青春リフレクション

羽月咲羅

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第14章

大切な思い出(4)

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「――流奈」

 16歳になったら、と言った。
 あの時は16歳まで生きられないという運命の中にいて、それは希望のようなものだった。
 だから、もし誕生日まで生きていられたら、ちゃんと気持ちを伝えようと思っていた。
 未来が見えない中で伝えても、流奈を苦しめるだけのような気がしていたから。

 だけど移植手術を終えた今、誕生日まで待つ必要はないんじゃないか。
 拒絶反応や感染症がないとは限らないけど、俺の命が16歳までということはない、はずだ。
 それなら。

「…? あっくん?」

 なにか言おうとする俺を不思議そうに見つめて、流奈はそう名前を呼ぶ。
 それだけで心臓は激しく脈打ち、流奈を一人の女の子として確実に意識している。
 こんなふうに誰か一人を想えるのは、流奈が初めてのことだった。

「俺、さ」

 ドキドキする。
 誰かに気持ちを伝えるのって、こんなに心臓がバクバクするものなのか。
 移植した心臓が破裂しそうなほどにうるさく音を立てて、余計な心配をしてしまう。


「やっほー、蒼月ーっ!」

 ……またか。

 ガラッと勢いよく病室に入ってきたのは当然ながら聖也で、俺と流奈を見て固まった。
 一度ならず二度までも、いつもいつもタイミングが悪すぎだろ。
 なんでいつも流奈といる時に、まるで見計らったように入ってくるんだ。
 絶対どこかで見ているとしか思えない、……それくらいのタイミングだ。

「……お前、絶対わざとだろ」
「や、ちが、違ぇよ? たまたまだよ、たまたま。そんな怒るなよ。怖ぇって」
「………」
「ほら、笑って笑って! にぃー」

 聖也は空気を変えるかのように無理やりに笑って見せるけど、全然笑えない。
 俺が笑わずにいると、聖也は居た堪れなくなったのか頬を引き攣らせる。
 流奈は困ったように苦笑いをするだけで、なにかを言ったりはしない。

「あ、えーと、出直してきまーす! 麻井先輩もすいませんしたーっ」

 聖也はまるで逃げるかのように、半自動のドアを引いて病室から出ていった。
 嵐のように去っていき、その場にはまた流奈と二人だけになった。


「よ、よかったの、かな?」

 もう見えなくなった聖也の後ろ姿を視線で追うような仕草を見せる流奈。
 他の男を気に掛ける姿に少しムッとして、「いいんだよ」と投げやりに答える。

 流奈との時間を邪魔するのが悪い。
 せっかく気持ちを言おうと思ったのに、思いきり気力が削がれてしまった。
 一度タイミングを逃すと、言おうとしてもなかなかできなくなる。

「で、でも…」
「いいから。聖也のことなんか気にすんな。今流奈といるのは俺だろ?」

 流奈は小さく頷きながらもまだどこか気にしたふうで、なんだかモヤモヤする。
 それが彼女の優しさでいいところだとわかっているのに、それでも俺だけを見て考えてほしいなんてワガママなのか。
 その嫉妬や独占欲には勝てなくて、自分だけを見させるように流奈の唇を少し強引に奪った。
 今まで何度か触れているのに、今日も彼女の唇の柔らかさにドキマギする。

「まだ聖也が気になる?」

 唇を離して吐息が触れる距離で意地悪に聞くと、流奈は赤い顔で「な、ならないです」と答える。
 それに満足して、俺は笑った。

 そんな中で、移植されたばかりの心臓が確かな鼓動を刻んでいた。
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