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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

402話 願い、そして決着

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『吹き飛べガラクタども‼︎』

 暴風竜エンリルの力任せの衝撃波に、最後の魔導機兵アラーニェは脚がもげながら50m程吹き飛んだ。
 フンと鼻息を鳴らし、エンリルは辺りに広がる残骸の山に満足した。

 その少し離れた場所でも、丁度戦いが終わるところだった。

「グハッ…!」

 槍を地面に突き刺し、地面に膝をつかんと堪える。
 寛容の勇者ユートプス=モアの魂が入ったゴーレムは、満身創痍の体ながらも、懸命に戦いを続けようと相手を睨む。

「残念だが、この勝負は俺の勝ちだな、槍使いの勇者。テメェの槍技もまあまあ強かったが、俺と違ってまだまだその体に慣れてねぇのが敗因だ」

 ゴーレム体になって、実戦経験数と訓練数が勇者よりも長いバンドウは、ゴーレム体をもう自分の体として上手く使えるようになっていた。
 彼は【生命の檻】に入っている間も、その点の努力は怠らなかった。
 この体では、ニイヤの実力に及ばない自分に怒っており、それを原動力としていたようだ。

「じゃあな、俺の目的の為に死ね」

 バンドウは彼の槍を蹴り払い、顔面へと特殊技能ユニークスキルの【怒髪天武】を乗せた拳で撃ち抜いた。

「がっ‼︎⁉︎」

 痛覚は無い体だが、首が取れた反動による脳が揺れた様な感覚は、ユートプスに敗北感を与えるには充分だった。
 コロコロと転がる頭は空を見上げて止まった。
 体と分断されたことにより、間も無く意識も消えるだろう。

「…私の負…けだ。ホムンク…ルス全員に告ぐ。最終任務を…実行…せよ…」

 これは、アシヤにあらかじめ決められていた命令だった。
 ユートプスが敗北した場合には、生存しているホムンクルス達全員に命令が下される。

「「「「ライフバースト‼︎」」」」

 意識ある全てのホムンクルスが、火属性の自爆魔法を使用した。
 術者の全ての魔力を使い、内側から破裂させ辺りを巻き込む自爆魔法だ。
 本来ならば、その威力は手榴弾の比じゃないが、現在のソードムにはアシヤが発動した複合魔法により魔法は全てスライムに吸収されてしまう。
 結果、ホムンクルス達はそのまま、命の代わりである魔鉱石から魔力が無くなり動かなくなった。

「自ら魔力を吸われるなど、彼等は何がしたかったのでしょうか?」

 アスピダの盾にしがみついていたホムンクルスも、自爆魔法が不発に終わった事により土塊となり崩れた。

「さぁな。だが、大地を見よ。彼等の犠牲により変化が現れたぞ?」

 大地を這っていた魔力を吸う草が、一度枯れて新たな新芽を出した。
 その現象が、この戦場跡から四方に広がり始めた。

「主様、これは一体…」

「最後は、自分達で終わらせるつもりだったかもしれん」

 最後のホムンクルスの犠牲で、ソードム全土に浄化の範囲が広がったのかもしれない。
 術の効果範囲が予め決められていたのなら、この術の終わりの可能性も充分ある。

『ガハハハハハ‼︎我に感謝しろよ?帰ったら最高キューという葡萄酒ワインの樽を献上するが良い!』

 ともあれ、圧倒的な戦力差を覆して勝利したのは、魔導機兵アラーニェを抑えていたエンリルの働きが最も大きい。
 帰ったら、アラヤからそのくらいの報酬はあるだろう。
 それに、最近は魔法に頼りきりな面もあったから、犠牲となった多くの魔導ゴーレムにも感謝だな。
 敵を分散して相手できなければ、主様やクララでも危なかっただろう。

「さぁ、早いところ後片付けを済ませて、月の庭モーントガルテンに帰るぞ!」

 ソードムのホムンクルス魔導機兵隊対、モーントガルテンの物理特化部隊は、モーントガルテンに軍配が上がったのだった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 そこは、モーントガルテンの地下にある魔鉱石場。
 室内は広く、魔導ランプが設置されていて明るい。
 太いケーブル状の管が幾つも床に有り、中央にある水晶の置かれた台座へと繋がっている。
 

 室内には、2人の他にアヤコやソルテ、捕まった筈のノアとアグリも居た。
 この部屋に来た当初、室内ではソルテがノアとアグリと話し合っており、ベルフェル司教が水晶に杖を向けていた。
 水晶を壊されたら、モーントガルテンを浮遊させている巨大魔鉱石への魔法供給が絶たれてしまう。

「我々には戦う意志は無い。先ずは話を聞いて欲しい」

 カオリ以外は、その彼の話を直ぐに信じた。だから、こんな状況にも関わらず彼等は大人しくしているのだ。

「カオリさん、彼等の狙いが真実なら、私達はただ待つしかありませんよ」

「だからといって、水晶を壊されたらモーントガルテンを上手く維持できないわよ?」

 立ち疲れたのか、台座の横にある少し埃っぽい椅子に座ったベルフェルは、持っていた杖を腰へと収めた。

「これ以上は意味がありませんな」

「それはどういう事?」

 彼と対峙していたカオリは、彼が戦う意志が無いのを見て、自身もゆっくりと杖を下ろした。

「たった今、ソードムの地上に掛けていた、私とアシヤ殿の新生禁呪魔法【大地輪生】が目標であったソードム全土の浄化を完了したのです」

「新生禁呪魔法ですって?貴方は、私達がどれだけ大変な思いをして禁呪魔法を処分したか知っているでしょう!何でそんなものを作ったのよ⁉︎」

「それは、浄化が私の願いだったからですよ。アシヤ殿はそれを利用して良いのならと、協力して下さった。私としては、スニス大陸の地下通路も、この魔法で浄化したいと考えていましたがね。そちらは許可して頂けなかった」

「無差別な殺人じゃない!ダメに決まってるでしょう!」

 確かに、あの地下通路に住まうドワーフ達は犯罪者や荒くれ者が多いが、まともなドワーフも当然居る筈である。

「それは違いますよ、カオリ殿。この魔法に吸収された人間は、一生魔力無しとして新たに大地に産み落とされます。殺害そこはアシヤ殿が折れなかったので。今頃、要塞都市でも大勢の魔力無しが現れているでしょうな」

「え?え?死んでないの?」

「はい。この魔法は、巨大なスライムがあらゆる生命体の魔力を根幹から食べる事で、大地を浄化するというエコ魔法です。ただ、生命体の魔力は細胞レベルまで溶かす必要があるらしく、全く同じ生命体として戻れるかは……未確認ですがね?」

 ただ、ホムンクルスやゴーレムは魔鉱石が動力源なので、生命体では無いと判断される為に復活は無いらしい。

「…結局、アシヤは何がしたいのよ?」

「ですから、先程からお話しした通り、我々は待つだけで良いのです。決着はアラヤ殿が決めて下さるでしょう」

「そんなの、アラヤが可哀想なだけよ…」

 カオリの一言に、みんなはただ無言になり俯く。
 上での衝撃音がこの地下魔鉱石場にも届き、その時が近いと分かるのだった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

『おい、俺達も避難するぞ!』

 管制室が大破して、火属性中位精霊サラマンドラとアー君は、崩壊を始めた住居棟から脱出した。

「これは、俺にも止められないな…」

 崩れる建物内でも、激しい打撃音が聞こえていて、瓦礫が辺りに飛んでいる。
 狂戦士化したアシヤの猛攻は凄まじく、大差があったアラヤとのステータスにかなり拮抗していた。

「くそっ、止めるんだアシヤ!」

 だがそれもステータスのみであり、技能スキルはアラヤが全て上位互換にあたる。
 更に、アシヤの体はベルセルクルの反動により、回復ができない程に悲鳴を上げていた。

「…やるしかないのか⁉︎」

 頭では理解しているが、決断がつかない。このまま放置していれば、アシヤは勝手に死んでしまうだろう。
 状態異常に耐性が無い相手なら、安全に止める方法はあったのだが、アシヤは全ての状態異常に耐性がある。
 残された方法は、2%以下の体力に上手く加減して削る事。
 そして、あの特殊技能ユニークスキルを使う事だ。
 こんな状況だというのに、それを考えただけでお腹が空いてくる。

「グルルルッ‼︎」

 血混じりの涎を垂らしながら、アシヤは攻撃を止めようとはしない。
 皮膚を切り裂く程に速い引っ掻きを躱し、アラヤはとうとう決断を下した。

「【弱肉強食】‼︎」

 アシヤの肩を噛み千切り、アシヤの全ての技能を奪ったのだ。
 徐々に、アシヤのベルセルクルの魔法は解除され、アシヤの狂戦士化は解かれた。

「ぐぅっ…!」

 肩を押さえて蹲るアシヤは、痛みに耐えながらアラヤを見上げた。
 アラヤは、食奪技能イートハントの快楽で意識が朦朧としているようで、立っているのがやっとだ。

「ハハ、やっと使ったか…」

『…アシヤ』

 彼の後ろに風の大精霊エアリエルが寄り添う。
 彼女自体に掛けていたジャミングも、アシヤの技能が無くなった事により解除されたのだ。

「…エアリエル様、これで俺の願いは達成です。ようやく、長く続いていた不幸な争いがしました」

『お主の根底はやはり、アラヤなのだな…』

 アシヤは、血と汗だくの顔でニコリと無理矢理に笑顔を見せている。
 だが、その視線は彼女を捉えていない。既に精霊視認の技能も消えているのだろう。
 アラヤが快楽睡眠に陥って倒れると、アシヤは安心したのか、そのまま意識を失って倒れた。

 そして世界の空は赤く染まり、2度目となるが訪れたのだった。
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