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第1章 チュートリアル編
第7話 中央都市セントラルバーン
しおりを挟む俺は検問所の後ろにある門を抜ける前に、人気のない場所でミーコのカード化を一瞬解除した。
そしてダルさんに貰ったパサパサの非常食兼携帯食の取り分けておいた分をやろうとする。
だがミーコはというと、そんなもんいらないわとばかりに顔をそらした。
水分を根こそぎ取られるのが嫌だったのか?
それともモンスターはこういう飯をたべないのだろうか?
疑問に思った俺だったが、どうしてもいらないと拒否するミーコを見て最終的には自分の口の中に入れた。
……うっ……み、水。
俺は自分の唾液でなんとか口の中を潤そうと思いながら、門を潜り抜けた。
そしてそこは――。
まるで異世界のようだった!(いや、元々異世界なんだけどさ)
いかにもファンタジーの世界を思わせるような、中世ヨーロッパを思わせる建物が並ぶ。
日が沈み始めているためか、通行人はみな足早に通りを歩く。
「す、すっげえ……俺、マジで異世界にきたんだな」
大きく目を見開き、鼻息荒く独り言を呟く。
通行人はそんな俺の様子を見て、鼻で笑うか苦笑いを浮かべるかの二択だ。
大方、田舎からやってきて都会を初めて目にした若者とでも思っているのだろう。
それに気づいた俺は、少し頰を染め、身を硬くした。
くっ、この世界でもやっちまった……日本にいたときも上京したときおんなじことしたし。恥ずかしすぎるわ!
俺は後悔を胸に、涙を飲む。
「あっ! いたいた。おーい、パーカー!」
「……ん?」
そこへ聞き馴染みのある声が聞こえた。
つい1時間も経たないほど前に別れた男の声だ。
俺はそちらに視線を送り、右手を上げる。
「クリス! また会ったな」
「いや、お前を待ってたんだよ」
「……え、どうしてだ?何かあったのか」
俺は疑問を覚え、目を瞬かせる。
「ほら、検問のとき一緒に待ってやれなかっただろ?」
「いやあれは、お前にも事情があったわけだし……」
「だからと言って、誘拐された人間を放ったらかしにするのは良くない。すまなかったな」
クリスは俺に向かって頭を下げる。
嘘つきは泥棒の始まりっていうし、正直良心が痛んだ。居た堪れないぜ、まったく。
クリスは俺の事を賊に攫われた田舎人だと思い込んでいる。……まぁそれも、俺が嘘をついたのが全てもの始まりなのだ。
アーデルベルトに乗って【終焉の森】からフート草原を駆け抜けたあと、ミーコをカードかするべきだという助言とともにクリスは言っていた。
『実は……今日の依頼、時間指定がされているんだ』
俺が相槌を打ちながら「へぇ」と言うと、クリスは申し訳なさそうに眉を寄せた。
『それが……納品時間まであと15分なんだ。お前は必ず検問所で入場審査を受けないとならない。だが、それには短くとも30分、長ければ1時間はかかるだろう』
『マジか……きちんと審査なんてしてるんだな。それなら安全の意味では安心かもしれない。……あ、そうか。クリス、別に俺を待つ必要なんてないぞ。ここまでこんなにもよくしてくれたんだ』
俺がそう言葉を述べるが、得てしてクリスの険しい表情は解けない。
本当に真面目なやつだ。
俺は口元に弧を描き、クリスの肩を拳で軽く叩く。
『助かったよ、ありがとうな! 今度、時間が出来たら飯でも奢らせてくれ』
『……本当にすまない。ありがとう』
――。
――――。
俺は苦笑いを浮かべ、世話役なクリスの肩を叩いた。
「まあ、来てくれてサンキュ。実は俺、今からいくつか寄りたいところがあるんだ。だが生憎と中央都市は初めてで、店の場所が分からない」
「ああ、それなら案内しよう。私は生まれも育ちもここ、セントラルバーンだからな」
「よろしく頼むよ」
「……と、その前に。獣士隊に報告しておいたほうがいいかもしれない。お前が攫われて、気づいたら【終焉の森】にいたって」
クリスの言葉に俺は焦りを覚える。
獣士隊と言えば、検問所の兵士が思い浮かぶ。
獣とあるが、別に普通の人間の容貌をしていた。
見たところ、ファンタジーによく登場する獣人とはまったく関係ない……多分。
あれはある意味口からのでまかせだよ!
そんなに細かく気にしなくても結構だ……と、口を大にして言いたいところではあるが、生憎と彼は俺の恩人だ。
クリスの真面目な性格がこんなところで裏目にでるなんて……。
「い、いや。それには及ばない。俺は別に攫われた事を恨んじゃいないし……」
「……え、あ? そ、そうなのか!?」
俺はこくりと頷く。
「攫われて……もし死にそうな目にあったんだったら、そりゃ恨むかもしれないが……そういうわけでもないし」
エイティと邂逅したときは、そりゃ詰んだとは思った……が、結局のところ俺は生き延びている。
――まるで神様の思し召しのように。
あの戦闘によって自分の授かった力を知ることができたし、ミーコとの連携と絆も深まった……ように思う。
俺の言葉に疑うような視線を向けるクリスを見て、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「まあ、こうやって自分の知らなかった場所を見ることが出来たし。それに、もしあのまま攫われなかったら、俺はずっと……“あの場所”から出ることはなかったかもしれない」
俺はずっと日本――いや、地球を窮屈な場所だと思っていた。
あそこは時間が流れるのが早く、みんなが常に焦っていた。
退屈ではなかったが、息苦しいのは確かだった。
だから――初めてこの異世界に来たとき思ったのは、この世界でならうまく呼吸が出来るかもしれない。自由に羽ばたけるかもしれないということだった。
俺の内心などまったく知らないクリスは呆れたように笑った。
おそらく、俺の言葉の意味するところは田舎から出る勇気が持てなかったというように解釈しているだろう。
「――分かった。今、獣士隊に報告するのはやめておこう。だが、犯罪者を放置しておくわけにはいかない。もし仮に、また同じような被害者か出てしまえば後悔してもしきれないだろう」
「そう、だな」
俺は曖昧に頷く。
ここで反論してしまえば、何かと面倒だろう。それに、辻褄が合わなくなる。
「だから、時間があるときに俺が調べておく。一応私も貴族の家の一員だからな。どうにか出来なくもない」
「お、俺が自分で調べるから……別に大丈夫だよ」
「お前はまだテイマー認定も受けてない一般人だろう?認定受けたとしても、G級だ。コネも立場もない奴が、捕まえた賊を簡単に捉える事なんて出来ないと思うが」
理詰めでくるクリスに対し、言葉を詰まらせる俺。
ぎりっと奥歯を噛み締め、内心大きくため息をつく。
もういっそのこと、そんな賊など存在しない。探しても無駄だと言ってしまおうか。
そんな思いが頭を過る。
いやいや、冷静になれ俺!
それを言ってどうするんだ?
そんな事を口にすれば、どうしてあんな森に一人でいたのか説明がつかなくなる。
例え、テイマーを目指すために中央都市に向かっていたが、途中道に迷ったなんて言い訳をしたとする。
それならば何故わざわざ賊に攫われたなどという嘘をついたのかということになるだろう。
「……お前だってまだ登録してから半年の半人前だろ?」
「だが私には、それを補っても余りあるツテと金がある。前にも言ったが、一応実家は貴族だしな」
反論を許さない頑固なクリスの言葉に俺はうなだれた。
「分かったよ……よろしく頼む」
「任せてくれ」
心のうちで呟いていた「無駄だろうけどな」という心情をおくびにも出さぬよう、ぎこちない笑みを浮かべた。
「決まったなら早速、行こうか。……そういえば、パーカーはどこへ行きたいんだ? テイマー登録するなら、ギルドだけど」
「ええと……ってかやっぱりこういう冒険者って感じ職業を登録するのはギルドなんだな……」
「……ん? なんか言ったか?」
「いや、なんでも」
俺は否定するよう頭を横に振る。
「俺、外でドロップした素材とかを売りに行きたいんだ。……実のところ、金がなくてさ。今晩の宿に泊まる金もなければ、飯も食う金もない」
「たしかに連れ去られたんじゃ、金を用意する暇もないよな。しかも、お前がいた場所って田舎だろ?テイマーのこともほとんど知らない地域で、まず金というものが出回っていたのかも怪しいしな。……物々交換とかが当たり前なのか?」
クリスは溢れる興味心を抑えるように言葉を紡いでいるが、正直見え見えだ。
馬鹿にしてるのか? と言ってやりたいこともないが、まあ好奇心が抑えられないのは分かる。
俺だって初対面でミーコを勝手にモフモフしてしまったしな。許してやろう。
「いや、一応金はあったぞ。まあ、多分こことは全然違うだろうけどな」
「へー、そうなのか」
「うん」
嘘は言っていない。
日本円をこの世界で使ってるもは思えないからな!
「ドロップアイテムを売るなら二箇所……いや、三箇所ある」
「こんなに広い都市なのに三箇所しかないのか?」
「ああ。なんせ魔物のドロップアイテムの買取を行うのには特別な許可が必要だからな。まあ、個人取引しているやつもいなくはないし、闇世界にいけば非合法の取引など日常茶飯事に行われているといえなくもないが……」
「そ、そうか……」
そんな怪しいところ、危険な場所で取引などしたくはない。
ぜひとも、全力でお断りしてさせて頂きたい所存だ。
思わず笑顔が引きつりそうになる。
「それで、正規の取引が行われるのは三箇所。一つ目は先ほど言ったギルド。あそこはなんでも買い取ってもらえるが、その分金額も安い。面倒くさがりなやつでもない限り、利用するものなんていないだろう」
「そりゃ、わざわざ自分から安く売ろうなんて思ってるやつなんて少ないしな。余程の金持ち以外は」
「そうだな。それで、二つ目はMCSだ」
MCS? 一体なんだそれは。
俺ははじめての聞いた言葉に、クリスに視線で説明を促す。
「MCSは“Monster Card Shop”の略。主にカードの売買をしてる店さ」
「へえ、そんな店があるんだ。カードショップとか言ってるのにドロップアイテムも売れるんだな」
顎に手を当てながら、俺はふむふむと理解を示す。
……なんか最近、頷いてばかりだな。
「……まあ、MCSでは一部の素材やドロップアイテムしか買い取ってもらえないがな」
「一部?」
「いかにも価値のありそうなレアなやつだけだ。ドロップ率の限りなく低い素材などは、他の追随を許さないほど高く買い取ってもらえる」
「へー、高級志向なんだな」
なんとなく、ブランドの店やホテルの最上階でフォークとナイフを使って食事をするレストランが思い浮かぶ。
……奨学金がなければ進学できなかったであろう苦学生の俺にはまったく関わりのない場所だがな!
高級店なんて行ったら、財布の中身が絶望的になることは必死だったし。
「高級志向って。パーカーは面白いことを言うな。……まあ、買い取る面で言えばそうなのかもしれないが、基本はカードショップだからな」
クリスは笑いながら俺の肩をバシバシ叩いた。
い、痛い。
いくらこの世界に来てから体が強靭になったっぽいからと言って、痛覚が遮断されたわけでもない。
クリスは意外と力が強かった。
……バトルアックス持たせたのも意外と平気だったりして。
俺の肩を叩き終わったクリスは、ようやく口を開く。
「そしてドロップアイテムの売れる場所三箇所目は…………素材屋だ」
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