青春リフレクション

羽月咲羅

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第11章

彼女のために(2)

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「あのね、イトコがついでだよ? 私はあっくんに会うために、あっくんに会いたくて来てるんだよ」
「……誕生日、言ってくんなかったじゃん」
「あっくんに会えるだけで、私にとっては最高の誕生日プレゼントだからだよ」

 視線を流奈に移すと、なんの迷いも濁りもない瞳が目の前にあった。
 透明で澄んでいて、そこには裏表なんてものはまったく見えない。
 そうだ、流奈は最初からそうだった。
 とても純粋で素直で、自分の気持ちを言葉や行動で見せてくれる。
 打算なんてものはなくて、流奈がそう言うならきっとそれは本当の気持ちだ。

「…なにもしてあげられないのに」

 俺の体はこんなにも弱くて、どれだけしたいと思ってもできないことのほうが多い。
 我慢することには慣れてる。
 だけど、せっかくの流奈の誕生日になにもしてあげられないのが情けなかった。

「なにかしてほしくて、私はあっくんと一緒にいるわけじゃない。こうして側にいられるだけで幸せなんだよ」

 なんだよ、もう。
 俺が長く生きられないことを知ってるくせに、こんなふうに想ってくれるなんて。
 こんなに想ってもらえるなにかを自分が持っているなんて思えないし、わからない。
 でも、そう言ったらまた流奈は怒るだろうから、自分を卑下するようなことはもう言わない。
 そんなことを言えば、俺よりも流奈が悲しい想いをしてしまうことを知ったから。

「一緒にいるだけで私を幸せにできるのはあっくんだけ。あっくんにしかできないことだからね」
「……俺だけ?」
「そうだよ。あっくんといることが、あっくんと出会えたことが私にとっては大事なことなの。覚えておいて」

 それを言うなら俺もで、流奈と出会えたから変わることができたんだ。
 出会わなかったら、死ぬことを受け入れて家族を悲しませるだけの日々を送っていた。
 だから、流奈に出会えたことはとても大きな意味がある。


「――流奈」

 想いが膨らんで、衝動的に抱き寄せる。
 我慢できずにそのまま顔を寄せて、なぞるように唇に軽くそっと自分のそれを重ねた。
 ほんの一瞬だけ、たったそれだけなのに唇に残る温もりと柔らかさはいつまでも消えない。

 目を丸くする流奈は、今されたことに気付くとすぐに顔を赤く染めた。
 俺も真っ赤になってるだろう自分の顔を見られないように、彼女の華奢な体をさっきよりも強く抱きしめた。

「誕生日、おめでとう」

 こんなことしかできない。
 お祝いの言葉を言うしかできない自分が歯痒くなるけど、これが精一杯だ。
 おいしいケーキも素敵なプレゼントも、なにも用意してあげられない。
 それでもきっと流奈は文句も不満も言わず、ないものねだりをしない。
 そういう彼女だから俺は――。

「…ありがとう」
「なにもできなくてごめんな?」
「ううん、そんなことない。嬉しかったよ。その、キス、してくれて」
「…っバカ、言うな! 恥ずかしいから!」

 初めてでうまくできたかどうかもわからない。
 してしまった後でそんなふうに言われたら恥ずかしくて、顔も体も熱くなる。

「ふふ、あっくん照れてる」

 抱きしめたままでいると見上げるように見られて、余計に羞恥に顔を赤くした。
 そんな俺を見て、流奈は楽しそうに笑った。
 たまには俺が振り回してやろうと思うのに、全然うまくいかない。
 もっと余裕ぶってかっこよくいたいのに、初めてのことでそうできないなんて。
 誰かを想う気持ちも愛おしい気持ちも、そういうことは流奈が教えてくれた。

「…あーもうっ、見んな!」

 流奈の丸い瞳に見られるのが恥ずかしくて、隠すように彼女の目を手で覆う。
 彼女はキャンキャンと吠える犬みたいに、視界を塞がれたままで文句を言っている。

「ちょ、見えな――」

 文句を言い続ける流奈を制止するように、俺は手はそのままでまた唇を重ねた。
 案の定、流奈は言葉を止めて、耳まで真っ赤に染め上げた。
 流奈の目から手を退かすと、俺は「バーカ」と言ってはにかむように笑った。

「…バカでいいもん」

 流奈は小さな声でそう言って顔を寄せると、今度は彼女から唇を重ね合わせてきた。
 触れてくる唇は震えていて、それが可愛かった。
 俺は流奈の体を強く抱きしめながら、彼女の温もりを唇越しに直接感じた。
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