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第3章
交わした約束(2)
「夏姫ちゃん、本当に明日会ってもいいのかな…」
病室に入るなり、涼夏は不安そうにうつむきながらそう言葉を漏らした。
明日、涼夏はSNSで知り合った男の子――マサくんと会う約束をしている。
先生に頼んでも外出許可はもらえなかったから、いつもどおり入れ替わることにして。
それは前々から決めていたことだけど、その日が近づくにつれて楽しみの反面こんなふうに不安な気持ちを吐露することが増えた。
どれだけ病気でも、涼夏は優しくて明るくて、私にとって自慢の妹なのに。
「だって、私はこんなに体も弱くて、会ったらガッカリするかもしれない。もう連絡もくれなくなったりしたら……」
その声は震えていて今にも泣きそうで、涼夏の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
気になってる男の子、と涼夏は言っていたけど、それ以上の気持ちがあって、きっと初恋なんだと思う。
だからこそ、もし嫌われたりしたら、ってこんなふうに不安になるんだ。
大丈夫だよ、って言ってあげたいけど、私がなにを言っても涼夏の心に響かなければ意味がない。
「……話してないの、体のこと」
「え?」
「まさか会うなんて思ってなくて、どこにでもいる普通の女の子だって思ってほしくて。もし一緒にいる時に体調が悪くなったら困るのはマサくんなのに、大事なことを言わないなんてダメだってわかってるのにね」
「………」
「私、夏姫ちゃんが羨ましいよ…」
私は涼夏になれない。
今まで何度羨ましいって思ったか、涼夏になりたいって思ったか知れない。
でも、それと同じように、もしかしたら涼夏も同じことを思っていたのかもしれない。
風邪を引くことはあっても大きな病気をしたことのない私のことを羨み、当たり前のように学校に行く私を妬む気持ちもあった?
「涼夏はどうしたいの? 会いたいんだよね?」
「……うん」
「それなら迷う理由なんてないでしょ?」
「でも、もし体のことを知ったら……」
「涼夏が好きになった人は、体のことを知ったら嫌いになるような人なの? 違うよね?」
彼のことはなにもわからないし、涼夏から話を聞いて知っているだけ。
でも、涼夏が初めて好きになった人だ。
体のことを知ったからって、それを理由に涼夏に冷たく当たったりするような人じゃないはずだし、そう思いたい。
一度も会ったことがなくSNSでのやりとりしかしてなかったとしても、涼夏の心を動かした男の子が悪い人なわけがない。
「もしひどいことを言われたらすぐに言って。私が代わりに怒るから」
「えー、夏姫ちゃん怖いなぁ」
「当たり前でしょ! 私の大事な妹を傷つけられて許せるわけないよ!」
そう言うと涼夏は笑ってくれて、不安が滲んだ顔をした涼夏はもうそこにはいなかった。
「涼夏。なにかあっても私がいるから、安心して会いに行ってきていいんだからね?」
「ありがとう、夏姫ちゃん」
「お礼を言われることじゃないよ。だって私達は生まれる前から一緒で、これからもそうでしょ」
涼夏は一瞬だけ大きな目を更に大きくさせ、でもすぐに頬を緩めてくしゃりと笑って、またお礼を言った。
「私、マサくんに会ってくる。それで体のこともちゃんと伝えてくるね」
そう言いながらも涼夏の手は震えていて、安心させるように私はその上に自分の手を重ねた。
そして軽く額を重ね合わせ、触れた部分から勇気を流し込んだ。
「涼夏は私の自慢の妹だから、自信持って」
涼夏がどんな子なのか、どれだけいい子なのか、私が一番よく知ってる。
だからきっと大丈夫。
病気だからって、涼夏のいいところが霞むわけでもなくなるわけでもない。
この時、私はなにもわかっていなかった。
どれだけ必死に頼んでも涼夏の外出許可が出なかった理由を、それだけ彼女の体を病魔が蝕んでいたことを。
それでも私は、なんとしてでも涼夏とマサくんを会わせてあげたかった。
それが涼夏の願いだったから――。
病室に入るなり、涼夏は不安そうにうつむきながらそう言葉を漏らした。
明日、涼夏はSNSで知り合った男の子――マサくんと会う約束をしている。
先生に頼んでも外出許可はもらえなかったから、いつもどおり入れ替わることにして。
それは前々から決めていたことだけど、その日が近づくにつれて楽しみの反面こんなふうに不安な気持ちを吐露することが増えた。
どれだけ病気でも、涼夏は優しくて明るくて、私にとって自慢の妹なのに。
「だって、私はこんなに体も弱くて、会ったらガッカリするかもしれない。もう連絡もくれなくなったりしたら……」
その声は震えていて今にも泣きそうで、涼夏の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
気になってる男の子、と涼夏は言っていたけど、それ以上の気持ちがあって、きっと初恋なんだと思う。
だからこそ、もし嫌われたりしたら、ってこんなふうに不安になるんだ。
大丈夫だよ、って言ってあげたいけど、私がなにを言っても涼夏の心に響かなければ意味がない。
「……話してないの、体のこと」
「え?」
「まさか会うなんて思ってなくて、どこにでもいる普通の女の子だって思ってほしくて。もし一緒にいる時に体調が悪くなったら困るのはマサくんなのに、大事なことを言わないなんてダメだってわかってるのにね」
「………」
「私、夏姫ちゃんが羨ましいよ…」
私は涼夏になれない。
今まで何度羨ましいって思ったか、涼夏になりたいって思ったか知れない。
でも、それと同じように、もしかしたら涼夏も同じことを思っていたのかもしれない。
風邪を引くことはあっても大きな病気をしたことのない私のことを羨み、当たり前のように学校に行く私を妬む気持ちもあった?
「涼夏はどうしたいの? 会いたいんだよね?」
「……うん」
「それなら迷う理由なんてないでしょ?」
「でも、もし体のことを知ったら……」
「涼夏が好きになった人は、体のことを知ったら嫌いになるような人なの? 違うよね?」
彼のことはなにもわからないし、涼夏から話を聞いて知っているだけ。
でも、涼夏が初めて好きになった人だ。
体のことを知ったからって、それを理由に涼夏に冷たく当たったりするような人じゃないはずだし、そう思いたい。
一度も会ったことがなくSNSでのやりとりしかしてなかったとしても、涼夏の心を動かした男の子が悪い人なわけがない。
「もしひどいことを言われたらすぐに言って。私が代わりに怒るから」
「えー、夏姫ちゃん怖いなぁ」
「当たり前でしょ! 私の大事な妹を傷つけられて許せるわけないよ!」
そう言うと涼夏は笑ってくれて、不安が滲んだ顔をした涼夏はもうそこにはいなかった。
「涼夏。なにかあっても私がいるから、安心して会いに行ってきていいんだからね?」
「ありがとう、夏姫ちゃん」
「お礼を言われることじゃないよ。だって私達は生まれる前から一緒で、これからもそうでしょ」
涼夏は一瞬だけ大きな目を更に大きくさせ、でもすぐに頬を緩めてくしゃりと笑って、またお礼を言った。
「私、マサくんに会ってくる。それで体のこともちゃんと伝えてくるね」
そう言いながらも涼夏の手は震えていて、安心させるように私はその上に自分の手を重ねた。
そして軽く額を重ね合わせ、触れた部分から勇気を流し込んだ。
「涼夏は私の自慢の妹だから、自信持って」
涼夏がどんな子なのか、どれだけいい子なのか、私が一番よく知ってる。
だからきっと大丈夫。
病気だからって、涼夏のいいところが霞むわけでもなくなるわけでもない。
この時、私はなにもわかっていなかった。
どれだけ必死に頼んでも涼夏の外出許可が出なかった理由を、それだけ彼女の体を病魔が蝕んでいたことを。
それでも私は、なんとしてでも涼夏とマサくんを会わせてあげたかった。
それが涼夏の願いだったから――。
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