空色

ゅぅ

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第1章「Baby Doll」

第7話

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オーナー達が去った後、何故か破れたベビードールから目が反らせなかった。

翌々、考えるとそれは初仕事の時に身につけていたもの。

「もう元には戻れないよ」
そう言われた気がした。


『戻ろっか。 皆が心配してるよ!』

しばらくして、美香はニッコリ笑うと私に手を差し延べた。
その白く優しい手を取り、私達は忌まわしい部屋を後にする。

今日は助かった。
でも明日の保証はない。

あの人がいるかぎり……
そう思ったと同時。

《キィーーッ ドンッ!!!!》

大きな音が物凄く近くで聞こえた。
店内は妙に騒がしい。

『アユ、行こう!』

美香はもう一度強く手を握ると、唯一、外へ出られる扉に向かう。

そこで見たもの。
それは……

『ッきゃーー!!!!』

身体はおかしな方向へ曲がり。
何処からか真っ赤な血を滴(シタタ)らす。

今、まさに息絶えんとするオーナーの姿だった。

『きッ 救急車!』

オーナーをはねた車のドライバーは、携帯で119番を押そうとするが、気が動転しているのか押し損(ソン)じて、携帯を道路へ落としてしまう。

落ちた衝撃で飛び出した電池パックは血溜まりに沈む。

【死んでいなくなってしまえ】

願ってはいけない事を願ってしまった、と思った。
それと同時に妙な安堵感。

私は体を覆うシーツの端を握りしめ、店内へ戻った。





『意識不明の重体だって』

『まじ? だってあの血だもんね~』

私がオーナーの状態を知ったのは、事故から2日後の事だった。

BabyDoll内はその話で持ち切り。

『でも良かったんじゃん? しばらく平和だし』

陰でそう言う者もいる。
正直、私だってホッとした。



しかし……

『お前ら、オーナーのいない間も気を抜くんじゃねーぞ。 オーナーが帰るまで、この俺に従うようにしろ』

私達の夢見た桃源郷は、脆く崩れ去った。


この地獄はまだ続く……
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