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第一章 登録
三
しおりを挟む『はじめまして。サイトに登録をしました、カヨです。よろしくお願いします』
『はじめまして。ご登録ありがとうございます。サクライと申します。このサイトの管理人でございます。よろしくお願いします』
サイトへの参加方法は、ソーシャルゲームや宿泊予約サイトなどと同様、始めに会員登録が必要である。
住所、ニックネーム、年齢、連絡先となるメールアドレス、簡単な自殺したい理由…エトセトラ。それらを入力した後のやりとりは、全てサイト上のメッセージツールで行うスタンスだった。
自殺をするためには、登録後まず、サクライという管理人に話をつけなければならなかった。匿名故に彼(彼女なのだろうか)の人物像はイメージできなかったが、どうせ私は死ぬつもりである。死ぬことができればそれで良く、相手がどんな輩だろうが気にならなかった。
『カヨさんは、自殺をするならいつ頃と考えていますか』
返信は早かった。送信すると一時間もしないうちに返信がある。
『なるべく早ければと考えています。明日とかでも良いです』
覚束ないタッチで、キーを打つ。何だかはらはらする。明日なんて言ってしまって、良かっただろうか。それで本当に明日で問題なければ、その言葉どおり、明日にはこの世を去るのかもしれないのだ。
落ち着かず、キーボードのF5キーを押して、ブラウザのページを何度も更新する。返信が来たのは、十分後のことだ。
『該当するグループがあるかどうか、確認してみます。また、連絡します』
「グループ?」
画面を睨みつつ、サクライからのメールの内容を一人呟き、そして仮説を立てた。もしかすると、「人生やりなおしっ子サイト」内には、いくつものグループが存在するのかもしれない。登録者も、私だけではないはず。複数人ともなると、自分だけの都合で、自殺する日程や場所を決めることはできない。例えば、この日の自殺はAグループ、次の日はBグループ、その次の日はCグループ…と、それぞれ異なるに違いない。
私としては、グループなんでどれであろうが、それをどこで行おうが——流石に近場である方が楽で良いが——、なんでも良かった。とにかくもう、早く死にたい。死にたいのだ。それこそ、さっき自分で言った明日でも良い。それこそが自分の本心なのだと、改めて実感する。
数十分後、サクライから返信が来た。件名は『申し訳ありません』。参加を断られるものかと一瞬焦るも、本文を読むとそれが杞憂だと知った。
『明日、明後日に実行するグループはございませんでした。ただ』
「ただ?」少々落胆するも、マウスを動かしていく。
『二週間後に自殺するグループがございます。カヨさんがもしよろしければ、そのグループでどうでしょうか?』
二週間後というと、九月二十四日。仕方ないが、それで良い。どうせ一人で死ぬ勇気はない。それに、それまでの時間で、身辺整理もできそうだ。
『大丈夫です、待てます。そのグループでお願いできますか』
『わかりました。それでは、グループのリーダーに連絡を入れますので、少しお待ちください』
グループにはリーダーなる、取りまとめの人間がいるのか。自殺するというのになんだかおかしな話だが、気にせず「了解しました」と返信してから数時間は経過したか。サクライから再度、連絡が入った。
『遅くなりました。問題ないそうですよ。良かったですね。場所と時間などは、登録された時のメールアドレスに、リーダーからの連絡が入ると思います。もう少しだけ、お待ちくださいませ』
サクライのメッセージを読みつつ、私は体の力が抜けるのを感じた。思っていた以上に、緊張で体が固くなっていたようだ。
安堵しつつも、これ程とんとん拍子に進むと少し、怖いものもあった。サクライも、サクライが連絡を取ったというリーダーも、何者なのかは分からない。そもそもこのサイトが本当に自殺をするのかさえも分からない。不明な点が多い中で、こうして話ばかり進んでいく。流れの速い川に流されていくような、自分のことではないような浮遊感を少なからず抱かざるを得なかった。
でも、その時の私は、そういった若干の不安以上に、嬉しさを感じていたのだ。誰にも話せない、受け入れられない、自殺をするという意志。私と同じ意志を持つ仲間がいることと、そんな仲間達と共に逝けるかもしれないということ。それらはある意味、自殺と向き合う勇気を自分に与え、警戒心を亡き者にしたのである。
とにもかくにも、それが今から二週間前のことだった。
そして昨日。サクライに案内されたグループに加わり、私は実際に自殺を決行した…のだが。
駄目だった。
駄目だったのだ。
私には、できなかったのだ。
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