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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

389話 晩餐会 ②

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「わぁ…」

 案内されている道中、帝都では見た事の無い花々が綺麗に咲いていて、カチュアは思わず声を漏らしてしまった。

「カチュア、声を…」

 カチュアを戒めようとしたペニチュアを、パオロが止めた。

「良いのだ。皆も気にする事は無いぞ。初めてここに訪れた者達は、驚きを抑えられぬものだ。かくいう私も、前回来た時より発展していることに驚いているからな」

 以前よりも建物は増え、各属性の微精霊が至る所で戯れている。
 こんな場所は世界中探しても無いだろう。
 防衛面でも、抜かりは無いようだ。
 各建物の壁はレンガが表面に貼られているが、その下には門扉並の厚さの壁があるようだ。
 更に入り口横に設置されている石像は、見るからに動き出しそうな竜人ドラッヘンの兵士像だ。
 無論、緊急時には動き出すに違いない。

「陛下、あちこちに微精霊が居ますが、8つの塔からは、大きな精霊の波動を感じます。おそらく中位精霊級かと」

 今回は同伴者の中に、精霊視認ができる魔術士を連れて来ている。見えるのが自分だけでは、対処ができないと判断したのだ。

「コホン。…アヤコとやら、は、大精霊は来ておるまいな?」

 パオロが警戒しているのは、前回怒らせてしまった光の大精霊ミフルだ。
 それと遠回しに、契約者パートナーである美徳教教皇のヨハネスが居るかを知りたいのだ。

「今回は、我が大公の奥方であられる風の大精霊エアリエル様だけがお参加でございます」

「か、か、風の⁉︎お、奥方⁉︎」

 連れて来た魔術士は、既に情報の処理が限界が近いようだ。
 驚きを先に奪われ、パオロはそうかと頷くだけで済んだ。

「か、母様、あの噴水が見える場所は、見覚えがあります」

「そのような訳が……、あら、確かにそんな気が…」

「母様、絵画ですわ。屋敷に飾られてある絵画と同じ景色なのです」

「ああ、その絵画はおそらく、我が国の絵師であるタオが描いた絵画でしょう」

「あの有名画家が此処に?」

「まだ晩餐会には時間がございます。宜しければ、後でお呼びしましょう。記念に肖像画を残されるのも良いかと」

「是非、お願い致しますわ!」

 肖像画の話に、カチュアよりも先にペニチュアが食い付いた。

「先に皆様方には、この来賓館へと入場して頂きます。その際に、他の者が立ち入り可能な地域の案内は致しますので、お時間が来るまで御ゆるりと御寛ぎ下さい」

 着いた来賓館の建物は、どの建物よりも豪華に作られており、内装には見た事の無い貝混じりの砂の壁が多彩な模様で広がっている。

「…連邦の者達も、同じこの来賓館に居るのか?」

 警戒するコーリーと近衛兵達の前に、人狼ヒューウル姿のクララとディニエルが現れる。

「はい。西側のフロアには、連邦国の来賓の方々が居られます。しかし、当館は期間中は左右均等に結界で分けられておりまして、館内での接触はできないように設定されております」

 コーリーが中央通路の空間に手を伸ばすと、見えない壁らしきものに遮られる。

「うむ、これは容易では無いな(結界の破壊突破)」

 コーリーが納得した事で、近衛兵達も安心したようだ。
 帝国と連邦国は不可侵条約を結んでいるとはいえ、前代表国王は反乱により崩御している。安心はできないのだろう。

「時間まで、どうぞお寛ぎ下さい」

 帝国側がようやく落ち着いて来た頃、西側の客間にいる連邦国の来賓達は少し揉めていた。

「貴様はエルフの誇りを忘れたのか⁉︎」

 騒ぎの中心にいるのは、代表国王に即位したばかりのエルフ、バラキイ国のクルゴン王だ。

「失礼ですが、貴方様の仰る誇りが、全てのエルフの誇りと同意だとは理解しかねます」

 クルゴン王の逆鱗に触れているのは、館内の補佐役に居たアルディスだ。

「【暮れ火の森】の長であるアルディス、貴様は風の大精霊エアリエル様の擁護者という立場でありながら、人間ノーマルにその御身を渡した挙句、自身もその様な奴隷の如き生業を強いられるとは、エルフの恥と言わずして何と言う!」

 まるで演劇の様に熱の籠る主張をするクルゴンに対し、彼女は失笑する。

「フッ、勘違いも甚だしいですね!【囀る湖畔】の長クルゴン、私はそもそもですし、エアリエル様が旅立たれたのは彼の方の意思!そしてこのメイドという生業に身を置くのは私の意思!そこにエルフの誇りという埃はありません!」

 怒りにプルプルと震えるクルゴンは、側近のエルフ達に抑えられ仕方なしにソファに腰を下ろした。

「…貴様が堕ちるのはこの際構わん。もはや連邦国の住民では無いからな。…だが、聞けばこの国にはドワーフも住んでるそうではないか。これはどう申し開きするのだ?」

「ハァ…。別に何もございませんが?この公国ではあらゆる種族の共存が認められています。貴方が思う様なドワーフばかりでは無いですよ?貴方も数ある国を任される身になったのですから、もっと見識を広めた方が良いですよ、クルゴン代表国王?」

「き、貴様‼︎」

『ええぃ、止めんか‼︎』

 今にも襲い掛からんとしたクルゴンと、すかさず迎え撃つ構えをした2人の間に、エアリエルが出現した。

「「エアリエル様‼︎」」

 その場に居たエルフ達は、直ぐに皆跪き首を垂れる。

『今日は我が参加する晩餐会ぞ。クルゴン、其方の祝賀会も兼ねている。それを台無しにして里に帰りたいのか?』

「滅相もございません!エアリエル様からの祝辞を賜われる誉れを無下にするなど、眷属たる我々にはあり得ません」

『アルディスよ、其方も何を熱くなっておる。この者達の世話は、アスピダとアフティに任せてあっただろうに』

「申し訳ありません」

 かつての同胞を見て、いかに自分達が閉ざされた世界に生きて来たのかを再認識した。
 だからつい、彼女は彼等に刺激を与えたくなったのだ。

『晩餐会は2時間後だ。今は体を休めよ』

「はい、お心遣い感謝致します」

 エアリエルが去ると、クルゴンは力が抜けた様に再びソファに座った。

「…当館を出て北に進めば浴場があるわ。全大精霊の【加護の湯】、興味があるなら行ってみると良い」

 アルディスが部屋を去り際にそう呟くと、クルゴンは無視する態度を取った。
 だが、さほども経たずして、ソワソワとしだした。

「い、いつもの沐浴でも構わんのだが、せっかく他国へと来たのだ。我々に用意したものを堪能しないというのも、無礼というものだ。まぁ、こんなものかと嘲笑ってやろうではないか。さぁ、行くぞ!」

 結果、その湯の効能と気持ち良さに、彼等はのぼせる直前の状態になるまでお風呂を堪能したのだった。


 …2時間後。

 大食堂の東西の入り口の扉が開放された。
 別々の入り口から入場した両国の来賓達は、座席に置かれてある自身の名札へと案内される。
 円卓の上座寄りに、皇帝一族、国王一族が座り、宰相や大臣はそれに続く。
 円卓より少し後ろには立食テーブルが置かれ、護衛を担う兵士達にも会食できるようにしてあった。

「皆様方着席致しました。それでは、今宵の晩餐会の主催者である、大公陛下と皇后様の来場でございます」

 アヤコの紹介が入り、北入り口からアラヤとエアリエルが入場する。
 その場に居た来賓達は、その姿に息を呑んだ。
 エアリエルのその整った顔とスタイルは、正に絶世の美女という言葉が相応しい。

「あ、あれが風の大精霊、エアリエルか…」

「おぉ、美しやエアリエル様…」

 皆が薄緑ドレス姿の彼女に注目するあまり、アラヤが目立たなくなっている。
 卓前に着いたアラヤは軽く咳払いをした。

「コホン。え~、此度は空中公国月の庭モーントガルテン主催の晩餐会に参加頂き、誠に嬉しく思う。グルケニア帝国並びにムシハ連邦国の代表である皆様方、諸事情により両国の招待に参加できなかった事を先ず詫びます。代わりに、今宵の晩餐会にて、その埋め合わせ及びに両国との親睦を深めれたらと思う。大いに楽しんで頂きたい」

 アラヤの演説に、彼を知らない帝国の母娘を初めとした大臣達や、エアリエルからようやく目を離せたクルゴン達は、あれが大公なのか?と目を丸くしている。
 だが、パオロ皇帝と勇者コーリーが拍手をした事により、次第に自分達もせねばと気付いたようだ。

「か、カチュア、貴方の役目は分かっていますね?あのお子…お方がそうですよ」

 母が視線を下ろさぬまま、カチュアのドレスの端を軽く引っ張り合図を送る。

 今回の彼女の役目は、大公に顔合わせの挨拶をすること。そして好印象を残し、後日の交渉に活かせるようにする。

「む、む、無理ですぅ…」

 しかし、当のカチュアは、アラヤと微笑み合うエアリエルの存在に、既に心が折れているのだった。
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