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第7話 静かなる工房と、創造の欲求
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ミストラル村へ薬草を届け、盗賊団を捕縛した一件は、フィーリアとブレイブ・ハーツのメンバーたちに予想以上の報酬と名声をもたらした。村人たちからは心からの感謝を受け、リコリスの町に戻ってギルドマスターのドレイクに報告すると、追加の報奨金まで手にすることができた。
「フィーリア、お前さんのおかげで助かったぜ。まさかあの盗賊団を捕まえるとはな」
ドレイクは豪快に笑い、フィーリアの小さな頭を再びわしわしと撫でた。共闘したレオン、ティム、リリィとも、以前のようなぎこちなさは薄れ、別れ際には「また何かあったらよろしくな!」「フィーリアちゃんも元気でね!」と、どこか名残惜しそうな言葉を交わした。
手にしたずっしりとした革袋――中には銀貨が何枚も入っている――を握りしめ、フィーリアの心には新たな欲求が芽生えていた。
(このお金で……もっといい道具、作れるかな?)
これまでの戦いや素材採取で、ギルドから借りたナイフや間に合わせの道具では限界を感じることがあった。自分の身体や戦い方に合った、もっと効率的で、もっと機能的な装備が欲しい。それは、前世で愛機のバイクをカスタムしていた時と同じ、内から湧き上がるような創造への渇望だった。
「あの、ネリーさん。この町に、腕のいい鍛冶屋さんとか、道具を作れる工房って、知らないかな?」
翌日、ギルドの受付でフィーリアは尋ねた。ネリーは少し驚いた顔をしたが、すぐにいくつか心当たりを教えてくれた。
「鍛冶屋なら、ガンツさんの工房が一番だけど……あそこの親父さん、ちょっと気難しくてね。子供相手にしてくれるかどうか……」
「自分で道具を作ってみたいんだけど……」
フィーリアがそう付け加えると、ネリーはさらに目を丸くした。「ええっ、フィーリアちゃんが自分で作るの!?」
それでも、いくつかの工房の場所を教えてもらい、フィーリアは町での聞き込みも合わせて、半日かけてめぼしい場所を巡った。しかし、なかなかフィーリアの眼鏡にかなう場所は見つからない。子供だと相手にされなかったり、フィーリアが求めるような特殊な加工はできないと断られたりした。
諦めかけた頃、町の少し外れ、職人たちが集まる地区の一角で、古びてはいるが、どこか凛とした空気を纏う鍛冶工房を見つけた。入り口の看板には、槌と金床をあしらったシンプルな紋章が刻まれている。ネリーが言っていた「ガンツ工房」だった。
中を覗くと、年季の入った炉が赤々と燃え、カンカンとリズミカルに金属を叩く音が響いていた。作業をしていたのは、筋骨隆々とした初老の男性。口元には頑固そうな髭をたくわえ、鋭い眼光は炉の炎よりも熱く燃えているように見える。彼がガンツだろう。
「……ごめんください」
フィーリアがおそるおそる声をかけると、ガンツは作業の手を止め、訝しげな顔で小さな訪問者を見た。
「……なんだ、嬢ちゃんか。ここは子供の遊び場じゃねえぞ。用がないなら帰りな」
やはり、取り付く島もない。しかし、フィーリアは怯まなかった。
「あの、わたし、自分で使う道具や武器を作りたいんです。あなたの工房を使わせてもらえませんか?」
「はっ、工房を貸せだと? 嬢ちゃんが鍛冶なんぞできるわけが……」
ガンツは鼻で笑おうとしたが、フィーリアが差し出した羊皮紙の束を見て、その言葉を飲み込んだ。そこには、フィーリアが夜なべして描いた、いくつかの道具の設計図(簡単なスケッチだが、寸法や機構が細かく記されている)と、必要な素材のリストが書かれていたのだ。
「……これは、お前さんが描いたのか?」
ガンツは半信半疑で設計図に目を通す。そこに描かれていたのは、彼が見たこともないような、しかし妙に合理的な構造を持つ道具の数々だった。例えば、柄の部分にワイヤーを巻き取り、先端のフックを射出できる小型の装置や、複数のパーツを組み替えることでナイフ、ノコギリ、ピックになる多機能ツールなど。
「はい。こういうのを作りたいんです。この金属は、こうやって焼き入れをして、ここの部分はバネ鋼を使った方がいいと思うんだけど……どうかな?」
フィーリアは、子供らしい柔らかな口調とは裏腹に、金属の特性や加工方法について、専門的な知識を交えながら説明を始めた。
最初は訝しげに聞いていたガンツだったが、フィーリアの言葉が的確で、その発想が斬新であることに気づくと、次第にその無骨な顔に興味の色が浮かび始めた。
「ほう……こいつは面白い構造だな。ワイヤー射出装置だと? まるで蜘蛛の糸みてえじゃねえか。どうやってこれを思いついたんだ?」
「昔、似たようなおもちゃを見たことがあって……それを、もっと実用的にできないかなって考えたの」
「この多機能ツールも悪くねえ。だが、接合部の強度が問題だな。ここをこう改良すれば……」
いつしか二人の会話は、年の差も忘れ、純粋な技術者同士の熱を帯びたものへと変わっていた。ガンツは、フィーリアの小さな頭の中に、恐るべき知識と独創的なアイデアが詰まっていることを見抜いた。そして何より、モノづくりに対する真摯な情熱を感じ取ったのだ。
「……ふん。面白い嬢ちゃんだ。いいだろう、工房の一部と道具を貸してやる。ただし、わしの言うことはちゃんと聞けよ。怪我でもされたら寝覚めが悪いんでな」
ガンツはぶっきらぼうにそう言うと、フィーリアに小さな革のエプロンとゴーグルを手渡した。
「! はいっ! ありがとう、ガンツさん!」
フィーリアの顔が、ぱあっと明るくなった。
その日から、フィーリアは依頼の合間を縫ってガンツの工房に通い詰めた。ガンツの厳しくも的確な指導を受けながら、彼女は一心不乱に自分のための装備製作に没頭する。
炉の火で熱せられた金属を金床の上で叩き、火花を散らす。ヤスリで削り、形を整え、焼き入れをする。その小さな手はすぐに豆だらけになったが、フィーリアの瞳は生き生きと輝いていた。それは、前世でバイクのエンジンを組み上げていた時と同じ、純粋な創造の喜びに満ちていた。
数日後、フィーリアの手によって、いくつかの新しい装備が完成した。
一つは、彼女の手に馴染むように柄の形を調整し、重心バランスを最適化した特製の投げナイフ数本。もう一つは、ガンツも唸ったワイヤー射出装置の試作品。まだ改良の余地はあるが、数十メートル先の木の枝にフックを引っ掛けるくらいの性能はあった。そして、以前森で使っていた粗末な木の槍の代わりに、先端に鋭い鋼鉄製の穂先を取り付け、分解して持ち運びやすくした携行槍。
「うん……これなら、もっと効率よく戦える、かも」
完成したそれらを手に取り、フィーリアは静かな満足感に包まれる。ガンツも、その出来栄えとフィーリアの吸収の速さに目を細めていた。
「嬢ちゃん、お前さん、筋がいい。わしが見込んだけん、間違いはなかったようだな」
「えへへ……ガンツさんのおかげだよ」
新しい装備を試すのが待ちきれない。次の依頼では、これらの道具がきっと役に立つはずだ。フィーリアの胸は、かすかな期待で高鳴っていた。
「フィーリア、お前さんのおかげで助かったぜ。まさかあの盗賊団を捕まえるとはな」
ドレイクは豪快に笑い、フィーリアの小さな頭を再びわしわしと撫でた。共闘したレオン、ティム、リリィとも、以前のようなぎこちなさは薄れ、別れ際には「また何かあったらよろしくな!」「フィーリアちゃんも元気でね!」と、どこか名残惜しそうな言葉を交わした。
手にしたずっしりとした革袋――中には銀貨が何枚も入っている――を握りしめ、フィーリアの心には新たな欲求が芽生えていた。
(このお金で……もっといい道具、作れるかな?)
これまでの戦いや素材採取で、ギルドから借りたナイフや間に合わせの道具では限界を感じることがあった。自分の身体や戦い方に合った、もっと効率的で、もっと機能的な装備が欲しい。それは、前世で愛機のバイクをカスタムしていた時と同じ、内から湧き上がるような創造への渇望だった。
「あの、ネリーさん。この町に、腕のいい鍛冶屋さんとか、道具を作れる工房って、知らないかな?」
翌日、ギルドの受付でフィーリアは尋ねた。ネリーは少し驚いた顔をしたが、すぐにいくつか心当たりを教えてくれた。
「鍛冶屋なら、ガンツさんの工房が一番だけど……あそこの親父さん、ちょっと気難しくてね。子供相手にしてくれるかどうか……」
「自分で道具を作ってみたいんだけど……」
フィーリアがそう付け加えると、ネリーはさらに目を丸くした。「ええっ、フィーリアちゃんが自分で作るの!?」
それでも、いくつかの工房の場所を教えてもらい、フィーリアは町での聞き込みも合わせて、半日かけてめぼしい場所を巡った。しかし、なかなかフィーリアの眼鏡にかなう場所は見つからない。子供だと相手にされなかったり、フィーリアが求めるような特殊な加工はできないと断られたりした。
諦めかけた頃、町の少し外れ、職人たちが集まる地区の一角で、古びてはいるが、どこか凛とした空気を纏う鍛冶工房を見つけた。入り口の看板には、槌と金床をあしらったシンプルな紋章が刻まれている。ネリーが言っていた「ガンツ工房」だった。
中を覗くと、年季の入った炉が赤々と燃え、カンカンとリズミカルに金属を叩く音が響いていた。作業をしていたのは、筋骨隆々とした初老の男性。口元には頑固そうな髭をたくわえ、鋭い眼光は炉の炎よりも熱く燃えているように見える。彼がガンツだろう。
「……ごめんください」
フィーリアがおそるおそる声をかけると、ガンツは作業の手を止め、訝しげな顔で小さな訪問者を見た。
「……なんだ、嬢ちゃんか。ここは子供の遊び場じゃねえぞ。用がないなら帰りな」
やはり、取り付く島もない。しかし、フィーリアは怯まなかった。
「あの、わたし、自分で使う道具や武器を作りたいんです。あなたの工房を使わせてもらえませんか?」
「はっ、工房を貸せだと? 嬢ちゃんが鍛冶なんぞできるわけが……」
ガンツは鼻で笑おうとしたが、フィーリアが差し出した羊皮紙の束を見て、その言葉を飲み込んだ。そこには、フィーリアが夜なべして描いた、いくつかの道具の設計図(簡単なスケッチだが、寸法や機構が細かく記されている)と、必要な素材のリストが書かれていたのだ。
「……これは、お前さんが描いたのか?」
ガンツは半信半疑で設計図に目を通す。そこに描かれていたのは、彼が見たこともないような、しかし妙に合理的な構造を持つ道具の数々だった。例えば、柄の部分にワイヤーを巻き取り、先端のフックを射出できる小型の装置や、複数のパーツを組み替えることでナイフ、ノコギリ、ピックになる多機能ツールなど。
「はい。こういうのを作りたいんです。この金属は、こうやって焼き入れをして、ここの部分はバネ鋼を使った方がいいと思うんだけど……どうかな?」
フィーリアは、子供らしい柔らかな口調とは裏腹に、金属の特性や加工方法について、専門的な知識を交えながら説明を始めた。
最初は訝しげに聞いていたガンツだったが、フィーリアの言葉が的確で、その発想が斬新であることに気づくと、次第にその無骨な顔に興味の色が浮かび始めた。
「ほう……こいつは面白い構造だな。ワイヤー射出装置だと? まるで蜘蛛の糸みてえじゃねえか。どうやってこれを思いついたんだ?」
「昔、似たようなおもちゃを見たことがあって……それを、もっと実用的にできないかなって考えたの」
「この多機能ツールも悪くねえ。だが、接合部の強度が問題だな。ここをこう改良すれば……」
いつしか二人の会話は、年の差も忘れ、純粋な技術者同士の熱を帯びたものへと変わっていた。ガンツは、フィーリアの小さな頭の中に、恐るべき知識と独創的なアイデアが詰まっていることを見抜いた。そして何より、モノづくりに対する真摯な情熱を感じ取ったのだ。
「……ふん。面白い嬢ちゃんだ。いいだろう、工房の一部と道具を貸してやる。ただし、わしの言うことはちゃんと聞けよ。怪我でもされたら寝覚めが悪いんでな」
ガンツはぶっきらぼうにそう言うと、フィーリアに小さな革のエプロンとゴーグルを手渡した。
「! はいっ! ありがとう、ガンツさん!」
フィーリアの顔が、ぱあっと明るくなった。
その日から、フィーリアは依頼の合間を縫ってガンツの工房に通い詰めた。ガンツの厳しくも的確な指導を受けながら、彼女は一心不乱に自分のための装備製作に没頭する。
炉の火で熱せられた金属を金床の上で叩き、火花を散らす。ヤスリで削り、形を整え、焼き入れをする。その小さな手はすぐに豆だらけになったが、フィーリアの瞳は生き生きと輝いていた。それは、前世でバイクのエンジンを組み上げていた時と同じ、純粋な創造の喜びに満ちていた。
数日後、フィーリアの手によって、いくつかの新しい装備が完成した。
一つは、彼女の手に馴染むように柄の形を調整し、重心バランスを最適化した特製の投げナイフ数本。もう一つは、ガンツも唸ったワイヤー射出装置の試作品。まだ改良の余地はあるが、数十メートル先の木の枝にフックを引っ掛けるくらいの性能はあった。そして、以前森で使っていた粗末な木の槍の代わりに、先端に鋭い鋼鉄製の穂先を取り付け、分解して持ち運びやすくした携行槍。
「うん……これなら、もっと効率よく戦える、かも」
完成したそれらを手に取り、フィーリアは静かな満足感に包まれる。ガンツも、その出来栄えとフィーリアの吸収の速さに目を細めていた。
「嬢ちゃん、お前さん、筋がいい。わしが見込んだけん、間違いはなかったようだな」
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