地域の山の出入りはどうでしょうか?」
「近くだと、レニナオ山、オリドバ山、コアノフ山ですね。…過去の記録だと、確かに多少の入りはありますね。ただ、出ては来ていません」
「大気感知も、地下通路には効果が薄い。空気が澱んでる感じでクラクラするんだよね」
「アラヤ、それもだけど、この反応が気にならない?」
カオリが、オモカツタよりも北東に位置する港町エームールを指差す。
「うん?大した魔力量じゃない気がするけど?」
港町には、4、50程の魔力反応があるが、どれも平凡な量で魔術士は1人も居ないと分かる。
「魔力量が一定過ぎるのよ。町人全員が同じなわけないじゃない。子供や老人も居るのよ?」
確かに、老若男女問わずに魔力量が均等なのは不自然だな。
「それもそうか…。じゃあ、何かあるのかな?」
「…調べてみる?」
「だけど、割ける人員が居ないよ?」
主要メンバーそれぞれが、いつ戦闘が始まっても対応できるように準備中である。
かと言って、非戦闘員である住民達を巻き込む気は無い。
「それなら、ニイヤが行ってもらえる?仕事は私が引き受けるからさ」
「ん?ああ、分かった。良いぜ?」
すっかりカオリ色に染まっているニイヤの口調や態度に引きつつも、別行動できる分身体なら安心だから任せたい。
「じゃあ、軽く探ってくる。ああ、飛竜とゴーレムを1体連れて行くから」
「分かった。何かあったら連絡してくれ」
「オッケー」
ニイヤはそう言って管制室を出て行った。
…チャラいな。似合わないと思うのは自分だけか?
まぁ、調査だけなら直ぐに帰ってくるだろう。
再び話し合いが始まる中、カオリとアヤコが念話で話をしていた。
『カオリさん、ごめんね無理言って』
『ん。良いわよ、これくらい。もし暴走してもニイヤなら大丈夫でしょう。それに、私も結果を知りたいからね』
2人の思惑。それをニイヤは頼まれていた。
ニイヤの【生命の檻】の中にあるバンドウの魂をゴーレムに入れる。
それを、本体(アラヤ)にバレないように検証することを。
ただ、最優先はエームールの港町の異変調査な事には変わりない。
これはあくまでも、調査のおまけでしかないのだ。
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