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第1章
精神安定剤(3)
部屋に戻ると、スマートフォンが着信を伝えて、反射的に手を伸ばして相手を確認する。
それは高校に入って仲良くなった友達の綾瀬由宇で、いつもならすぐ出るのに今は出るのを躊躇った。
電話越しでバレるわけがないのに、ODのことを知られるんじゃないかと怯えて。
かと言って出なかったら後でなにか言われるかもしれないと思うと、出ないわけにはいかなかった。
『もう! 出るのおっそーい!』
出た途端にその声が飛び込んできて、あまりの大きさに鼓膜が破れるかと思った。
それでも文句のひとつも言えず、ごめんごめん、と言うだけだった。
友達とうまく付き合う方法は、自分の本音をどれだけ隠せるか、だ。
相手が求めていることを考えて、それが自分の気持ちとは違っていても求めることをする。
そしたら変な空気になることもなく、きっと仲間外れにされることはない。
自分のことなんて二の次、それが友達と付き合っていく正しいやり方。
『…夏姫、元気ない?』
そう聞かれて、ギクリ、としつつも、なんでもないように無理やり元気に振る舞った。
「そ、そんなことないよ」
『そう? それならいいけど』
由宇は勘が鋭いところがあるから、私が無理してるだろうことにきっと気付いてる。
それでも深く追究したりはしない、その優しさが胸に深く沁みる。
『あ、ねえ、今なにしてる? 遊びに行くんだけど、もし暇だったら夏姫も行かない?』
「え? 今から?」
『そう! カラオケで歌いたい気分なんだよねー』
友達の誘いなら行ったほうがいい。
いつもそう、行きたいという気持ちよりも行くべきだと義務感のように思ってしまう。
そしたら自分も普通でいられて、ODをしているなんてきっと誰にも思われない。
それが友達との付き合いで、これからも仲良くするために必要なこと。
だけど、正直な話、ODをした後で会うのは気が引けて躊躇してしまう。
「……ごめん、今日はちょっと…」
用があるわけでもないし行こうと思えば行けるけど、さすがに今はその気になれなかった。
由宇は結構あっさりとした性格をしていて、断っても不機嫌になったり怒ったりしないとわかっている。
『そっか、いきなり誘ってごめんね? また今度一緒に行こうね!』
思ったとおり由宇は怒らず、それどころか急に誘ったことを謝ってきた。
こういうところが楽で、またそんな優しくていい子と一緒にいていいのか悩む。
私はODを繰り返してばかりで、そこから抜け出せずにいるのに。
『……あ』
また明日ね、と電話を切ろうとして、その前に由宇が声を上げてその指が止まる。
もう一度スマートフォンを耳に当てると、いつもより柔らかい声が届く。
『夏姫、今日は星がたくさん出てるよ』
「え?」
『まるでプラネタリウムみたいですごく綺麗。明日はきっと晴れるね』
「……うん」
『妹ちゃんのこととか大変なこともあるかもしれないけど、明日はもっといいことがあるよ。楽しみだね』
なにも言ってないのに。
涼夏のこと、病気で入院してることは話したけど、それ以上のことはなにも。
たまにキツいことを言うけど、由宇は思いやりがあって優しくて温かい。
でも、だからこそ友達でいるのが、一緒にいるのがつらい時もある。
私がなにか言おうとする前に由宇は受話口の向こうで小さく笑い、『じゃあね』と言って電話を切ってしまった。
後には無機質な機械音が流れるだけで、私はそっとスマートフォンを伏せた。
それは高校に入って仲良くなった友達の綾瀬由宇で、いつもならすぐ出るのに今は出るのを躊躇った。
電話越しでバレるわけがないのに、ODのことを知られるんじゃないかと怯えて。
かと言って出なかったら後でなにか言われるかもしれないと思うと、出ないわけにはいかなかった。
『もう! 出るのおっそーい!』
出た途端にその声が飛び込んできて、あまりの大きさに鼓膜が破れるかと思った。
それでも文句のひとつも言えず、ごめんごめん、と言うだけだった。
友達とうまく付き合う方法は、自分の本音をどれだけ隠せるか、だ。
相手が求めていることを考えて、それが自分の気持ちとは違っていても求めることをする。
そしたら変な空気になることもなく、きっと仲間外れにされることはない。
自分のことなんて二の次、それが友達と付き合っていく正しいやり方。
『…夏姫、元気ない?』
そう聞かれて、ギクリ、としつつも、なんでもないように無理やり元気に振る舞った。
「そ、そんなことないよ」
『そう? それならいいけど』
由宇は勘が鋭いところがあるから、私が無理してるだろうことにきっと気付いてる。
それでも深く追究したりはしない、その優しさが胸に深く沁みる。
『あ、ねえ、今なにしてる? 遊びに行くんだけど、もし暇だったら夏姫も行かない?』
「え? 今から?」
『そう! カラオケで歌いたい気分なんだよねー』
友達の誘いなら行ったほうがいい。
いつもそう、行きたいという気持ちよりも行くべきだと義務感のように思ってしまう。
そしたら自分も普通でいられて、ODをしているなんてきっと誰にも思われない。
それが友達との付き合いで、これからも仲良くするために必要なこと。
だけど、正直な話、ODをした後で会うのは気が引けて躊躇してしまう。
「……ごめん、今日はちょっと…」
用があるわけでもないし行こうと思えば行けるけど、さすがに今はその気になれなかった。
由宇は結構あっさりとした性格をしていて、断っても不機嫌になったり怒ったりしないとわかっている。
『そっか、いきなり誘ってごめんね? また今度一緒に行こうね!』
思ったとおり由宇は怒らず、それどころか急に誘ったことを謝ってきた。
こういうところが楽で、またそんな優しくていい子と一緒にいていいのか悩む。
私はODを繰り返してばかりで、そこから抜け出せずにいるのに。
『……あ』
また明日ね、と電話を切ろうとして、その前に由宇が声を上げてその指が止まる。
もう一度スマートフォンを耳に当てると、いつもより柔らかい声が届く。
『夏姫、今日は星がたくさん出てるよ』
「え?」
『まるでプラネタリウムみたいですごく綺麗。明日はきっと晴れるね』
「……うん」
『妹ちゃんのこととか大変なこともあるかもしれないけど、明日はもっといいことがあるよ。楽しみだね』
なにも言ってないのに。
涼夏のこと、病気で入院してることは話したけど、それ以上のことはなにも。
たまにキツいことを言うけど、由宇は思いやりがあって優しくて温かい。
でも、だからこそ友達でいるのが、一緒にいるのがつらい時もある。
私がなにか言おうとする前に由宇は受話口の向こうで小さく笑い、『じゃあね』と言って電話を切ってしまった。
後には無機質な機械音が流れるだけで、私はそっとスマートフォンを伏せた。
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