どうしてこうなった!

とらい

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■第1章 元・ガーディアン、現・サラリーマンの帰還

②再会

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ぐうっキュるるるるるっ!?

何だこの音はっ!!と思って飛び起きる。

「ぶっ……くっくっくっ…」

飛び起きたら柔らかい感触だったので、ベッドで寝ていたのだろうという事が分かった。
その側で笑い声が聞こえ、それはエドガーが吹き出した物だった。

「腹が減っているのか?」

エドガーの言葉にさっきの音は、私の腹の虫だという事が分かって顔が赤くなり、口元を抑え肩を震わせて
笑っているエドガーを見たが、多分変な顔をしていた筈だ。

「…すまん、飯にしよう。歩けるか?こっちで食べよう。」

私の様子にエドガーが気を遣ってくれたのか、食事を勧めてくれた。
肉とスープの良い匂いがするなと思って、相手の歩けるか?という問いには軽く頷いた。
私が寝ていたのは彼の寝室のベッド様で、彼に促されて寝室を出るとファンタジーにありがちな木造作りの部屋に暖炉があって、暖炉の火で鉄鍋を熱している。
鉄鍋から胃袋を刺激する匂いが漂っている。異世界(日本)ではお目にかかれない様な匂いだ。
エドガーは鉄鍋からスープを底が深い木の器へ装うと、木目の古びたテーブルに置く。スープの他にとろけたチーズがのった黒パンが添えられていた。

「ありがとう…エドガー」

15年ぶりに再会したウィザードは、私の想像と大分かけ離れた偉丈夫なウィザードになっていたが、根は変わっていないのかもしれない。

「いただきます。」

つい、日本で行っていた手を合わせて食べるという作法を見せると、エドガーは不思議そうに見つめて聞いてきた。

「何だ?それは」

「向こうの世界の作法だよ。食料になったかてと作物を作ってくれた人…と食事を作ってくれたエドガーに…」

最後は尻窄みしてエドガーには聞こえない筈であるが、エドガーには聞こえていた様で目尻が下がっていた。
私は顔を合わせる事が出来ずに、目の前のスープを口にする。身体に染みる暖かさと、美味さだった。

「良い習慣だ…異世界は悪く無かった様だ。俺は余計な事をしたかもしれない。」

エドガーの溜息が聞こえる。私は思わず顔を上げて

「そんな事はないっ!?…私を取り戻そうとしてくれた…ありがとう。」

私の言葉にエドガーはホッとしてくれたのかは解らない。だが、正直…言えなかった。読みかけの漫画や、撮り溜めたドラマや某24時間のお笑い番組。
今日帰ったら見ようと思って残念な気分だった事は、絶対に言えない。

だってこっちの世界エールデンにはこんな娯楽はないんだからな。ちゃんと部屋片付けていたっけ?とふと思ったが、記憶の底に封じ込めた。

私の食事する姿をエドガーは眺めていたのだが、ふと問われた。

「…?お前、洗礼は受けてないのか?」

「洗礼?」

異世界(日本)在住歴が長いせいか、エドガーが私に鑑定術をかけていた事に気づかなかったのだが、エドガーは私のステータスを見て問いかけて来た。
初め、エドガーが言っている内容が分からなかったのだが、遠い昔の記憶を掘り起こしてそれが性別だという事に気づく。

「エドガーは、その…」

「俺はαアルファだ。」

「あぁ、まぁ…その姿でΩオメガは無いよな?βベータでも珍しいだろ。」

「ふむ、洗礼を受けるまでもなく、お前はαだと思うがな。」

エドガーの言葉。そうだ…異世界(地球)では性別は男女の2種類しか無かったので割とシンプルであったが、それでも中々複雑だった事を覚えている。
こちらの世界エールデンは、6つの性存在しているというややこしい状態がある。下地ベースとなるかたが男女である。
そして、その男女の中でα・β・Ωというタイプが存在するのだ。箇条書きにすると以下になる。

α(男女):支配階級。身体能力、知能が高くエリート思考。Ωより多い。
β(男女):中間層。数が1番多い。地球での男女がこれにあたる。
Ω(男女):下位層。発情期があるせいで社会的に冷遇されている。男女共に妊娠可能。華奢で美しい容姿が多い。

αの女性は妊娠可能であるが、確率的には低い。またΩの男性は妊娠させる事も可能であるが、こちらも確率が低い。
Ωであれば、αとの交配なら確実に妊娠可能であった。エドガーの話だと昔よりは随分、Ωへの風当たりはマシになっている様子であるが、
それでもまだ冷遇される事は多いので、さっさと番を見つけるΩが多いとの事だ。
10年位前に勇者が現国王になってから、大分差別的な事は少なくなっている様だという話。
へぇとちょっとだけ感心した。

「性別が解らないと、不審に見られる。まずは洗礼を受けた方が良い」

エドガーの提案にそれはそうかと納得する。まぁ、私はこんな形だしαかβだよな。
そうだ、エドガーは司祭の資格ないのだろうか?

「エドガー…司祭の資格は持ってないのか?治癒系の魔術も使えるだろう?」

「司祭など柄ではない。」

出来るんじゃないか…わざわざ神殿に行かなくても、あの2人に来ている事を知られたくないんだが。

「心配しなくても此処は王都ではないから、心配するな。お前の一件があって俺は彼奴らとは縁を切った。」

「じゃあ…行こうかな。神殿…」

私の言葉に心情を察したエドガーの言葉に、私は苦笑いで答えたのであった。
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