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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

336話 認知度

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 街中を走る3人は、途中倒れている街の人達に構うこと無く目的地まで向かっていた。

 グスタフとカザックは、内心では直ぐにでも介抱したいとと思っているだろう。

 だが今は事態を把握する為にも、魔導感知の反応で見つけた分別の勇者達と合流が優先だ。

「その路地裏の奥の建物です」

「突入するわよ!」

「フンっ!無事か⁉︎」

 カザックが、そのまま扉を蹴破り転がり込む。

「むっ⁉︎」

 起き上がる瞬間に、目の前には剣先が突き付けられていた。

「ウィリアムさん!」

「おっと、カザックさんだったか。済まない」

 室内には、既に武装していたウィリアムとサラが居て、部屋の隅には思考停止になった人達が寝かされていた。

「君達も無事だったか。良かった、少々この事態の対応に戸惑っていたところだったんだ」

「この人達、強制的に枯渇しない程度に魔力を奪われているみたいなの。気付薬も効果無しだし、どうしたら良いの?」

 2人共、とりあえずどうにかしようと見つけた人を集めていた様だ。

「対処は私達にも分からないのよ。ただ、命までは取らないみたいだから、彼等には残念だけど、もうしばらくこのままで居てもらう。今は動ける仲間を増やして、こんな事態を引き起こした敵を捕まえるしかないわ」

 グスタフは、探索は任せたわとアラヤの肩に手を乗せる。まぁやるけどね。

「…ん~どうやら近くには居ないね。……地下街に反応がある。ん?交戦中みたいだ!」

 ベヒモスが封じられている場所とはまだ離れている場所ではあるが、明らかにベヒモスを狙った襲撃だろう。

「敵も居るって事だね?じゃあ、直ぐに向かおう!」

 ウィリアムはサラを抱き上げる(お姫様抱っこ)と、地下街への昇降通りに向けて1番に駆け出した。 

「あらやだ、イケメン!私も抱き上げられたいわぁ~」

「黙れ、クズタフ。尻を蹴り上げるぞ?」

 2人共ふざけたやり取りをしているが、やはり当然の様に人間離れした速さで走れる。
 まぁ、その速度に敢えて合わせて走る俺も大概だけど。

 ベヒモスによる地盤沈下の跡地にできた地下街は、大罪教団と美徳教団の研究施設を始め、魔物の素材を利用した様々な商業施設が増えていた。
 坂を駆け降りている最中にも、魔肉料理店や特殊薬剤店を見かけた。
 早く街を元通りにして、寄ってみたいものだ。


「ヌル虚無教団か!」

 1番乗りしたウィリアムが、灰色の教団服を纏う者達を見つけて薙ぎ払う。
 元は配下候補者達の団員達である彼等は、ウィリアムの剣撃をかろうじて避けると距離を取る。

「分別の勇者⁉︎くそっ、加護持ちか!」

「まさか、こんなにも動ける者達が居るとは…!」

 奴等の口振りだと、何かしらの加護を持っていればこの思考停止は防げるのか?

 居合わせた虚無教団員は4人。全員が男で戦士系な奴ばかりだ。
 相手をするなら、反撃させない為にも気絶させるべきだな。

「全員で相手する必要があるのかしら?」

「交戦中なのはまだ先ですね!」

「それなら、ここは俺達に任せて先に行ってくれ!」

 ウィリアムとサラが、奴等を引き受けると教団員達に斬りかかった。
 その隙に乗じてアラヤ達は先に進んだ。まぁ、彼等なら心配ないだろう。

 坂を下り終えたアラヤ達に、既に始まっている戦闘音が聞こえた。

「セパラシオン殿!」

 戦闘中だったのは、美徳教団司教のセパラシオンとその5人の部下達だった。相手は3人だが強いらしい。既に2人の部下が手傷を負っていた。

「おや、街長にギルドマスター殿、彼方達も無事でしたか?」

 歳な筈なのに、杖で無駄なく攻撃を交わす様は流石は司教といったところか。

「加勢するぞぃ!」

 カザックが敵陣に乱入し、虚無教団員達を分散させる。
 そのタイミングに合わせて、グスタフが怪我をしている団員の2人を担ぎ離れた。

「この子達の治療は任せなさい!」

 両脇に抱えられた団員達の顔が引き攣っているのは、この際気にしないでおこう。

「トランスポート君、いくら君の父君が起こした教団とはいえ、優秀な教鞭者だった君までもが改宗することは無かったのでは無いかね?」

「では、美徳教団に改宗するべきだと仰るのかな、セパラシオン殿?」

 トランスポート?確かヌル虚無教団の教皇も同じ名だ。いや、この女性ひとはアスピダ達の施設の責任者だった人か。

「すまないが、私も父同様にヌル様の素晴らしさに感服し改宗したのだ。無意味に競うだけの両教団には、何の魅力を感じないわ」

「理解されないのは、実に残念だよ」

 同時に放ったセパラシオンとトランスポートの風魔法が衝突し、残りの虚無団員がアラヤに向かって来た。

「子供とはいえ、この様な場に居たのが運の尽き。悪いが大人し…」

 子供だと完全に舐めてかかった団員を、アラヤはみぞおちに【一点突貫】の拳をお見舞いした。

「グホッ⁉︎」

 団員は吐血して一撃で沈んだ。防御力はそれなりにあるみたいだから、死んではいないだろう。もう1人は驚き距離を取った。

 俺を捕まえて人質にしようと考えたのだろう。いろいろと失礼な奴だな。
 そもそも、俺の世間での認知度って、お偉方にはそれなりに知られてはいるけど、一般的には皆無なんだよね。

「あの~、街の人々にこの思考停止の状態異常を与えているのは、貴女ですか?」

「…さぁ、何のことかな?」

 トランスポートは、わざとらしくしらを切った。ニイヤの報告をまだ受けていないアラヤは、犯人がこの人だと考えていたのだけど、どうやら的外れっぽい。

「そう…じゃあ結界を張ったのは?」

「答える義理は無いよ」

 それもそうだ。外部と連絡取れてないだけに、情報不足で少しイライラするな。

「セパラシオン司教、ここは任せて良いですか?」

「ん?ああ、構わないよ。老いたとはいえ、邪教徒になど遅れはとらないよ」

 アラヤはこの場をセパラシオン達に任せて、結界破壊に出ることにした。

「何なの、あの子」

 見た目は子供なアラヤが素早く去った後、トランスポートは何故か不安を感じそう呟いた。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 自然洞穴を進んでいたニイヤとバンドウは、二つに別れた道に悩んでいた。

「どっちが正解だ?」

『俺が知るかよ。大体、てめぇは痕跡見えるんじゃないのか?』

「そうだった」

 ちょっと忘れていただけさ。
 ニイヤは痕跡視認を使用してみる。すると、トランスポート達は分かれ道を左に曲がっていくのが分かった。

「左か。…ん?」

『どうした?左なんだろ?早く行かないのか?』

「いや、ちょっとね。見当たらないんだよ」

『何が?』

「一緒に同行していた筈の漁師が、この場所に来た時には居ないんだ」

 念の為に、しばらく先まで確認してみる。ところが、だいぶ早い段階から漁師の姿は見えなくなっていた。

「まさか…。追うべき道を間違えたのか⁉︎」

 しかし、それらしき分かれ道は今まで無かった。それに、今更来た道を戻る気は無い。

「…進もう」

 ニイヤは左の道を選び進むと、徐々に巨大な魔力を感じ始めた。

「ベヒモスの魔力みたいだ。まだ逃げ出していないな」

 多過ぎる魔力量が分からない様に、埋め立て側にはジャミングが施されていたが、海岸側である自然洞穴側にはジャミングが掛けて無い様だ。

「おや、お客様か?」

「えっ⁉︎」

 進んだ先に居たのは、見失っていた漁師の老人だった。

「驚いたな…。暴食魔王に憤怒魔王か…。魔力供給者としては申し分ないが…」

 ニイヤ達を魔王だと見抜いている。やはり只者じゃないみたいだ。

「大人しく引き返すか、魔力を分けてくれたら助かるんだが…?」

『どっちもねぇよ‼︎』

 バンドウが、命令を待たずに老人へと殴りかかる。しかし、拳は当たることなく空を切った。
 老人は、姿を段々と若返りさせながら、バンドウの追撃もひょうひょうと躱している。

「厄災の悪魔か」

「いかにも。我が名はベルフェゴール。魔王様達には、少々、魔力提供者になっていただけますかな?」

 勘で言ったら認めやがった。それにしてもベルフェゴールか。祭壇と禁呪魔導書は海底遺跡にある。
 ヌル虚無教団が海底に攻めて来たとは聞かされていない。つまりは、遺跡が海に沈む遥か昔に、既に召喚されていたということだな。

「悪いが、こっちも逃がす気は無い」

 おそらく街の人々をあの状態にしているのはベルフェゴールコイツだ。

『バンドウ、全力で構わない。奴を協力して倒すぞ』

『うるせぇな、俺に指図するんじゃねぇよ!言われなくても、暴れてやらぁ!』

 怠惰の悪魔ベルフェゴール対ニイヤとバンドウのタッグ戦が幕を開けたのだった。


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