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第1章 チュートリアル編
第10話 ギルドにレッツゴー!
しおりを挟むコンコン、と扉をノックされ働かない頭で「はい……」と返事をする。
見慣れない部屋。……俺の部屋ってマンガとか散らかったんじゃなかったっけ……。
ぼんやりとしすぎていて、自分が今どこにいるのか思い出せない。
腕の中で、温かい生き物の気配がするのだけは分かる。
「パーカーさん! 朝ですよ。朝食の用意が出来ましたんで、食堂まで降りてきてくださいね」
「……え、あ……はい」
そうだ。
俺は昨日、異世界に来たんだ。
やっと自分の今の境遇を思い出し、見慣れない部屋にも納得する。
そういえば昨日の夕食後、宿で出迎えてくれた恰幅のいい女性――女将さんが、俺の名前と明日の朝食に ついて質問してきたのだ。
名前の方は、パーカーと名乗ると「それは偽名ですか?」と目を瞬かせていた。
違うぞ! これは少しおっちょこちょいで、こんなヘンテコな名前になってしまったんだ……まあ、でもなんかしっくりくるっていうか今となっては案外気に入ってるかもれないけど!
……と、答えようと思った。
だが、それこそ“ナニコイツ”的な目で見られる可能性を危惧し、普通に偽名ではないことを説明したのだ。
俺は急いで麻のシンプルな服へと着替え、元々着ていたパーカーとスキニーパンツはバッグへと仕舞う。
本当ならパーカーなども服飾店で売っぱらってしまおうかと考えていたのだが、名前もパーカーだし、日本のものを手に置いておきたいという気持ちも少なからずあったので残しておくことにした。
……あとは、いざとなったときの資金対策だ!
俺はミーコを一撫でし、部屋の留守を頼む。
昨日、食堂へ向かう前に気づいたのだが、この部屋はきちんと鍵も付いており、防犯対策は(多分)抜かりない。
サイドテーブルには部屋の鍵が置いてあったのだ。 ……まあ、こんな放置していて大丈夫なのかという不安もぬぐい切れなくもないが!
俺は顔を洗うかつ、体を拭くために手洗い場へと向かった。
手洗い場は男女分かれている。
昨日の夜、食堂から部屋へと戻るときに一度寄って気づいたのだが、案外中は広かった。
便所自体は汲み取り式のもので、古き良き日本を思い出す。……そういえば、ばっちゃん家のトイレもこんな感じだったな。
一応完全個室なので外に出ると匂いはそんなにしない。
何か消臭の方法でもあるのだろうか?
そしてなんと手洗い場には水道のようなものが通っており、ポンプによって汲みあげる仕組みのようだ。
押せば出てくるという形は、これまた古き良き日本を感じさせる。
外に出ずともここで洗面や歯磨き、体を拭くなどという行為が出来るらしい。
俺が昨日ここにきた時、ちょうど宿の客のおっさんがほとんど全裸で体を拭いていた。
パーテーション的な仕切りはあったのだが、用を足す個室へ行くときにちょうど見えてしまった。
どうせ異世界に来たんなら、美女か可愛子ちゃんのムフフな姿が見たかったぜ……。
さて、そんな俺は昨日細々としたものを購入したときの一つ、布巾と歯ブラシっぽいもので身支度をしていた。
残念ながら石鹸の類や歯磨き粉などはあってもいないらしく、購入することは出来なかった。
今度、時間があったら作ってみようか? ……金にも困ってるし。だが材料はこの世界にあるのか?
髪の毛を水でガシガシと洗い、布巾で水気を取った俺はようやく身支度が完了した! ……はぁ、いろんな意味ですっきりだ。
俺は濡れた布巾や歯ブラシを部屋に置き、食堂へ足を踏み入れると、香ばしい香りが部屋中に漂っていた。
「女将さん、おはようございます」
「おはようございます、パーカーさん。……あら?今朝は随分ずぶ濡れですね?」
「あ、はい。昨日の夜、食堂から帰ってすぐ寝てしまったので、体を洗う暇もなかったんですよね」
そういうと女将さんは人のいい笑顔で穏やかに笑った。
「パーカーさんは綺麗好きなんですね! ……ここに泊まる新人テイマーさんたちの多くは、体を拭くのも三日に一回とかなんですよね。それも、私が無理やり手洗い場に連れて行ってなんとか……って感じで」
内心、そんなに汚い状態続いてたら自分も気にならんのか? と思っていたが、どうやらこの世界の人間の多くは清潔さは二の次のいう認識らしい。
女将さんも苦労するなと思わず肩を叩きたくなった。
「今日は白パンとコケッコーの卵焼き、それに飲み物はコピですよー」
「へ、へえ……美味しそうですね」
コケッコーって……名前的に鶏みたいなモンスターなのか?
コピってどんな飲み物なんだ?
昨日の夜は、食堂も大賑わいでメニューを聞く時間もなかった。
この宿は宿泊客だけでなく、外部から食堂だけを理由する客も受け入れているのだという。
そうでなくては今どき、宿の経営は厳しいらしい。
夕食は見た目にはシチューのようなスープと朝食と黒いパン、さらに腹持ちの良さそうな拳よりも一回り小さい団子がついていた。
日本のそれらとはまた異なった味付けで、案外いけたのだ。……食事の心配をしなくてよかったぜ。
俺は貧乏舌だが、日本に住んでいるという時点で食事に要求するレベルは相当高いと思う。
あんな安くて早くて美味い! みたいな文化があるのは世界中を探しても、日本以外にさらさらない気がする。
俺は女将さんに席へと誘導され、今日の朝食を取った。
コピはコーヒーのような苦味のある飲み物だったぜ! ……うん、料理も美味かった! 満腹満腹。
◯
部屋に戻ると、俺は今日の予定を頭の中で組み立てる。
もちろん、右手でミーコの背を撫で、左手で顎をくすぐりながらだけどな!
とりあえず、まずはギルドという場所に行かなければならない。
テイマー認定を受けて、さらに昨日から手持ち無沙汰のカードの扱いについても聞きたかった。
クリスに説明してもらおうかとも考えたが、やはりこういうのはプロに任せるべきだと思った。
それにアイツばかりに頼るのも忍びない。……なんせクリスは俺より5歳も年下だしな……。
日本でいえば、まだ高校一年生だぜ?
あんな年から自立して生活するなんて、この世界の子供達はなんて大変なんだろう!
俺は早速ギルドへと向かうため必要なものをバッグへと詰め込み、ミーコを撫でる。
「ごめん、今から外に出るからカード化しててな」
「にゃっ」
小さく鳴いたミーコを横目に、俺は心の中でカード化してくれ願う。
するとミーコは白い煙のようなモヤに包まれ、完全に消えた。そして床には一枚のカードが落ちている。
「ほんと……不思議だよなこの世界。どうしてモンスターがカードになるんだ? ……それに、ミーコのときの白いモヤと、倒したモンスターの黒いモヤは何が違うんだ?死んでるか死んでないか……とか? まさかな」
独り言を呟いた俺はバッグを右肩にかけ、外への一歩を踏み出した。
◯
外に出て、俺はこの中央都市セントラルバーンの中心部と言われるセントラル地区へと向かう。
昨日、クリスが作った渡してくれた地図を片手に歩みを進めていた。……マジで感謝感激です、クリス様。
この都市はどうやら大きく分けると5つのエリアに分かれているらしい。
昨日、買い物をしている際に耳にした情報だ。
田舎から出てきたといえば、店の人たちは懇切丁寧に教えてくれた。
北のテイマー地区。
東の商店街地区。
南の住宅街地区。
西の総合地区。
そして中央のセントラル地区。
テイマー地区は言葉の通りテイマーたちの住むエリアだ。
そんな地区が作られていることからも、この都市にテイマーという人間が数え切れないほどいるということがよく分かる。
そして商店街地区は俺の現在泊まっている宿『垂れ耳ラピット亭』や服や細々したものを購入した店など、数多くの店が立ち並んでいる。飲食店から、はたまた『素材屋』まで幅広い商売が盛んに行われている。
昨日はこの地区の端を少し回っただけで知らなかったのだが、どうやらセントラル地区に近いエリアでは出店や屋台も多く立ち並んでいるという。
……これも、服飾店のおっちゃん情報だ。
住宅街地区はテイマー以外の人の多くが住んでいる場所だ。
そして総合地区は……よく分からなかった。
あそこは色々なものや人が行き交う商店街地区とはまた異なった場所らしい。
なんでも貧民街もあれば、貴族のお屋敷もあり、さらにはモンスターカードについての研究機関なんかもあったりするという。
……とりあえず、俺はこの世界に慣れるまではあまり関わりになりそうもない場所ってことだ。
そして最後は都市の中心、セントラル地区だ。
ここは地区というよりは、広場のような場所らしい。
そこにあるのはギルド、Monster Card Shop、そして――。
――セントラルダンジョンだ!!
俺はこの都市内にダンジョンというものがあると聞いて、愕然とした。
ダンジョンといえば洞窟のように広がった場所で、一層一層地下へと潜り、お宝を求めて冒険していくというような場所だと思っていた。
また、自然に生み出されたモンスターの発生源というイメージがある。
――だが、どうやらこの都市のダンジョンは一味違うらしい。
そんなことを考えながらセントラル地区へ足を進めていくと、大きな広場のような場所に出た。
中央にはなにかモンスターの彫像がどどんと置かれており、目を奪わせる。
辺りを見渡すと、大きい数階建ての木造建築があった。
おそらくこれがギルドというやつだろう。
俺は息を呑み、その中へと足を踏み入れた。
中は、至って普通の市役所のような場所だった。小さな銀行という表現も近いかもしれない。
宿屋に比べても、かなり近代化(この表現であっているのかは不明だ)しているようにも見える。
外観は廃校になった木造の学校って感じだったはずなのに、一体なにがどうなっているんだか。
仕切られたカウンターがいくつか並び、待合のために長椅子が置かれている。
端のカウンターの隣は二階に続く階段が設置されていた。
「えーっと、どこのカウンターに行けばいいのか……まぁまずは、空いてるところに行ってみるか」
俺はとりあえず『停止中』の札が置かれておらず、誰の相手もしていないカウンターへと進む。
そしてカウンターのおねえ……まさかまさかのおっさんに話しかけた。
……こういう時って綺麗なお姉さんじゃねえのかよっ!
まあ、カウンター前まで来てしまったのだから仕方がない。
「あのーすみません。俺、昨日この都市に来たばかりで……テイマー登録? 認定? したいんですけど……」
「あい分かった。……では早速なのだが、お名前と識別ナンバーを教えてくれるか?」
おっさんはスキンヘッドで左目に眼帯をし、いかにも昔はやんちゃしていましたオーラを醸し出しながら告げる。
ひどく渋い声だった。
「え、あ……な、名前はパーカーです」
「おう、パーカー……っと」
おっさんはコンピューターのような大きな機会を操作する。
なぜか、やたらハイテクに思える。
検問所のときもそうだったが、どうやらこの世界は科学も発展しているのかもしれない。
ただ、汲み取り式の便所やポンプの手洗いを見る限り、少しチグハグな感じも否めないのだが。
「それで、識別ナンバーは?」
「えっと……これですね。4548714です」
「……ふむ」
ステータスボードを呼び出し、識別ナンバーを読み上げる。
おっさんはそれをコンピューター(仮)に入力しているようだった。
「オーケーだ。登録は終わった。次にテイムドの登録に移る。とりあえず、今所持しているテイムドのカードを全て見せてくれないか」
「はい」
俺はミーコのカードをおっさんの目の前に差し出した。
「…………パーカーくん、まず一つ忠告する」
「……え?」
おっさんは俺の差し出したミーコのカードを一瞥すると、片方の口角を上げた。
「テイマー初心者の多くはまずこれをやる」
「こ、これ?」
「カードを見せてくれないかと言われたとき、差し出そうとすることだよ」
俺は一瞬、おっさんの言っている意味が分からなかった。
何がいけなかったのかと頭を悩ませたあと、ようやく理解する。
「……もしかして、カードを差し出せばそのまま盗まれるという可能性を言っているんですか?」
「そうだ、その通り。パーカーくんは理解が早いな。もしかして、どっかのお坊ちゃんだったりするのか?」
「いやいや、この服を見てくださいよ。ただの田舎から出てきた世間知らずですよ」
俺は苦笑しながら言った。
「そうか。……君の言ったことは正解だ。カードというものは手軽に持ち運べる分、非常に人に盗まれやすい。一応、色んな規約や規則はあるんだが、それを無理にでも突破しようとしてテイムドたちが傷つくという事件も意外と多いんだ」
「……規約、規則……ですか?」
俺は顎に手をやりながら尋ねる。
おっさんは小さく頷き、手元から一枚の資料を取り出した。
そこには三つの段落で文章が記されていた。
・・・
◇ テイマー三か条 ◇
一つ――狩猟モンスターカードはそのモンスターに最大のダメージを与えた人間に帰属する。さらに、許可なく奪われることがないよう、取得した相手以外は触れることが出来ない仕様になっている。ただ、そのカードの持ち主が意図して譲渡すると決めたのなら、その場合は例外となる。
二つ――基本的に他人のテイムドモンスターカードを窃盗、破壊することはできない。破壊に関しては持ち主のテイマーも同様である。
三つ――テイマーは【育成モンスターカード】を許可もなく破棄してはいけない。もし仮に処分を望むのならばら他人に譲渡すること以外、形式的には不可とされる。
・・・
俺は三つの規定、規則を眉間に力を入れ、じっと眺める。
これを読んで、いくつか疑問が浮上した。
俺はおっさんに質問してそれを解決しようと、俯いていた顔を上げた。
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