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第2章
第28話 虎姫と俺=水と油
しおりを挟む「隊長さん、本当に良かったのかい? ……まあ、あたしも賛同しちまったけどさ」
「――ああ」
すでに食堂には髭の生えた渋みのある男と、恰幅の良い宿の女将しかいない。
先ほどまでいた二人の若者はとっくに外へと出て行ってしまった。
それもこれも、男がお・願・い・したせいだ。
タルコット隊長はなにやら企んだ面持ちで笑う。
それを見て、宿の女将も苦笑いを浮かべた。
女将はどうやら男の思惑を全てとまではいかないが多少なりとも理解しているのだろう。
それもこれも、女だてらに若気溢れるテイマーたちを相手にしてきた賜物とも言える。
肝っ玉が据わっているとでもいうのだろうか。
「隊長さん、あんた……」
「これは二人の成長するいい機会でもあるしな。パーカーさんは雰囲気は素人だが、なにやらとてつもない力を持っているような気がする。まあ勘、ではあるが。……それに、ネラ。あの子はもう少し視野を広げてやらなければと常々思っていたのだよ」
「ネラちゃんは、男ばかりの獣士隊の荒波に揉まれてるからねえ。あたよりよっぽど肝っ玉据わっているように思えるけど……でもねえ。まだまだ若いから甘いところもあるのは分かるよ」
女将さんは思い出すようにして笑う。
パーカーをライバル視し、睨みをきかせている姿からは獣士隊の仕事にプライドを持っていることが明け透けに感じとれる。
誇りが邪魔をし、素直になれないのだろう。
それに女だからと言って侮られることもよくあることなのだろうから、だからこそあそこまで頑なになっているのかもしれない。
女将はそんな風に感じていた。
「あいつは……ネラは常に虚勢を張って、人に弱みを見せるのを嫌うからな。自立心が強いといえばそれまでなんだろうが。――これを機に、あの固い頭が柔らかくなればと思うが」
タルコット隊長の呟きは、少しだけ憂いを満ちているようなものだった――。
◯
検問を抜けたすぐ先のフート草原。
そこには安っぽい装備に身を包んだ平凡な男――俺と獣士隊の隊服をきっちりと着こなした美少女がいた。
朝からこんな草原に突っ立って、一体何をしているんだという声が聞こえてきそうだ。
「……って! ネラさん、お前なんでその服のままなんだよ!」
「私はこれでいいんです。任務には支障が出ませんし。……それに、あなたには関係ないでしょう?」
「いやいや! 普通に関係大有りだよっ」
俺は思わず大声でツッコミの声を上げる。
その声に対し、ネラは不快そうな面持ちで俺を睨みつける。
……そんな風な態度とられたら、いくら温厚……というか衝突を避けたい現代の若者代表の俺だって頭にくるぞ!
そのプライドの塊のようなお綺麗な面がひどく憎々しい。
ぶっちゃけ、俺の堪忍袋の尾が切れそうだ。いや、既に切れかかっているとも言える。
ネラに対しては、ベニートの話を聞いて色々思うところもある。
それに加え、個人的にも有効的にしたいと思えない! ……まるで磁石のプラス極とプラス極が反発し合うような――そんな関係なのかもしれない。
つまり、性格的に合わないんだ!
そんな己を理解しながら俺は大きくため息つき、自己中女のネラを見据えた。
「そんで? 任務に支障が出ないならいいけど、とりあえず作戦のすり合わせとかしなくていいのか。俺、こういう捜査的なやつって初めてだし」
「……はぁ。どうして私が素人に付き合わされなきゃいけないのだか。ほんと、勘弁してほしい」
「…………それはこっちのセリフだ」
俺は聞こえないほど小さな声でボソリと呟く。
「何か……いったかしら?」
ネラはその可憐な面をから連想することができぬ程の怒気を含んだ声で俺に言った。
うん……どうやら聞こえてしまったようだ。
さて、気を取り直していかねば。
俺は気持ちを切り替え、現在直面している問題に頭を悩ませる。
簡単なことだ。これは常々どうにか解決すべき問題であると頭にあった。
だけどそれをする前に、ピンチというやつが訪れてしまった。
ずっと言ってたけど、俺、人前で戦闘することは出来ないんだよっ!
格闘技の心得があるといえば多少なりとも戦闘に加わるのはありだろう。……とは言っても、ほんな人はテイマーの中でも特に稀なのだとドリルは言っていた。
かといって戦わないわけにもいかない。
いざ初心者狩りに対面したら、容赦することなど出来ないだろう。
以前、敵は《瞬間移動》というスキルを使って逃走を図っていたのを確認している。次は逃すわけにはいかない。
目撃したからには、何かしらの対策は必要となる。
そしてスキルに対抗するには、自分も何かしらのスキルを使わなければならないだろう。
テイムドたち――ミーコとペンペンのスキルは、ほぼ補助系統ばかりで確実に仕留めるには至らないだろうから。
そのためにも彼女ーーネラに協力を仰ぐ必要が出てくる。……まあ彼女がいなきゃ、俺も自分のスキルを使いたい放題だったんだけどな。
恨めしい目で彼女に視線を向けると、どうやらテイムドの生体化をするようだった。
彼女はカードを手に持っているわけでもない。
ホルダー・カニョリーノのようなものでも持っているのかどうかも確認することはできない。
けれど、テイマーの勘なのかなんなのか分からないが、生体化しようとしているということがなんとなく伝わってくるのだ。
ネラはそんな中、自身の耳――正確にいえば耳にある宝石の埋め込まれたイヤーカフに触れた。
そして――。
「出てきて、【ハクト】」
そう呟いた途端、目の前に白い靄が出現する。
そしてその中から現れたのは――。
「あれは…………――――ホワイトタイガーか」
ミーコよりも、ペンペンよりも、ずっとずっと大きい動物。
体長で言えば生体化したネラよりも大きいだろう白い虎。
艶やかな毛並みをした白い体毛には、黒い模様が至る所に走っている。
瞳はブルーで、その鋭い目つきは獲物を常に探しているように見える。
普通の白虎と異なるところを上げるとするならば、その尾が二股に分かれているくらいだろう。
それ以外は正真正銘、ホワイトタイガーというやつだった。
「おいで、ハクト」
「グルゥゥゥ」
ネラが呼びかけると白虎のハクトは、嬉しそうにじゃれつく。
どうやらこの一人と一匹は相思相愛の仲らしい。……ネコ科だから気まぐれとか、そういうわけではないのだろう。
俺の動物可愛がりたい魂に火がつくが、死ぬ気でそれを抑える。
何故かこのネラのテイムドをモフモフするのは負けた気になるのだ。
テイムドに原因などないが、むしろホワイトタイガーをここまで間近に見られる機会なんてそうそうなさそうだしそれなら…………いやいや、だめだ騙されるな。これこそ、この性悪女の罠かもしれない!
頭の中のモフモフに対する欲望を振り払い、俺もそれを横目で見ながらテイムドを呼び出す。
「ミーコ、ペンペン」
ミーコは生体化されたその瞬間、俺の肩に飛び乗る。
一方のペンペンはフサフサと草の生える草原の地面にごろりと寝転がり、寛ぎモード全開だ。
そんなに二匹を視界に捉えたネラが言葉を発する。
「あなたのテイムド――かわい…………ごほんっ、いえ、なんでもないわ」
「……ネラ? お前、今可愛いって――」
「言ってない!! そ、それに! ……今あなた、私のこと呼び捨てにしたでしょっ! 人のこと勝手に呼び捨てにしないでくれるっ!?」
「――どう呼ぼうが俺の勝手だろ? ……お前も別に俺のことパーカーって呼び捨てにしても構わないぞ?」
色々と腹に据えかねていたものを発散するかのように、ニヤつきながら言葉を並べる。
ネラは、どうやらミーコとペンペンのような愛らしい小動物を見て心をドッキュン撃ち抜かれたらしい! ……ははは、勝ち誇った気分になるな!!
「~~~~っ」
ネラは顔をしかめつつも、負けを感じているのか顔を赤らめた。
俺はそんなネラの様子を見て、くすりと笑った。……なんだか楽しいな。
「そう言えばさ。お前、その格好で任務に支障はないとか言ってたけどどうしてだ?」
俺は気分良く、疑問に思っていたことを尋ねる。
「…………ふんっ。でも……まあ、あなたは最低だし嫌いだけど、たしかに意見をすり合わせる必要はあるわね」
「……ああ、事前準備は大切だからな」
色々と含むことのある受け答えだったが、俺は会話の流れを断ち切れぬように流す。
俺は今、ミーコとペンペンを褒められて(?)機嫌がいいのだ!
ネラはハクトを撫でながら言った。
「この子のスキルがあるから」
「スキル? それって――どんなのだ? ……ってか、そういうのって人に聞いてもいいものなのか?」
「あなた、テイマー初心者だったものね。しょうがないから教えてあげる。…………――普通なら、あまりスキルとかにいて尋ねるべきではないわね。でも、私は別。だって、私と私のハクトの主なスキルはバレてるから」
「え。ば、バレてるのか!?」
何事もなかったかのように語るネラに思わず目を見張る。
バレていて大丈夫なのだろうか。
それとも支障が出ないほど、卓越したスキルと才能を持っているのか。
たしかにネラは酒場でも話題に上がっていたし、獣士隊の紅一点と噂されているくらいだから当然知名度も高いだろう。
【虎姫】と呼ばれているのも、ネラのテイムドであるハクトに由来しているのもだとすぐに察しがつく。
そんな中、ネラは自慢げに胸を張って言った。
「私のハクトの主なスキルの一つ――《隠蔽》…………これは、レア度上の上。最上級のスキルなのよ」
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