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第1章「Baby Doll」
第9話
しおりを挟む『あーもう、最近ハズレばっか!』
藤原が仕切るのに慣れた頃、美香はそう言って大きく息を吐いた。
私達、店の女の子は客に当たり外れをつける。
太っていたり頭が薄かったり…
どちらでもないけど気持ち悪く感じる人。
皆ハズレ。
それに対して若い人や、中年でもルックスの良い人は、アタリになる。
まぁ、8:2で大半がハズレだけどね。
『どうせ売るならオヤジより若い方がいいじゃん? アユもそう思わない?』
美香は私の顔を覗き込んで言う。
その瞬間だった。
「きゃーッ」と女の子達の騒ぐ声が聞こえたのは。
私達は顔を上げ、声のする方へ急ぐ。
お客様用の待合室に入ると、そこには1人の若い男の人が立っていた。
『こんばんわぁ。 当店のご利用は初めてでしたか?』
BabyDollで一番の売り上げを出す奈美は、その男の腕を抱き、甘えた声を出した。
皆考えは同じ。
客は若い方がいい。
少しでもカッコイイ方がいい。
ここでアピールする事に必死になる気持ちも理解できた。
『すみません、俺……』
『システムの説明ですね! 当店では~』
逃がすまいと必死なのだろう。
奈美は男の意見など聞かぬふりで説明を始める。
『戻ろアユ。 どうせ奈美が持ってくよ、あの客』
そう。
奈美には敵わない。
それに、自分から客を増やすなんて馬鹿な真似したくない。
美香と2人で人だかりの前を素通りする。
しかし、男は私の腕に手を伸ばした。
突然の事に戸惑いながら掴まれた腕を見る。
『こんばんわ。 君を指名していいかな?』
腕から肩へ。
肩から顔へ……
視線は徐々に上へいく。
『君の名前は?』
知らなかった。
こんな綺麗な男(ヒト)が世の中にいるなんて……
『……アユ』
こんな汚い場所に来るなんて……
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