10 / 51
第一章 登録
九
しおりを挟むそれにしても、先程から私は四人に聞きたいことがあった。
「皆さん、今日が初対面じゃないんですか」
気になっていた。彼らがもし、今の自分同様に今日初めて会ったのであれば、ここまで個々の事情を知っているはずがないのだ。ジュンがミナを呼び捨てにするのも、ミナがスミエを「おばさん」呼びするのも、顔見知りであるからこそのことではないだろうか。
「カヨちゃんの言うとおり、俺達一回会ってるんだ」
ジュンを見ると、彼はバツが悪そうに頭を掻いた。
「そうだったんですね」
「ああ。事前の顔合わせってやつ?カヨちゃんが加わる少し前かな。いつでしたっけ?」
「二週間と少し前ぐらい前のことじゃなかったかしら」
「そう、それくらいの時にやったんだよ。なんだか申し訳ないね、雰囲気から蚊帳の外みたくしちゃったかな」
「い、いえいえそんな」
慌てて私は首を横に振る。考えたら途中参加の私と違い、彼らは当初から参加しているのだ。私が入る以前にそんなことがあっていたって、おかしくはない。
私が納得する様を見て、ジュンは「さあ」と、前方に声をかけた。
「俺とスミエさん、カヨちゃんの三人は話したぜ。次はミナ、そんでマサキさんにも話してもらわないと」
「ええー、あたしも話すんですかあ」
スミエとのやりとりのことは忘れたかのように、ミナはわざとらしく唇を尖らせる。
「うーん、困りましたね」それまでほぼ空気と化していたマサキもまた、苦笑いを浮かべている。そんな彼らにジュンは肯く。「ここで出会ったのも何かの縁。そうだろ?この世の最後の時を共にする仲間がどんな奴か、知っておいて損はないと思ってさ。ほら」
彼は腕をのばして、ミナの肩をポンポンと叩く。彼女は恨めしそうに彼を見た後、ぶすっとした表情で、「分かりましたー」と諦めたように溜息をついた。
ミナが後部座席を振り返る。可愛らしく整った顔立ち。男はこれに、ころりと騙されるのだろうか。自分にはこれっぽっちも無い要素だな、と私は自らを卑下する。
「カヨさんだったよね」
「は、はい」
「あたしがここにいるのはね。えっと、親のせい。そう、親のせいなのよ」
「ミナさんの両親は、毒親と呼ばれるものらしいんですよ」
すかさずマサキが付け加える。ミナは唇をきゅっと結ぶ。
「毒親?」
「子どもに悪い影響ばかり与える親のことよ」
説明してくれたスミエに、私は軽く頭を下げた。
「あたしの親、管理欲があってさ。あたしがちっさい頃からやることなすこと、全て制限する人達だったの。門限はもちろん、誰と連絡とってるとか、寝る時間とか。我慢できないレベル。今も変わらずそう。もう、二十歳なのによ?耐えきれなくって、数ヶ月前に家出したの」
「ははあ」
「あたし、男友達が沢山がいてさ。匿ってくれそうな奴の家を転々としてた訳。まあ、代わりにあいつらの相手をしてやっていたし。なんていうの?ウィンウィンな関係ってやつ?」
「相手、ですか」
何の相手なのかは察するものがあった。そういうのに疎い私は、想像して思わず恥ずかしくなり、一人体が熱くなる。
「でも結局、親に見つかっちゃったんだよね。だけどそれで、親が何をしたと思う?その時あたしがいた家主の男を何度もぶん殴って、病院送りにしたの。あたしが止めなければ、多分殺していたんじゃないかなとは思う」
ミナは身震いしながらも、小さな声でそう告げた。
「それから、しばらくはずっと家にひとりぼっちだったわ。外から鍵をかけられて、まるで監獄ね。あたし、悟ったの。ああ、あたしの人生は、この人達に一生支配されて終わるんだろうなって。そう考えたらもう生きててもつまらないし、死んでも良いかなって」
子は親を選べない。おかしな親のもとに産まれてしまう、不幸な子は沢山存在する。被害者と言っても過言ではなかった。
「だからあたしはここにいるの。…こんな感じで良いんですか?」
「いやいや、私に聞かないでくださいよ。話せって言ったジュン君に言ってください」
「それで俺に聞かれても困るだけっすけど。まあいいよ、それくらいで」
苦笑いを浮かべるマサキとジュンの両者をちらりと見つつ、「はい」とミナは両掌を合わせた。
「話はこれで終わり。次、マサキさん。どうぞ」
「私ですか」
運転中の彼の顔色は、後部座席に座るカヨからは伺えないが、声から判断するに動揺しているようだ。
「こほん。ええと、わかりました。じゃあ、少しだけ」
ちょうど赤信号にさしかかり、車が停車する。マサキはふぅと息をついた。
「私には以前、結婚を約束していた恋人がいたんです。でもそんな彼女には、どうやら…私以外に好きな人がいたようで」
はははと軽く笑いつつ、マサキは続ける。
「馬鹿な男です、私は。彼女にとってみれば、私はただのキープだったんです。愛してる、結婚しようだなんて。笑い話ですよ、まったく」
誰も笑えないし、何も言えなかった。それは車内にいる全員が全員、そうだ。
「彼女の不貞が分かった瞬間、生きる希望が無くなりました。もう、どうでもよくなって。それで」
そこで彼は大きく息を吸った。
「気が付いたら、彼女を殺していたんです」
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
タダで済むと思うな
美凪ましろ
ライト文芸
フルタイムで働きながらワンオペで子育てをし、夫のケアもしていた井口虹子は、結婚十六年目のある夜、限界を迎える。
――よし、決めた。
我慢するのは止めだ止め。
家族のために粉骨砕身頑張っていた自分。これからは自分のために生きる!
そう決めた虹子が企てた夫への復讐とは。
■十八歳以下の男女の性行為があります。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる