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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎
335話 無気力症
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1人1人の困惑が伝染して、管制室内はパニックに陥っていた。
『皆の者、落ち着くのだ!』
そこへ、管制室に風の大精霊の声が響く。
精霊言語の技能を持たないミネルバ以外が、ハッと我に返った。
『心配せずともアラヤは無事だ。慌てるでない。アヤコ、情報を整理せよ』
アラヤを感知できない不安がある筈なのに、エアリエルにはこの程度の事で夫が苦しんでいるとは思えなかった。
「分かりました。…先ず、今現在の状況は、オモカツタの街全体に情報遮断の結界が出現。先に街中へ降りていたアラヤ君と連絡が取れない状況です。続いて、オモカツタの北東方面にある港町エームールにて、ニイヤ君がヌル虚無教団の痕跡を確認。追跡中の報告では、自然洞穴を使いオモカツタ方面へと移動しているとのこと。続いて、北西にあるガーンブル村で監視をしていたアフティ、サハド夫妻からの追加報告で、対象等がモザンピア領内の地下通路へと移動するのを確認。アジトらしき場所に集まっているとの事。続いて、ムシハ連邦国の状況はまだ落ち着いていない様ですね。後は、先日冥界の国ゴーモラに向かっていたアラヤ2名が帰って来ました」
「え?ゴーモラ?2人はムシハ連邦国に向かったんじゃないの?」
「そっちの2人はまだ帰って無いです。帰って来たのは、インガス領に来て直ぐに出発した楽観的なアラヤ君と、卑屈的なアラヤ君ですよ」
やはり、エアリエルの様に見分けが容易じゃないので、早急に名前付けが必要だとサナエは思った。
「2人は何の目的でゴーモラに?」
「……アラヤ君が頼んだ事なので、詳しくは知らされていません」
サナエの質問に、アヤコは知らないと言いつつも念話で話す。
『ミネルバさんが居るので話せない内容です。ですのでサナエちゃんは、2人が連れて来たであろう客人を、空き部屋に案内してください。理由は客人に会えば分かりますよ』
『分かったわ。それなら彼女も連れ出すわね』
「とりあえず、疲れてるだろうから休む様に言ってくるね。ミネルバ様、少しお手伝いをお願いします」
サナエはそう言って、ミネルバを連れて管制室を出て行った。
ミネルバもまだ困惑していたので、事態の把握よりも部屋から出たかった様だ。
「最優先事項は、オモカツタの街の結界内の状況把握でしょうか?」
『結界の破壊や解除は可能か?』
「結界の構築方法によりますが、可能だと思います。主様、クララとアルディスを連れて解析をお願いします」
「分かった」
「ニイヤが自然洞穴側から向かっている筈なんだけど、結界に阻まれているなんて連絡きていないわ。地上だけの結界かもよ?」
「結界破壊が間に合わない場合には、海岸の洞穴からの侵入も考慮しましょう」
主様とクララは分かったと管制室を出て行く。
結界侵入なら、アフティの従魔のダークユニコーンが有効だけど、アフティは今モザンピア領の地下通路に居るから借りれない。
『結界が解けるまでに、私がすべきことはあるか?』
「エアリエル様には、周辺の感知を続けてもらい、緊急時に備えていただきたいです」
『分かった。どうしようも無いと判断した場合には街の地盤事風で吹き上げよう』
それは、加護のあるアラヤぐらいしか助からない力技と言える。
エアリエルからすれば、他の者達は重要では無いからだ。
「カオリさんは、相手がヌル虚無教団と分かった以上、禁呪対策でモーントガルテンに待機してください」
「仕方ないわね。でも、ニイヤから救援要請来たら分からないわよ?」
分からないというよりも、自ら向かう気満々だと分かる。
「その場合は、アー君と帰って来た2人のどちらかを向かわせます。それで我慢して下さい」
「…分かったわ」
カオリは渋々、従うと頷いた。ニイヤには、バンドウゴーレムも居る。そうそうピンチに陥いる事はないだろう。
「私は、2人が連れて来た客人と打ち合わせしてきます。進展があったら連絡ください」
管制室はアー君とカオリに任せて、アヤコは帰って来た2人のアラヤの下へ急いだ。
部屋にはミネルバは居ない様だ。どうやら、彼女には子供達の避難を率先させるように頼んだらしい。
「お帰りなさい、アラヤ君達」
「ああ、ただいま。どうやら本体がトラブルみたいだね?これは予定変更かな?」
「きっともう間に合わないよ。本体が消えたら、きっと俺達も消えるに違いないよ」
「予定は変更しませんし、消える事にもなりませんよ。それで、連れて来れましたか?」
アヤコのその問いに、アラヤ達はニヤリと笑う。
「こっちに来て良いよ」
隣の部屋の扉が開き、その部屋から2人の魔物が現れた。
「此度の提案、誠に感謝でございます。必ずや成功させましょう!」
「大役に選ばれたからには、頑張るよ」
そこに居たのは、ゴーモラ王国の宰相ジョスイと、死霊悪魔族族長のポルカだった。
「もちろん、ニュクス様からも、例のものは譲り受けて来たよ」
「そうですか、役者も揃った様で良かったです。では作戦の詳細をお話しします。当初の予定より幾つか修正しますが、必ず成功させましょう」
サナエは、自分が妊婦である事で外されていた、初めて聞くその計画内容に驚きを隠せないのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これは何事?」
オモカツタの街長宅であるグスタフ邸。
そこに集まっていた、アラヤ、グスタフ、カザックの3名は、外がいきなり暗くなり急ぎ窓を開けた。
「夜?いや、結界か!」
街全体の空を覆う遮光状の結界。試しにモーントガルテンに念話を試みるが、全く繋がらない。
「外部との連絡を遮断された様です」
「ん~、また魔物達の襲撃かしらん?」
「それにしては、警戒していた門番達からの報告は無かったぞ?」
「…それにしても、やけに静かじゃないですか?こんな状況、街の人達も騒ぐと思うんですが…」
超聴覚で耳を澄ませても、騒ぎの1つも聞こえない。これは異常だ。
「ちょっと誰か?居ないの?」
グスタフが屋敷内に居る筈の兵を呼ぶが、返事は無い。
魔導感知には反応はあるので、とりあえず最寄りの反応に向かった。
「ちょっと大丈夫⁉︎」
反応先に居たのは、思考停止状態になっていた兵士だった。
「これは…エームールの港町と同じ?」
「アラヤ殿、同じとはどういう事だ?」
「実はつい先程、エームールに赴いた仲間から連絡を受けたんです。町の住民全員が、この様な無気力状態になっていたって」
「…突然結界が張られ、伝染病の様な症状に街全体が襲われている。つまり、それって敵襲よね?」
グスタフはワナワナと肩を震わせながら、無気力な兵士を抱き締めた。
「必ず救ってあげるからね!」
兵士を通路脇に寝かせて、グスタフは立ち上がると2人を見た。
「貴方達、先ずは他に無事な者を探すわよ!」
「いや、先ずは敵を探すべきだろ?」
「それよりも、ベヒモスの守りを固めるべきでは?」
いきなり3人の意見がバラバラだ。アラヤとしては、敵の狙いはベヒモスだと考えているので、先ずは地下街に向かうべきだと思うのだが…。
「ダメよ!先ずは人数確保が最優先!あのデカ象は埋まってるんだから、そう簡単に奪われないわ!それに、敵の全貌が分からないうちから、3人で挑むのも無謀よ?」
「むぅ、仕方ないか」
「そうですね…」
こういう時のグスタフの主張は妙に説得力がある。ここは大人しく従っておくとしよう。
「坊やの感知能力で、無事そうな人が居ないか分からないかしらん?」
「……居ました。西区の住宅街です」
この魔力量の反応からすると、分別の勇者ウィリアムと、その配下のサラに違いない。
「じゃあ、早速向かうわよ!」
グスタフの怒りの表情は、通常よりも割増で背筋が寒くなるな。
とにかく、今回は家族が直ぐに集まれない。その間は、仕方ないけど共闘する仲間は彼等だ。
実力を出し過ぎない程度で、上手く戦えるだろうかとアラヤは不安になるのだった。
『皆の者、落ち着くのだ!』
そこへ、管制室に風の大精霊の声が響く。
精霊言語の技能を持たないミネルバ以外が、ハッと我に返った。
『心配せずともアラヤは無事だ。慌てるでない。アヤコ、情報を整理せよ』
アラヤを感知できない不安がある筈なのに、エアリエルにはこの程度の事で夫が苦しんでいるとは思えなかった。
「分かりました。…先ず、今現在の状況は、オモカツタの街全体に情報遮断の結界が出現。先に街中へ降りていたアラヤ君と連絡が取れない状況です。続いて、オモカツタの北東方面にある港町エームールにて、ニイヤ君がヌル虚無教団の痕跡を確認。追跡中の報告では、自然洞穴を使いオモカツタ方面へと移動しているとのこと。続いて、北西にあるガーンブル村で監視をしていたアフティ、サハド夫妻からの追加報告で、対象等がモザンピア領内の地下通路へと移動するのを確認。アジトらしき場所に集まっているとの事。続いて、ムシハ連邦国の状況はまだ落ち着いていない様ですね。後は、先日冥界の国ゴーモラに向かっていたアラヤ2名が帰って来ました」
「え?ゴーモラ?2人はムシハ連邦国に向かったんじゃないの?」
「そっちの2人はまだ帰って無いです。帰って来たのは、インガス領に来て直ぐに出発した楽観的なアラヤ君と、卑屈的なアラヤ君ですよ」
やはり、エアリエルの様に見分けが容易じゃないので、早急に名前付けが必要だとサナエは思った。
「2人は何の目的でゴーモラに?」
「……アラヤ君が頼んだ事なので、詳しくは知らされていません」
サナエの質問に、アヤコは知らないと言いつつも念話で話す。
『ミネルバさんが居るので話せない内容です。ですのでサナエちゃんは、2人が連れて来たであろう客人を、空き部屋に案内してください。理由は客人に会えば分かりますよ』
『分かったわ。それなら彼女も連れ出すわね』
「とりあえず、疲れてるだろうから休む様に言ってくるね。ミネルバ様、少しお手伝いをお願いします」
サナエはそう言って、ミネルバを連れて管制室を出て行った。
ミネルバもまだ困惑していたので、事態の把握よりも部屋から出たかった様だ。
「最優先事項は、オモカツタの街の結界内の状況把握でしょうか?」
『結界の破壊や解除は可能か?』
「結界の構築方法によりますが、可能だと思います。主様、クララとアルディスを連れて解析をお願いします」
「分かった」
「ニイヤが自然洞穴側から向かっている筈なんだけど、結界に阻まれているなんて連絡きていないわ。地上だけの結界かもよ?」
「結界破壊が間に合わない場合には、海岸の洞穴からの侵入も考慮しましょう」
主様とクララは分かったと管制室を出て行く。
結界侵入なら、アフティの従魔のダークユニコーンが有効だけど、アフティは今モザンピア領の地下通路に居るから借りれない。
『結界が解けるまでに、私がすべきことはあるか?』
「エアリエル様には、周辺の感知を続けてもらい、緊急時に備えていただきたいです」
『分かった。どうしようも無いと判断した場合には街の地盤事風で吹き上げよう』
それは、加護のあるアラヤぐらいしか助からない力技と言える。
エアリエルからすれば、他の者達は重要では無いからだ。
「カオリさんは、相手がヌル虚無教団と分かった以上、禁呪対策でモーントガルテンに待機してください」
「仕方ないわね。でも、ニイヤから救援要請来たら分からないわよ?」
分からないというよりも、自ら向かう気満々だと分かる。
「その場合は、アー君と帰って来た2人のどちらかを向かわせます。それで我慢して下さい」
「…分かったわ」
カオリは渋々、従うと頷いた。ニイヤには、バンドウゴーレムも居る。そうそうピンチに陥いる事はないだろう。
「私は、2人が連れて来た客人と打ち合わせしてきます。進展があったら連絡ください」
管制室はアー君とカオリに任せて、アヤコは帰って来た2人のアラヤの下へ急いだ。
部屋にはミネルバは居ない様だ。どうやら、彼女には子供達の避難を率先させるように頼んだらしい。
「お帰りなさい、アラヤ君達」
「ああ、ただいま。どうやら本体がトラブルみたいだね?これは予定変更かな?」
「きっともう間に合わないよ。本体が消えたら、きっと俺達も消えるに違いないよ」
「予定は変更しませんし、消える事にもなりませんよ。それで、連れて来れましたか?」
アヤコのその問いに、アラヤ達はニヤリと笑う。
「こっちに来て良いよ」
隣の部屋の扉が開き、その部屋から2人の魔物が現れた。
「此度の提案、誠に感謝でございます。必ずや成功させましょう!」
「大役に選ばれたからには、頑張るよ」
そこに居たのは、ゴーモラ王国の宰相ジョスイと、死霊悪魔族族長のポルカだった。
「もちろん、ニュクス様からも、例のものは譲り受けて来たよ」
「そうですか、役者も揃った様で良かったです。では作戦の詳細をお話しします。当初の予定より幾つか修正しますが、必ず成功させましょう」
サナエは、自分が妊婦である事で外されていた、初めて聞くその計画内容に驚きを隠せないのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これは何事?」
オモカツタの街長宅であるグスタフ邸。
そこに集まっていた、アラヤ、グスタフ、カザックの3名は、外がいきなり暗くなり急ぎ窓を開けた。
「夜?いや、結界か!」
街全体の空を覆う遮光状の結界。試しにモーントガルテンに念話を試みるが、全く繋がらない。
「外部との連絡を遮断された様です」
「ん~、また魔物達の襲撃かしらん?」
「それにしては、警戒していた門番達からの報告は無かったぞ?」
「…それにしても、やけに静かじゃないですか?こんな状況、街の人達も騒ぐと思うんですが…」
超聴覚で耳を澄ませても、騒ぎの1つも聞こえない。これは異常だ。
「ちょっと誰か?居ないの?」
グスタフが屋敷内に居る筈の兵を呼ぶが、返事は無い。
魔導感知には反応はあるので、とりあえず最寄りの反応に向かった。
「ちょっと大丈夫⁉︎」
反応先に居たのは、思考停止状態になっていた兵士だった。
「これは…エームールの港町と同じ?」
「アラヤ殿、同じとはどういう事だ?」
「実はつい先程、エームールに赴いた仲間から連絡を受けたんです。町の住民全員が、この様な無気力状態になっていたって」
「…突然結界が張られ、伝染病の様な症状に街全体が襲われている。つまり、それって敵襲よね?」
グスタフはワナワナと肩を震わせながら、無気力な兵士を抱き締めた。
「必ず救ってあげるからね!」
兵士を通路脇に寝かせて、グスタフは立ち上がると2人を見た。
「貴方達、先ずは他に無事な者を探すわよ!」
「いや、先ずは敵を探すべきだろ?」
「それよりも、ベヒモスの守りを固めるべきでは?」
いきなり3人の意見がバラバラだ。アラヤとしては、敵の狙いはベヒモスだと考えているので、先ずは地下街に向かうべきだと思うのだが…。
「ダメよ!先ずは人数確保が最優先!あのデカ象は埋まってるんだから、そう簡単に奪われないわ!それに、敵の全貌が分からないうちから、3人で挑むのも無謀よ?」
「むぅ、仕方ないか」
「そうですね…」
こういう時のグスタフの主張は妙に説得力がある。ここは大人しく従っておくとしよう。
「坊やの感知能力で、無事そうな人が居ないか分からないかしらん?」
「……居ました。西区の住宅街です」
この魔力量の反応からすると、分別の勇者ウィリアムと、その配下のサラに違いない。
「じゃあ、早速向かうわよ!」
グスタフの怒りの表情は、通常よりも割増で背筋が寒くなるな。
とにかく、今回は家族が直ぐに集まれない。その間は、仕方ないけど共闘する仲間は彼等だ。
実力を出し過ぎない程度で、上手く戦えるだろうかとアラヤは不安になるのだった。
応援ありがとうございます!
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