青春リフレクション

羽月咲羅

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第4章

二人の場所(2)

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「あ! これ、あげる!」

 虹を思う存分に眺めて水を止めると、流奈はラッピングされた〝それ〟を差し出した。
 それはプラスチックのカップに入ったプリンのようで、ぷるんと微かに揺れる。

「さっき家庭科室で作ったの。うまくできたから、あっくんに食べてほしくて」
「………」
「え、あれ? もしかして、プリン嫌い?」
「……いや、そうじゃないけど」

 嫌いじゃなくて、食べられないだけ。
 糖分の高いものはダメだって、小さい頃からずっと言われてきてそれが普通だったから。
 だから、今までたくさんのものを我慢して、仕方ないと諦めてきた。
 それが普通でごく当たり前で、そのことに慣れたつもりでいたのに。
 だから今回もそうで、自分の体を考えるなら今これを食べたらいけないことはわかっているのに。

「……食って、いいの?」

 ついそんなことを言ってしまったのは、流奈が悲しむのを見たくなかったから。
 せっかく俺のために作ってきてくれたものを無下にはできず、したくなくて。
 ダメだと頭の奥で警鐘が鳴るものの、食べたい――その気持ちのほうが大きかった。

 俺は受け取ったそれを取り出して、中に一緒に入っていたスプーンでそっと掬う。
 大丈夫かと不安が頭を過るのも一瞬で、勢いよく口に入れて目を瞬かせた。

「…え、これ――」

 市販のものと違う、母さんが小さい頃に作ってくれたものとよく似てるプリン。
 カラメルソースはなく、甘さも風味程度の微かなものしか感じない砂糖不使用で作られたものだった。

 普通はこんなプリンを作るはずがない。
 だとしたら、わざわざ?
 流奈には体のことを話してないのに、もしかして彼女は知ってるのか。

「これなら、あっくんも食べられるでしょ?」
「……うん」
「私ね、あっくんにはいろんなものを我慢してほしくないの。好きなことをして、好きなものを食べてほしいって思うの」

 流奈は、…彼女はいったい何者なのか。
 俺のことを最初から知っていて、でも俺には会った記憶なんてない。
 なのに、体のことも知っているなんて、いったいどこで会ったんだろう。

「だからね、やりたいこと言って。私と一緒に叶えようよ」

 やりたいこと――そんなのたくさんあるけど、どれもこれも諦めてきたものばかりだ。
 球技大会に出ることも甘いものを食べることも、ジェットコースターに乗ることも。
 数え出したらキリがないほど、やりたいことは山のように溢れてる。
 それが普通で、やれないことがあってもそれが自分なんだからと無理やり納得させていた。

「あっくんができないことなら、代わりに私が叶えてあげる。あっくんがやりたいことを私がして、どんなだったか教えてあげる」
「……どうして」
「私、あっくんと同じことをして同じことを感じて一緒に笑いたいんだ」
「………」
「これも、私のワガママ。私があっくんと一緒に楽しみたいだけ」

 ここでも流奈は〝俺のため〟とは言わずに〝自分のワガママ〟だと言った。
 そう言われたら俺がなにも言えなくなるって、きっとわかっているから。
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