【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第25章 喰う、それは生きる為ですよ⁉︎

371話 気付け薬

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『し、失礼ね!ただの水じゃないわよ。気付け薬として使われてる気付け水を薄めたものを使うのよ』

 水の大精霊アーパスは試しにと、目の前に気付け水を作り出した。

「うっ、やっぱりアンモニアに似たものか!超嗅覚だとかなりキツイ」

『実際にはちゃんと薄めるわよ。このまま原液だと逆に毒になるからね』

 その原液をまともに嗅いだみんなは、鼻が軽い状態異常になっているんですけど?

「でもどうやって、大陸全土に行き渡らせるんですか?」

 鼻を軽く摘みながら尋ねると、アーパスは着付け水を回収してくれた。

『それは、風の大精霊エアリエルが雨を降らせてくれれば大丈夫よ。大気中の湿度が高い状態なら、どこでも気付け水を作れるわ』

『生命体の場所の捕捉はどうするつもりだ?まさか、それまで私にやらせるつもりか?』

『それぐらい良いじゃない。大体、私だって大地の生命体を助ける義理はないわよ?』

「エアリエル様、お願いできませんか?アラヤ君が世界を救う為にした事ですが、この睡眠の放置を続けては、命を失う者も出てくるかもしれません」

『…ん、それは良くないな。アラヤの罪にされるのは納得できない。…仕方ない、合わせるか』

 ただ単に、アーパスから指図されたのが嫌なだけで、エアリエルも別に悪気は無いのだろう。

『それに、そこまで終わらせないと、心からの祝賀会とはいかないな』

『そうと決まれば、さっさと終わらせましょーよ!』

 祝賀会が先延ばしになると考えたアーパスが、俄然やる気になってくれた。

 エアリエルは、分身体アラヤと屋根上へと移動した。
 ここは、公国全てを見渡せる。初めの浮遊邸の時に比べると、今や町程の建物と土地があり随分と広くなったものだ。

『先ずは雨雲を作るぞ』

 エアリエルは両手を広げ、大気中の魔素に働きかける。
 それに呼応した風の微精霊達が、瞬く間に現れ広がり、次々と気圧を変化させて雲を作り出していく。

「流石です、エアリエル様」

 下で見ているイシルウェ達が、その膨大な力とそのコントロールに感動している。

『アラヤ、そのまま其方はアーパスに感覚共有とやらで、感知した反応を伝えるのだ』

「分かった」

 範囲をスニス大陸全土に絞って、エアリエルは大気感知を発動する。
 但し、今回は小さな反応にも照準を合わせる為、通常よりも大変そうだ。
 その反応をアラヤがバイパスし、アーパスへと繋げる。

『んんっ、海よりも抵抗が無くて変な感覚ね。でも、とても鮮明に分かるわ』

 アーパスは、中庭の噴水に腰を下ろして水柱を雲へと立ち上げる。
 そこから、瞼を閉じて大気感知の反応に更に集中する。
 やがて、大陸全土に雨が降り出し始める。

 弱過ぎず、強過ぎず、しっとりとした雨が満遍なく大地を濡らしていく。

『7割は外に出ている生命体だから、早めに終わったわ。でも、残りの3割は建物や地中の中だから、湿気に切り替えるしかないわね。だから時間が掛かりそう…』

 いや、充分に早い気がするけど…。でも、地中にいる生命体って、モグラやミミズとかかな?そんな生命体まで快楽睡眠に陥っているとは思わなかったな。

『9割も満たせば、もう大丈夫だと思うぞ?起きた奴が介護する筈だからな』

 しばらく経って、エアリエルが大気感知の継続が疲れたらしく切り上げようとする。

『…あんまり急かすから、入りにくい建物はちょっと破壊しちゃったわよ?まぁ、そのおかげで今終わったわ!』

 実質、スニス大陸全土の生命体への気付けが、僅か30分も掛からなかった。

「お2人、お疲れ様でした!さぁ、みんなは祝賀会の準備だ!」

「「「はいっ!」」」

 早速、気持ちを食事に切り替えてしまうアラヤ達だったが、ミネルバはいち早く通信室へと向かった。

「今なら繋がる筈…!」

 リッセンも付き添い、通信室の羅針盤通信器をラエテマ王国へと繋ぐ。
 しばらく呼び出し音が流れ、ガチャッと繋がりホログラムが浮かび上がる。

「…!繋がったわ!」

 浮かび上がった人物はエドガーだった。

「な、何だこれは⁉︎触ったら勝手に動いたぞ⁉︎」

「おい、エドガー!」

「むっ⁉︎その声はリッセン?貴様、今何処に居るのだ⁉︎」

 羅針盤にしがみつく様にエドガーの顔が近付く。

「リッセン、邪魔をしないでちょうだい。エドガー、私よ、ミネルバよ」

「み、ミネルバ様⁉︎」

「今のそちらの状況を知らせてくれないかしら?皆、無事に目覚めた?父上は?兄上達は?」

「あ、あの、ミネルバ様。仰る意味が分かりません。皆が無事とは?それに、何故なのか、王城の形容が変わっているのですが…」

 ホログラムに映るエドガーは戸惑っているようで、色々と話が噛み合わない。

「それで、ミネルバ様とリッセンは、今どちらに居られるのですか?」

「私達?今はズータニア大陸からスニス大陸へ向けて海上を進んでいるところよ」

「……え⁉︎海上⁉︎船にお乗りなのですか⁉︎い、いつの間に王宮からお出に⁉︎いや、それにズータニア⁉︎国外じゃないですか‼︎」

「落ち着きなさい!私が同盟国である空中公国月の庭モーントガルテンの親善大使になったのは、エドガーも知っている事でしょう?何を今更騒ぎ立てるのよ?」

「同盟国?ミネルバ様が親善大使⁉︎ハハハ、分かりましたよ?ミネルバ様のいつもの御冗談ですね?」

 受け入れられなくなったのか、全てが冗談だと思ったようだ。
 ミネルバは思考を切り替える為に、エドガーにしばらく周りの状況を確認させ、今の王宮内の状態を調べさせた。

「ミネルバ様が仰るように、皆が確かに先刻は眠っていた様です。しかも王城や王宮が、まるで戦があったかの様に痛んでいる事に驚いております」

「何を言ってるエドガー!厄災の悪魔との一戦を忘れたのか⁉︎」

 興奮したリッセンがミネルバの前に出て、エドガーが映る羅針盤を揺らす。
 その後頭部を、ミネルバが何度も強く叩き退かせる。

「エドガー…、今日の日付けを教えてくれないかしら?」

「日付けですか?えっと、今日は雨竜月(4月)の空神日です」

「王暦は?」

「ラエテマ歴は、765年です。ミネルバ様は今年で節目となる10歳になられますね?」

「違うわ。私はもう10歳を迎えている。エドガー、今は766年花竜月(3月)よ。貴方が言っているのは1年も前の日付けじゃない」

 どういう事?
 アスモデウスの災害や、グルケニア帝国との戦争まで忘れているなんて、まるでみんなの記憶が無くなったみたい。

「リッセン、エドガーにこの1年の出来事を説明してあげて。正確によ?ふざけた説明したら追い返すからね?」

「…はいっ!正確にですね?やだなぁ、ふざけた説明って何ですか?ハハハ…」

 信用が足りないリッセンに、ミネルバは疑いの目を向ける。
 この男は肝心な時に自分の都合の良い嘘をつくところがある。なので、念を押しておく事にした。

「もし、国際問題に発展しかねない間違いの情報を伝えた場合、月の庭ここから飛び降り自害します」

「…はい、大丈夫です!」

 その表情はまだ真剣味が足りない。

「…私がです」

「な⁉︎何でミネルバ様が⁉︎」

「当然でしょう?私はラエテマ王国代表の親善大使ですよ?同盟国との関係を悪化させる様な虚偽の情報を伝えたとあっては、責任者である私が罰を受けなければ許されません」

 これにはリッセンは青ざめて、絶対にそんな事態にはなりませんと、正確な説明を約束してくれた。

「私はこの事態を、皆様にお伝えしてきます」

 ミネルバはリッセンに後を任せ、アラヤ達の下に急いだ。
 既に賑やかな声が聞こえてくる。
 みんなは、大食堂へと集まっている様だ。

「あの、アラヤ殿!聞いて頂きたいお話が…!」

 ミネルバは、真っ先に分身体アラヤに話しかけた。
 ところが、アラヤだけじゃなく、みんなが食事に夢中になっていて気付かない。

「ちょっとみんな!一回、食べるの中断なの‼︎」

 突然、チャコの声が響き、ようやくみんなの手が止まった。

「ミネルバちゃんがお話しあるって!聞いてあげようよ?」

 同い年のチャコは、ミネルバとも仲が良い。そこに、王女と馬子の身分差は初めから無かった。

「すみません、ミネルバ殿。チャコもごめんね。…それで、どうかされましたか?」

「実は…」

 ミネルバは、ラエテマ王国の目覚めた者達の状態を伝えた。

「1年の記憶が無い⁉︎」

「う~ん、それって俺達がこの世界に来たらへんからって事?」

「正確には、転移後直ぐの辺りよ」

「もしかして、スニス大陸のみんな?メリダ村長も、ガルムさんも記憶を無くしたの?」

 浮かれモードから一転、みんなに不安が広がった。

「待って?その前に、アラヤ本人は目覚めたの?」

『いや、それが気付け水を使っても、全く目覚めないのだ』

 アーパスが原液まで使用したらしいが、全く効果が無かったらしい。

「まさか、アラヤまで記憶を1年無くしているって事はないよね?」

「「「…ま、まさかぁ?」」」

 みんなの不安が更に高まる。そこで、リズがカオリの絵本を思い出して言った。

「眠っている王子様を目覚めさせるのは、王女のキスなんでしょー?あれ?王女様に王子様だったっけ?」

「き、キスか…!」

 リズの発言をキッカケに、眠るアラヤの前に、ズラリと横並びに立つ嫁達。
 彼女達は、正直、自分じゃ目覚めずに、他の嫁で目覚めたらどうしようと怖がっている。
 その後ろで、アラヤの分身体であるニイヤ達は、自分の嫁であるにも関わらずに、今更だが本体にキスするのは正直妙で嫌な感じがしていた。

『…アラヤには、私がするのが筋だろう』

 嫁達よりエアリエルが前に出て、寝ているアラヤに優しくキスをした。


「…あれ?エアリエル?」

 アラヤは、今まで普通に眠っていたかの様に、ゆっくりと目を覚ました。

「「「起きた‼︎」」」

 まだ続くと思われていた快楽睡眠が、本当に妻の一回のキスで目覚めたのだった。
 愛のあるキスは、正に夫を目覚めさせる1番の気付け薬と言えるのかもしれない。
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