【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

388話 晩餐会 ①

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 月日は流れ、前世界でいうところの7月に当たる青竜月。
 ムシハ連邦国では新たな代表国王にエルフが初めて選ばれるなど、世界情勢に新たな動きが現れた。
 グルケニア帝国も、パオロ皇帝の地方の貴族主義を改めた新政策は順調に進み、反乱分子の火種を着々と鎮火しているようだ。

 そんな、ムシハ連邦国と帝国側から空中公国に通信が入った。

「2国共に、式典への招待?」

「はい。帝国側は建国際、ムシハ連邦国側は代表国王が誕生したバラキイ国での祝賀会です」

「目的は?」

「おそらく、両国共に公国との同盟の足掛かりにしたいのかと」

 通信に対応したのは、ラエテマ王国の第3王女であり親善大使でもあるミネルバだ。
 彼女は再び月の庭モーントガルテンの住人として、この仕事を受け持ってくれている。

「同盟自体は良い話だけどね。そうなると、モーントガルテンと同盟国じゃないのは魔人国家ソードムだけとなる。事実上の平和条約みたいなものかな」

「…乗り気ではないように見受けられますが…?」

「まぁね。各国間の問題の板挟みになりそうで嫌なんだ」

「みんな仲良くで、をかけられては?」

「サラッと物騒な事を言うね…」

 来た当初にあった階級社会の距離感は無くなり、彼女もかなり打ち解けてくれた気がする。

「私の見立てだと、も兼ねている気がしますけど…」

「うっ…。そういうのはパスしたいな…」

 御披露目。繋がりを求めて政略結婚を狙い、王族の王女達を顔合わせする目的。
 確かに、その考えはどの国でもあるだろう。ゴーモラ王国もそうだしね。
 そうでなくとも、今は外出による防衛力の分散は避けたい。
 来たるアシヤの侵攻に向けて、モーントガルテンでは施設改装と、軍事力の増強が進んでいる。
 結界の隠蔽効果で外観の砲台等は見えないものの、他国の領土に降りる際は露見しないか細心の注意が必要だ。

「それならば、両国の招待には一度辞退させて頂き、後日、代表者達を公国で晩餐会にお招きしてはどうでしょう?」

「いやいや、流石に招待を断った相手からの招待に応えるとは思わないよ?それに、公国の内情を知られるのも…」

 そこに、アヤコが赤子をあやしながら現れた。因みに彼女の子供は女の子で、名をミサオと名付けている。

「アラヤ君、逆に有りかもしれませんよ?私には、中立であるこの国の存在が、各国の抑止力となると思います。見せつけてやりましょう、我が国の軍事力を」

 それじゃ、ミネルバのみんな仲良くの案と一緒じゃないか。
 だが、これといって他の打開案があるわけでもないんだよね。
 それに、別に帝国と仲良くありたいとは思ってないし。

「じゃあ任せるよ。両国が応じるなら、公国で晩餐会を開き招待するといい」

「分かりました」

 ミネルバはどこか楽しそうな表情で頷くと、通信室へと戻って行った。

「彼女も、久々に外交に携わる仕事ができるから、嬉しいんだと思いますよ?」

「ああ、そういう事ね」

 確かに、彼女が再び公国に戻ってからは、アシヤの問題等で管制室はあまり機能していなかったし、記録仕事も退屈だっただろう。

「まぁ、そもそも両国の招待に参加しないと公言した時点で、この話は終わりだろうけどね?」

 そんな話をしていた次の日。

「両国共に、招待に参加するとの事です!日程と晩餐会の規模については、アヤコさんに訪ねれば良いですか?」

「え?あ、うん。というか、招待を断った事に怒ったりとかは…?」

「ムシハ連邦国側は、少しだけ不満を述べましたが、こちら側が招待すると分かると喜んでいましたよ?帝国側はただ招待に有難いと仰っていました」

 なんか、あっさり承諾されてしまった。ひょっとして、向こうも願ったり叶ったりだったとか?
 相手の思惑はともかく、両国を招いての晩餐会を開く事が決定した。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 晩餐会の開催場所は、帝国と連邦国(マネーシー国)との境界線にモーントガルテンが着陸し開催する。
 その際の両国内への侵入にはご了承願います。
 参加人数は、従者等を含めた20名までとし、全員の入国が完了し次第、警護の為に上空へと浮上します。
 尚、時間は7時からを予定しているが、終了時刻は未定なので宿泊の用意もしてあります。

 この通信が両国に伝えられ、約束の期日となった。

 15台の馬車が2列で並走しながら進んで来る。その横には騎士が警護につき、馬車の後ろには50名程の騎兵達がついてきていた。

 馬車にはグルケニア帝国の国章がある。
その中央に一際派手な馬車の窓が開けられ、外の様子を伺う。

「うむ、見えてきたな」

「以前より大きくありませんか?」

 視界に映ってきたのは、遠くからでも分かる程に拡張したモーントガルテンの姿だ。

「以前は村程度であったが、今は街規模といったところか」

 その全貌を見て気に食わない表情を見せるパオロ皇帝に、相席している忠義の勇者コーリー=スナイプスはただ黙っていた。
 前回来た時は、見えない大精霊とやらに皇帝はサンダーランスを浴びせられた。
 威力は無かったとはいえ、守れなかったのは自分の失敗である。
 今回はそうならぬ様に、更なる警戒と集中が必要だ。
 気合いを入れる2人が乗る直ぐ後ろの馬車には、皇帝の第2夫人であるペニチュア妃とその娘であるカチュア姫が乗っていた。

「母様、カチュアはとても不安です。今から向かうのは飛行艇ではなく、あの大地なのですよね?大地が空を飛ぶ筈がございません。きっと連邦が企む罠なのではありませんか?」

「カチュア、口を慎みなさい。陛下がそのような事を見抜けぬ筈がないでしょう。陛下が従えと仰るなら、選ばれた私達は従うのみです。今回、貴女には大切な大役があるのですから、今はそれに集中なさい」

「…はい、母様」

 カチュアは手鏡を取り出し、自身の化粧を確認する。
 今までで一番のドレス衣装を用意され、化粧は母の専属が担当した。
 皇帝の気合いの入り方が違う。それが意味する事を理解できぬ程、カチュアは幼くはない。

「馬車が止まったわ」

 扉がノックされ、従者から降りるように呼ばれた。

「ああっ⁉︎」

「カチュア、はしたなく口を開けるのではありません!」

 先に降りたカチュアは、その見上げる大きな土塊に、ただ圧倒されていた。

「見ろ、向こうには連邦の軍も来ているぞ!」

 騎兵が騒ぎ見ている先には、ムシハ連邦国の軍隊が、陣地を作るべくテントらしきものを設置していた。
 そもそも、この場所は国境まで100m程度しかない。その先は連邦国の領土なのだ。

「我々も陣を張る準備を始めろ!」

 競うように帝国兵達も陣地作りを始める。

「母様、これはやはり…」

「私達が向かうのはあちらみたいです。兵達には私達が戻るまでの間、ここを死守してもらうのです」

 母が歩き出したのでついて行くと、1人の女性と竜人ドラッヘンが正装姿で待っていた。

「お待ちしておりました。グルケニア帝国皇帝パオロ陛下、並びに来賓の皆様方。私共は案内を任されましたアヤコと、主様と申します」

「あ、主様?」

 初めて見る竜人に驚きながら、それが亜人には普通の名前なのかを疑問に思っていると、竜人はこちらに気付いて微笑んだ。

「招待できるのは20名までです。お決まりでしたら、こちらのゴンドラへとお乗りください」

 ゴンドラと呼ばれたその鉄籠は、四つの角から鉄の紐が頭上へと伸びている。その先は高すぎて見えない。

「まさかこれに乗…」

 カチュアはペニチュアに手を掴まれて引き寄せられる。

「さぁ、私達も乗りますよ」

 母は気丈に振る舞っているが、その手は微かに震えていた。
 ゴンドラに搭乗したのは、パオロ皇帝、勇者コーリー、宰相、大臣、ペニチュア王妃、カチュア姫、近衛兵、従者、侍女の計20名。
 他の兵士達は陣地にて待機である。
 
 ガコンとゴンドラを音を出して動き出した。風揺れもなくどんどんと上昇する。
 ただ、誰一人として下を見下ろす者はいなかった。

「到着しました」

 着いた目の前には高さ20m程の防壁が聳え立ち、大きな入り口があった。門は解放してあったが、その扉の厚さたるや、大砲でも簡単には破れないと分かった。

「皆様方、どうぞお入りください。公国はまもなく浮上致しますゆえ、その場では危険でございます」

 昇降場には手摺りがあるけれど、確かに簡単に落ちてしまいそうだ。
 皆はやや駆け足で門をくぐり、公国への入国を果たした。

「か、母様…」

「お、落ち着きなさい」

 門を抜けた先には、帝都に負けず劣らずの大きな建物が幾つか建ち並び、街道の両端には綺麗な花が咲き誇っている。

「西門、皆様到着しましたので閉門致します」

 竜人の男が、あの分厚い扉を1人で閉めていく。近衛兵達はそれを呆然として見ていた。

「下で連邦国の奴等を見かけたが、奴等はもう入国したのか?」

「連邦の方々は、先程皆様が東門から入国なさいました」

「むぅ、我々が最後だったか」

 父と勇者はこの場所に落ち着いている。一度来たことがあるという話は本当だったようだ。

「さぁ、皆様方、こちらへどうぞ」

 案内されるままに移動するカチュア達は知らなかった。
 下で待機していた兵士達が、凄い速さで浮上するモーントガルテンに、揃って腰を抜かしていることを。
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