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第2章
第26話 黒ずくめの殺人者
しおりを挟む「どうだった? ダンジョンの3階層は」
攻略を終え、ギルドにたどり着いた俺を出迎えたドリルは尋ねる。
ニヤニヤとしたその顔を殴ってやりたい気分になった。
「…………あれが3階層の通常運転なんですか?」
俺は思わずため息をつきながら問う。
ドリルはいまだからかうようにニヤつきながら、腕を組んだ。
「お前さんの辿ったシナリオはどんなだった?」
「え? ……えっと…………人魚を助けてそのままボス部屋に突っ込んだら、ボスと人魚がイチャイチャし始めてそのあと泡になって消えました、はい」
「……随分端的にまとめたな……すげえ。……まあ、その話がベストエンドだな。話の種類的に言えばメリーバッドエンドってやつだ」
泡となって消えた二人。
たしか、メリーバッドエンドって側から見ればバッドエンドだけど本人たちにとってみれば幸せな結末ってやつだったよな。……日本でそんな言葉はあったけど、異世界に来てまで聞くとは思わなかった。親日(というのかどうかは不明だが、所々日本風味を感じているので勝手にそう認定している)すぎてびびるわ。
思わず形容しがたい顔でドリルに視線を向ける。
「第三者的にはハッピーには思えんからな。他にもいろんなエンディングがあるんだぞ? ……例えば、人魚をボス部屋にたどり着くまで守りきれず失ったしなった場合、普通にフロアボスのレヴィアタンと戦うことになる」
「……人魚さんには悪いけど、正直そっちの方が俺の精神衛生上良かったかもしれませんね」
「ひ、ひでえな! ……あとは、人魚に傷を負わせたままボス部屋にたどり着いた場合だな。そんときは人魚もレヴィアタンも敵となって襲いかかってくる」
「――な、何故そうなる……」
意味不明なダンジョン3階層の設定と物語に俺は呆れてしまいそうになった。
俺はそのあとギルドを出て、一度宿へと戻ることにした。
今回のダンジョン攻略で得たカードの登録、ドロップアイテムの管理、テイムドたちのレベルアップによるスキル取得などやらなければならないことは多岐にわたるのだ。
宿に着き、やるべきことをほぼすべて片付けた俺は早速バインダーを呼び出す。
「今回で32種類。スキルが一つ取得出来るようになったな。今取るべきだよな……」
スキルは状況によって取得できるものも変わるらしいので少しだけ悩んだが、結局今取得をすることに決める。
実のところダンジョン内でカードの登録をしようと思っていたのだが、一応あのときは人魚がパーティに加わっていた。……まあ、戦ってはおらず、明らかに足手まといだったけど。
俺はなんとなく人魚の目の前で登録するのに躊躇いを覚え、結局後回しにしていた。
いや、モンスターの前だから問題なかったんだろうけど、万が一のためにな。人間ぽいし、見られたくなかったんだよ。
俺はスキルの【取得】をタップする。
周囲には興味津々なミーコと、くつろぎモードに入っているペンペンがベッドに座っている。
さて、俺の次のスキルは一体何になるんだろうか。
期待を胸に待ちわびる。
光が差し込み始め、そして消えていく。
「光も消えたな。……よし、見てみるか!」
俺は意気込みながらステータスボードに目を向けた。
・・・
識別No.4548714【パーカー】
固有ギフト:魔物大好き
スキル一覧:《怪力》《瞬足》《挑発》《強堅》《無臭》《風拳》《戦果》《空間収納》
・・・
「な、なんだ……このスキルは。《戦果》って一体なんだ? 意味不明すぎる」
「みゃお?」
「…………クェーッ…………クェーッ……」
……ペンペンはどうやらくつろぎモードから、熟睡モードへと進化したようだ。
俺がこんなに困惑しているのに、情のないやつだ。
俺の隣にいるミーコからは『この子どうしようもないな』というような感情がビシビシと伝わってくる。
さて、切り替えよう。
俺はいつも通りスキル詳細を知るために、《戦果》の文字に触れた。
・・・
スキル《戦果》
能動的スキル。
同じ系統の種族と1対1での戦闘を両者合意の上でし、勝利した場合、相手からランダムにスキルを奪うことが出来る。レア度は上の中。
・・・
俺は思わず目を疑った。
……このスキルはやばい。奪うって物騒すぎる!
なぜもこうして俺を非人間化させるようなスキルが次々と手元に集まってくるのだろうか。
「どう考えてもおかしいだろ!!」
俺は一人頭を掻きむしりながら叫ぶ。
いや、強くなるのだから悪いことではない。むしろ良いことなのだろう。
けれど、スキルを取得するにつれて自分が完全に化け物となっていることにゾッとするのだ。……己が化け物として何か深い闇に飲み込まれてしまいそうな予感がして――。
そんな思いを抱きつつ、俺は切り替え考察する。
説明のところに【同じ系統の種族】に対してのみ有効なものなのだと書かれている。
同じ系統の種族というのはミーコならば猫系、ペンペンならば鳥系というような大まかなジャンルのようなものだ。
ゴブリンのような人型であれば亜人系であるし、3階層で出会った巨大鮫のモンスターであれば、魚系として分けられる。
魚系はテイムドモンスターとしては少ないのだが、野生とて、ナンバーズとしては多い方なのだと以前耳にしたことがあった。
細かな分類などは正直わかっていないところも多いが、以前ドリルはそう教えてくれたのだ。
――とすれば。
俺という人物は何系なのだろう。
それはもちろん――――人間だ。
「もしかして……人と一対一の勝負をして勝てばスキルを奪えるのか? ……そ、それはすごいが――」
だが、一つ肝心なことを忘れていた。
重大な欠陥がある。
――この異世界では人間が戦うことは稀なのだ。
異種格闘技大会などに出ればこのスキルの効果を存分に発揮だろう。
ただ、スキルを【奪う】という点がいただけない。
人様から何かを盗ることは良心の呵責に苛まれそうだし、個人的にはあまり好むところではない。
積極的には使いたくない。……使わなければならない状況に追い込まれれば、使用するだろうけどな!
「……うーん、使い所が限られそうだな」
俺は腕を組み、考え込みながら呟いた。
そのあと、俺はLV.13まで上がったペンペンにスキルを取らせた。
天啓として与えられたのは《惰眠》というスキルで、今現在惰眠を貪り中のペンペンにぴったりだ。
このスキル受動的であり、寝溜めができるという確実に戦闘向きではないものだった。
……いや? 旅をしている時にとか、どこかのダンジョンに潜っている時とかには役立ちそうだな。そのときは存分に不寝番として働いてもらおうか……。
俺はまるでブラック企業のような考え方を思い浮かべ、くふふと企みの笑みを浮かべた。
残念ながらミーコに関してはLV.29ということで、新たなスキルを得ることは出来なかった。次に期待だ。
そしてその日の身辺整理等は終了したのだった…と思ったのだが。
その日の晩――宿内にて事件が起こった。
「きゃああぁぁぁ!!」
夕食を終え、階段を上がろうとしていたところ遠くから悲鳴が聞こえたのだ。
場所は――おそらく宿の客が泊まる部屋が並んでいる廊下だろう。
急いで階段を駆け上がり、声の主を見つける。
「おっ、女将さん!大丈夫ですか!?」
「……え、ええ……」
叫び声をあげたのは、この【垂れ耳ラピット亭】の女将さんだった。
俺が1番に駆けつけたのか、まだ人は誰もいない。
全開に開いた扉の中には人が倒れており、背中にはナイフのようなものが突き刺さっている。
俺はドクドクと早鐘を打つ心臓の鼓動を抑えながら、倒れた人に近づく。
そして息を確かめたのだが――。
「だめだ。――死んでる」
そこにいた宿泊客らしき人間は既に息もなく、亡くなっていた。
女将さんは方針気味に遠くを見つめていた。
俺は生唾を飲み込み、女将さんの視線を辿る。
その先には二階の廊下の窓があり、全開になっていたのだ。
「……さ、さっき…………あ、あそこから人が! ――ひ、人が飛び降りてっ」
「……!?」
俺は急いで窓のから顔を出し、下を見る。
――そこには人っ子一人いなかった。
事情を聞かんとすると、周囲には宿泊客や従業員がぞろぞろと駆けつけ始める。
「か、母さん!」
「あ、あんた……」
どうやら食堂で働いている女将さんの息子も駆けつけたようだった。
どうやら女将さんがいうには、夕食をとりにこなかった客に飯を届けに二階へ来たところ、黒ずくめの男が突然部屋から飛び出してきたのだという。
そしてその部屋の中で倒れる客を発見。
驚き腰を抜かしていると、その黒ずくめの男は窓から飛び出して行ってしまったのだという。
客を殺害したあとの飛び降り自殺ではないか。
そう考えた女将さんは、つい怖くなり、悲鳴をあげてしまったという寸法だ。
「黒ずくめ……。お、女将さん。その飛び降りた男ってヒラヒラしたマントみたいなものをつけていたりしませんでしたか?」
「え、ええ。た、たしかにつけていたねえ……」
――聞いた限り、以前フート草原にて出会ったと思しき【初心者狩り】にそっくりだ。
これはもしかして、その犯罪者が宿に侵入してきた可能性があるのかもしれない。
なんのために? ――決まってる。
宿をとり、宿泊しているのは基本的に初心者テイマーばかりだ。
そいつらを狙ったのだろう。
獣士隊の注意喚起によって、もしかして初心者テイマーを捕まえにくくなっているのかもしれない。
だからこそ初心者狩りは、こんなところまで足を伸ばした可能性も――あるだろう。
俺はいまだ顔を青ざめさせている女将さんに目を向け、悔しさにぎりりと歯を噛みしめる。
己の震える手に気づかないふりをして。
獣士隊にも連絡をし、宿泊客は従業員らによって解散させられた。
事件のあった宿ではあるが、夜も遅い。
今夜は部屋でじっとしていてほしい、明日兵士らがひとりひとりを尋ねてくるという言葉を聞き、俺は頷いた。
いつも優しく見守ってくれている女将さんの怯える姿を初めて目にした。
あのときフート草原できちんと捕まえておければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
初めて人が殺された現場を目撃した。
恐怖心はあったが、驚くほど冷静な自分に怖くなった。
モンスターを倒しているうちに、命の価値というものが己の中でどんどん安くなっていっているのかもしれない。
かと言って、流れる血の赤さは鮮烈で、恐ろしかった。
亡くなった人に駆け寄ったとき、まだ温かかったのだ。
今まで生きていた――そのことを実感させられた。
同時に血の赤さは己の最期も思い出させた。
それが脳裏によぎると震えた。
悔しさと恐怖が渦になり、呼吸が荒くなる。
俺は異世界にきてかつてないほどの衝撃を受けたまま、眠れぬ夜を過ごすのだった。
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