ナニカがタリナイ

葉っぱちゃん

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洗脳

始末

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ある日、二人の誕生日を迎えた。

その前日――
一颯は、静かにメッセージを書いていた。

白紙に走るシャープペンシルの音。
途中で、ペンを強く握り締める。

もう一人の自分――影は、眠っている。
何も知らないまま。

だから、

自分がやる以外、ない。

彼奴は絶対に守る。
影は優しすぎるから。
壊れるのは、俺だけでいい。



◇◇◇_______________◇◇◇



「行ってきます」

翌日。
二人の誕生日。

自分と兄の誕生日。

ケーキを頼まれ、店へ向かう。
影の好きなショートケーキを選び、
兄の分も一応選んだ。

一颯は、少し寄り道をした。
ケーキ屋以外も見て回る。
ジュースも買った。
キャップ付きの、少し大きめのもの。

今日はなぜか、
今までより祝いたい気分だった。

……なぜか。

いつも通りでいいはずなのに。
わざわざ、こんなに準備しなくていいはずなのに。



「梢、誕生日おめ――」


帰宅。
部屋のドアを開ける。

足が、浮いている。

椅子。
縄。
異様な空気。

「……え?」

影は理解できなかった。

限界だったのだろう。
兄は、先に逝ったのだと。

光景は、今も鮮明だ。



――気づけば、影は倒れていた。

衝撃が強すぎた。

その隙に、一颯は立つ。

兄を見下ろし、
小さく笑った。

用意していた置き手紙。
だが、まだ足りない。

ブラインドを閉める。
カーテンを引く。
外から見えないようにする。

回収。
折り畳む。

そして、別の手紙を置く。

影の筆跡を真似て書いた言葉。

『愛する梢へ  
誕生日おめでとう。  
約束してたあの場所、俺も行くから先に行ってて』

隠し言葉。
俺の存在を、どこかで知ってほしかった。

なぜだろう。
苦しかったのかもしれない。

本物の置き手紙は、口に含み、
買ってきたジュースで流し込んだ。

震えが止まらない。

足先は、もう動かない。

悪魔が消えた。

自由だ。

ここは影の部屋。
兄はいつも侵入してきた。

依存。
共依存。

俺は違う。
こんな奴に依存なんてしない。



守れれば、それでいい。

影だけ守れれば。

それだけで。



「あ、はは……」

涙が出た。

叫ぶこともできない。
ドラマのようにはいかない。

俺は本当に、やったのだ。

あの過去の事件。
メディアの騒ぎ。
全部、思い出す。

うるさい。
質問攻め。
正義面(せいぎづら)。

全部嫌いだ。



「梢!梢!!」

母の叫び声。
父の慌てた足音。

遺書はあった。

『影、愛してるよ。弱いお兄ちゃんでごめんね。』

気持ち悪い。

ポケットにしまう。



警察が来た。

「影くん。何か心当たりは?」

「……分かりません」

完璧だ。

俺の部屋。
俺の証言。
影の手紙。

「一緒に行きたい場所があって……」

震えは本物だ。
第1発見者なのだから。

事件は自殺で処理された。

ニュースにもなった。
過去の事件の犯人が自殺、と。

メディアはまた群がった。

弟は震えていた、と報道された。

インタビューを拒否。
固く口を閉ざす。

喋らない。

影が拒否しているからだ。
影との関係を切りたくない。

だから俺は、黙る。



その後、施設が再び関与を示唆した。
事件の再調査の噂。

構わない。

影は最初だけ、俺に頼った。
それでいい。

俺が守る。
兄なんて、居ても壊すだけだ。



十数年、苦しかった。
楽しいなんてなかった。

唯一の友達も、
全部失った。

もう何もいらない。

……いらないはずなのに。



『0』

『影』

声。

なぜ、お前が――



「……!」

梢はそっぽを向いた。

秀治が気づき、
抱き締める。

温もり。

久しぶりの感覚。

こんなものだったのか。
兄という存在は。

あたたかい――
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