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第2章
閑話 某アジトでの犯罪者グループ
しおりを挟むその洞窟の中には幾人もの人間が住み着いていた。
彼らは近頃、世間を騒がせている“初心者狩り”として名を馳せており、今日も獲物を探して草原に出る予定だ。
アジトの中は乱雑にゴミや生活品が散らばり、雑然としている。
それは当然だ。
男たちの中で家事を得意とするものなどおらず、掃除をするらという概念すら持たないからだ。
「このアジトも汚くなってきたな。……そろそろ移動の時期か」
粗暴な男たちの中でも一際異色な、真っ黒の装束を身に纏った男がポツリと呟く。
男は誰に聞かせるわけでもなかったため、周囲から反応はない。
ここにいるものは皆、喧嘩っ早く野蛮な犯罪しか知らないようなものばかりだ。
学もなく、幼少期に都市内にある貧民街に捨てられ、暴力を頼りに生きてきた。
そして黒装束の男もそのうちの一人だった。
掃除をしないのも、汚くなったら新たな住居となるアジトへと移動すればいい。
それに、彼らはすでに獣士隊にも目をつけられ、セントラルバーンでは指名手配扱いとなっている。
すると突然、座っているソファに振動があった。
仲間の一人が仲間の一人が座ったのだ。
その仲間は黒装束の男の肩に手を回し、和気藹々と上機嫌なようすで尋ねる。
「兄貴ぃ~、金の方はどうだ~? ひっく……やっぱ今回の取引相手は相当金持ちなんだなぁ~」
「そうだな。この黒い装束も貸してくださった、俺たちとの取引は相手にとっても不足ないはずだ……むしろ最高の取引相手だな……」
「ひっく……そりゃ~よかった。酒のつまみになる話だあ……ひっく。兄貴~これからもよろしく頼みますぞぉ~」
酒精に浸っている男は赤ら顔でニヤリと笑う。
兄貴と呼ばれた黒装束の男は男の臭い息に嫌気がさしそうになるが、己の温かな懐を思い出し、気を取り直す。
「お前、昼間っから飲み過ぎだ。仕事はできんのか?」
「だいじょーふっすよ……ひっく」
男はどうしようもない男を横目で見て、鼻で笑った。
向こうに行けと追い払い、思わずため息をつく。
仲間はどうしようもないクズばかりだ。
たしかに危機回避能力だけは昔から磨かれており、今のところ獣士隊等の兵士には捕まっていない。
けれどそれも時間の問題だろう。
今はこんなにもうまくいっているが、そのうちこいつらのせいで全ておじゃんになる……なんて事もあるかもしれない。
そうすればトカゲの尻尾切りのように邪魔なやつらを切り捨てればいいだけのことかもしれない。
けれど逆を言えばその尻尾から、全ての情報が漏れてしまう可能性だってある。
だからこそ、足を引っ張ったやつは己は――きっちり処分しなければ。
男はまるで道具を見るような目つきで、酒に騒ぐ仲間に視線を送る。
なんて呑気な奴らなのだろうか。
なんて愚かな奴らなのだろうか。
男は長年、野心を抱き続けていた。
こんなどうしようもないような奴らとつるみ、底辺を這いずり回る人生。
酒も女も金も足りない。
あいつらにあるのはただひたすらの暴力のみだ。
まるで野生動物のようで、ひたすらに反吐がでる。
男はそんなゴミのような人生から抜け出したかった。
そしてようやく、全てを変えるきっかけを見つけ出したのだ。
それは数ヶ月前、貧民街でゴロツキグループの一員として過ごしていた頃の話だ。
『すみません、今お時間はありませんか?』
『……誰だテメェ』
昼間から巻き上げた金で酒場で酒を飲んでいると、怪しげな男から声をかけられた。
怪しい男は上等な衣服を身にまとっており、上流階級のもの、またはそいつらに仕えているものなのだと分かる。
身分だけで偉ぶる上流階級のものに吐き気を催すほど嫌いだ。
貧民街のある西地区には反対側に貴族の住む屋敷が並ぶ場所もある。
だからなのか、幾度も貴族によって痛めつけられ、命を奪われた貧民街の子供を目にしていた。
他人などどうでもよかったが、ただひたすら偉ぶる上流階級の奴らにへりくだらなければならない状況に嫌気がさしていた。
『あなたはこの地区でも有名なエベル氏でございますよね?』
『…………』
男は答えなかった。
まさしく己がエベルであっていたが、それに対して答える義理もないだろう。
ただ、怪しげな男は己のことを知っていて声をかけてきた。
その不気味な事実にただただ苛立ちが募る。
そんな不穏な空気の中でも、臆することなく身なりのいい男は口を開く。
『否定されないということは、正解だということでよろしいですね。……私はとある尊きお方に仕える執事、ジェミヤンと申します。本日は主人に言われ、あなたと取引の契約を結んで頂くために足を運びました』
『…………取引、ねえ』
探るような声で呟く。
こんなにも明らかに横柄な態度を取っているのにもかかわらず、表情を変えることもない男に対し興味が湧いた。
なんとなくだが普通のお偉いさんとは違う空気を感じ取ったのだ。
それに怪しいが、上流階級――貴族との取引はうまい儲けが出ることは耳にしている。
多くはお綺麗な手を汚したくはないお偉いさんから回ってくる、汚れ仕事ばかりだ。
だからこそ、それを隠していたい上流階級のやつらは手切れ金として多くの金を支払うし、報酬もそれなりに高い仕事が多い。
身の丈に合わない仕事でしくじった場合は消されることもある。
だからと言って成功したにも関わらずとあるシステムのお陰で簡単に口封じをされるということはない。
――認識ナンバー。
それぞれ生きている人間に与えられるステータスボードに書かれている判別番号だ。
こう見えて一応貧民街にいるゴミでも、国民として登録されている。
国民として登録されているということは、つまり保護されていると同義。
その命の灯火が消えた途端、国に知らせがいくというシステムがこの国にはあった。
知らせがいけば、獣士隊なども動く可能性が高まり、最終的にはお偉いさんの頼んだ依頼内容にまでたどり着かれてしまう場合もある。
貧民街の現状を見るに、このゴミ溜めに住んでいるとやつらが保護されるているとは到底思えないのだが。
まあそんなわけで、簡単に取引相手を手にかけることは出来るだろうが、その後の隠蔽工作の方が大変なのだ。
それならば金を支払うことで済む方がお偉いさんにとっても都合がいいのだろう。
この貧民街のやつらは、みな金に従順で貪欲なのだから。
『……んで、なんの依頼だ? 殺しか? 盗みか? それとも密輸か?』
男は貧民街でそれなりに名を知られている実力者でもあった。
強靭な肉体を持ち、テイムドも戦闘に特化している。
そのテイムドは、以前どこかの怪しげな販売人から取引で手に入れたものだった。
取引の内容に特別興味を持ったわけでもない。
ただ気まぐれに、聞いてみようと思っただけだった。
そしてこの取引内容を耳にしたことで、男の運命が変わるとはその時知らなかったのだ――。
ジェミアンと名乗った執事が語った仕事内容は、盗みであり、狩りでもあった。
『初心者でテイマーになったばかりの者からテイムドを奪って頂きたいのです。そして丸腰となったテイマーを出来る限り残虐に痛めつけて頂きたい。二度とテイマーとして生きていこうと思わないほど』
『……なんとも適当な依頼だな。んでなんだ? お前らに奪ったテイムドを渡せばいいってわけか?』
『ええ、その通りこざいます』
エベルはこの取引を引き受けた。
取引内容だけを見れば、リスクも高く、獣士隊にも目をつけられる仕事だ。
けれどそれ以上に報酬は何よりも高かったのだ。
それに“初心者狩り”として名を馳せることとなれば、自然と仲間も増え、巨大犯罪グループを作ることも出来るようになるだろう。
この都市の裏社会のトップを張っているやつらの多くは、犯罪者として名を上げることによってその地位を築いていったのだと知っていた。
そう考えれば一石二鳥だ。
ある意味、己の名を上げるいいきっかけなのかもしれないとすら思った。
このゴミ溜めの世界で己のように実力ある男が成り上がるのは、当たり前のことをだろう。
常々思っていたのだ。
周囲の奴らは低レベルすぎる。
戦闘能力の低さにも野心のなさにも飽き飽きしていたのだ。
テイマーを名乗っている奴らだってそうだ。
S級? ……くだらない。俺もダンジョンにさえ挑む資格さえあれば、簡単にトップになれるだろう。
名を知られている奴らでも、所詮俺の実力には敵わないに違いない。
恐れ知らずの自信と苛烈なる野心。
それを胸に男――エベルはその取引内容を実行に移したのだ。
数ヶ月が経ち、今ではセントラルバーン中で“初心者狩り”の名は知れ渡っている。
こんなにもすべてうまくいっているのだ。
執事ジェミアンを通して依頼主から渡された黒装束には《瞬間移動》のスキルが付与されていた。
アイテム自体にスキルを付与させることが出来るだなんて初耳だったが、上流階級のやつらしか知らない話なのだろう。
その事実に己と薄汚い権力者どもの違いを見せつけられ、またもや腹が立った。
だが、それを表に出すことはない。全ては己が成り上がるために。
俺――エベルは慎重な男なのだ。
依頼主の機嫌を損ねるような真似をしてアイテムを取り上げられてはたまったものじゃない。
この黒装束はそれほど素晴らしく有用なものだった。
このアイテムの出所を探るのもいいかもしれない。
そんななか、黒装束を見てふと少し前にあった出来事を思い出す。
それは一週間ほど前、テイマーからテイムドを奪っている最中に起きたことだ。
いつもと同様にテイマーが一人きりでいるところを襲っていると、側の岩陰から他のテイマーが飛び出してきたことがあった。
俺は基本的に獲物を狙う際は各個撃破を狙う作戦をとっている。
急いで逃げようと思ったのだが、その飛び出してきた奴が初心者とは思えないほどの身のこなしで飛びかかってきたのだ。
あのときはこの黒装束がなければ捕まっていたかもしれない。
それほど、あの岩場から出てきた男は相当の実力があるに違いない。なんとなくだが過去の経験からそう感じた。
あの男は厄介な相手で、警戒すべき人間かもしれない。
いや、戦闘もなれば相手を圧倒できただろうが、あいにくとエベルはタイマンしか認めぬ主義なのだ。
あの状況では明らかに二対一の構図になっていただろう。
二人相手で戦えぬことはないだろうが、そこまでリスクを犯す必要性は感じない。……テイムドも奪っていたため、逃げれば勝ちなのだ。
残念ながら相手の所持していたアイテム等は奪えなかったが、仕方がなかった。
己は一人きりで初心者テイマーを狙い、仲間は数人グループとなって狩りをする。
これが常だ。
エベルは黒装束によって機動力を武器に初心者狩りを行なっているのだ。
エベルは本日もアジトに集った仲間とともに初心者狩りへと出かける。
だがそのときは夢にも思わなかった。
数日後、以前会ったばかりの警戒すべき男――初心者とは思えない実力者らしき人間と再び邂逅するということを――。
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