魔物大好き《モンスターマニア》は気づけば華麗にモフモフ天下無双していました

王子様の白馬

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第2章

第25話 レヴィアタン

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 海中神殿の内装は所々変えられていた。
 元々は人魚たちや小魚がモチーフとされていただろう小物類や旗のエンブレムは禍々しさの塊のようなデザインへと変わっている。

「黒いやばそうな魚……いや怪物だ……」

 デザインを見て呟く。
 様子を伺うために人魚へと視線を移すと、悲しげな面持ちで旗を眺めていた。

 ――なんて悲しみにくれた顔をしてるんだ。

 そんなふうに思った俺は、人魚へと目を向ける。

「お前、どうしてそんなに悲しそうなんだ?」
「…………」

 当然答えは返ってこない。
 唄うことはできるといえど、人と話すことは出来ないのだ。
 だが、俺の問いによって人魚の瞳がゆらりと揺れた気がした。

 そんな中、俺たちはひたすらに3階層を進む。
 途中先ほどと同じ、黒い巨大サメや赤いサンゴのような体をしたモンスター、ヤドカリのような姿をした毒々しい紫のモンスターなどが襲いかかってきた。
 その度に俺たちは協力しつつ、道を歩む。
 MPの問題が少し心配ではあったが、この世界はレベルアップすれば満タン回復する世界のシステムであるのだ。
 今のところ低レベルのためレベルの上がりやすいペンペンに関してはあまり心配ない。
 今は遊撃だけに専念してもらっているので、《水泡》でMP消費をすることはあまりない。

 そして幾度か群れになって襲ってくるモンスターさえも返り討ちにし、とうとう目的の場所までたどり着いた。

「ここが――玉座の間か」
「クェ」
「にゃ」
「…………」

 相変わらず人魚は黙ったままだった。

 玉座の間と呼ばれた場所は、よくRPGにも登場するような王道的な名前に適した場所だ。
 広く豪奢な部屋のなかには他に比べて高くなっている箇所がある。
 そこには玉座が置かれており、王様が座るにぴったりの場所だ。

 そんななか、俺は自分たち以外のものの空気を――。

「なにかいる」

 俺は玉座に目を向けた途端、異様な気配を感じ取った。
 これはおそらく、ボスモンスターだ。
 視覚で確認することは出来ないが、俺の研ぎ澄まされた直感がそう訴えてくる。

「……仕掛けるか」

 そう呟いた俺は、己のテイムドと人魚から離れた場所まで歩く。
 そしてスキル《挑発》を発動した。

「このフロアのボスモンスターはよほど臆病者なのか? 支配したと思ってた海中神殿に突如入ってきた闖入者に怯えて隠れているなんて、がっかりだ」

 さくりとこのフロアのボスを片付け、俺はベラベリアンの依頼を終えたいのだ。
 それにここまで来たときの人魚の悲しい顔を見ていたら、困らせた元凶に腹が立ってくるのは至極当然のことだろう。

 ……人魚さんを困らせるなんて、俺は許さねえぞ! べ、別に下心があるとかそういうんじゃないからな……。

 と、誰も聞いていないのに言い訳をする。
 そんな中、いきなり部屋の地面が強く揺れ始める。
 地鳴りによってにゴウゴウと音が聞こえた。

「……やっとお出ましか」

 突如、玉座のあった地面が割れ、巨大なが姿を現す。
 それは当然――ボスモンスターに違いない。

 現れたモンスターは見るからに巨大だった。
それもそのはず。
 俺がドリルに事前に聞いていた話によれば、このフロアのボスは海の支配者【レヴィアタン】なのだから。

 巨大な魚のようでありながらも、またそれとは違うように見える形容しがたい化け物。
 レヴィアタンは凶悪な姿で俺を見据えていた。怒り新党のようだ。
 当然だろう。俺は《挑発》を使い、わざわざ引き寄せたのだから。

 そして、戦闘が始まる! ……かと思えば――――違った。
 レヴィアタンはふと目を周囲に向け、一人の姿を映した途端動きを止める。


『クララ…………お前、何故ここに。し、死んだのではなかったのか……』


 レヴィアタンがおそらく《念話》だろうスキルを使う。
 その問いは人魚に向けられているものだ。

「……っ!」

 人魚は声を出そうと口を開くが、その努力は叶わない。
 なんとも口を開閉するが、声は出ていない様子だ。

『声を……声を失ったのか?』
「……」

 人魚は悲しそうに顔をうつむかせた。

『……お前の声を奪った奴は誰だ! そこの男かっ!?』

 レヴィアタンの怒りのこもった叫びは俺に向けられる。
 状況に置いてけぼりの俺は、目を丸くしながら頭を強く横に振った。

「ち、違うぞ! な、なんかよくわからんが俺はこの人魚を砂浜で助けて、その礼に海中神殿に連れてきてもらっただけだ」

 焦りながら訴えた俺に対し、人魚も同意するようにして頭を縦に振った。

 レヴィアタンも人魚がそういうならと、どうやら納得したようだった。

 ふぅ……ってちょっと待て! 俺たちは、フロアのボスを倒すためにここに来たんだよな? こ、この状況はどうすればいいんだ? レヴィアタンを倒せば丸く収まるのか?

 疑問が次々に湧く。
 銀髪人魚――クララに問おうかと迷い、視線を向けると彼女は何故だか涙を流していた。
 ギョッとしながら、様子を見続ける。

 さすがのレヴィアタンも、俺同様にどうしたら良いのかわからない様子だった。

 真実がまったくもって見えない。

 人魚の口から語ってもらうのが1番楽ではあるのだが、彼女は声を出すことが出来ないのだ。どん詰まりだろう。

 ……いや? さっきレヴィアタンは声が出ないことに対して驚いていた? ……ってことは、元々普通に喋れたんじゃないのか。

「……なぁ、クララ……さんだっけか? お前、もしかして誰かに声を奪われたとかじゃないのか?」
「……っ!」
『そ、それは誠かっ!』

 クララは瞳を揺らし、ハッとしたように背を向けた。
 レヴィアタンは問いただすかのように鋭い声を上げる。

 沈黙が部屋を支配する。

 そしてしばらく経つと、人魚は振り返り柔らかく――笑った。

 花笑み。
 その言葉がぴったりとくるかのような、満開の桜のような美しく儚い微笑みだった。

 さらに目を奪われていたのは俺だけではない。
 レヴィアタンも、ミーコもペンペンでさえも。

 人魚は己の両手を合わせ、祈り始めた。
 まるで天啓のように天から光が差し込み、クララの体を包み込む。

 それは神秘の力が降り注いでいるかのように神々しかった。

「…………これで、ようやく話せるようになりました」

 いまだ謎の光に包み込まれた人魚は――言葉を話した。
 今まで声が出なかったことがまるで嘘のようだ。

『クララ、お前は――』
「レヴィアタン……私にはもう時間がありません。皆さんも――私を助けてくれてありがとうございます」

 クララは俺とテイムドたちに顔を向けて、例の言葉を告げる。
 俺はあっけにとられ、こくりと頷くことしか出来なかった。

 そんな中、人魚は語りはじめた。
 己のこれまでと、これからを。

「私は魔女の取引によって声を失いました。そして今、私には己の果たすべき使命がありました」
『魔女との取引だとっ! なぜお前はそんなことを……』

 レヴィアタンは怒りをぶつけるかのように声を上げる。
 クララはレヴィアタンの問いに答えることなく視線をそむけ、言葉を続けた。

「私はこの海中神殿の支配者となったレヴィアタンを討ち滅ぼさなければならないのです。……けれど、わたしには……それが出来ません」

 人魚は語った。
 己の心が長年、海の支配者レヴィアタンにあったのだと。怪物を――愛してしまったのだと。
 それに怒った海中神殿の王――己の父が神殿内の牢にクララを閉じ込めてしまった。
 それをレヴィアタンが海中神殿の王が娘を殺めたのだと勘違いし、巨大な戦力を持つ二人は争うこととなる。

 幽閉され続けていたクララはそれを知り、運良く牢を抜け出すことに成功する。
 そしてその足――尾ビレで魔女の元へと行き、戦争を止める力が欲しいのだと懇願した。
 戦争をも止める力を得るためにはそれなりの代償が必要で、当時国で1番の歌声だと言われていたクララからは声を差し出すこととなった。
 けれども、戦争を止める前に終結してしまった。
 海中神殿の王――己の父はレヴィアタンに破れたのだ。

 クララはそれを知り、また絶望した。
 レヴィアタンはいまだ海を強い力で支配し続けている。そしてそれは――全てクララのせいだ。
 そのうちに今度は魔女が現れた。
 魔女は言った。

「お前は願いを叶えられなかった。だからこそ、チャンスをやろう。もし仮にレヴィアタンを殺すことができれば、お前に声を返してやろう。だが、殺すことが出来なければ――お前は海の泡となって消える」

 魔女はそう言い残して消えた。
 今、クララが声を出すことができるのは神の足元と言える神殿の内部におり、力がみなぎっているからだ。
 さらに己の生命力全てを声につぎ込んでいるからなのだという。

『お、お前は馬鹿なのかっ! なぜ……なぜもっと早く…………なぜ世はもっと早くその真実にきがつかなかったのか。いや…………知ろうともしなかったのだな。勝手にクララが死んだのだと決めつけて』
「わたしこそ、いつも全てが遅い。戦争に駆けつけるのも……それ以前に牢を抜け出したあとにあなた者とはと駆ける選択をしたいれば、こんなことにはならなかったんです……」

 小さく呟くと、光の照らしているクララの体は次第に小さな気泡へと変わっていく。

 時間なのか。
 俺は何もいうことなく、レヴィアタンとクララの様子を眺めていた。

『クララっ! いくなっ』

 レヴィアタンは血を吐くようにして悲痛な声で叫ぶ。

「わたしにはあなたを殺めることなんて、やっぱり出来ない。……こんな人生だったけど、わたしはあなたに会えて……よかった」
『……くっ。――世もだ。お前に……クララに会えて本当に良かった』

 その言葉をレヴィアタンが呟いた途端、なんと化け物の姿だったレヴィアタンは――人間の男へと変化した。
 それはまるで魔法のようだった。

 美しく手のひらを重ね合う男女は互いを抱きしめ合う。

「レヴィアタン……それがあなたの本当の姿なのですね」
「……っああ! 世はもともと人だったのだ。けれど、魔女によって恐ろしい怪物へと変えられてしまった。『お前を愛してくれるものが現れない限り、その呪いは解けない』と言い残し、魔女が――」

 レヴィアタンとクララは互いの体温を求め合うかのように、強く口づけをした。

「ひえっ」

 おっと。
 慣れない光景につい声が漏れてしまったせ。……うん、俺はちっとも動揺なんてしてないからな。

 俺が白目を向きそうになりながら思わず火傷してしまいそうなほど熱々な仲睦じい(?)光景を見ていると、どうやら時間のようだ――。

 クララの体も、そしてレヴィアタンの体も泡となって解けていく。
 二人はそれを全く恐れていないようだった。

「パーカーさん、私をここまで連れてきてくれてありがとうございます」
「……ふん。クララを連れてきてくれたことは感謝する……」
「ふふっ、レヴィアタンたら。私たちはここで消えます。本当にありがとう。そして――さようなら」

 人魚は温かな笑みをこぼし、完全に泡となって消えてしまった。同時にレヴィアタンも泡となって消える。
 地面には二枚のカードが落ちていた。おそらくレヴィアタンと人魚のカードなのだろう。

 しん、と王座の間に沈黙が落ちる。

 しばらくして俺はポツリと呟いた。

「さ、三文芝居も勘弁してくれ……」

 俺は疲れ切った顔をしているに違いない。
 わけもわからず混乱していた。

「それに――――人魚姫なのか美女と野獣なのか、それとも浦島太郎なのかはっきりしてくれよっ!!」

 そんなこんなで俺は戦うことなく不戦勝をおさめ、地上へと帰還することになったのだ。


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