24 / 51
第二章 実行
十三
しおりを挟む「亡くなられたんですか」
「ええ」
「一体どうして」
詮索するような内容ではない。もちろん分かっていた。分かっていたのだが、頭に浮かんだ疑問と強い好奇心を、押さえつけることはできそうになかった。
マサキは私をちらりと見ると、「事故です」と一言。
「数年前。反対車線を走っていた車と衝突して。運が悪く、即死だったそうです」
彼の話によると、相手の車は大幅な速度超過をしていたという。車はそのスピードのまま、ハンドル操作を誤ったか何かで中央分離帯を超え、彼の恋人の車と正面衝突をしてしまった。
「当時、彼女とは入籍する直前でした。彼女の弟からそれを聞いて、仕事を投げ出して病院へ向かいました。道中、夢であってくれと何度祈ったことか」
しかし、そんな彼の祈りは届かなかった。
「初めは、他人事のように思えました」掠れた声で続ける。「心が、どこかに出かけてしまったような感覚で。実感しようにもできないというか、なんというんでしょうね。
多分、人の心というものは、上手く出来ているんだと思います。強いショックから身を守るためなのか…現実と、それを受け入れることの間には時差があるみたいなんです。涙が出てきたのは、少し経ってからのことでした」
切なげな表情で話す彼に、私は口をつぐんだ。なんとも、やるせ無い話である。将来を誓い合った相手が、意図せずこの世を去ってしまうなんて。
——運が悪かった。それだけなんだと、思います。
廃校への道すがら、私が自殺したい理由を話した際、彼がかけてくれた言葉。そして、カオルもまたかけてくれた言葉。運が悪かった。一言で言えば彼もそういうことになるが、私とは比にならない程に悪い。反対車線から車が突っ込んでくるだなんて、そしてそれが恋人の車に衝突するなんて、なんたる悪運だろうか。
「ぶつかってきた相手はどうしてそんな、その、衝突してきたんでしょう」
「それが」私の質問を聞き、マサキは少々言い淀む。が、意を決したように続きを話した。「それが、よく分からないんです」
「分からない?」
「ぶつかってきた相手もまた、その事故で死んでしまったのですから」
「そ、そんなことって」
つまり彼は愛する人とその仇もまた、失ってしまったことになる。
「相手が生きていれば理由も聞けただろうし、それこそ、復讐とやらに燃えることができたのでしょう。私はどちらも、叶わなかった」
「マサキさん…」
「そんな時。この仕事のお誘いを受けたんですよ」
彼によれば、このサイトの運営側の人間もまた、自殺志願者同様「不幸な者」の集まりなのだという。そもそも、そういった事情を抱える者に声をかけているそうだと、マサキは言った。
「今まで、うまくやってきました。リーダーを任されてからは、ジュン君、そしてスミエさんと。楽しく、というと何か意味合いが違いますけど。ここまでやってこれました。チームワークは取れていたんです」
マサキはそう言うと、大きく伸びをした。
「でも。こう言ってしまうとなんですが。あまり雰囲気は良くないように思えましたけど」
「良くない?」
「ほら、行きの車内で。ミナさんとスミエさん、少し険悪なムードになったじゃないですか。それにここに来てからも。マサキさん、彼女に苦言を呈されていたかと」
「ああ、はい。そうですね確かに」
思い出したようにマサキは何度も頷く。
「あれは仕方ありません。ミナさんは今回、私達のグループに初めて入ったのですから」
「そうなんですか?」
「はい。もともと、彼女は別のグループにいたんです。ですがそのグループが人数不足で解散して。それで、ここにやってきた」
ここ数年の間はマサキ、ジュン、スミエで回していたそうだ。
すとんと落ちるものがあった。ミナが死んだというのに、ジュンとスミエがあっさりとこの場を去ったのは、ミナとの付き合いが浅いが故のことだったのだろう。
「ミナさん、少し破天荒なところがありまして。事前の打ち合わせでは百歩譲って良いですが、こうして本番になってもその性格が変わらなくて。少し呆れてしまって」
「そうだったんですか」
彼がこの場所に着いてからミナを強い口調で責めたのは、それまで彼女に対して溜まっていた鬱憤を口走ってしまったのだという。
「車内でも、考えたらミナさんからスミエさんに突っかかっていましたよね」
「困ったものです。でも、だからといって死なれてはそれ以上に困るのですが」
それはそうだ。自殺のフリが失敗してメンバーが死んだなんて、リーダーとして…いや、リーダーじゃないとしても、良い思いはしないだろうから。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
タダで済むと思うな
美凪ましろ
ライト文芸
フルタイムで働きながらワンオペで子育てをし、夫のケアもしていた井口虹子は、結婚十六年目のある夜、限界を迎える。
――よし、決めた。
我慢するのは止めだ止め。
家族のために粉骨砕身頑張っていた自分。これからは自分のために生きる!
そう決めた虹子が企てた夫への復讐とは。
■十八歳以下の男女の性行為があります。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる