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第四話 ファーストコンタクト
しおりを挟むオスカー・グラフトンの部隊がナディア達の務める騎士団の詰所を使う事になった次の日、ナディアとミリアは詰所とそれに併設された寮の掃除をしようとやってきていた。
二人は掃除を始める前に、二人はまず部隊長であるオスカー・グラフトンの執務室へと挨拶しにやってきたのだった。
普通に扉の前に立つナディアとは対照的にミリアは一度オスカー・グラフトンを見たことがあるためか腰が引けている。いつまでもドアをノックしようとしないミリアの様子を見て、ナディアはドアをノックするのだった。
「どうぞ」
ドアの中から男性の抑揚のない返事が聞こえる。
その返事を受け、ナディアは扉を開けて中へ入る。慌ててミリアも遅れて部屋へ入るのだった。
「おはようございます、オスカー・グラフトン様。こちらの詰所と寮の掃除を担当しております、ナディアと申します。」
「……ミリアと申します」
ミリアも慌てて告げて二人でお辞儀をするのだった。お辞儀をしたナディアが顔を上げると、部屋には二人の王国の騎士の制服を着た男性がいる。
一人は、長身で体格が良く薄めの茶色い髪や顔の造形が端正ではあるのだが、その眼は目線一つで人も殺せそうな獰猛な眼を持つ騎士、もう一人は癖っ毛のある金色の髪を持ちくりっとした緑色の目を持つ見るからにチャラそうな騎士だった。
目線一つで人も殺せそうな獰猛な眼を持つ騎士が口を開く。
「私がこの部隊を指揮するオスカー・グラフトンだ。こっちが副隊長のジョン・リントンだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」
ナディアはミリアの言っていた通りオスカーの目が怖いなぁと思いつつも、仕事なので目を反らすなんて失礼な事をして万が一仕事を首になってもいけないと思い、しっかりとオスカーと目を合わせてからお辞儀をするのだった。
そんなナディアを見て、しっかりと目を合わされたオスカーは固まる。その様子を見てジョンが不躾に笑う。
「ナディアさんだったっけ? 君、オスカーの目、怖くないの? 普通、そこにいる彼女の様になると思うんだけどなぁ」
そう言われてナディアがジョンが目線を送った先にいるミリアを確認するとミリアがナディアの陰でプルプルと震えて、でも、倒れないようにしっかり立たないといけないと堪えている状態だった。ミリアの姿を確認したナディアは困ったように答える。
「怖くないかと言うと、怖くないと言う事はないのですが、何かされたわけではありませんし、仕事ですので……」
ジョンは笑いが堪えられないとばかりにお腹を抱えて笑い出す。
「オスカー、良かったな。仕事とはいえ、しっかり目を合わせてもらえて」
固まっていたオスカーがボソッとつぶやく。
「……仕事か……」
オスカーは呟いたかと思うとショックを受けた表情をみせる。
失礼なことを言ってしまったと気付いたナディアは慌てるのだった。
「……仕事と言うか、オスカー・グラフトン様は我が国の英雄ですし……国を守ってくださった騎士様ですものこれぐらいのこと、当然ですわ」
そう言って困ったようにナディアはオスカーに微笑むのだった。それを見たオスカーはショックを受けた顔から一転、顔を赤くして再び固まるのだった。そんなオスカーを見たジョンは笑う。
「戦帝が顔を赤くして固まってるって……戦場じゃあ目を合わせた敵を片っ端から葬る死神って言われてたのに、女の子に微笑まれたからって真っ赤になるなんて……付き合いが長いが、初めて見るわ……ワッハハハーーはぁ……笑い過ぎてお腹が痛い……」
目に涙を浮かべながらお腹が痛すぎて辛そうに笑い倒すジョンをオスカーは睨みつける。ジョンは慣れているのか、そんな目線を物ともせずに笑い続けるのだった。
そんな様子の二人を見て、オスカーを怖がっているミリアはともかく、ナディアは気を取り直し、執務室の掃除をしなければならなかったことを思い出す。
「グラフトン様、リントン様、申し訳ありませんが、こちらの掃除をさせていただきたいのですが……」
それを聞いたオスカーはハッと我に返る。
「申し訳ない。今、見られて困るようなものはないから頼む。もし、見られて困るようなものがある場合は掃除を断るかもしれないが……」
「わかりました、グラフトン様。その時はそのようにおっしゃってください」
ナディアはそう言って、オスカーとジョンに向かって再び微笑みかける。ナディアにすれば、それは仕事を円滑にすために普通のことであったのだが、オスカーはナディアから顔を背けるように扉へと向かう。去り際、振り返らずに告げるのだった。
「じゃあ、外に出るので掃除を頼む。ジョン、行くぞ!!」
「了解!!って、プハハッ――」
よほど面白いものを見たのか笑いが止まらないジョンを引っ張って、オスカーは部屋の外に出て行った。
それを見届けたミリアが大きなため息をつく。
「はぁー、怖かった……ナディア、怖くなかったの? グラフトン様と普通に話してたよね。」
「確かに目は正直怖かったですが、目を反らすのは失礼ですし……万が一気を損ねて仕事を失っても困りますし……とは言っても話し方が怖くなかったですから……」
「本当は立場上私が挨拶しないといけなかったのに、ありがとう」
「いえいえ。ミリア先輩、掃除しちゃいましょう」
そう言って、二人は執務室の掃除を始めるのだった。
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