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第1章
精神安定剤(2)
オーバードーズ、通称OD――医薬品などの用量を守らずに過剰摂取すること。
違法薬物よりも中毒症状がひどいと言われていて、救急搬送される人も少なくない。
頭ではわかっていた。
こんなことをしたらいけないことも救われないことも、そして自分を苦しめることだということも。
すべてわかっていて、わかっているのに気付けばやってしまう自分が自分で理解できない。
頭で考えるよりも先にそうしてしまい、そのことに気付いて毎回後悔する。
何度同じことを繰り返すのか、何度すればこんなことをしなくて済むのかわからず、そのたびに心が抉られるようで痛かった。
なによりも一番嫌なのは、周りにいる人達が誰も理解してくれないこと。
両親もそうで、理解しようという気もきっとなく、寄り添うこともしてくれない。
自分でもどうしてやってしまうのかわからなくて、やりたくてやってるわけじゃない。
この世界の生きづらさに自分でも気付かないうちに追いつめられて苦しくなって、やらずにはいられなくなる。
それをわかってくれず、挙句にはこんな私のことを〝構ってちゃん〟だとバカにされる。
そんなつもりはないし、そういうふうに一言で決めつけないでほしい。
そんな簡単な問題じゃないのに。
ただそれだけならこんなに苦しくならないし、そもそもこんなに悩んでないのに。
「……あ、お、お帰りなさい」
これ以上リビングにいるのが嫌で部屋に戻ろうとして出た瞬間、仕事から帰ってきたお母さんと鉢合わせしてギクリとした。
今自分がなにをしていたのか知るはずがないのに、バレてるんじゃないか、って。
そう思うと落ち着かなくて、それがまた自分を追いつめていくようで苦しくなった。
でも、それを悟られないように、なんでもないと言うように笑って見せた。
偽物でぎこちない笑顔。
いつからこうなったのかわからないけど、気付いた時にはもう親の前で取り繕うのが普通になっていた。
「えと……わ、私部屋行くね!」
声をかけても、まともに返事はない。
いたの、と言うように一瞬視線を向けるものの、すぐに逸らされる。
それが居心地悪くて窮屈で、自分の家なのに、家族なのに逃げ出したくてたまらなくなった。
「あんた、また変なことしてないでしょうね?」
その声に振り向くと、睨むような瞳を向けられる。
逸らしてしまいたくなるのを堪え、無理やりにでも目の前のお母さんと対峙する。
大丈夫、なんでもない――そう言うかのように。
「してないよ。しない」
「それならいいけど、迷惑は掛けないでよ。ただでさえ涼夏のことで大変なんだから、あんたのことまで構ってられないわよ」
「……わかってるよ」
「普通に学校に行けて遊べる健康な体があるのに、バカなことで手を焼かせないでちょうだい」
そうだよね、周りからしたらバカなことで、それをしてしまう私はおかしいんだ。
こんなことをしても誰も気に掛けてくれない、心配もしてくれないのに。
「これでも涼夏のお姉ちゃんなんだから、あの子が恥をかくことはしないでよ。わかった?」
いつもお母さんは双子の妹の涼夏のことばっかりだ。
私の時は学校行事に参加してくれたことはないのに、それが涼夏だと些細なことで心配して、どんな行事でも必ず参加する。
お父さんも同じで、家の中はいつも涼夏中心で動いている。
ねえ、気付いてる?
お父さんもお母さんも、私のことをずっと名前で呼んでくれてないんだよ。
たった数分早く生まれただけなのに最初から私は〝お姉ちゃん〟で、そうならざるを得なくて、満足に甘えることなんてできなかった。
でも、なにもしてくれなくてもいいから、名前を呼んでくれればよかった。
それだけで自分の存在意義はきっとあって、家族だって自信を持てたのに。
「返事は?」
「……はい」
「ほんとにもう、しっかりしなさいよね」
呆れたようにそう言うと、お母さんはもう話すことはないとばかりにリビングへと入っていった。
私のことはどうでもいいと言われてる気がして、それを気にしないようにして階段を上った。
違法薬物よりも中毒症状がひどいと言われていて、救急搬送される人も少なくない。
頭ではわかっていた。
こんなことをしたらいけないことも救われないことも、そして自分を苦しめることだということも。
すべてわかっていて、わかっているのに気付けばやってしまう自分が自分で理解できない。
頭で考えるよりも先にそうしてしまい、そのことに気付いて毎回後悔する。
何度同じことを繰り返すのか、何度すればこんなことをしなくて済むのかわからず、そのたびに心が抉られるようで痛かった。
なによりも一番嫌なのは、周りにいる人達が誰も理解してくれないこと。
両親もそうで、理解しようという気もきっとなく、寄り添うこともしてくれない。
自分でもどうしてやってしまうのかわからなくて、やりたくてやってるわけじゃない。
この世界の生きづらさに自分でも気付かないうちに追いつめられて苦しくなって、やらずにはいられなくなる。
それをわかってくれず、挙句にはこんな私のことを〝構ってちゃん〟だとバカにされる。
そんなつもりはないし、そういうふうに一言で決めつけないでほしい。
そんな簡単な問題じゃないのに。
ただそれだけならこんなに苦しくならないし、そもそもこんなに悩んでないのに。
「……あ、お、お帰りなさい」
これ以上リビングにいるのが嫌で部屋に戻ろうとして出た瞬間、仕事から帰ってきたお母さんと鉢合わせしてギクリとした。
今自分がなにをしていたのか知るはずがないのに、バレてるんじゃないか、って。
そう思うと落ち着かなくて、それがまた自分を追いつめていくようで苦しくなった。
でも、それを悟られないように、なんでもないと言うように笑って見せた。
偽物でぎこちない笑顔。
いつからこうなったのかわからないけど、気付いた時にはもう親の前で取り繕うのが普通になっていた。
「えと……わ、私部屋行くね!」
声をかけても、まともに返事はない。
いたの、と言うように一瞬視線を向けるものの、すぐに逸らされる。
それが居心地悪くて窮屈で、自分の家なのに、家族なのに逃げ出したくてたまらなくなった。
「あんた、また変なことしてないでしょうね?」
その声に振り向くと、睨むような瞳を向けられる。
逸らしてしまいたくなるのを堪え、無理やりにでも目の前のお母さんと対峙する。
大丈夫、なんでもない――そう言うかのように。
「してないよ。しない」
「それならいいけど、迷惑は掛けないでよ。ただでさえ涼夏のことで大変なんだから、あんたのことまで構ってられないわよ」
「……わかってるよ」
「普通に学校に行けて遊べる健康な体があるのに、バカなことで手を焼かせないでちょうだい」
そうだよね、周りからしたらバカなことで、それをしてしまう私はおかしいんだ。
こんなことをしても誰も気に掛けてくれない、心配もしてくれないのに。
「これでも涼夏のお姉ちゃんなんだから、あの子が恥をかくことはしないでよ。わかった?」
いつもお母さんは双子の妹の涼夏のことばっかりだ。
私の時は学校行事に参加してくれたことはないのに、それが涼夏だと些細なことで心配して、どんな行事でも必ず参加する。
お父さんも同じで、家の中はいつも涼夏中心で動いている。
ねえ、気付いてる?
お父さんもお母さんも、私のことをずっと名前で呼んでくれてないんだよ。
たった数分早く生まれただけなのに最初から私は〝お姉ちゃん〟で、そうならざるを得なくて、満足に甘えることなんてできなかった。
でも、なにもしてくれなくてもいいから、名前を呼んでくれればよかった。
それだけで自分の存在意義はきっとあって、家族だって自信を持てたのに。
「返事は?」
「……はい」
「ほんとにもう、しっかりしなさいよね」
呆れたようにそう言うと、お母さんはもう話すことはないとばかりにリビングへと入っていった。
私のことはどうでもいいと言われてる気がして、それを気にしないようにして階段を上った。
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