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第2章
第27話 事情聴取は突然に
しおりを挟む翌日。
異世界にきて1番目覚めの悪い朝だった。
今でも昨日の事件がまぶたの裏でフラッシュバックする。
――まだ温かいのに鼓動の止まっている心臓。
――赤く流れ落ち、鼻に付く鉄のような匂い。
俺はかぶりをふり、気を取り直す。
部屋の中ではミーコが心配そうな声で「にゃー」と鳴いた。
ベッドに腰掛けている俺の太腿にぐりぐりと頭を擦り付けてくる。……かわいいぜ、癒されるぞ。
ペンペンはというと、いまだ惰眠を貪り中というやつだった。
俺はそんなペンペンの額を軽くデコピンで攻撃するが、起きる様子もない。
呆れながらもその寝顔の愛らしさに絆された俺は、朝食を取るべく食堂へと向かった。
いつもは部屋にそのまま残していくのだが、昨夜のことがあったため今日はカード化して共にいることにした。
「おはようございます、女将さん」
「おはよう! パーカーさん」
せかせかと働く女将さんの様子は怖いほどいつも通りだ。
いや、いつも通りやっていなければ平然としていられないのかもしれない。
なんせ、自分の宿で人が殺されたのだから。
席に着き、食事をとっていると、なにやら入口の方が騒がしくなる。
そのままその騒がしさの原因が食堂に入ってきたらしく、俺はそちらに視線を向けた。
「あれは――たしかベニートさんの妹のネラさん……と、多分獣士隊のひとたちか?」
「……そうだろうな」
ポツリと独り言をこぼしていた俺に、隣に座っていた宿泊客の一人が同意の言葉を漏らす。
入ってきたのは虎姫のネラと、幾人かの屈強な男たちだった。
1番先頭にいるのは立派なヒゲを蓄えた中年男性だ。
立派な体躯をしており、イケオジという言葉が相応しいロマンスグレーだ。
どうやらそのイケオジがこの集団のリーダーらしく、女将さんに話しかけていた。
そのほかの面々は黙ったまま待機しており、皆一様に訓練された兵士という面構えをしている。強そうだ。
イケオジは女将さんと話し終えた後、俺たち宿泊客に対して話を聞きたいと申し出てきた。
おそらく警察の事情聴取的なやつだろう。
話を聞くのは各自部屋でと言われ、俺も部屋へと向かおうとすると女将さんに呼び止められた。
「……パーカーさんは、私の次に発見したからなのか、獣士隊の方は食堂で一緒に話を聞きたいと言ってるよ」
「そうなんですか。分かりました」
俺はそのまま食堂に残ることになった。
しばらくして、その部屋からは俺と女将さん以外の宿関係者はいなくなった。
獣士隊の面々もイケオジとネラ以外は他の宿泊客の部屋へと向かったのか、いつのまにか消えていた。
「すまないねぇ。……あなたがパーカーさんであってますかな?」
「は、はい」
女将さんの隣に座った俺にイケオジは問いかけてくる。
男の隣に立つのは厳しい顔つきをしたネラ。
俺は生唾を飲み込みつつ、緊張した様子で頷いた。
「私はウォルト・タルコット。この獣士隊第2部隊の隊長をさせてもらっとるもんだ」
「……は、はあ」
イケオジはどうやら隊長らしい。
50過ぎくらいの見た目をしており、いかにも貫禄のある体つきをしている。
それは脂肪ではなく、筋肉モリモリという意味でなのだが。
……いやぁ、こんな筋肉どこで使うんだ? テイマーなのに、こんなに鍛えて意味あるんだろうか? ……いや、兵士だからこそ鍛える必要があったりするのかもしれないな。
圧倒されている俺の心を汲み取ったかのように、タルコット隊長は真顔で呟く。
「……うむ。パーカーさんはもう少し鍛えた方がいいかもしれんな。そんな貧弱じゃ、獣士隊には入れないだろう」
「……タルコット隊長。この人は別に兵士になろうとは考えていないかと。……冒険者テイマーなんですから」
「そうなのか?」
「そうです」
ネラがすかさずタルコット隊長に進言する。
……なんか、この二人のやりとり、見ててホッとするな。
実直すぎる父と真面目すぎる娘……みたいな。
そんなこんなで俺と女将さんは二人に話をすることになった。
俺は、夕食を食べ終えて部屋に戻ろうとしたところ叫び声を聞き、現場に駆けつけたのだと語る。
女将さんも同様に、ありのままを全て話した。
「……隊長、やはりこれは――」
「そうだな――初心者狩りの確率は極めて高い。確定は出来ないが」
タルコット隊長の言葉に難しそうな表情で俯くネラ。
黒い衣を纏った犯罪者。
既に巷で話題になっている初心者狩りが思い浮かぶのは当然だ。
逆に、その初心者狩りに扮した別の犯罪者という可能性もあるにはあるが、どちらにしても犯罪者を野放しにし続けるわけにはいかないだろう。
俺はため息混じりたいぼそりとつぶやく。
「…………やっぱりあの黒いやつが犯人なんだな」
そうすると、思い耽っていたネラが突如顔を上げた。
そして、キリリと俺を睨むようにして言葉を放つ。
「そういえば、あなた以前にフート草原で初心者狩りと出くわしたことがあるそうですね? それで応戦しようとしたのだと。ドリルさんから聞きました」
「え、ええ。遭遇したことはありますけど」
「前にも言いましたよね!? 人のものを奪う凶悪な犯罪者なんですから、捕まえようとするなって。……もしかして、少し新聞に載ったからってやっぱり調子に乗っているんじゃありませんか?」
ネラは苛立ちをぶつけるかのようにして言葉を紡ぐ。
様子から見て、なかなか捕まらない犯罪者に痺れを切らし、苛立ちが積もっているのかもしれない。
どうかんがえてもお門違いではあるが、獣士隊という組織に属しているからこそ溜まるストレスというのもあるのだろう。
彼らが街の平和を守ってくれているからこそ、俺は自由にテイマー業をやっているのだ。
少しくらい我慢するかと肩をすくめるだけに留めた。
だが――。
「ネラ! ……調子に乗っているのはお前だ。誇り高い獣士隊が民間人になんて口の利き方をするんだ! もう少し大人になれ」
「……っ!」
タルコット隊長は強い口調でネラに厳しい言葉をかけた。
当のネラは肩をびくりと揺らし、息を飲んだ後に居た堪れないような面持ちで顔を赤らめていた。
そして俺と目が合うと、顔を俯かせる。
「……えっと。別に俺は気にしてないですから大丈夫ですっ! ……いやぁ、獣士隊の皆さんも大変ですからね。ストレスも溜まりますよ」
「……うちの若いもんがすみませんな。私の教育不足で。……ところで気になったんだが――パーカーさんは初心者狩りに会ったことがあると?」
「え、は、はい。……とは言っても完璧に偶然ですし、俺が襲われたわけじゃなくて。襲われていた人がいたのを目撃して助太刀に入ったって感じなんですけど……」
「ふむ……」
タルコット隊長は俺の言葉に耳を傾けながら、数度髭をさする。
ネラに関しては、やはり俺と視線が合うと睨みを効かせてくる。……な、なんで俺ここまで嫌われてんの!?
「そうか。パーカーさんといえば、確かあれですかな。英雄超えの新星……」
「そうそう、パーカーさんはすごいんだよっ!」
タルコット隊長の言葉に、女将さんがものすごい勢いでまるで自分の身内を自慢するかのように主張し始めた。
女将さんは俺が一面に載った新聞を早足で取りに行き、机に広げる。
そしてタルコット隊長に記事の内容をペチャクチャと鼻高々に語っていた。
何故だか自慢げな女将さんの様子を見ていると、恥ずかしいからやめてくれとは言いづらい。
今度はネラの代わりに俺が顔を赤らめて俯くほかなかった。
ようやく女将さんの俺に関しての長話が終わると、腕を組み考え込んでいたタルコット隊長が「うむ」と言って俺に視線を向ける。
そしてその次にいまだに俺に対して睨むのをやめないネラに。
――なぜだかあまりいい予感はしなかった。
その予感は的中することとなる。
「パーカーさん、あなたに頼みごとがあるんだが……聞いてもらえないだろうか」
「…………それは一体?……」
顔を引きつらせながら恐る恐る尋ねる。
タルコット隊長はごく真面目に答えた。
「簡単だ。あなたに初心者狩りに対してのエサーー囮になって頂きたい」
「あらっ!」
女将さんが少女のようにキラキラとした声色で両手をパチリと鳴らす。
…………。
しょ、正気ですか?
俺は呆気にとられすぎて、その言葉すら出てこない。
呆然とタルコット隊長を見つめるほかなかった。
先ほどまでクールに睨みをきかせていたネラもぽかんと口を開け、俺同様呆然としている。
それほどまでに斜め上の予想外すぎる言葉だった。
「あ、あの……どうして俺が? お、俺は兵士じゃないですし、ただの一般人なんですけど……」
「いやいや、あなたは英雄超えのテイマーだ。ただの一般人だなんて、ありえない」
「っタルコット隊長! お言葉ですが、彼はそれでも獣士隊の一員ではないです! 事件は我らだけで解決すべきかと思います!」
ハッとしたネラが強い口調で詰問した。
するとネラの主張に対してタルコット隊長が返す。
「早急に解決できる選択をするか、自分らのプライドだけで長引かせるか……どっちが正解だろうね?」
「そ、それは……」
「…………」
ネラは言い淀む。
俺の頰は引き攣り、言葉が出てこなかった。
タルコット隊長は続ける。
「うちの若いもんだとどうしても初心者狩りには狙われんのだよ。みな私の元で鍛えてるからか、堅気には見えない。……それに比べて、パーカーさんは英雄超えとまで言われているのに、気配は素人そのものだ。まさに囮にはぴったりの存在だとは思わないかい?」
「――確かにそうだねえ! こんな細っこい男の子がものすごいテイマーだなんて夢にも思わないよね。それにパーカーさんは、一応今も初心者テイマーと言えるところもぴったしだ」
女将さんもタルコット隊長の意見に賛同している様子だ。
いやいやいや。
なぜ俺がこんな大変な事態に……。
そんなことを考えていると、頭に昨夜のことが浮かんでくる。
敵は――俺たちの領域で禁忌に手を染めた。
見知らぬ誰かの大切なものを奪う外道だ。
女将さんを――あんなに怯えさせる最低最悪の犯罪者だ。
野放しには……しておけない。
「その顔…………やってくれるかい? もちろん、報酬はきちんと払う。もちろんあなたの近くで隊員が待機しているが、危険がないとは言えない。素人にこんなことを頼むのはどうかしていると言われるかもしれんが――どうか頼む」
タルコット隊長は真摯な言葉で頭を下げた。
どうして俺なんかにここまでするのか、全くわからない。
けれど、そこまでして頼んでくるとは思わなかった。
彼の真剣さがよく伝わってくる。
気づけばこくりと頷いている俺がいた。
「……分かりました。俺もやれるだけやってみようと思います。――女将さんにあんな怖い思いさせたやつをほっとくなんて出来ませんからね!」
「……そうか、やってくれるのか。ありがとう。助かるよ」
タルコット隊長は顔を崩して柔らかく笑った。
「パーカーさん、私のこと思ったくれて嬉しいよ。だけどね、私も唆すようなこと言ったけど、あんたが無事で帰ってこなきゃダメだからね」
「はいっ、もちろんです」
俺は女将さんの言葉に胸を張って頷く。
すると突然、タルコット隊長から大きな爆弾を落とされることとなった。
「ネラ。お前もパーカーさんについて行きなさい。隣で彼の護衛をするんだ」
「……えっ?」
「え、えええええ!?」
ネラのギョッとしたような声と、俺の騒がしい声が食堂に響いた。
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