人生やりなおしっ子サイト

夜暇

文字の大きさ
13 / 51
第二章 実行

しおりを挟む

 山道を行くこと数十分。
 私達はその場所…小学校に到着した。
 ただ、そこは数十年前に廃校になり、今は使われていないという。
 地域によっては、廃校になった学校を図書館にしたり、保健所にしたり。はたまたカフェにしたりするところもあるらしい。様々な形で、施設の再利活用が進められていると、以前ニュースで観た気がする。しかしここはそうされず、放置されているようだ。
 廃校になってから、だいぶ経つのだろうか。この暗さであっても、全体的に年季が入っていることがわかる。外観から、定期的な管理もされてなさそうである。つまり、理由が無ければ、人は来ない場所ということになる。
「都合が良い、ですか?」
「ええ」運転席の扉を閉めつつ、彼はそう述べた。
「安心して自殺できるように、という意味もあるのでしょうけどね。管理人的には、グループで一纏めになって自殺してくれた方が、ありがたいんじゃないでしょうか」
「ありがたい?」
 未だ理解できていない私に、マサキは優しく教えてくれた。
「集団自殺やサイトのことが、これまでメディアに取り上げられていない以上、自殺後の処理は、管理人が行なっているんだと思うんです」
 処理…もちろん、私達自殺者の遺体の片付けである。
「それで、それこそこんな場所の方が、淡々と処理を行える。だから、都合が良いということです」
「俺達が死んだ後は、管理人がここにやって来るんだろうな」ジュンが校舎を見つつ、呟くように言った。
 私達の亡骸を、管理人がいそいそと片付ける。まるで物のように、慣れた手つきで、ポリ袋か何かに詰められるのかもしれない。頭の片隅でそんな光景が思い浮かんでしまい、気分が悪くなる。
 とにかく、彼の言うことは理解できた。死ぬ場所と死ぬための方法は、そういった理由から管理人が提供するということになるのだろう。
「そういえば。私達のその、死ぬ方法って決まっているんでしょうか」
 廃校の端に車を停め、建物へと向かう途中、前を行くマサキに聞いてみる。彼は私を一瞥した後、片方の手の親指と人差し指で、自分の首を下から掴んだ。
「これですよ、これ」
「まさか、首吊りですか?」
「そのとおり」
 首吊り。恐らく誰もが知っているであろう、言い方は良くないが、ポピュラーな死に方の一つである。
 マサキ曰く、正式には縊死というらしい。ロープなど、縄状の物を首にかけ、足のつかない程度の高さで宙吊りになる。そうすると、己の体重で頸部の動脈や気管等が強く圧迫され、脳虚血または窒息状態となる。そうして、死に至るというもの。
 そうか、首吊りか。私は唾を飲み込んだ。
 人生やりなおしっ子サイトのことを知る前のことだ。自殺するならどれが一番楽に死ねるか、私はインターネットで調べたことがあった。その中でも、首吊りは他の死に方よりも、苦しむ時間は少ないのだという。首が圧迫された後、ものの数秒で意識がとぶらしく、気がつけばあの世行きだ。
 とはいえ、死ぬ程の圧迫である。意識を失うまでの数秒間の苦しさは凄まじいものだろう。故に、自分で首を吊ろうにも、気が進まなかった。
「私達の使うロープは、既に校舎内に用意されています。とにかく、行きましょう。こんな夜中に部外者が来ることはほぼ無いとは思いますが、絶対とは言えませんし」
 マサキは背負っている大きなリュックを背負い直し、学校へと歩みを再開した。皆彼に続く形で、ぞろぞろと歩いていく。私は皆が前に行くのを待ち、スミエの後ろ、最後尾を歩くことにした。
 そこでふと地面に目を向けると、校庭の砂の上に一枚、横長の小さな紙が落ちていることに気がついた。
 何気なく拾い上げる。どうやら、名刺のようだった。

 株式会社エイテック 
 営業第一課   大谷 悟史

 それだけ。文字は明朝体、裏には何も書かれていない。
 紙は真新しく、綺麗な白地である。字は滲んでもいない。ということは、この名刺は最近ここに落ちたものといえる。
「カヨちゃん、どうしたの」
 少し前を行くスミエの、自分を呼ぶ声にハッとなる。前を向くと、彼女が腰に手を当て、気難しい表情で私を見ていた。他の三人はもう、昇降口に入るところだった。
 いけない、置いていかれてしまう。私はその名刺を持ったまま、慌てて彼女のもとに駆け寄った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~

藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。 戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。 お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。 仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。 しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。 そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。

【完結】結婚式の隣の席

山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。 ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。 「幸せになってやろう」 過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...