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第二章 実行
二
しおりを挟む山道を行くこと数十分。
私達はその場所…小学校に到着した。
ただ、そこは数十年前に廃校になり、今は使われていないという。
地域によっては、廃校になった学校を図書館にしたり、保健所にしたり。はたまたカフェにしたりするところもあるらしい。様々な形で、施設の再利活用が進められていると、以前ニュースで観た気がする。しかしここはそうされず、放置されているようだ。
廃校になってから、だいぶ経つのだろうか。この暗さであっても、全体的に年季が入っていることがわかる。外観から、定期的な管理もされてなさそうである。つまり、理由が無ければ、人は来ない場所ということになる。
「都合が良い、ですか?」
「ええ」運転席の扉を閉めつつ、彼はそう述べた。
「安心して自殺できるように、という意味もあるのでしょうけどね。管理人的には、グループで一纏めになって自殺してくれた方が、ありがたいんじゃないでしょうか」
「ありがたい?」
未だ理解できていない私に、マサキは優しく教えてくれた。
「集団自殺やサイトのことが、これまでメディアに取り上げられていない以上、自殺後の処理は、管理人が行なっているんだと思うんです」
処理…もちろん、私達自殺者の遺体の片付けである。
「それで、それこそこんな場所の方が、淡々と処理を行える。だから、都合が良いということです」
「俺達が死んだ後は、管理人がここにやって来るんだろうな」ジュンが校舎を見つつ、呟くように言った。
私達の亡骸を、管理人がいそいそと片付ける。まるで物のように、慣れた手つきで、ポリ袋か何かに詰められるのかもしれない。頭の片隅でそんな光景が思い浮かんでしまい、気分が悪くなる。
とにかく、彼の言うことは理解できた。死ぬ場所と死ぬための方法は、そういった理由から管理人が提供するということになるのだろう。
「そういえば。私達のその、死ぬ方法って決まっているんでしょうか」
廃校の端に車を停め、建物へと向かう途中、前を行くマサキに聞いてみる。彼は私を一瞥した後、片方の手の親指と人差し指で、自分の首を下から掴んだ。
「これですよ、これ」
「まさか、首吊りですか?」
「そのとおり」
首吊り。恐らく誰もが知っているであろう、言い方は良くないが、ポピュラーな死に方の一つである。
マサキ曰く、正式には縊死というらしい。ロープなど、縄状の物を首にかけ、足のつかない程度の高さで宙吊りになる。そうすると、己の体重で頸部の動脈や気管等が強く圧迫され、脳虚血または窒息状態となる。そうして、死に至るというもの。
そうか、首吊りか。私は唾を飲み込んだ。
人生やりなおしっ子サイトのことを知る前のことだ。自殺するならどれが一番楽に死ねるか、私はインターネットで調べたことがあった。その中でも、首吊りは他の死に方よりも、苦しむ時間は少ないのだという。首が圧迫された後、ものの数秒で意識がとぶらしく、気がつけばあの世行きだ。
とはいえ、死ぬ程の圧迫である。意識を失うまでの数秒間の苦しさは凄まじいものだろう。故に、自分で首を吊ろうにも、気が進まなかった。
「私達の使うロープは、既に校舎内に用意されています。とにかく、行きましょう。こんな夜中に部外者が来ることはほぼ無いとは思いますが、絶対とは言えませんし」
マサキは背負っている大きなリュックを背負い直し、学校へと歩みを再開した。皆彼に続く形で、ぞろぞろと歩いていく。私は皆が前に行くのを待ち、スミエの後ろ、最後尾を歩くことにした。
そこでふと地面に目を向けると、校庭の砂の上に一枚、横長の小さな紙が落ちていることに気がついた。
何気なく拾い上げる。どうやら、名刺のようだった。
株式会社エイテック
営業第一課 大谷 悟史
それだけ。文字は明朝体、裏には何も書かれていない。
紙は真新しく、綺麗な白地である。字は滲んでもいない。ということは、この名刺は最近ここに落ちたものといえる。
「カヨちゃん、どうしたの」
少し前を行くスミエの、自分を呼ぶ声にハッとなる。前を向くと、彼女が腰に手を当て、気難しい表情で私を見ていた。他の三人はもう、昇降口に入るところだった。
いけない、置いていかれてしまう。私はその名刺を持ったまま、慌てて彼女のもとに駆け寄った。
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