殺人計画者

ふじしろふみ

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第五章 本多瑞季の場合

五 ◯本多 瑞季【 過去 】

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 柳瀬川からの提案は、今の私にとって渡りに船、地獄に仏であった。アフターに付き合うだけで、二十万円も金を貰える。たった数時間だけで。ここまで簡単に大金が入ることなど滅多に無いが、正直に言えば、達ちゃん以外の男と仕事以外で二人きりになりたくないし、自分の体を触られたくなかった。それまで出会ってきた男の中で、彼は、彼だけは本当に特別な存在であり、今後も関係を大事にしていきたいと思っているのだから。
 しかし現状そうも言っていられない。私がなんとかしなければ、その達ちゃんに多大な迷惑をかけることになる。
 金に食いついたように見えないよう、一度断るそぶりを見せた後、柳瀬川の誘いに乗った。それからはずるずると、柳瀬川との関係は続いている。良い加減止めたいところではあるが、大和に対して金を渡すため、また借金を地道に返すため、それを止める訳にはいかなかった。
 しかし彼との関係も短く終わる(終える)ことになる。
 十二月二十四日。この日、達ちゃんが夜勤により一緒に過ごせなかった私は、金の受け取りのため(彼はデートと思ったようだが)に柳瀬川と会った。その際彼から、今後は金の工面が困難な旨を伝えられた。必死で頭を下げる目の前の男を見て、私の心はすうっと、何かが抜けていくような感覚に囚われた。
(もう、この男と一緒にいる必要なんて無い)
 今後金を貰うことができないのであれば、おさらばするだけのことだ。一応少額は渡すと言うが、どうせ数万円程度だろう。塵も積もれば…とは言うが、現状そんなはした金なんて、あっても無くても意味が無い。
 私には時間が無いのである。もう四度目になるが、一月十二日。大和との約束の日は刻一刻と迫っている。それまでにあと二十万円程、金額が不足していた。
「私のために沢山頑張ってくれたんだものね。今まで本当にありがとう」
 そうは言っても、これまで彼に助けて貰ったのは事実である。一応形式的ではあるがお礼を告げ、私は去った。それと同時に、彼との縁も…私の心の中で、切ってしまった。これでもう、金を得るための伝手というものが、一切無くなってしまった。
 そんな絶望的な状況下から数日後の一月九日、現在。期限が間近に迫り焦る私を、更に困惑させる出来事が起こる。
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